王宮で探る 4
よろしくお願いします!
イザベル様の言葉に、アルの表情が変わった。
「急いでいると言ったが? 紹介はまたにして欲しい」
アルからは、殺気のような冷え冷えとしたものが流れ出している。
ジュリアンさんが、すかさず間に入り、甘い笑顔を浮かべて言った。
「ということなので、イザベル嬢。俺と、もう少しお話でもしませんか。ちょうど、庭がきれいですから」
が、イザベル様はジュリアンさんに返事をしない。
憎々し気な顔で私を見ている。
同時に、背中の黒い翼のような邪気も、私の存在を感じ取ったかのように、大きく羽ばたいた。
その時だ。かすかに、甘い匂いがした。
この独特の甘さ…。
あの種からした匂いと一緒よね?!
なんと、いきなりの手がかり!!
しかも、今まで見た邪気とは違うタイプなのか、見るだけで、ぞわぞわする。
感覚としては、イザベル様の邪気というより、イザベル様を媒体にした邪気って感じ。
その邪気をとおして、別の存在が私を見ているような、敵の見えない怖さを感じる…。
これは、野放しにはできないわよね。
かばってくれている2人には悪いけれど、このチャンスをいかそう!
私は、イザベル様の前に進み出た。
「あ、こら、おい…!」
アルが、私の手をひっぱるが、お構いなしだ。
ジュリアンさんも、甘い笑みをひっこめ、驚いた顔で私を見た。
「え? ちょっと待って、ライ…いや…」
私の名前を呼ぼうとしたが、口ごもった。
イザベル様に、私の存在を隠してくれようとしているんだと思う。
が、隠したところで、さすがにアルの婚約者である私を、イザベル様が知らないはずはない。
とりあえず、私は宣戦布告をすることにした。
といっても、イザベル様にではない。
だって、邪気をあやつっているのは、イザベル様では絶対にないと思うから。
後ろにいるだれかをあぶりださないと!
そのために、私ができるのは、この場で、イザベル様の邪気をできるだけ多くすいとることよ!
そうしたら、絶対に相手は動いてくると思う。
故意に邪気をつける人にとったら、その邪気をとりのぞかれることが一番嫌だろうし。
ということで、まずは、イザベル様と後ろの誰かに向かって、ご挨拶。
「私は、アルフォンス殿下の婚約者で、シャンドリア辺境伯家のライラと申します。どうぞ、よろしくお願いします」
「まあ、これはこれは噂の婚約者様ね。確か、前の婚約者様でのパーティーの時にご挨拶したわよね」
と、意地悪い口調で言った。
パトリックのことをだすと、私が嫌がると思ったのかな。
残念ながら、どうでもいい。それより、邪気をとらないと!
アルが、視線だけで殺せそうなほど凶悪な目でイザベル嬢をにらんでいる。
が、私は、わざと楽しそうに微笑んで答えた。
「ええ、二度目ですね」
思い通りの反応をしなかった私に、イザベル様の顔が一気に不満そうになった。
なんだか、わかりやすい人だよね…。
わがままそうな人だけれど、単純そう。
みんなに気づかれずに、コリーヌ様に邪気をつける計画なんて、たてられそうにもない。
その時、イザベル様の背中の翼のような黒い煙が、私にながれてきたので、さっと手でつかんだ。
イザベル様が、うさんくさそうに私を見る。
まあ、令嬢として今の動き、変だものね…。
が、また、流れてきた! またまた、さっと手でつかんだ。
「ちょっと、あなた、何してるのよ?!」
意味不明な動きが馬鹿にしてるようにでも見えたのか、イザベル様が怒った口調で言った。
「ええと、…あ、虫がいまして…、つい、つかもうとして」
クッ…と、小さくふきだしたジュリアンさん。
が、すぐに、咳ばらいをして、ごまかした。手で口を覆っているけれど、目が笑っている。
イザベル様の目が、怒りからあざけりに変わった。
「虫? いたかしら…? でも、さすがに田舎の令嬢よね。虫を手でつかむなんて、信じられないわ。なんて野蛮なの。アルフォンス殿下、こんな田舎令嬢より、王都には素敵な令嬢が沢山いましてよ」
おおー、すごい!
王都の社交界って怖いんだろうな…なんて、つい思考がそれる。
おっと、また、邪気が流れてきた。ということで、とっさに、つかんでしまった。
イザベル様があきれたように目をむく。
まあ、わかります。でも、野蛮というよりは、…挙動不審だよね?
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