王宮で探る 11
「怖い」と、思った初めての種。
でも、怖いのに、目が離せない……。
「ライラ、大丈夫か?」
アルが、慌てたように顔をのぞきこんできた。
はっと顔をあげると、コリーヌ様もジュリアンさんも心配そうに私を見ている。
私は手に持っていた種を、みんなに見えるようにテーブルの上に置いた。
「うわあ! 気持ち悪っ!」
と、大きな声をあげたのはジュリアンさん。
コリーヌ様は息をのんで、種を凝視している。
そして、アルは私をかばうように、私の前に手を伸ばしてきた。
「アル、大丈夫だよ。ちょっと驚いただけだから」
と、安心させるように、アルに微笑む。
「いや、ライラ。この種、さすがに触ると危ないんじゃないのか!?」
「確かに。ぞっとするな……」
ジュリアンさんが顔をしかめて言った。
「ねえ、ライラちゃん。この種には、まだ邪気が残っているということはないの?」
コリーヌ様が聞いてきた。
「実は、私もそう思って観察してるんですが……。今のところ、種からは黒い煙はでてないので、邪気は感じません」
私はテーブルに置いた種に身をのりだした。
その瞬間、種にうきでた黒い紋様が、こちらに飛びかかってきそうなほど、うごめいた。
種の表面の模様みたいなものが動くことは、今までにもあった。
でも、この種が特別に怖いと思ったのは、まるでこちらが見えているかのように、紋様が動くこと。
それも、種から飛びだしそうな勢いで、攻撃してくるかのように見える。
それになにより、種として生まれ変わっているのにもかかわらず、敵意みたいなものを感じるのが怖い……。
とりあえず、気づいたことを口にだしていく。
「このイザベル様の邪気からうまれた種ですが、水で洗うと、黒い紋様がうきでてきました。その紋様は、ジュリアンさんとコリーヌ様の邪気からとれた種と似ています。つまり、この黒い紋様は、アルが言っていたように、グリシア侯爵家の紋章で、王冠をかぶった黒色のバジリスク……」
その言葉に、コリーヌ様がアルに厳しい視線を向けた。
「アル、ライラちゃんを巻き込むつもりなの?」
アルは、すぐさま、コリーヌ様を強い視線で見据えて、きっぱりと言った。
「母上。俺はライラの婚約者だ。以前は、母上に止められたが、あの時とは違って、ライラを全力で守れる立場だ。ライラを危ない目にはあわせない。……母上。俺はライラと結婚したら、王宮から離れることになる。それまでに、王宮で、母上が安全に暮らせるようにできる限り危険な要素は潰しておきたい」
私もあわてて言った。
「コリーヌ様! 私も、今後、王宮でコリーヌ様が安心して過ごせるように、この強い邪気の原因をつきとめたいんです。手伝わせてください!」
「コリーヌ様。俺もライラちゃんを守りますから安心してください」
と、ジュリアンさんが真剣な口調で言ってくれた。
コリーヌ様は、私たち三人を見回した後、ふっと微笑んだ。
「みんな、ありがとう。私を心配してくれて、とても嬉しいわ……。でも、絶対に無茶はしないで。それと、アル、ジュリアン。ライラちゃんを守ってね」
「「はい」」
ふたりがきっぱりと返事をした。
心強いな……。
でも、私も仲間。守られるばかりでは不甲斐ない。
ということで、気合いをいれるためにも、しっかり宣言しておく。
「コリーヌ様。私もアルとジュリアンさんを邪気から全力で守ります!」
「まあ……。ライラちゃんが、一番、頼もしいわね」
と、コリーヌ様が、楽しそうに笑った。