第3話・増えるワカメの如き金
ストックができたので投稿ペース少しだけ上げます
アカネの大立ち回りから30分ほど後、俺とアカネは小さな飲食のできる店に場を移していた。
「で、有意義な提案というのはなんでしょうか?」
「単刀直入に言えば、俺がアカネをしばらく雇う、という提案だよ。俺はこの世界に不慣れだし、まだ自分の力の使い方も知らない。そこでアカネにガイド兼護衛になってもらい、いろいろ勉強するってのはどうだろう?」
「なるほど、友好的で有意義な提案ですね。報酬は三輪さんの財産の1割というところでしょうか」
アカネは一方的に言うと満足気に頷いた。
「どこの世界にガイドに1千億払う雇い主がいるんだよ、バカ。どんだけ良心的に見積もっても、月給制で精々30万円程度だ。30万円ってこっちの世界だとどれくらいになるんだ?」
「円だと金貨30枚ですね」
「アカネって金の計算がすごく早いんだな。実はそういうところ、嫌いじゃないけどさ」
「求愛宣言ですか? いつでもお受けしますお金様……いえ、旦那様。まあ月金貨30枚ならいいです。私もお受けしましょう」
アカネが差し出した手を握り、お互いに約束する。
「それじゃあ今後、俺のことはユウタと呼んでくれ。差し当たっては当面の宿、それからハロワのおっさんが言っていた魔法ってやつを習得できる場所を知りたいな」
「宿はこの都市最高のグランドハウスがいいでしょうね、王族も泊まるという噂の場所です。魔法の習得ならメイジギルドに入るのが早道ですかね」
なるほど。ギルドに入って魔法を習得するのか。
「アカネも魔法を使っていたけど、メイジギルド出身者なのかい?」
「私は方術と占星術を司るホウセイギルドの卒業生です。入学難易度はメイジギルドとさほど変わりませんが、魔法と魔女の魔術は系統が違うので」
「なるほど……なんとなくこの世界の法則性が見えてきた」
話がついて宿に向かう道中、様々な店や市場をアカネに紹介してもらう。
都市では様々なものが売っていて、最強を謳う魔剣や魔道具など明らかにチート的な匂いがする商品も取り扱われている。
「あれは踊る魔剣ですね。剣自体が意思を持っていて動き、装備しているだけで所有者は剣豪レベルになると言われています」
お値段は日本円で500万円。余裕で買えるな。
「あれはデビルロッド。使うと中級悪魔を10回くらい召喚できる杖です。中級と言っても悪魔ですから、兵士を一度に50人くらいは軽く相手できるはず。恐ろしいアイテムですね。堂々と取り扱ってよいのでしょうか?」
こちらは800万円。買えるな。
「この再生のポーションは凄いですね。斬られた部位、例え腕や足を切断されても一瞬で再生する魔法の薬です。ポーションはこの世界で最も売れ筋の商品で、需要に供給が追い付かないほどですが、再生のポーションとなると欲しがる人は星の数。いくらでもいますね」
再生のポーションは一つ2000万円。これまた買える。
なんというか全部買えるな、俺。
思わずまとめて買おうかな、と思った瞬間、天啓が降った。
「アカネ、今なんて言った?」
「再生のポーションは斬られた場所を治すと言いましたが」
「いや、その後だ」
ポーションはこの世界で最も売れ筋の商品。
アカネはたしかにそう言った。
「買うものが決まったぞ、アカネ」
異世界で最初の購入品。
それは武器でも魔道具でもなくポーションを扱う、都市すべての店舗、だった。
すべての店の購入にかかった費用は計80億円。
「無意味な散財だと思いますが」
アカネは愚痴るが、俺には一つ確信があった。
翌日、キャッシュボックスを見ると所持金の減りは80億から30億になっていた。
「い、一日で50億儲かってる! なんですかこの錬金術!」
「すべてのポーションの店舗を買い占めて一律に値上げする。ポーションは必需品だけど、どこの店に行っても全部俺がオーナーで値段が同じだから客はどんな額でも購入せざるを得ない。独占禁止法の存在しないこの世界では、買い占めれば買い占めるほど得をするという理屈を試してみたんだが……予想以上だな」
「す……すごい! これ、毎日儲かるんですよね? ええと一年で……」
ボンッとアカネの頭が爆発した様子。
脳の処理をすべて金の計算にもっていかれたのか、金の計算が早すぎるのも困りものだな。
「とにかくすごいです! この調子で色々買い占めましょうよ!」
「よし、街の武器屋と魔法道具店はすべて買い占めていこう。ただし飲食店や公共施設を買うのは住人に恨まれるからやめとくけど」
結果、怖いほど儲かった。
だが……。
「1兆が仮に1兆5千億や2兆になっても大して面白くないんだよな。俺は自分のために散財してないし、金がありすぎても飽きるというか……使い道がさほどない。誰がどこを通っても儲かるのが決まった桃鉄やモノポリーの終盤と同じで飽きるのと同じというか……やっぱり俺は初心に帰って魔法使いを目指した方がいい気がする」
達観してしまった。
貧乏生活はクソだが、娯楽の限られた中世風世界で大富豪を極めてもあまり面白くないと。
白亜に塗られた高級な宿、グランドハウスを貸し切った最上階。
何もせず月給が金貨100枚に上がったアカネに、俺は心中を打ち明けた。
「お金の楽しい使い道なら探せばいくらでもあると思いますけどねぇ。でも豪華な食事は私も正直食べ飽きた感があります。なにかしないと太りますし、じゃあ明日はメイジギルドを案内しますよ」
アカネはようやくガイドという本来の役目を思い出した様子で頷いた。
(残金1兆2千億3万円)
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