アルのお土産 17
よろしくお願いします!
種に鼻をひっつけて、匂ってみる私。
「おい、ライラ! そんなに鼻をひっつけて大丈夫なのか?!」
そばで、アルがわいわい言っている。
「あ、大丈夫、大丈夫。私の手から生まれた種だからね。今までも、かぶれたり、傷つけられたりしたことはないし」
アルは、不気味な種や花をみるたび、私が触るのを心配するよね…。
それに対して、毎度、同じように答える私。
真剣に心配してくれるアルには悪いけれど、私の意識は、種の方に飛んでいる。
この匂い、なんだろう…?
「今までが大丈夫でも、これは違うかもしれないだろう? 腹の中が真っ黒すぎるジュリアンでさえ、こんなに痛めつけられた邪気だぞ?! ライラが出会ったことがないほど、邪悪な邪気かもしれない。種にもそれが残っていたらどうする?!」
すごい勢いで、ジュリアンさんをけなしながら、私を心配するアル…。
「アル、落ち着いて。私は大丈夫だから! …それより、この種…。独特の甘い匂いがする…。私は、かいだことがない甘さなんだよね…」
私の言葉に、ジュリアンさんがうなずいた。
「確かに、あまったるい匂いだ。…でも、俺は、この匂い、どこかで匂ったことがあるんだよね…」
「え?! どこで?!」
「…うーん…、あっ、思い出した! あの時か…」
そう言うと、ジュリアンさんの目が一気に鋭くなった。
「あの時?」
「イザベル嬢だ。屋敷に行って、お茶を飲んだ時、いきなり手をにぎられた」
「え?! お茶の時に手をにぎるの? それって、どんな状況…?」
不思議に思って、私が聞き返すと、アルが冷えきった声で言った。
「ライラ、気にするな。ジュリアンなら、いつなんどきでも、よくある状況だ。だから、ライラはジュリアンにあまり近づくな」
え?! そうなの…?!
「おい、アル! 変なこと言うな。ライラちゃんに嫌われるだろ? 俺の好感度が下がったらどうしてくれる?!」
「そんなものは、もともとない」
冷たく即答するアル。
「ライラちゃん、誤解しないで? そんな状況、よくあることじゃないよ? あの時は、俺も驚いたんだから。だって、普通に話をしていたら、イザベル嬢が、すごい勢いで、俺の手をにぎってきたんだよ? しかも、両手で。そのうえ、俺の手をなでてくる。さすがに、気持ちが悪くて、すぐに手をふりほどいたんだけどね…。その後、手から、こんな、あまったるい匂いがした。イザベル嬢のハンドクリームがついたんだろうと思って、手をあらったんだけど、なかなか匂いがとれなかったんだよね…」
「ジュリアンさん、その時の手、右手だった?」
ジュリアンさんは、ちょっと考えて言った。
「…あ、そうだ。右手だ!」
「つまり、ジュリアンさんの右手に、イザベル嬢が何かをぬりこんだってことじゃない…? 邪念をとばされたとかじゃなくて、直接、何かをぬられたから、これほど邪気が強かったのね…」
「おまえな…、もし、毒を手にぬりこめられたら死んでたぞ? 色仕掛けもいいが、気をつけろ」
アルが、あきれたようにジュリアンさんに言った。
「確かに…。今思えば、グリシア侯爵家に入ることは用心してたけど、イザベル嬢自身をあなどってたかもな。俺としたことが油断してたと思う。反省、反省」
と、まるで反省していないかのような、軽い口調のジュリアンさん。
その時、アルが、テーブルに山盛りとなっている種を手にとった。
「どうかしたの、アル?」
「ここ、黒い粉みたいなのがとれてる…」
アルが手にとった種に私も顔を近づける。
「ほんとだ! それに、なんか、ここだけ濡れてるみたい」
「俺がライラの手を洗った時、水が飛び散ったんだろ。水にぬれたところだけ、表面の黒い粉みたいなのがとれたってわけか…」
私は、黒い粉がはがれたところをじっと見た。
あ! この種…、どこかで…。
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