早く帰って!
ちょうど、残り半分となりました。
なーんて、パトリックとの今までのことを考えながら、ぼーっと植物に視線をあわせていると、
「ライラはいくつになっても、ぼーっとしてるね? 子どもっぽいし」
と、きつい口調で言ってきた。
…今日は特に機嫌が悪そうだね? とりあえず、植物を見て無になろう。
すると、突然、私の前に、パトリックが立ちはだかった。
驚いて顔をあげると、私をにらみながら、
「なんで、ぼくを見ない。なんで、何も言わない。なんで、いつもそうなんだ?!」
と、憎々しげに言った。
なんか言ったら、倍ぐらい戻ってくるから、面倒だもん。
と、本心は言えないので、
「まあ、私って、いっつもこんな感じだから…」
と、よくわからないことを口走ってしまう。
やっぱり、パトリックの顔色が少し悪い。
まあ、こんなに黒い煙をつけてたら、しょうがないよね…。
ばれないように、少しだけでもすい取ってあげるかな。
それに、パトリックの黒い煙からは、いつも、不気味で、おもしろい種が取れるから、それだけは興味深いしね。
そうして、ばれないように、少しずつ黒い煙をすい取り、私のポケットが花の種でいっぱいになったころ、やっとパトリックが帰る時間になった。
両親と私でお見送りのために玄関にでる。
心が浮きたち、口がゆるむ!
早く帰ってー!
内心、叫んでいると、パトリックは、お父様に微笑んで言った。
「来月、うちでパーティーがあるんです。ライラを招待しても良いでしょうか?」
ええっ、やめて?!
思わず、お父様が何か言う前に、
「私は、まだ王都の、しかも公爵家のパーティーに行くのは不安なので、ご遠慮します!」
と、先に言ってしまった。
パトリックが凍えるような目で私を見た。同時に、パトリックの胸のあたりから、黒い煙がどっとあふれ出した。
せっかく、すい取ったのに、また黒い煙だらけになってしまう…。
が、ここで、ひるんではいられない! 私は、お父様の腕をとり、必死に目で訴える。
それなのに、お父様は笑って、
「ライラも14歳だし、そろそろ社交もしなくてはな。来月なら私も王都の屋敷に仕事で行くので、ライラを連れていきましょう」
と、招待を受けてしまった。
「ちょっと、お父様!」
私が、ブンブンと首を横にふる。
「大丈夫だよ。私も行くからね」
お父様は、にこにこして言った。
私の必死さが、まったく伝わらない!
パトリックは、
「それは良かった! やっと自慢の婚約者を皆に見せられます。楽しみにしてるね、ライラ」
そう言って、きれいな笑みを浮かべた。
はああー、面倒なことになった。
でも、パトリックは、なんで招待しようと思ったんだろう?
いっつも、私のこと、あんなに馬鹿にしてるのに…。
あ、意地悪して恥をかかすとか、婚約者にふさわしくないことを皆に見せつけようとしてるのかな?
悪い想像しか浮かばない。
が、悩んでもしょうがない。パトリックの考えは、わからないから。
パトリックが豪華な馬車に乗って去っていったら、ほっとした。
削られた心を植物で癒してこよう!
早速、裏庭に行って、私の花壇を見に行く。
水をやったり、話しかけたりしていると、
「ライラ」
と、アルの声。いつの間にか、近くまで来ていたみたい。
「いらっしゃい、アル。全然気づかなかった」
「そりゃそうだろ。その不気味な花たちに、色々、楽しそうに話しかけてるもんな」
アルがフッと笑った。
おっと、聞かれてたのね。恥ずかしい!
「あ、アル! これ見て! やっと、咲いた!」
半年くらい、つぼみのままだった花がついに咲いていた。
どんな花が咲くかと思ったら、茶色い花で、2枚の花びらが羽みたいに上下に動いてる。
「また、不気味な花が咲いたな」
「これ、半年かかって咲いたんだよ! しかも、虫みたいじゃない?!」
興奮気味に話す私。
「こんな変な花が咲いて、そんなに喜ぶって、ライラはおもしろいな」
「いや、だって、嬉しいでしょ? この花もね、種の時から、虫みたいな形してたんだよね。確か、パトリックの黒い煙から取れたんだったっけ…」
「パトリックって、もしや、婚約者の名前か?」
私はうなずいて、ポケットからごそごそと、いくつも花の種を取り出した。
「パトリックの黒い煙から、今日、収穫した分。本人に私の能力を言ってないから、こっそり取ってるんだけど、それでも、こんなにできたんだよ? すごいでしょ? それに、ほら、これ見て! このオレンジ色の種。黒いリボンみたいな模様がでてるよ?」
私は手のひらにのせて、アルに見せる。
「あのな…、そんな楽しそうに、見せびらかすことか? 婚約者なんだろ、その男。こんなに黒い煙をいっぱいつけてて、大丈夫な奴なのか?」
「うーん、どうだろう。でも、私じゃ、もう、どうすることもできないんだよね…」
「なぜだ?」
アルが興味深そうに聞いてきた。
私は、パトリックが学園に入って変わったこと。来るたびに、黒い煙がだんだん濃くなったこと。
そして、その黒い煙が、パトリック自身からではじめたので、取っても取ってもきりがないことを伝えた。
短編のため、あと半分くらいで完結します。
読みづらいところも多いと思いますが、読んでくださった方、ありがとうございます!
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