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アルの悩み

番外編、始めました。

今回は、ライラと婚約が決まった後のアル視点のお話です。

学園での昼休み、買ったばかりの本を机につみあげ、読んでいたら、声をかけられた。

「アル。熱心に、何を読んでるんだ?」


顔をあげると、ジュリアンが、興味深そうに俺をのぞきこんでいた。


ジュリアンは、筆頭公爵家の嫡男。俺の幼馴染で親友、いや悪友か…。


少したれた青い目に、ゆるくウエーブしている金色の髪。

いつも笑みをうかべ、甘ったるい雰囲気で、人をたらしこむ。

だが、甘さの奥は、ただの腹黒だ。


ジュリアンは、つみあげていた俺の本を次々と手にとり、タイトルを読み上げる。


「なになに…、初心者にもわかる花の育て方。…次は、植物を育てるために必要なこと。…こっちは、丈夫な花のための土づくり。尊敬される庭師になるために、って。

ブッ…。おまえ、農家に婿に行くのか?」


笑うジュリアンを、ひとにらみしてから、答えた。

「笑いたければ、笑え。俺は、ライラの役に立ちたいだけだ」


ジュリアンの目がきらりと光る。

「花を育てるのが趣味なんだっけ? さすが、妖精姫だな」


パトリックの事件で、悲劇のヒロインとして、有名になったライラ。あのパーティーの参加者たちから噂がひろまり、ライラは、今や貴族の間では、はかなげな妖精姫として知れ渡っている。


確かに、ものすごく愛らしくて、妖精みたいだというのは、おおいに納得する。

だが、ライラは、決して、はかなげではない。むしろ逆だ。

不気味な花を、たくましく育て、満足そうに笑うライラ。そのまぶしい笑顔を思い浮かべたら、自然と笑みがこぼれた。


とたんに、ジュリアンが、ぶるっと身をふるわせた。

「こわっ! なに、その顔?! あの、とんがってた腹黒アルが、思い出し笑いまでして、気持ち悪いんだけど?!」


「あ?! 腹黒は、おまえだろ。おれは、断じて腹黒ではない」


「いやいやいや、第三王子の座をするっとおり、シャンドリア辺境伯に婿入りできるよう、いろんな手を使って、外堀をうめただろ! 腹黒以外のなにものでもないけど?!」

ジュリアンが、あきれたように言った。


「絶対手に入れたいからな。手段は選ばない」

俺がきっぱり言うと、ちょっと驚いたように、ジュリアンが目を見開いた。


「アルにそこまで言わせるライラちゃんかあ。興味あるな…。今週末も辺境に行く?」


「ああ」


「俺も行っていい?」


「ダメだ」


「ライラちゃんにちょっとだけ会わせてよ」


「嫌だ」


「顔を見るだけでいいからさ」


「もったいない。ライラが汚れる」


「はああ?! なに、その心のせまさ?! 独占欲が強すぎて、嫌われるよ?」


「はっ。そんなわけないだろ」

俺がきっぱりと言い放つ。


「そうだ、ライラちゃんが喜びそうな、すごーく美味しいお菓子を見つけんたんだ。お土産に持っていけば、喜ばれると思うよ? 教えてあげるから、俺も連れてってよ」


「いや、いい。母上から、ライラへのお土産にと、菓子を沢山預かっている」


「コリーヌ様も気に入ってるのか」


「二人で文通するくらいだ。ライラは、俺には手紙のひとつもくれないのに…」


「プハッ。なに、そのすねた顔! 手紙も何も、アルはちょくちょく会いに行ってるだろ…。ほんと、アルのそんな顔が見られるなんて、ライラちゃん、すごいな。ますます会いたくなったんだけど」

笑いがとまらない、ジュリアン。


母上が菓子をお土産にするから、俺は何をお土産にするか迷う…。


やっぱり、ライラは、珍しい花の種がとれた時、一番喜ぶんだよな。


つまり、王都ならではの、より珍しい邪気を俺がつけていければいいんだが、ライラが言うには、俺には、最近黒いもやがついていないらしい。


辺境伯に婿入りが決まったが、王位継承権は残っているため、王太子を持ち上げる貴族たちから、俺は、今も疎まれ、隙あらば陥れるべく狙われている。


そいつらの邪気なのか、辺境に行くたびに、黒いもやをライラがとってくれていたのだが、どんどん減ってきたそうだ。そして、今では、ほとんど、ついてないと、ライラは言っている。


ライラの能力を知っている母上に言うと、

「今のアルを見てると、邪気をはねかえすほど、幸せそうだものね。ライラちゃんのおかげね」

と、嬉しそうに言われた。


おかげで、邪気のつかなくなった俺は、心身ともに絶好調だ。

それは、もちろん嬉しいことなのだが、ライラに、珍しい花の種を土産にできないことだけは、若干残念でもある。なんだか複雑だ。


はっと、目の前のジュリアンを見る。


甘ったるい顔で、人をたらしこむ奴。女に関しては更にその能力が発揮される。

つまり、女絡みで、なにやかんや、うらまれている可能性は大きい。


おもしろい邪気がついてるんじゃないか?


よし、ライラへの次の土産はこれにしよう。


「気がかわった。ジュリアン。今週末、一緒に行くか?」


「え? 急にどうした? 俺も行っていいのか?」


「ああ。やっぱり、おまえは俺の親友だからな。ライラに、会わせたいと思って」

俺はそう言うと、土産が決まったことに満足して微笑んだ。

本編で書けなかったら、ライラ視点以外のお話や、本編以降のお話などを、書いていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

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