王宮で探る 16
この恥ずかしい状態から一刻も早くぬけだすため、私は強引に話を戻すべく、ジュリアンさんに向かって真面目な顔をつくって、話しかけた。
「ジュリアンさん。それから、どうなったんですか? その薬師の男の人は?」
さっきまで爆笑していたジュリアンさんは、笑いすぎて涙目のまま、私を見て、……また笑った。
「うん、わかるよ、ライラちゃんの気持ち。早く話を変えたい、その気持ち。でも、ダメだ。笑える……。ライラちゃん、無理に真面目な顔してるけど、顔、真っ赤なままだから……」
「え……!?」
私はあわてて顔を両手でおさえた。熱い……。
そして、全部みすかされているのも、これまた、恥ずかしい……。
いたたまれない……。
コリーヌ様も、その後ろにひかえているメリルさんも、あたたかい目で私を見ている。
いっそう、恥ずかしさが増してくる。
こうなったのはアルのせいだ!
むっとしてアルを見ると、何故だか、アルがやたらと甘く微笑んできた。
心臓がドキンと音をたてる。
思わず、私は目をそらした。
余計に顔が熱くなった。
そう、事態は悪化した……。
だって、あんな顔をしたアルを見たら、私に勝ち目はない……。
その時、グフッ……とふきだす声。
もちろん、ジュリアンさんだ。
「ごめん、ごめん、ライラちゃん。もう、手に取るように何考えてるかわかって、おもしろすぎる! ほんと、かわいくて、いやされるわー」
「おい、ジュリアン」
さっきまでの甘さが嘘のような、冷たい視線でジュリアンさんを見据えるアル。
「はいはい。ほめてもダメだなんて、心のせまいことで」
「おまえに言われなくても、ライラがかわいくて癒されることは、誰よりわかってるからな」
「ちょっと、アル!? なんてこと言うの!? ほんと恥ずかしいから、やめて」
思わず、口にだして注意する。が、アルは真顔で私に言った。
「事実だから、仕方がない。俺は思ったことを言ったまでだ。慣れろ、ライラ」
いや、無理だから……。
笑い転げるジュリアンさん。
そして、なんとか笑いがおさまり、やっと、薬師の男の人の話に戻った。
「結局、薬師の男は、その小瓶を受け取った。でも、ロアンダ国の男を信じてもいないし、最初は使うつもりはなかったんだって。だけど、手元に小瓶があると、もし、令嬢と結婚できる可能性があるのなら、使ってみたいと思うようになっていったらしい。でも、万が一にも令嬢に害があったらいけない。だから、薬師の男は、その小瓶の中身を自分で少し飲んでみた。で、飲んでみたら、甘い匂いがするけれど、味はなく、体に異常もでなかったって。さすがに罪悪感があるんだろうね。まるで言い訳するかのように、酔っぱらったまま、ぐちぐちと、事細かくしゃべってたっけ。まあ、自分の欲望のために、本人に無断で、わけわかんないものを使おうとする時点で、薬師としても人としてもアウトだけどねー」
「甘い匂い……?」
私がつぶやいた言葉に、ジュリアンさんがうなずいた。
「そうだよねえ。そこ気になるよね……。ま、その検証は、今はおいといて、先に話をすすめると、ついに薬師の男は小瓶の中身を使った。その令嬢と、その令嬢の母親にね」
「え? 母親にも……?」
思ってもいなかった展開に、思わず、聞き返した私。
「平民が貴族の令嬢と結婚を認めてもらうには、令嬢本人だけでなく、強力な味方が必要とでも思ったか……」
と、アル。
ジュリアンさんはうなずいた。
「うん、アルの言う通り。薬師の男もそう考えたみたい。そもそも、その薬師の男は、持病のある令嬢の薬の調合を頼まれて、様子を見に、たびたび、屋敷に通っていた。で、令嬢だけでなく、その母親からも信頼を得ていた。しかも、その母親は、どうやら、令嬢の父親を尻に敷いているらしい。つまり、その家で、最も決定権のある存在。それなら、その母親の気持ちもあやつったら、令嬢と結婚できる可能性がより高まると思ったそうだ。まあ、一旦、使うと決めたら、欲がどんどんふくらんだって感じだよね」