王宮で探る 9
ドレスのポケットから、イザベル様の邪気からとれたばかりの種を全部とりだす。
テーブルにだすと、てんこもりになった。
あんな短い時間でこれだけ多くの種がとれるなんて、正直、イザベル様の邪気の量が心配になる。
「ライラちゃん、これは……?」
コリーヌ様が驚いたように、種を見ながら聞いてきた。
「さっき、イザベル様の邪気を吸い取り、できた種です」
「実は、タイミングの悪いことに、王宮に入ったところで、グリシア侯爵家のイザベル嬢と遭遇しまして……」
と、ジュリアンさんが気まずそうに言った。
「まあ! 大丈夫だったの、ライラちゃん? 不快なことを言われたのではない?」
「いえ、全然、大丈夫です……」
と、私が言いかけたところを、アルがものすごい勢いでかぶせてきた。
「不快どころか、あの女、ライラに胸糞悪いことばかり言いやがって……。やっぱり、グリシア侯爵家ごとつぶしたほうが、世のためだろ」
と、憎々し気に言い放った。
あのね、アル。
王子さまとは思えない感じの口調になってるよ?
コリーヌ様の美しいお顔が陰った。
「ごめんなさい、ライラちゃん。私が迎えに行けば良かったわね……」
私は、ぶんぶんと首をふった。
「とんでもないです、コリーヌ様! 私は、本当に、全然、大丈夫ですから! むしろ、嬉しいくらいです。直接、イザベル様の邪気を見られたし、こんなに種がとれたんですから! 初日から大収穫です!」
「ライラちゃん、大収穫って……グフッ」
またもや、ジュリアンさんがふきだしている。
ジュリアンさんって、笑いの沸点が低いよね……。
うん、幸せそうでなにより。
私はバッグの中から、持参したふたつの種をとりだして、コリーヌ様に見えるように置いた。
「この大きな種のほうは、以前、お見せした、コリーヌ様の邪気からとれた種です。で、こちらの小さい種は、ジュリアンさんの邪気からとれた種です。大きさが違うけれど、どちらも、赤い色に黒い紋様のようなものがでています。他人の邪気から、これほど似た種が生まれたのは初めてなんです」
私の説明を聞いて、コリーヌ様が興味深そうに、ふたつの種を見比べている。
「確かに、ふたつとも似てるわね……。でも、こちらとは似ていないみたいね」
コリーヌ様が、テーブルにてんこもりになっている、イザベル様の邪気からとれた種を見た。
「確かに、今は似ていないように見えますが、ジュリアンさんの邪気からとれた種も、最初はこんな感じだったんです。全体的に粉がふいたように黒っぽくて……」
「まあ、そうなの?」
驚いたように、目を見開いたコリーヌ様。
「はい。でも、水の中で洗うと、この黒い粉が落ちてしまったんです。で、中からでてきた種は、このように、赤い地に黒い紋様がありました。……すごくおもしいろいでしょう!?」
つい鼻息荒く語ってしまった私。
すると、コリーヌ様も楽しそうに笑いだした。
「そうですよね! 面白い種に出会うと、嬉しくて、つい、笑いたくなりますよね!」
勢いづいた私に、コリーヌ様が笑いながら困ったような顔をした。
「いえ、私の場合は、種じゃなくて、種について話すライラちゃんを見て、笑ってしまったの。だって、とっても楽しそうだから、こちらも楽しくなるのよね。ほんと、ライラちゃんがいてくれたら、癒されるわね」
「確かに、母上の言うとおりだ。種は不気味だが、楽しそうなライラはかわいくて癒される」
と、真顔で言うアル。
ちょっと、アル! やめて!
ほんと、最近、アルは恥ずかしいことを堂々と言うんだよね。
前はそんなことなかったのに……。
絶対、ジュリアンさんが笑う……と思った瞬間、グフッと噴き出した声がした。
もちろん、ジュリアンさんだ。
弾かれたように笑いながら、ジュリアンさんは言った。
「ちょっと、アル、やめてくれる? あー、笑いがとまんない! 俺、笑い死ぬかも……」
「死ね」
アルが冷たい声で即答した。
「ひどい、アル! 俺とライラちゃんへの落差がひどい! 笑える!」
と、笑い転げるジュリアンさんl
そんな私たちを見て、コリーヌ様も楽しそうに笑っている。
恥ずかしくなった私は、目の前の種に意識を戻した。
イザベル様の種をよくよく見ると、粉がふいたような感じで、その奥に赤いものがみえる。
ジュリアンさんの邪気からとれた種と同じ。
やっぱり、これは洗うしかない!
「この種を洗いたいので、お水をもらってもいいですか?」
私が言うやいなや、アルがさっと席から立った。
「前回と同じでいいな? 準備してくる。待ってろ、ライラ」
そう言い放つと、部屋から颯爽と立ち去ったアル。
その様子を見て、ジュリアンさんの笑い声が大きくなった。
「ほんと、すごいな……。ライラちゃんの一言で、アルが動くこと、動くこと……。氷の王子が、今や完全にライラちゃんの下僕だろ。ダメだ、笑いがとまらない……」
そして、アルが戻ってくるまで、ジュリアンさんは笑い続けた。