アルのお土産 8
もうしばらく、「アルのお土産」編が続きます。よろしくお願いします。
アルの「邪気、か?」という質問に、ジュリアンさんに不審に思われないよう、私は、小さくうなずいた。
そのとたん、アルが破顔した。
喜んでいることがすごく伝わってくる無邪気な笑顔。
私の胸が一気に、ドキドキしはじめた。
ちょっと、その顔はずるい!
至近距離で、そんな笑顔を見せられたら、どうしていいか、わからないんだけど?!
とりあえず、破壊力のある笑顔から目をそらす私。
すると、コホンと咳ばらいが聞こえた。ジュリアンさんだ。
「ちょっと、おふたりさん。俺を忘れてない?! 俺の右手が痛いって話から、なんで、そこだけ、そんな甘い空気が流れはじめるの?! ライラちゃんなんて、顔が真っ赤だし。痛みが増すから、ひとりにしないで?」
と、拗ねたように言うジュリアンさん。
…って、今、私、顔が真っ赤なの?! ダメだわ!
恥ずかしくなって、更に顔が熱くなってきた。あわてて、手で顔をあおぐ私。
「あー、悪いな、ジュリアン。ライラしか目に入らなくて」
そう言いながら、ジュリアンさんのほうを振り返ったアル。
ぎょっとしたように、目を見開くジュリアンさん。
「え…、アル、どうした?! なんだ、その無邪気な笑顔は?」
「無邪気な笑顔?」
アルが、笑顔のまま聞く。
「ああ…。すごい、いい笑顔だ。王都にいる時に見せる、取り繕った笑顔じゃなくて、心底嬉しそうだ。…アル、そんな顔ができたのか? 俺は、アルとは子どもの頃からの付き合いだけど、こんなに嬉しそうに笑うアルを一度も見たことはない。これも、ライラちゃんのおかげか…。こんな無邪気に笑うアルをひきだすなんて、恐るべし、ライラちゃん…」
そう言いながら、私を感心したように見つめるジュリアンさん。
とたんに、アルの笑顔がひっこみ、鋭い視線でジュリアンさんをにらんだ。
「おい、そんなに見るな。ライラが減るだろ?」
ジュリアンさんが、ぷはっとふきだした。
「減るって、なに? 笑えるんだけど…! ほんと、アルの独占欲がすごくて笑える…! 笑ったら手に響いて痛いのに笑える…!」
またもや、笑えるを連呼しながら、笑い転げるジュリアンさん。
そして、ジュリアンさんの笑いの波がおさまった時、アルが、ジュリアンさんの右手を見ながら聞いた。
「で、その右手、一体いつから、痛いんだ?」
「10日くらい前かな。突然、右手が痛くなりはじめて、動かしにくくなった。肩も重いし、特に手首から先が痛い。何人かの医者にも診てもらったが、理由はわからないって」
そう答えると、ジュリアンさんは、右手のジャケットの袖口を少しまくった。
「ほら、見た目は腫れてもないし、なんの異常もないだろ?」
と、ジュリアンさん。
いえ、異常はありまくりで、手首から先は真っ黒ですよ!
思わず、心の中で叫ぶ私。
だって、手首から先は、もう邪気の塊にしか見えない。
ふと、パトリックのことが頭にうかんだ。
こんな強い邪気、そのままにはできない。きれいに、とりきりたい…。
そう、私の気持ちは決まった。
ジュリアンさんに私の能力を話し、真っ向から取る!
そうしないと、この邪気はとれないと思うから。
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