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王宮で探る 14

ジュリアンさんが「全く根拠はないけれど……」と、前置きをしたあと、ロアンダ国について思い出したことを話し始めた。


「俺がロアンダ国の噂を聞いたのは、確か……1年前くらい。ちょっと探りたい情報があって、町の飲み屋にもぐりこんだ時で……」


「町の飲み屋にもぐりこむ……?」


驚きすぎて、思わず声にだして復唱してしまった。

ジュリアンさんって、この国の貴族を代表する筆頭公爵家のご子息で間違いないんだよね……?


まじまじとジュリアンさんを見てしまう。


「あ、ライラちゃん、ごめん。言い方が変だったかな。……そうだね、少し知っておきたいことがあって、町の社交場にひっそりと視察に行ってみたって感じかな」


ジュリアンさんが甘い笑みを浮かべて言い直した。


「ジュリアン。言い方をかえても、今更だ。ライラ、ジュリアンは筆頭公爵家の嫡男だが、こんな危ないことばかりしてる奴だ」


「ジュリアン、本当に気をつけなさい。子どものころから、何度もあぶないめにあったでしょう? あまり無茶なことをして心配させないで」


コリーヌ様が顔をくもらせた。


「ご心配いただいてありがとうございます、コリーヌ様。が、危ないめにあうたびに学びましたので、今や俺の変装技術はすごいんですよ。自分でいうのもなんですが、女装は得意中の得意です。今は、極上の美女から老婆まで、レパートリーがあります」

と、自慢げに言うジュリアンさん。


「ジュリアン……。学ぶ方向性、間違えてるだろ……」


あきれたようにつぶやくアル。


確かに、ジュリアンさんが女装したら、極上の美女になることは簡単に想像がつくけれど……。

でも、それ以前に、公爵家のご子息が変装のレパートリー持ってるってどういうこと……?


イザベル様から邪気をつけられた時も、探るためにお屋敷にいったようだし。


あ、もしかして……。ひとつの仮説がうかんだ。


「あの、もしや、ジュリアンさんって、表向きは筆頭公爵家のご子息、裏の姿は王家の影とかですか……? あっ……、でも、それなら答えなくていいです! 極秘ですもんね! 私は何も気づかなかったことに……」


私の言葉に、グフッとふきだしたジュリアンさん。


「ライラちゃんって、ほんと、おもしろくて、いい子だねー! 俺のこと、ほめまくってくれてる!」


「いや、ほめてない。それと、ライラ。安心しろ。こんな根本から派手で目立つ奴に、王家の影は絶対に無理だ。協調性も皆無だしな。……まあ、ジュリアンのことはどうでもいい。ライラがジュリアンを知る必要もない。で、話の続きだ。ジュリアン、町の飲み屋にもぐりこんだあと、何があった?」


ジュリアンさんが、すっと笑みを消した。


「近くで飲んでいた男が、ロアンダ国の人間について話していたことを、さっき思い出した。ただ、その男は酔っ払っていたから、まるっきり作り話かもしれない。とにかく、今のところ、全く信用できない情報だと思って聞いてほしい……。その男は薬師で、旅先で、たまたま、具合が悪そうにしていたロアンダ国の男を助けた。助けられたロアンダ国の男はいたく感謝した様子で、礼がしたい、何か望みがあるかと聞いてきたらしい」


助けたお礼に望みを叶えるって……なんだか、昔話みたいで先が気になるよね……。

私はひとことも聞きもらさないように、ジュリアンさんの話に集中する。


「薬師の男は礼を断ったが、ロアンダ国の男はしつこく、くいさがる。だから薬師の男は冗談めかして『今の私の望みは、好きになってしまった貴族の令嬢を忘れたいだけ。私は平民で、結婚することは叶わない相手だから』と言ったそうだ。するとロアンダ国の男は『それなら、忘れる必要はない。その令嬢と結婚することが叶えばいいんだな。これを使いなさい。役に立ってくれるだろう』と、薬師の男に小さな瓶を渡したそうだ」


「小さな瓶? もしかして、あやしげな薬とか、そういう話の展開か? なら、別の部屋で……」


アルがやけに低い声で言いかけたのを、ジュリアンさんがとめた。


「その小瓶の中身は媚薬って話じゃないから。どうせアルのことだから、そんな話になるなら、ライラちゃんの前でするなって言いたいんだろ?」


「あたりまえだ。ライラの耳が汚れるからな。ジュリアンの話はどうもそっち方面にいく可能性があるから気が気じゃない」


え、ジュリアンさん、そうなの……?

思わず顔を見ると、ジュリアンさんがあわてたように言った。


「ちがうからね、ライラちゃん! ちかって、品行方正だから、俺は。……って、アル! その言い方だと俺がいかがわしい人間に思えるだろう!? ライラちゃんの頼れるお兄様になるんだからな、俺は」


「それこそ絶対に拒否だと言っただろう。何度言わせる。ジュリアン。今後、ライラに勝手に近づくなよ」


冷たい視線をジュリアンさんにむけるアルを、コリーヌ様が優しい目で見つめていた。

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