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共に染まる ~真っ直ぐな後輩と隠す先輩~

作者: 高丘楓
掲載日:2021/06/12

自分に真っ直ぐ生きる後輩・修造と、自分自身をただの先輩として振舞う先輩・楓太の、こじらせ系BL恋愛話です。


前半は修造視点の独白。

後半は楓太視点の“今”の話になります。

 初めて会った先輩は、俺を紹介してくれた先輩とは全く違う感じの先輩だった。正直、なんでこの先輩がこの先輩と仲がいいんだろうって思うくらいには。


 明るく楽しく元気の良い先輩とは違い、明るいことは明るいけれど、元気よく前に出るわけでもなく、一歩下がったところから見ている感じで、よく言えば見守ってくれる様な先輩だった。

 別に自己主張が無いわけではなく、先輩同士で言い合っていることもあれば、ふざけている姿も見られた。

 普通の街の普通の学校で、少しだけ大人びて見えて、それでも少年らしい感じの言動もある先輩だった。


 「こいつめっちゃいい奴なんだって!修造もきっと気にいるぞ!」

そう言って紹介してきた先輩は小学校からの付き合いで、同じ剣道場に通っていることもありほぼ毎日会わないことはない、そんな関係だった。


 「佐竹修造、一年二組で、剣道部です。よろしくお願いします!」

「あー、うん。若松楓太。仲里と同じクラス。よろしく、佐竹くん」

そうやって紹介された先輩は、少しだけ人見知りした様な、どう接すればいいか分からないような相槌をうった後、俺に名前を教えてくれて、苗字を呼んでくれた。


 「にしても、どうしてまた急に佐竹くんを紹介したん?」

「いやぁ、修造っていい奴なのに、なんか同級生からは少しバカにされてるからさぁ、楓太ならそんなの気にしないで、修造とも一緒にいてくれるんじゃないかなぁって思ってさ」

「んー、まぁ人となりなんてのは会ったばかりだからまだよく分からないけどさぁ、でも、佐竹くん真っ直ぐそうだし、僕は好きだよ、そういうの。何かあったら頼ってね、佐竹くん」

そう言って握手をしてくれて、少し照れたのを覚えている。


 俺は人の気持ちの機微とかには疎い方で、たまに空気を読めなくて微妙な顔をされることがある。それはどれだけ普段仲良く過ごしている友達だったとしても。だからそれを忘れるくらい元気に、真っ直ぐに、素直に生きようと頑張っていた。

 仲里先輩もたまに変な顔をすることがあるけど、それでも一緒にはいてくれる。

 楓太先輩は最初は不思議そうな顔をしたけどその後、みんなと違っていろいろ教えてくれたりフォローしてくれたりした。そして、ずっと一緒にいてくれた。

 少し距離を置いていた友達も、先輩から色々教えてもらっている内に問題なく一緒にいても大丈夫になった。

 後輩達にも頼られる様になって、人生で初めての彼女もできたくらいに。


 だから楓太先輩は俺の恩人で、大切な人になった。


 「高校に行ったら、もう修造ともなかなか会えないんだろうなぁ」

俺が中二で楓太先輩が中三の夏休み前、学校帰りの駄菓子屋の前に置いてあるベンチでアイスを食べながら言った言葉に、俺はちょっとしたショックを受けた。


 そうだ。俺は先輩と一学年違って、先輩の方が先にいなくなってしまうんだって。一緒に居れなくなってしまうんだって。

 そう思ったら俺は心がゾワゾワして、ベンチに置いてある先輩の左手を掴んでいた。


「俺、先輩と同じ高校に行きたいです!俺、先輩と一緒に居たいです!!」


 照らす日差しの暑さか、それとも先輩と離れてしまう事の怖さでか、よくは分からなかったけれど、多分その両方、特に怖さで焦って、俺は汗をかきながら先輩に言っていた。

「んー?まぁ来たかったら来ればいいと思うけど」

 先輩は興味ない様なそっけない言葉を俺に返して、さらに追い討ちの様に地味に心に刺さる言葉を投げてくる。


 「でも、成績大丈夫なの?」

それは的確に俺の弱点を突いてきた。

 すっごく悪いわけじゃないけれど、俺はあまり勉強が得意ではなく、社会と数学はそれなりにできるけど、それ以外の教科は赤点ギリギリだったりする。得意科目はと訊かれれば体育と即答できるくらいなのに。


 「それは・・・・・・努力します!」

「そっかぁ。まぁ頑張ってよ。僕も修造が来たら来たで嬉しいし、お前のそういう前向きなとこ、好きだよ」

そう言う先輩は気のせいかもしれないけど少し嬉しそうにも見えて、その顔を見ると自分も嬉しく思えた。

 最初は彼女と同じ高校に行くことをなんとなく考えていたけれど、彼女より何より離れたくないのは先輩だった。


+ + +


 そして卒業式を迎え、先輩がいなくなってからの学校生活は楽しいけど、でもどこか違った。

 先輩に言ったように勉強も頑張ったし、モヤモヤした気持ちを全部を打ち消すように剣道に打ち込み、最後の大会では個人優勝までできた。

 若松先輩と仲里先輩も応援しに来てくれていたから、余計頑張れたのかもしれない。もちろん彼女も応援してくれて、優勝が決まった後で二人で手をつなぎながら飛び跳ねていた。


 「先輩!オレ、先輩の高校への推薦決まりました!」

「……勉強……ってわけでもないよね?修造だし」

「剣道です!オレこう見えても、結構やるんですよ?」

「あぁまぁ、うん。この前優勝してたもんね」


 夏休みが終わり、中学校生活最後の学校祭の日、遊びに来てくれた先輩に俺は食らいつくくらいの勢いで報告した。

 先輩ほどではないけれど勉強も頑張って中三の今までのテストではそれなりのほどほどの点数も取れていたことと、剣道の県大会でも優勝したことで担任が推薦を書いてくれると言ったのだ。


 頭のいい高校に行くと、行った後の勉強も頑張らないといけないけれどそれは苦じゃない。

 先輩もいてくれるし、俺も苦手だと思ってた勉強を頑張れていたから、部活との両立も問題ないと思う。


 「頑張ったな、修造」

先輩は俺に笑いかけて、そして何気なしに頭を撫でてきた。

 初めて会ったときは先輩の方が身長が高かったけど、今は俺の方が身長が高くなったみたいで少し撫でにくそうにしていた。


 「……いつの間にか背も伸びたなぁ」

「そりゃ成長期ですから、いつまでも初めて会ったときのオレだと思っていたらダメですよ?」


 「シュウくーん」

先輩が少し残念そうに笑ったそのときに、彼女が離れたところから俺の名前を呼んでくる。

 先輩の姿が見えたから彼女と一時的に別行動してたけど、気が付けばそれなりに時間が経っていたみたいで俺を呼びに来たみたいだった。


 「じゃあ、オレ、これで」

「うん。推薦もらえたからって油断したらダメだよ?……待ってるからな、修造」

別れ際のその言葉で、俺は胸の奥に湧き上がる衝動に気付いた。


 いつでも憧れていて、頼っていた先輩が待っていてくれる。


 それだけで胸がいっぱいになり、先輩をギュッと抱きしめたくなった。

 ありがとうって、嬉しいですって言葉にするより抱きしめたかった。そう言うように。


 でも今ここでそんなことはできないし、俺は必死にその衝動を押し殺して先輩に明るく返事をして彼女の方へと走っていった。


+ + +


 慣れないブレザーを着て臨んだ高校の入学式、在校生は休みで先輩に会うことは無いと思っていたけれど、先輩は生徒会で式典の裏方として登校していて、体育館の端の方に他の生徒会役員の生徒達と並んで座っていた。

 俺の視線に気づいたのか、先輩が少しだけ笑いかけてくれたような気がした。


 高校生活は大変だったけれど楽しかった。

 勉強は頑張ったし、先輩もフォローしてくれたけど、赤点ではないにしろあまりいい成績は取れなかった。剣道の方はそれなりに成績を残せていたし、特別学校から注意されるほどのこともなかった。


 中学の時の彼女は違う高校に行ったこともあって疎遠になり、別れることになったり、でも新しい彼女もできたり、一見すると俺の高校生活はそれなりに充実していたのかもしれない。


 なにより、先輩が同じ学校にいる。

 それだけで十分嬉しかったし、満たされていたんだと思う。


 でも、中学でも経験した喪失が、やっぱり高校でも同じように起きた。


 俺は大学に行ってまで学びたいと思うことも無かったし、先輩が地元を離れて東京の大学を受験することを知ると、もう後を追うことはできないと思った。

 もう、先輩と離れるしかないんだと。


 「思えば五年かぁ、お前と初めて会ってから。早いもんだ」

「そう……っすね」

「もうこうやって気軽に会うこともできないのはちょっと寂しいもんだね」

「オレ……」

「そんな暗い顔しないでさぁ。生活落ち着いたら連絡するから、一緒に東京観光とかしようよ」

「…………はい……」


 俺は先輩が卒業した夜、初めて先輩のことで泣いた。

 一度泣いてしまうと止めることなんてできずに、俺は俺がここまで泣けることを初めて知った気がした。

 剣道も学校も友達も彼女も、みんなどうでもよくなって、このときはただ、先輩と会えなくなることしか考えられなかった。


 でも先輩は、俺の前向きなところを好きだって言ってくれた。

 だから、俺は先輩がいなくても前向きに生きていかないといけないんだ。先輩に嫌われる俺になりたくないから。


 だから、一通り泣いたら俺は俺に戻ろう。

 先輩が好きだって言ってくれていた自分に。


 高校三年の夏休み前、俺に転機が来た。

 進路相談の時、担任から進学する気が無いなら就職はどうだと勧められた。なんでも、俺の剣道の成績を見た企業から直接的な打診が学校側というか部の顧問にあったそうだ。

 就職先は東京のそれなりに大きな企業で、実業団剣道大会でも活躍しているところとして名前を知っている所だった。

 仕事の内容は配送やそれに付随して主に力仕事が多いところみたいだったけど、それは別にいい。

 社会人になったら辞める予定だった剣道も続けられるし、なにより東京に行ける。


 俺は親を説得し、担任にお願いしてその企業を受けることに決めた。




+ + + + +




 自分には昔なじみというか、幼馴染というか、中学校からの後輩で今も遊んだり一緒に食事をしに行ったりしている後輩がいる。


 部活が一緒だったわけでもなく、生徒会で一緒だったわけでもない。ただの友達の後輩というだけだった。


 友達を介して知り合って、友達関係なくつるむようになって、二人で遊んだり過ごすことも増えた。気が付けば懐かれていた。……と思う。高校は別になると思っていたら、『俺、先輩と同じ高校に行きたいです!俺、先輩と一緒に居たいです!!』とか言ってくるし、明らかに学力が足りないと思っていたら、運よく部活動推薦で同じ高校に進学してくる。


 大学はさすがにと思っていたら、『オレ、先輩がいるとこで就職する!』と言って、自分が進学した大学がある地域で就職を決めてきた。


 インドア派な自分と違い、絶えず動き回っているようなアウトドア派な彼。

 誰にも言ったことも無いし活動もしていないからアセクシャルと勘違いされているけど実際はゲイの自分と、普通に可愛い美人が好きなノンケの彼。


 明らかに住む世界が違い過ぎるのに、気が付けばずっと一緒に過ごしている。


 何度も交際の話を聞いて、何度も失恋の話を聞いて、気が付けば自分も三十路を迎えていた。


 「せんぱーい……。俺またフラれたぁ……」

玄関のドアを開けた先にいたのは、焼酎の四合瓶と有名バルのテイクアウトおつまみセットを引っ提げていた、実業団剣道の選手としてや大手企業の配送ドライバーとして仕事に精を出して健康的な肉体を維持している青年だった。


 「ま、まぁとりあえず、入りなって……」

いくつになっても変わらない幼さを見せる後輩が、雨に濡れた柴犬のように見えて同情心を煽ってきたこともあり、すぐに家の中に入れた。


 「で?今回は何があった?」

慣れた手つきでテーブルにコップと皿を箸を置いて、倒し気味の座椅子の背もたれに背中を預けて投げやりに訊く。

「酒も入って雰囲気も良くなって、すっごい……ムラムラしたから……なんとなく、どう?って誘ったら……」

「そりゃ怒られても仕方ないわ」

後輩が持ってきた焼酎をグラスに入れて軽く飲み、テーブルの向かい側でうなだれるワンコ後輩に言い放つ。


 慈悲は無い。


 そりゃ付き合ってそんな間もないような彼女にそんなこと言っていたらいくらでも嫌われるだろうよ。

「俺、何が悪かったのかなぁ……」

「わからんのかこの性欲モンスター」

「……」

「お前が健全な男子で性欲強いのも知ってるから今更驚きもしないけどさ、普通ちゃんと段取り踏んで行為につなげていかないと。急すぎるんだよ、お前は」

「…………はぁい……」

彼はシュンとしながらも焼酎を注いだグラスに手を伸ばし、中のモノを一気に飲み干す。


 「まったく。世話の焼ける後輩なんだからさぁ。いつまで経っても」

燻製イカを咥えながら、雑に手を伸ばして後輩の頭を撫でる。

「せんぱぁい……」

そんなに酒に強くないくせに、自分に会う手土産にいつも酒を持ってくる。そんな彼は頭を撫でられる心地良さからか、それとも単純に酒にすぐに酔ったからか、彼はテーブルに頭を預けながら寝息を立て始めた。


 「いつもこんなんだから……。まったく……」

剣道と仕事で鍛えられた重い体を引きずって適当に敷いた布団の上に寝転がせる。

 無防備で無自覚で、昔からその幼さに振り回されそうになる。


 「そういえばこいつ、名前で呼んでくれたのって最初だけだったよなぁ。いつの間にか先輩としか呼ばなくなって。まぁ自分も、アンタとかお前とか、そういった呼び方しかしてなかったしなぁ。なぁ?修造」

後輩の横に座って、グラスに残っている焼酎を飲みきる。


 ストレートで飲むには少し強すぎるアルコールが喉に刺激を与え、口がちょっとした塩気と緩和剤を求める。


 「フウタせんぱぁい……」

 寝言で名前を呼んでくる後輩。

 久しぶりに呼ばれた名前に少しだけ頬が緩む。


 「なんだい?修造」

可愛いとも言えなくなった年齢の後輩に対して可愛いと思いながら頬を一撫でする。


 すぐ酔ってすぐ寝て、小学校の時から始めてたっていう剣道も続けていて少年のままを地で行く彼に、あのときの友達にも今の修造にも気付かれないまま持ち続けた恋愛感情。


 彼は自分が恋愛やそういったものに興味が無いと思っているかもしれないけど、そうでもない。


 紹介されたあの日から、彼の自由そうなその瞳に惹かれて、好きになって、軽くあしらいながらも慕ってくれることを嬉しいと感じていた。


 でもこの後輩は全く気付かずに、無防備で。

 一度どうしてそんなに懐いてくるのかを訊いたこともある。返された言葉は割とあっさりしていて、『だって先輩、オレの話ちゃんと聞いてくれるし、一緒だと楽だし、楽しいし、先輩のこと好きですし』だった。

 まぁ恋愛の好きではなかったんだけど。そんな関係に甘えてしまった自分もいるんだと思っている。


 「修造……」

苦手な酒を飲んで顔を赤くして汗をかいて寝ている修造の頬をそっと指でつつく。寝かせた手数料としてそれくらい触ってもいいだろう。

 これくらいの特権があったって文句は言わせない。


 「ほら、風邪ひくぞ」

だらしなく口を開けながら寝ている彼の体にそっとブランケットをかけて、彼の寝息を聴きながら彼が買ってきたおつまみセットのスモークチーズを口にする。

「無防備バカ」


 惚れた方が負けだ。

 ましてや後輩はノンケで、何人も彼女を作ったことがあるくらいにはモテる。というよりか積極的で明るい。

 自分にはこうやってふざけて、酒の所為にしてちょっとだけおこぼれを貰うくらいしかできない。それくらいしかしようが無いし、やった後にはやっぱり恥ずかしくなり申し訳なくなりどうしようもないけれど。


 『おまえさぁ、気がつけばオレより修造と仲良くなってるよなぁ』

『そうかぁ?なんか懐いてくれてんだよ。まぁお前のこと気遣って、先輩の顔に泥塗らないようにしてるんじゃないのか?』

『んな気を遣うなんてこと、単純で正面突破しかできない様なあの修造がするわけねぇだろ。単純に好かれてんだよ、お前が』

『ハハッ、お前、自分の後輩に対して厳し過ぎだろ』


 気が付けば転寝して修造の横に転がっていた。中学を卒業する少し前に友達と交わした会話を思い出すように夢に見ながら。


 自分に修造を紹介してくれた友達は、高校進学と共に別の学校に行ってしまったこともあり疎遠になってしまった。今は地元を離れたということもあって、街で見かけるということも無い。


 そんなことを思い出していると背中に温かい感触を感じ、振り返らずともそれが修造であるとすぐにわかった。


 「楓太先輩…………何もかけないで寝てると風邪ひくぞ……」

「…………だからって、なんで抱きしめて……。ブランケット掛けてくれればそれで……」

「あ、そっか。…………まぁいいや。あったかいし。…………あったかいだろ?」

「ま、まぁ……」


 温かい。たしかに温かい。

 真っすぐに、無邪気に、無防備に。


 「先輩、好きですよ。オレ、先輩がいてくれてよかったって思ってる……」

「まだ酔ってる……」

「酔ってる?……んん……オレ、酔ってないですよ?」

「酒臭い息してるんだから、嘘をつくなっての」

「ん…………そっかぁ……おれ、酔ってるんだぁ…………」

「あぁ。だからちゃんと寝ろ。今日酒持ってきたってことはどうせ明日休みなんだろうけど、ちゃんと寝ないと。おまえ、酒弱いんだからさ」

「はぁい…………。おやすみ、せんぱい」

「あぁ。おやすみ、後輩」

言ってすぐに寝息が聞こえ始める。自分を抱き枕のように抱きしめながら横になって。自分も寝ざるを得なかった。


 いつの間にか、いや、正確には高校くらいから自分の身長を追い越して大きくなって、気が付けば視線を見上げて合わせるようになっていた。


 「…………無理に自分に合わせなくったっていいんだよ、後輩」

小さな声で聞こえないように。聞いていないだろう言葉を呟く。言葉が返ってくるとも思わずに。


 「ムリしてるのは、……せんぱいも……おれも…………しってる……っすよ……」

ふと聞こえてきた言葉を気のせいにしたくて、自分は無理矢理目を閉じて寝たふりをしようとした。

 でも、心なしか強く抱きしめなおしてきた修造に何か言い返さないといけない気もした。


 「……………………お前さぁ……いや、もう、……うん…………。無理させてたの、修造だからな?」

いや、違う。

「…………気持ち悪いだろ……?普通に彼女とかいる奴からしたら、さ。……だから…………無理してた…………」


 酒臭い息が近づいて、自分のうなじに火照るような熱を感じる。

「忘れろよ?こんなこと。ただの酔っぱらいの戯言だって。…………そうじゃないと」


 戻れなくなるから、さ。

 普通の日常はずっと続いていくものだから。


 「いやですよ、せんぱい」

言葉と同時に抱き込まれるように引き寄せられ、修造の口がうなじに当たるほどに密着する。


 「全部酒のせいでもいいです。でも、おれ……オレ………………」

酔っているせいで呂律がしっかりと回っていない。それなのに、自分を引き寄せる力は手加減が無くて、抜け出すことなんて無理で。


 「やっぱり、先輩が、楓太がいないのはいやだから、楓太と……いっしょにいたい…………!」


 「……修造……」

後輩の切羽詰まった声での告白を聴いて、少しだけ柔らかいため息をつきながらその名前を呼んで。


 「私を呼び捨てにするなんて偉くなったもんだな?ん?」

「告白なんだから、そこは見逃してほしいかなぁ……なんて……」


 「お前は、いつまで経っても……まったく……。――――ずっと好きだったよ、修造。だからお前には普通でいてもらいたかったんだけどな」

それは自分の我が儘だってわかってる。

 告白することも我が儘なら、相手を思って自分の気持ちを示さないのも我が儘かもしれない。


 「こんな自分でも……いいか?男だけど、さ」

最後の確認と念押しで。


 「男でも、先輩だから、楓太先輩だから―――」


 「ありがとう、修造。……大好きだよ……」

 「俺もです、楓太先輩……」


 いいところなのに、修造は名前を呼ぶと大あくびをして酒の匂いを振り撒く。ムード感に欠けるのは彼女に振られても治らないらしい。気が付けばそのまま寝てしまっているし。


 翌朝も修造が覚えていたらこれからのことを考えよう。


 だから今は、修造の熱を感じながら、自分も束の間の微睡に溺れて夢を見よう――――――。


一か月以上ぶりの更新となります。

仕事のこととかで中々時間が取れなかったので、作品を楽しみにして下さっていた方々にはご迷惑をおかけしました。


『この話の続きが気になる』『楽しいよ』『おもしろいよ』と思って頂ける方は、画面下部にある「☆☆☆☆☆」から評価していただいたり、感想をいただけると嬉しいですし、励みになります。


読んでいただき、ありがとうございました!

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