王宮で探る 13
一気に核心に近づける! と期待に満ちた目で、コリーヌ様の答えを待つ。
そんな私の気持ちを察したように、コリーヌ様は残念そうに首を横にふった。
「いえ、ここにはいないわ。ハンナは私の侍女で、5年ほど働いてくれていたのだけれど、もう辞めてしまったの。ロアンダ国に嫁いで行ったから、話をするのは難しいわね」
「え……? ロアンダ国に嫁いだんですか……?」
驚いて、とまどっていると、アルが私の気持ちを代弁するように言った。
「確かに、ロアンダ国へ嫁ぐとは珍しいな……。ロアンダ国といえば、遠く離れた国で、わが国とは国交もない。それどころか、他の国々とも交流していないから、あまり情報がない。謎に包まれた国だ。確か、ハンナはゴシャール子爵の娘。ロアンダ国の人間との婚姻なら政略ではないな」
「ええ、そうよ。ハンナはご両親の反対をおしきって、駆け落ち同然で嫁いだようよ。突然辞めたことを、ゴシャール子爵が後日謝罪に来られて、そう言っていたわ。メリルも直前まで聞いていなかったのよね?」
コリーヌ様に問いかけられて、メリルさんが話し出した。
「はい。急なことだったから心配で……。どなたと結婚するのか聞いてみましたが、ロアンダ国の方だとしか答えませんでした」
メリルさんの言葉に、コリーヌ様は軽くうなずき、話を続けた。
「それで、髪のクリームのことよね。ハンナは子どものころ、髪結い師になりたかったようで、独学で勉強していたの。だから、髪のお手入れについても詳しくて。私の髪も素敵に結ってくれていたのよ。私が髪の毛の乾燥が気になることを口にしたら、甘い香りのする髪用のクリームをすすめてくれたの。使っていると、髪の手触りは良くなったのだけれど、私には香りが少し甘すぎるから気になってしまって……。だから、今は違うクリームを使っているのよ」
つまり、ジュリアンさんの邪気からうまれた種と同じ匂いのするクリームは、ハンナさんの紹介。
そして、ハンナさんは今、ここにいない……。
疑いたくはないけれど、ハンナさんが、コリーヌ様についていた邪気に関わっていた可能性もある。
聞きづらいけれど、気になったことは全て確認しておこう。
「あの……、その髪用のクリームは、ハンナさんが買ってきていたのですか?」
すぐに、私の意図を察した様子のメリルさん。
「いえ、違います。コリーヌ様の御髪につけられるクリームですから、製造元を問題がないか確認したうえで、王室御用達の店に取り寄せてもらって購入しておりました」
と、説明してくれた。
それなら、ハンナさんは関係ないってことよね……。
と、その時、ジュリアンさんが目に入った。
ものすごく真剣な顔で考え込んでいる。
さっきまでとは、全然違う表情だ。
私の視線の先を追うようにして、アルがジュリアンさんを見た。
「ジュリアン、何か気になることがあるのか?」
その声にはっとしたように、ジュリアンさんが思考からぬけだし、私たちを見た。
「ああ……。ロアンダ国について、ずいぶん前に、嘘かほんとかわからないようなことを耳にしたことがあって……。それを思い出していた」
「どんなことだ?」
「あ、いや……それが、全く信憑性がない情報源で……。コリーヌ様にお聞かせするのなら、調べてからにしたほうが……」
歯切れの悪いジュリアンさん。
「ジュリアン、私のことなら気にせず、気にかかることがあれば話してちょうだい」
と、コリーヌ様。
「そうだぞ、ジュリアン。変なところで気をつかうな。気をつかわないのがジュリアンの取り柄なのに」
アルが真顔で言った。
「いやいや、アル? それって、取り柄じゃなくて悪口だろ!? それに、俺、アルの何万倍も気を使える男だけど?」
不満げな声をあげたジュリアンさん。
「いや、そんなことはない」
アルが反論する。
そんなふたりのやりとりが楽しくて、思わず、くすっと笑ってしまった私。
コリーヌ様もメリルさんも微笑んでいる。
そして、ジュリアンさんが「全く根拠はないけれど……」と、前置きをしてから、思い出したことを話し始めた。