パトリックの記憶 10
幼少期のパトリック視点は今回で終わりです。
出発の時間がきた。馬車のところまで見送りに来てくれたライラ。
「ライラ、いろいろ、ありがとう」
ぼくがお礼を言うと、ライラはにこにこっと笑った。
「お兄ちゃんが元気になって、良かった。もう、わるいところはないよ」
お医者さんごっこは続いているみたいだ。
「ライラのおかげだね。ねえ、ライラ。また会いに来てもいい?」
ぼくが聞くと、金色の髪の毛をふわふわゆらせながら、うなずいた。
「うん、いいよ!」
「じゃあ、その時は、たくさん、おみやげを持ってくるね。ライラは何が好き?」
すると、ライラは、すぐさま大きな声で答えた。
「おはなと、おかしー!」
「わかった。きれいなお花とおいしいお菓子を沢山もってくるよ」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「あとね、ライラ。ぼくのことは、これから、パトリックってよんでね」
ライラの緑色の目が、くるくるっと動く。
「うん、わかった、お兄ちゃ…じゃなくて、パトリック!」
楽しそうにぼくの名前を呼んでくれたライラ。
体の中に、明るい光がひろがっていく。
うれしくて、ぼくは、思わず、小さな小さなライラをふわりとだきしめた。
とたんに、きゃらきゃらっと笑いだすライラ。
「会いに来るから、絶対、ぼくのことを忘れないで」
ライラの心に、しっかり刻まれるようにと願いながら、ぼくは、そうつぶやいた。
ひさしぶりに王都の屋敷に帰ると、ルドルフ兄様が飛び出してきた。
「おかえり、パトリック! 大丈夫なのか?! どこかつらいところはないか?!」
心配そうに、ぼくの顔をのぞきこむ、ルドルフ兄様。
「ただいま、ルドルフ兄様。 もう、すっかり元気だよ! 心配してくれて、ありがとう」
ぼくはそう言って、にっこり笑った。
ほっとしたような顔をするルドルフ兄様。
そういえば、ルドルフ兄様を見ても、胸がちっとも痛くならない。
ちゃーんと笑える。
やっぱり、ライラに出会ったからだね。
だって、ルドルフ兄様と比べられようが、もう、どうでもいいと思えるから。
ぼくにはライラがいるしね。
そう思って、にこにこしながら、ルドルフ兄様の顔を見ていると、ルドルフ兄様が少し不思議そうな顔をした。
「パトリック、なんか変わったな。ちょっと、悩んでるみたいだったけど、うん、楽しそうで、いい顔になった! 俺は嬉しいぞ」
そう言いながら、ぼくの頭をぐりぐりとなでた。
「そうだ、パトリック。父上に聞いたんだが、辺境伯様のところで、すごーく仲良くなった女の子がいるんだって?」
ルドルフ兄様が、にんまりと微笑んだ。
ライラのことだ! ルドルフ兄様に、ライラの良さを伝えなきゃ!
「うん! ライラっていうんだよ! すっごくかわいくて、優しい子なんだ。ぼくの病気を心配して、見に来てくれてたの」
ルドルフ兄様が笑った。
「パトリックがそんなに言うなんて、初めてだな。ライラちゃんか。俺も会ってみたいよ」
ん? ルドルフ兄様がライラに会う?
やさしくて、かっこよくて、頭のいいルドルフ兄様が?
他のみんなみたいに、ライラもルドルフ兄様を好きになるかな…?
そう思ったら、体の中に、少しだけ黒いものが現れた気がした。
でも、ライラのきらきらした顔を思い出すと、その黒いものはすぐさま消えさった。
そう、ライラはぼくの妖精だもん。
ぼくが見つけたんだもん。
ライラはルドルフ兄様より、ぼくをずっと好きでいてくれるはずだよね。
これでパトリック視点の幼少期のお話は終わります。次からは別視点のお話をはさみます。
その後、また、パトリック視点を書きますが、その時は、少々成長したところから始まります。そして、どんどん歪んでいきます…(-_-;)
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