パトリックの記憶 7
パトリック視点、まだ続きます。
翌日、初めて見る男の人が部屋に入って来た。
お母様が椅子から立ちあがり、頭を下げ、ぼくに言った。
「パトリック、お世話になっている辺境伯様よ」
ぼくは、あわてて上半身を起こし、ご挨拶をした。
「こ、このたびは…お世話になって、ありがとうございます」
辺境伯様が目元をゆるませた。
グリーンの瞳が、ライラを思い起こし、親近感を覚える。
「かしこまらなくて、いいよ。パトリック君、体調もだいぶん良くなってきたそうで、本当に良かった。それと、今日は、パトリック君にお礼を言いに来た」
「え? …お礼?」
「ああ、そうだ。パトリック君は、具合が悪いのに、あの屋敷で聞いたことを公爵に伝言してくれただろう? あの領主については、疑いはあっても、なかなか動けなかった。でも、君の言葉で確信がもてた。ここ数日、公爵と一緒に調べて、不正の証拠をつかんだよ。今、公爵は王都へ不正の証拠を持って戻った。君のおかげだ。ありがとう」
そう言って、辺境伯様は優しく微笑んだ。
あの屋敷のこと、あの男の人が、頭にぶわっと浮かんできた。
「あの怖い人、捕まりますか? お父様、大丈夫かな…」
何故か、あの男の人を思い出しただけで、ぐっと、のどがしめつけられた。
が、そんなぼくを見て、辺境伯が力強く言った。
「パトリック君、大丈夫だ。君の父上の公爵はね、あんなに具合が悪かった君が、自分を心配して伝えてくれたことを絶対に無駄にしないと言っていた。それはそれは、すごい剣幕で、奴の不正を暴くために動いていた。私はね、公爵とは学園の時からの友人だ。いつも優しくて穏やかな公爵だが、本気で怒ったら、そりゃあ怖いし、強いんだぞ? あんな男になんか負けるわけがない。安心しなさい。…怖かったろうに、パトリック君は本当に勇敢だな」
そう言って、ぼくの頭を優しくなでてくれた。
「勇敢…? ぼくが…?」
「ああ、すごいな君は」
まっすぐに、ぼくを見て、褒めてくれる辺境伯様。
心の中に、あたたかいものが広がっていく。
家族以外から、公爵家の子どもとかではなく、お兄様と比べることもなく、パトリックとして褒められたことなんて一度もなかった…。
「…え、パトリック、どうしたの?」
お母様があわてて寄って来て、ハンカチを顔にあててきた。
ん? あれ? ぼく、泣いてるの?
辺境伯様が慌てた様子で、ぼくの顔をのぞきこむ。
「すまない。私が長々と話して、疲れさせてしまったな。どこか、苦しいところはあるか? 医師を呼ぼうか?」
ぼくは、首を横にふって、にっこりと笑った。
「いえ、大丈夫です。お父様のこと、安心したら、涙がでたみたい。教えてくれて、ありがとうございました」
ぼくの言葉に、ほっとした顔をする辺境伯様。
「公爵は、全部、しっかり終わらせて、今週末に君を迎えにくるって言っていたよ。それまで、ゆっくりと休んでいきなさい」
そう言って、辺境伯様は、部屋から出て行った。
今週末か…。
お父様に会えるのは嬉しいけれど、ライラと離れてしまうのは嫌だ。
王都に帰ってからも、ライラに会える方法を考えないと…。
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