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第7話・貸した金返せよ

水曜予定がずれました

大変申し訳ありません

 冒険者生活を送り始めて半月程だろうか。

すでに下位の悪魔や魔法を使うモンスターとの戦いもこなし、レミの動きも慣れてきた頃、ここまで順調すぎて怖いくらいのある日。


「フレッシュゴーレムが二体も来ていますよ! カーテンオブダークスネス!」

「合わせます! 連迅剣!」

「ミリオンストライク! ミリオンストライク!」


 代償魔法を連打すると、あえなく粉々になる肉のゴーレム。

 俺は、はぁはぁと荒い息を吐くアカネとレミに呟く。


「俺、最近ちょっと金遣いが荒くなってきたかな」

「ようやく自覚したんですか? 基本的にユウタさん、どんな敵が出ても『ミリオンストライク!』の連打じゃないですか。私が視界を奪う魔術を使ってレミと連携をしているのが虚しくなりますよ。ユウタさんはなんとかの一つ覚えです」

「でも実際そのゴリ押しで勝てているからな。こうなると他の展開をするには未知の強敵と出会うか、さらに金を稼いで代償魔法の連発に対する後顧の憂いを断つか、二択だな」


 アカネはふーむと考えた様子。


「これ以上お金を稼ぐ方法、ですか。物件買い占め以上に儲かる方法なんて、さすがにないと思いますけどね」

「そういえば私、報酬の一部を銀行に預けてくるのを忘れていました」


 お金、という言葉で気付いたようにレミが時間の猶予を求めてくる。俺はふと疑問に思いレミに尋ねた。


「銀行ってお金を預ける銀行のことだよね? この世界の人も普通はお金をキャッシュボックスじゃなくて銀行に預けているわけか」

「はい。ですが銀行で預ってもらっている間の手数料は安くなく、銀行ではなく自宅にしまって使わない人も多いそうです」


 銀行に手数料ね。

 コンビニのATMの手数料もあまり安いものじゃなかったけど、この世界の銀行は金を預かり保管する、預金サービスの金で成り立っている商売というわけか。

 待てよ。

 脳裏を天啓が走る。

「アカネ、レミ、いいことを考え付いた」


 まず俺は街にあるすべての銀行を買い占めた。


「手数料を引き上げて儲けるのですか? 以前言っていた公共の利益を侵害しないという話と矛盾するのでは?」

「いや、むしろ俺は公共のために銀行を使う。これから先、俺が経営する銀行では一切の手数料を取らない。むしろお金を預けてくれた客の預金に対して『利子』をつけて返す。これならみんな喜んで銀行を使うようになるだろ?」

「? それでは単なる慈善事業になってしまうのでは?」


 アカネはひたすらに不思議がる。


「いや、まず大きなまとまった額のお金を集めることが重要なんだ。次に集まった大金を当座の金が必要な貴族や商人に貸して利子を取る。貸した金に対する利子とお金を預けた客に付与する利子との間に差があれば、その差は丸々銀行の収入になる。例えば100万円を貸して利子を20万円取り、10万円はお金を預けてくれた人の利子に、残り10万円を俺たちがもらう、と考えてみたんだが」

「なるほど……丸儲けですね!」


 アカネが手を叩いてはしゃいだ。

 実際はそう簡単な話じゃないだろうが、とりあえず銀行開業である。


「儲かりますね……銀行業」

「基本的にお金を集めては貸すの繰り返しだけだからな。職員さえ雇えば俺たちと無関係なところでオートで儲かっていく。金を預かり守る上に利子もつける夢の銀行と皆から評判もいい。金融業はもっとも儲かる商売だけど、扱う品がお金だけに人の恨みを買い、敵を作りやすい商売だからな」

「なるほど……敵と言えば、借りた金を返さない貴族や商人もちらほら出始めましたね」


 困ったな。

 銀行業、金貸しは舐められたらおしまいである。

「冒険者ギルドに依頼を出して腕の立つ連中を集め、取り立てに向かわせよう。返さない奴には徹底的に『追い込み』をかける」


 ドンドンドン!


「おらっ! 商人ケプル、さっさと出てこい! いるのはわかってるんだゴラァ! なんなら火ぃつけてもいいんだぞ!」

「みなさーん! この屋敷に住んでいる商人のケプルは借りたお金を返せない最低の人間でーす! みなさーん聞いてますか、ケプルは極悪人でーす!」


 暴れまわる冒険者集団。普段からモンスターを相手取っている彼らにとって商人を追い詰めることなど容易い。

 それでも出てこない商人ケプルの家を囲んでいた冒険者の一人に俺が指揮を出す。


「お前ら構わんけ、そこらの店ササラモサラに(めちゃくちゃ)しちゃれい!」


 号令一下、ツボ蹴り窓を叩き割り、扉に放火する冒険者たち。

 さすがにたまらずケプルが出てくる。


「やめてくれあんた! うちの店や! うちの店や!」


 泣き叫ぶケプルを捕まえて全財産を没収し、さらにケプル自身を奴隷商人に売り払って借金完済。


「さすがに酷過ぎじゃないでしょうか? 私も没落するときに似たような目に遭ったのでこの『商人残酷物語』を、到底直視できません」


 レミにドン引きされた。


「でもこれやらないと単なる慈善事業になっちゃうしなぁ。じゃあ今回のケースは見せしめということで評判を広めてもらって、今後は借金を踏み倒す輩が現れないようにするか」


 しかし俺、なんで異世界に転移してまで闇金融みたいなことをしてるんだろ。我に返り、少し悪乗りが過ぎたなと察する。

 ただ、金銭面に関しては銀行業を経た今、完全に不安がなくなったと言えるだろう。

 仕切り直しだ、冒険を始めよう。


(残金1兆6千億3万円)


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