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王宮で探る 10

「待たせたな。ライラ」

そう言いながら、驚くほど早く戻ってきたアル。


器と水差しがのったワゴンを押している。


「戻るの、はやっ! しかも、『待たせたな』って、待つほど時間たってないし……。あ~ダメだ、笑いがとまんない。……グフッ」


変な声をだして、ジュリアンさんが、またもや、笑いだした。


まあ、確かに、ものすごい早かったけど……。

それより、さっきから笑いすぎているジュリアンさんの腹筋、大丈夫かな。


アルの後ろから、慌てた様子でメリルさんもやってきた。

手にはタオルを持っている。


「アルフォンス様! そのようなことは、私どもがやりますから……」

と、焦ったような声をだすメリルさん。


「放っておいていいわよ、メリル。アルは、ライラちゃんに頼まれると、自分でなんでもやってあげたいみたいだから。やらせてあげて」

と、コリーヌ様は微笑みながら言った。


「まあ、そうでしたか! では、アルフォンス様、これを」


メリルさんは、持っていたタオルをアルに渡した。


「では、お言葉に甘えて、あとは、アルフォンス様にお任せ致します」 


そう言って、メリルさんは、なんとも、あたたかい視線で私とアルを見てから、立ち去った。


コリーヌ様もジュリアンさんも、笑いながら私たちを見ている。

なんだか、気恥ずかしくて、いたたまれない……。


が、アルは全く気にした様子はなく、てきぱきと、テーブルに器をおき、水をそそいで、メリルさんから受け取ったタオルをその横に置いた。


「できたぞ、ライラ。これでいいか? 足りない物はないか?」


私を見るアルの目はきらきらとしていて、やけにまぶしい。


「あ、うん、大丈夫。ありがとうね、アル」


私の言葉に、嬉しそうに微笑んだアル。


「あ、そうか! 犬だ……!」

と、突如、ジュリアンさんが叫んだ。


「え、犬…?」


思わず、私は聞き返した。


「さっきから、アルが何かに似てると思ってたんだけど、今、やっと、わかった……。アルのライラちゃんへの態度は、まさに、俺が子どもの頃に飼っていた犬にそっくりなんだよね! ボールをもってきて、俺に褒められようと待っている時の顔。ほめると、自慢げな顔も! そうか、アルはライラちゃんの忠犬なんだな。はあ、納得したら、また、笑いがこみあげてきた……」


そう言いながら、笑い続けるジュリアンさん。


ちょっと、王子様に向かって、犬って……。

さすがに、アルが怒るよ?


と思ったら、アルは真顔で言った。


「ライラの犬。……まあ、そうかもな」


いや、そこは否定して?

ほら、ジュリアンさんがのたうちまわって、大爆笑してるけど……。


が、ダメダメ……。気を引き締めて、種の観察に戻ろう!


「じゃあ、この種を洗ってみますね」

と、コリーヌ様に声をかけると、私は、イザベル様の邪気からとれた種を水の中にいれた。


そして、水の中で慎重にゆらしてみる。


「あら、何かはがれてきたわ!」

と、コリーヌ様。


「種の表面についている黒い粉のようなものが、水で、はがれているようです。ジュリアンさんの邪気からとれた種を洗った時と全く同じです」

と、種を見たまま、説明をする。


そして、黒い粉がでなくなったところで種をひきあげた。

すかさず、アルがタオルを差し出してくる。


ちょっとびっくりしたけど、「ありがとう」と、受け取って、種を優しくタオルでふいた。


「なに、今の? ベテラン執事? まさか、氷の王子と呼ばれるアルが、こんなに尽くしたいタイプだったとはね……。おもしろすぎる……」


ジュリアンさんが笑いすぎて、涙をふきながら言った。


が、もうそこは無視して、種に集中!


私はタオルでふいた種をしっかり見た。

その瞬間、ぞわっとした。


怖い……。思わず身震いしてしまう。


邪気からとれた種は色々あるけれど、「怖い」と、思ったのは初めてだった。


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