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第4話 等価交換ってお得じゃない?

 メイジギルド。

 魔法の祖たる大賢者パスカルが五百年前に創立して以来、優秀な魔法使いを次々と育成したきた最高教育機関。

 召喚魔法・死霊魔法・付与魔法・攻撃魔法・防御魔法など様々な科に分かれたギルドでは多数の魔法を習得することが可能だとアカネは語った。


「ただ、入学試験がそれなりに難しいんですよね、ここ。なんの対策しないで大丈夫ですか?」

「対策方法ならあるさ」


 ギルドの受付に行き、学園長へ会いたいと相談すると、受付嬢は首を横に振った。


「ジャミル学園長は現在多忙でして、アポイントがありませんと」

「じゃあメイジギルドに多大な寄付をしたいと名乗り出る者が来た、と言ってくれ」


 結果、スロース学部長なる人物との面会の場が用意された。


「この度は我々メイジギルドに寄付をいただけるというお話。感謝申し上げます」

「実は俺はメイジギルドで学びたいと考えていまして」

「なるほどなるほど。でしたら、研究生として、どのような科でもお好きに授業を受けられるように手配いたしましょう」


 スロース学部長は実に物分かりのいい人だった。

 一概にメイジギルドとは言っても、内部で出世する人間にはそれなりに俗悪さや経営に関する心得が必要なのだろうという読みは当たった。


「至極あっさり入学できたけど、一体俺は何魔法を勉強すればいいのだろうか……」


 一通りの魔法系統を眺めて途方にくれる俺。

 召喚とか死霊魔法には憧れるけど、習得が難しいようで年単位の時間がかかるという。系統一覧に目を通すと、一つの魔法系統の存在に気付く。


「代償魔法……これだ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「代償魔法とは、錬金術と基礎が同じでありながら、全く別の目的へ向かう魔法です。錬金術が無から有を生み出し、対価に釣り合わぬ報酬を得ようとするの対し、代償魔法は相応の対価を支払うことで同じだけの力を生み出そうとする、いわば交換の魔法。労せずして力を得ようとする魔法の中では異端。等しい対価を払わねばばらないので、好んで習得しようとする方は極少数でしょう。教室の閑散ぶりを見ればわかります」


 老人の教師が説明したが、正確には教室にいる生徒は俺一人で極少数という次元ではない。


「先生、代償魔法の対価に『金銭』は使えますか?」

「ふむ、代償魔法はその名の通り、自身の所有するものなら何でも対価として使えます。ただ、ゴブリン十匹を倒すのに必要な剣が銀貨2枚で買えるのに対して、代償魔法に金銭を用いた場合はゴブリン一匹に銀貨一枚相当かかりますので、極めて非効率的だと言えますな」


 正直、俺は金銭面での効率など求めていない。

 金なら売るほどある。

 要するに力が手に入ればいいのだ。

 銀貨2枚の剣でゴブリンを倒せるようになるのに、何年間を剣の練習に充てるのか必要かを考えればむしろ安い。

 代償魔法こそ、今の俺が真に求めていた魔法だ。


 約二週間の授業を経て代償魔法を完全に習得しつつある俺だが、メイジギルド内での評判はすこぶる悪い。

 裏口入学にまともな術ではない代償魔術の勉強と、色々あることないこと噂されているようだ。

 考えてみれば、大学生活に馴染めず中退した俺だ。金があるからといって一朝一夕に社交性が身につくはずもない。


「今日も三流魔法のお勉強かい?」


 嫌味な声をかけてきたのは召喚魔法科の天才児と謳われるダイア・ヴィクター。主席でメイジギルドに入学したという肩書と、才能を評価されてのプライドの高さのせいか、俺になにかと突っかかってくる。

 苦労知らずそうでイラッとするんだよな、こういうタイプ。


「代償魔法は三流魔法じゃねぇよ」

「ほう……じゃあ君は召喚魔法に代償魔法が勝るというんだね? ははは、これは傑作だな。三流の人間は三流魔法を擁護するあまり、物の道理が見えなくなっているようだ。いいか、魔法は対価以上の力を得て初めて魔法という奇跡足りえるんだよ。そう、例えば魔界から悪魔すら召喚する召喚魔法のように、人間を越えて初めて魔法使い魔法使いの呼称に相応しい存在になる」

「ピーチパーチクうるせえな。じゃあ俺と勝負するか?」


 思わず出てしまった決闘宣言。だがここで撤回してはすこぶる格好が悪い。

 それにダイアも俺を見逃してくれそうにない。顔面に青筋をピキピキと立て激怒している様子だ。


「勝負! いいだろう、君にわからせてあげよう。召喚魔法の恐ろしさと、代償魔法の弱さを!」


 決闘だ! と声が周囲に響き、外野たちが集まってくる。

 結局、俺とダイアは中庭で決闘をすることになった。

 ダイアが詠唱を始める。


「永久の深淵、星の見えぬ夜半の空、久遠の檻より解放されし呪い子たちよ。死の帳となりてこの地に顕現せよ、悪魔召喚!」


 それっぽい詠唱。

 やがて姿を現したのは、青白い肌に炎をまとった、体長3メートルはある巨大な魔物……悪魔だった。


「これが僕の最強の持ち札、下級悪魔オルガナさ。せいぜい死の淵で後悔しろ!」


 下級悪魔か。

 正直怖いかと問われれば怖いが、今の俺は力試しの高揚感に溢れている。

たしか中級悪魔の10回召喚アイテムの値段が800万だったから、100万あれば足りるかな?


「代償魔術ミリオンストライク!」


 俺が魔法を放つと刹那、下級悪魔の体を閃光が覆い、木っ端微塵に吹き飛ばした。


「下級悪魔相手に100万は払い過ぎだったかな」

「そんな……僕のオルガナが。召喚の勉強に4年、魔界に行くまでさらに4年、契約に2年かかったというのに……」


 呆然としているダイアに俺は詰め寄る。


「これでも代償魔法を三流だって言い張る気か? だったら次は魔界に転生してみるか?」

「ひっ! 許して! 命だけは見逃してくれ! 代償魔法は最強だ、認める!」


 多数の観客の前で卑屈に命乞いするダイア。

 正直もう眼中にないが、俺は代償魔法の力を確認できたので良しとした。


(残金1兆2499億9993万円)

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