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鉄血と機銃の合間より  作者: 魔王ドラグーン
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猟犬

 軍事用語難しすぎるんじゃ……。

 どうも魔王ドラグーンです。

 いやはや、割とそういうことには精通しているつもりだったんですがね、ロマンがあるから。

 どうやらつもりだっただけみたいですね。

 そこら辺中で間違って、ことごとく裏をとり続けた結果、常識的なことまで心配になってきてことごとく調べなきゃ気が済まなくなってしまいました。

 心配性の人の気持ちをようやく理解できた気がする。

 では、そんなこんなで何かと時間がかかってしまった本編へどうぞ。

        第二章  猟犬(タロース)


 ギィ、という、何というかいかにもな音と共に、昔は裏口だったのだろう薄い金属の扉が開く。

 表の方はガラスの自動ドアだったが、動力がないからかうんともすんとも言わなかった。

「……ほんとに大丈夫なの?」

「怖いの?」

 真っ暗な廊下の奥を見つめて私が恐る恐る言うと、レイは軽く笑うようにそう言って先に踏み込んでしまった。

 ほんと、気楽というか怖い物知らずというか。

「あー……はいはい、行けばいいんでしょ、行けば。」

 ビルの中は思ったよりも暗く、レイの背中はすぐに暗闇の中に消える。

 追いつこうとして、そっとビルの中に踏み込んだものの、そこにレイの姿はなかった。

「……?」

 見回してもそれらしい人影はなく、そもそも真っ直ぐの通路で見失いようもないはずなのに。

 データリンクを使えばすぐに分かるのだが、なぜかそんな簡単なことが思いつかなかった。

 なぜか急に心細くなり、意味もなく身を固くして周囲を見回している、そんな私の後ろから。

「わあっ!!」

「わあっ!?」

 多分2㎝ぐらい浮いた。

「ふざけないでよ!!」

「ふふふあははははっ、あははははははははは。」

 笑い転げる奇襲をかけやがった犯人を少し熱い顔を向けて睨み付ける。

 そいつの後ろには開けっ放しの白い金属のドア、一見すると壁と見間違う程に似ているので見逃していたらしい。

 それとも、そんな事にも気づけないほどに慌てていたのか。

「もう……!!」

「あははは、ちょ、ちょっと待って、あはははははっ。」

 何がそんなに面白いんだこんクソ野郎。

「ははははっ、はぁ、はぁ、面白かった。」

「うっさい。」

 一体自分でも何にイラ立っているのかすら分からないが、それでも腹立たしい物は腹立たしい。

「何考えてんの、まったく」

「あはは、ごめんごめん、でもさ。」

 さっきまでのむかつく笑い顔、そいつの目の焦点が私ではなく、もっと遠くに外れて。

「もうちょっと肩の力抜いた方が良いと思うけどね、そんなピリピリしてたら保たないよ。」

 レイらしい軽口、のはずなのに、その言葉には妙に心に残る何かがあった

 口から出そうになっていた罵詈雑言が一瞬、喉の奥に詰まって止まる。

「…………?」

「なんてね、じょーだんじょーだん、ひとりごと、マジに取らないでよこっぱずかしい。」

 レイがへらりと笑う。

 笑ったり真面目になったりと表情をコロコロ変えるレイに思わず向けてしまった、しれっとした視線を受け流して、その流れのままレイが言う。

「もっと気楽に行こうよ、観光気分でさ、ここだって先輩方が敵兵を殲滅してくれた後地な訳だし。」

 もはやここまで来るともはや呆れを通り越して頼もしいレベル。

 と、緊張感なく笑うレイに無意識の内に肩の力を抜かされながら歩き、通路が交差する暗い十字路にさしかかった、背後。

 カタ、と、硬い何かが硬い何かを踏みつけたような物音。

 振り向き様にアサルトライフルを突きつけ、訓練で使い慣れて手になじんだ引き金(トリガー)の感触を感じながら、視線と照星(リアサイト)を物音があった方向に向ける。

 照星(リアサイト)の上に取り付けられたライトが、さっき通り過ぎたばかりの瓦礫の小山を照らす。

 さっきまでの飄々とした空気を完全に消し去り、油断なく周囲を警戒するレイを背に、ジリジリとにじり寄る私の、目の前には崩れた壁の山。

 サイレンサーとその奥の銃口が獰猛に輝く。

 硬質な視線を感じるのは一瞬、動く。

 その足下に灰色の毛玉が飛び出した。

「あ!え?」

「あ、ネズミだ、かわいいね。」

 不意を打たれて呆然とする私と、反対にまーた無緊張な感想をもらすレイ。

 そしてその足下をチョロチョロと一目散に逃げていく灰色の毛玉、もといネズミ。

「私初めて見たかも。」

宇宙(うえ)じゃ一部のコロニーにしかいないしね、ぼくも何年ぶりかくらいだね。」

「見たことあるの?」

「自分、旧小国家群出身なもんでね。」

 旧小国家群、確か宇宙移民計画黎明期に各国がこぞって造ったコロニーが宣戦布告と同時にそれぞれ一国として独立した、その生き残りだったか。 

 そう、生き残り。

 宇宙移民黎明期、その最初期のそのまた最初期に建造されたコロニーであったために、どれもこれも耐久性や移住性に難を抱えた物ばかり。

 静止衛星軌道まで打ち上げる技術力もなかったせいで大気圏にも近かったから真っ先に長距離弾道ミサイルの標的になって。

 ただでさえそんな物がそれが戦争での戦禍を受けて、ある物はミサイルに撃ち抜かれて軌道上のデブリになって、またある物は軌道維持すら困難になって大気圏に突入して燃え尽きて。

 そこに住んでいた人々が事前に脱出できるほどの情報と時間と設備があったのもごく一握りで。

 元からコロニーは大気圏外にあるべき物、そうなってまで中の人を守れるような設計になっているはずもなくて。

 そうした危機をくぐり抜けて何とか生き残った数少ないコロニーも戦争で困窮して、今じゃもうほとんどが連盟に取り込まれてしまって、国としての彼らはもう、どこにも無い。

 だから、小国家で、旧。

 今では故もない迫害と蔑視に晒されている、そんな旧国家。

 なるほど旧小国家群なら納得だ、あれらのコロニーは歴史が長い上移民の起点にもなっている、ネズミくらいいない方が不自然だ

 咄嗟に言うべき言葉が見つからず、言葉を詰まらせた私の前で、そんなこと気にも留めない様子でレイは肩をすくめる。

「そんな神妙な顔しないでよ、気にしてないし。」

「でも、嫌じゃなかった……?」

「自分の故郷に文句付けたって仕方ないでしょ、選べるワケでも無いのに。」

 どこか後ろめたい後悔にかられる自分と、それをどこ吹く風と受け流すレイ。

 今になってようやくレイのどんな状況になっても何とかなるという余裕感の理由が分かった気がした。

 恐らく、自分より()()()()()()に関しては、場数を踏んでいるのだろう

「あー、そうだね、ここまで話したならもういっそのこと全部話そうか、実は僕の父さんが軍人でね、第一期組でこの東京戦域に配属されてたの。」

 懐かしむように、どこか晴れ晴れとした表情でどこかを見上げながら語る。

 見上げるべき空は、今は天井に遮られて見えないけど。

「第一期組……って事は……もう退役して……?」

 第一期組と言えば二十二年前、よほどのことがない限りもう退役しているだろうし、まだ軍にいてもそれだけの戦歴があるのならもう前線に出るような役職ではないだろう。

 そう思った私の問いに、しかしレイは首を縦には振らない。

「うんにゃ、五年前に死んでる。」

 おずおずと聞く私に、さらりと恐ろしい事実を告げる。

 レイとて何も思う所がない訳ではないはずだろうに、なのに声音一つ乱さずに。

「もう五年も前のことだから吹っ切れたけど、父さんが死んだ当時は結構ショックでね。」

 吹っ切れているはずがない。

 もし本当に吹っ切れているのなら、今私の隣に、彼はいないはずだ。

「でもショックだったけど、なんでかそうなるだろうなとは思ってたんだよね、父さん生真面目すぎたから、あんなんじゃ持たないって、少なくとも自分は持たない。」

 だからか、ずっとふざけたような態度を取ってるのも、いつもフワフワした笑みを浮かべているのも。

 さっき私に肩の力を抜けと言ったのも、おそらくは。

「でもなんでかそれら全部忘れて生きてはいけなくて、なんでかすごく落ち着かなくなって、気が付いたら従軍してたって寸法。」

「それは……遺体を探すため……?」

 帰って来なかった家族を探すため、その子や配偶者が従軍するのはよくある話だ。

「ううん、遺体は帰って来たよ?とても見られたモンじゃなかったのか棺は釘で打ち付けてあって顔は見れなかったけど。」

 遺体が直視するのもはばかられるほど酷く損壊している場合、棺の蓋が開かないようにするのはよくある処置だ。

 敵の死を確認できるまで執拗に攻撃し続ける機械兵を相手に戦っているのなら、急所まみれの顔面なんて簡単にグチャグチャにされるし、愛する家族のそんな姿を、遺族も見たくはないだろう。

 開きもしない棺を家族の最期だと信じることも、それはそれで残酷だが。

 でも、遺体もちゃんと帰って来て、その死を受け入れられたのなら、彼はなぜ戦場に。

「じゃあ……なんで。」

「大した理由はないよ、来なきゃいけない気がした、ホントにそれだけ。」

 答えになっていない気もするが、本当にそうなのだろう。

 知人が死んで、その時に湧く気持ち、それを言葉にするのは、ひどく難しい。

 そのよく分からない気持ちは、私にも少し理解できる気がする。

 人の死は、私も経験がない訳じゃないから。

「はい、自分のこれまでのよく分からない話はこれでおしまい、そういえば何でこんな話になったんだったっけ?……まあいいか。」

 飄々と肩をすくめ、再び前にくるりと身を翻して歩き出す、少し先を行く後ろ姿は、背中しか見えないから今どんな表情なのかは分からない。

 かと思えば、三歩も歩かないうちにまたくるりと後ろを振り向いた、その顔にはいつもの人懐っこい笑み。

 さっき私はどんな表情か分からないと言ったが、前言撤回、いつものクソむかつく笑みに戻ってた。

「ね、つまんない話ついでになんだけどさ、怖い話って好き?」

 どうやら怖い話がしたいらしい、父さんが死んだ話をしたかと思えば……忙しいヤツめ。

 ちょっと神妙な雰囲気になっていた私は安定の想定の斜め上発言に半眼になって問う。

「なんで。」

「えー、だって暗いし、湿っぽいし、時期的にもちょうどいいし。」

 今冬だが。

 恐らく……いや確実に適当を言ってるだけなのは分かった。

「何が言いたいのかよくわかんないけど、少なくとも今することじゃないことは分かる。」

「あるぇ~?怖いのぉ~?」

 ……それで煽っているつもりなのだろうか。

「…………。」

 …………。

「……怖い話していい?」

 …………お前の面の皮の装甲厚が戦車並みって事もよく分かった。

 私が向ける半眼からジト目にランクアップした冷たい視線すら、平然と受け流してヘラヘラ笑うレイにため息を一つつく。

「まあ、勝手にしてくれればいいんだけど。」

 どうせ嫌だって言っても聞かないんだろうし。

「はーい、じゃー遠慮なく、時は遡って六年前、第二期団の先輩たちが前線に出ていた頃の話なんだけど、その頃ってまだ機械兵が主住区の外にウジャウジャいてね、しょっちゅう大規模な侵攻をかけられてたんだって。」

 やけに楽しそうに語り出すレイ。

「そんな中に突っ込まされるんだから、もちろん戦死者数もとんでもなくて、で、その数を記録していた時に、たまにおかしな現象があったんだって。」

 それとは裏腹に、語る内容は酸鼻極まる物。

「その見つかった死体が、やけに腕だけとか足だけとか頭だけとか、一部分だけの物が多かったんだって、吹っ飛んで死体がバラバラになることは珍しくないけど、それを考慮しても多すぎるくらいにね。」

 それはおかしい。

 銃弾程度じゃ手足がちぎれることはあまりないし、ましてバラバラになるまで吹き飛ばそうと思えば重砲でも持ってこない限り困難だろう。

 そしてこの入り組んだ廃墟の中では重砲は狙いを定めづらく、また接近されやすい、近よられたら最後なす術がない重砲にそのような運用は愚策中の愚策、まして最初期の数が揃ってもいない戦闘に投入されるはずもない。

 一体なぜかと首をかしげる私、その理由をレイが答える。

「まあ、その原因は、あまりにも敵の猛攻が激しすぎてろくに死体の回収が出来ていなかったからなんだって、だってさぁ、『敵にボロクソにやられて味方の死体すら連れて帰れませんでした。』なんて、上官に言えないじゃん?」

 肩をすくめ、笑って言うレイ。

 あくまで、怖い話を話す少年の顔で。

「でも死んじゃったものは仕方ないから、持って帰れなかった死体の代わりに他の味方の死体をバラバラにしてそれぞれ部位別に別の人のヤツって報告したからこんな事になったんだってさ、笑えないよね。」

 戦場なら精密な遺伝子検査もされないし、検死もバラバラになってしまっていてはやりようがない、結果、死体が別人の物であったとしても分かるはずもない。

 それに何より、昼夜問わず機械兵の猛攻にさらされていたその頃の基地には、そんな人としてあって当然の尊厳を守る余力すら、もはやなかったという事だろう。

「んで、そんなこんなしてる内に誰かさんが機械兵の増産拠点をうっかり見つけちゃってね、まあ、当然ながら制圧しに行くよね、でも、普通の部隊ならそれでいいけど、基地の守りすらままならない部隊がそんな人死にが山ほど出る作戦に行って、大丈夫なワケないじゃん?」

 レイは言った、見つけることができたではなく。

 ――見つけてしまった、と。

 まあ、そう言われて当然だろう、確かにそれは通常の部隊なら大戦果だろうが、瀕死状態の部隊にとってそれはとうてい歓迎される物ではない。

「けど、見つけたからには制圧しなきゃならない、だって、このまま守ってた所で敵が減るわけじゃないし、味方の増援だっていつ来るか分からない、そもそも来るかどうかも分からないんだしね。

 だから一発逆転をかけて攻勢をかけることにした、数も装備も何も万全な物は一つもないけど、」

 そういう判断をするのもよく分かる。

 そんな事をした後、どうなってしまうかも。

「どうにかこうにか機械兵の拠点は潰せたけど、案の定、その代わりに部隊は壊滅して、基地から指揮取ってた支部長以外はボロクソにやられて、第二期団がほぼ壊滅間際まで追い詰められるほどの死人が出たらしいよ。

 かろうじて生き残った人によるとその時の戦場は真っ赤な救難信号の発煙弾が山ほど上がって、月並みな表現だけど真っ赤な煙に覆われた空がさながらこの世の終わりみたいだったってさ。」

 まあ、誰も救援になんて行けなかったんだけど。

 そう嘆くように言い置くレイ。

 いくら救難信号を上げた所で、助けてくれる部隊がいなければ何の意味もない。

 そして全力をかけて機械兵の拠点に特攻をかける事に全力を傾けたその部隊に、一度壊滅した部隊を救難する部隊など出せるはずもない。

 もちろん、撤退した後も、再び侵攻してまで救難などできるはずもない。

 そして、強大な機械兵が無尽蔵にうろつく敵支配領域で放置されれば、そう長くはない。

「んで、そこからしばらくは何事もなくて、やっと落ち着いたかと思ってたんだって。

 勘違いだったって。

 手始めに支部長が死んだ、絶対に機械兵に伝わっていないはずの、伝わっていたとしてもどこで何をするかなんて機械兵には理解出来ないはずの会合だったのに、幹部達の会議の場が奇襲を受けて、護衛の部隊もろとも磨り潰されてね。

 そのまま機械兵の攻撃が何の前触れもなくガタッと減ってね、侵攻も何もしてないのにガタッとね。

 極めつけに誰もいるはずもない支配領域最奥で急に何の前触れもなく一つ、救難信号が上がったんだって。」

 温度の消えた顔でそう言うレイ。

 救難信号、最後の攻勢の時に山ほど上がったという、それがまた上がった。

 誰もいない支配域の、その最奥で。

 一体誰が?一体どうやって?一体何のために?

「最初は気のせいだと思いこんでた、けど、そうこうしているうちに救難信号はまた上がる、日に日に増していくそれの数にいくら何でも無視しているワケにはいかなくなってね。

 どうしてそんな事が起きるのかは分からない、けど、起きたのは確実なんだから確認しなくちゃいけない、幸い機械兵の数はなぜか減ってる、今なら少数でなら浸透できる。

 そして最も新しい救難信号が上がった所には、でも誰もいなかった、いや、()()()()()()()、誰もいなかった。

 そこには腐り切った死体が一つ、それと、救難信号につられてきた機械兵の山のような残骸しかなかった。」

 背筋に冷たいなにかが、ふ、と走る。

 残された死体、機械兵の残骸、誰もいないはずの所から上がる救難信号。

 まるで。

 まるでそれは。

 まるで亡霊じゃないか。

 でも、そうと考えればピタリと辻褄が合う。

 最初に死んだ支部長は、仲間が死んでいる中一人安全な基地にいた、それをは良くは思わないだろう。

 彼らを呼んだ『誰か』は支配域のただ中、機械兵も一緒に呼ぶことも厭わずに救難信号を上げた、さながら、救難を上げても助けなど来なかった、その時への皮肉のように。

 それともその『誰か』は救援などではなく、最初から機械兵の方を呼んでいたのかもしれない、味方など来はしないと、そう見限って。

 山のような機械兵の残骸、忘れられなかったのだろうか、己を狩ったその銃弾の痛みを、それを与えたモノへの無念を、憎悪を、殺意を。

「でもそれっていつの話よ?」

 聞き返してから震えている己の声を自覚した、認めたくない内心が思わず出てしまったのだろうか。

「ああ、今でもあるってさ、今だってぼくたちがこうやってのんきにくっちゃべっていられるのもそのせいで機械兵が妙に来なくなったからだしね。」

「本当に何が原因か、わかってないの?」

 すがるように言いつのる私、肩をすくめるレイ。

「さあね、上の方も調べてるみたいだけど、ああ、そうそう、それで調査するときにその現象だか誰かさんだか亡霊だかに付けたコードネームが面白くてね。」

 あんまり面白くなさそうにレイが言う。

笛吹き男(ハーメルン)、だってさ、機械兵をおびき寄せて始末してるのがモチーフなんだろうけど、笑えないよね、だってさ、元ネタのどこぞの童話に当てはめたら、次に狩られるのって・・・・・・。」

 そのコードネームの元ネタは、ほぼ間違いなく『ハーメルンの笛吹き男』だろう。

 ネズミ(きかいへい)を始末した後、騙されたことに怒った彼が次に矛先を向けたのは村人(わたしたち)たちだった。

 その『誰か』が何なのかが分からないのがその嫌な想像に拍車を掛ける。

 彼の正体が何であれ、機械兵に敵対するからと言って、私達の味方とは、限らないのだから・・・・・・。

 すっかり黙りこくってしまった私、それを傍目にしてやったりと笑うレイ。

「はい、これでぼくの怖い話は終わり、どう?涼しくなった?」

 ・・・・・・今の外気温は2℃だってさ。

 涼しいどころか寒い通り越して鼻とか耳とか痛いんだけど?

「・・・・・・なんか反応してよ・・・・・・。」

 おっと失礼、ジト目になっていたらしい。

「涼しくはなったよ、うん、時期を考えなければね。」

「いいじゃん誤差誤差、いい暇つぶしにはなったでしょ?」

 まあ確かにそれはその通りなんだが他になかったのか他に。

「あとこの話聞いたらビルの中にいても問題ないって思えてくるでしょ?なんたって我々には大いなる笛吹き男(ハーメルン)サマの加護があるんだから!」

 芝居がかかったポーズで大仰に天を仰いで言い放つレイ、どうやったらあの話からそういう発想が出てくるのか。

 こいつは狡猾なんだか豪胆なんだかただ無謀なだけなんだか分からん。

 まあただこいつといるとジト目のやりどころにだけは困らないってことはよく分かったが。

 どうにもノリについて行けなくて内心そっとため息をついた私、その目の前の背中がピタリと止まって振り返る。

「さて、あと30分、もうそろそろ帰り始めたほうがいいかもね。」

「……それってマズくない?」

 残り30分でこのビルを出て回収ポイントまで行かなきゃってことでしょ?

「でも来るのにそんなに時間かからなかったし帰れるでしょ。」

 どうやらどこから仕入れてきたのか分からない情報は山ほどあるのにもかかわらず、危機感という物の持ち合わせだけは全くないらしい。

 やはり遅刻歴がないヤツは余裕が違うな。

 何気なく聞く。

「で、帰り道分かるの?」

 空気が凍った。

 ピタリと止まるレイ、心なしか顔が青い。

「分からないの?」

「入ろうって言ったのそっちだよね!?」

 分からないらしい。

 愕然とした、危機感がないのはよく分かってたつもりだけどここまでとは。

「マズいじゃんそれ!」

「こっちのセリフだよそれ!?」

「いやきみ結構慎重な性格だと思ってたからてっきり帰り道くらい把握してるかと……。」

「勝手な信頼で勝手に墓穴掘らないでよ!?」

 正確には墓穴掘ってもいいから私を巻き込まないで、だけど。

 もちろん私も把握してない、悪いかコノヤロー。

 悪いですハイ、状況最悪です。

「まずどうにかして外に出よう、入ってきたとこから出れれば最高なんだけど。」

 顎に手を当てて真面目に計画を練り始めるレイ、初めて本気で慌ててる顔を見た。

 てかそもそもレイにそんな感情があることに驚いた。

「てかデータリンクで何とかなるんじゃ?」

 ふと気付いた、文明の利器万歳。

「ああ、その手があったね、ビルの内部まで書かれてるかどうか分からないけど……。」

 レイが諸手を打ち、手元のデバイスからホロウィンドウが広がる。

 地図を指定し、展開。

 指が触れたホロキーが認証を示して緑からオレンジに色を変え、その下から周辺地図が広がり。

 ……。

 …………。

「……。」

「……。」

 即落ち二コマ。

 暗闇の中を照らすホロウィンドウの光から顔を上げてレイが言う。

 キーは確かに押し込まれた事を認証し、確かに地図は展開されたが、しかしそこの内容は全くの白紙。

 いや、正確には白紙じゃないか、真ん中に《DISCONNECTED》という不穏な文字が浮いているから。

 DISCONNECTED、通信切断?

 基地からほとんど離れていないここで?まして新兵のそれとはいえ正規軍のデバイスが?

「……これは……マズいかもね……。」

 レイの冷や汗が浮いた顔、半秒遅れて理解する。

「さっきまで通信できてたのに唐突に接続が切れたって事は……。」

通信妨害(ジャミング)、ね。」

 同時にヒヤリとした何かが背筋を走る。

 通信妨害攻撃、文字通り周囲との通信を妨害される攻撃だ。

 単体なら嫌がらせ程度の意味しか持たないが、周囲の友軍との通信を遮断されるというのはそのまま敵中で孤立するということだ。

 たかが二人しかいないこの状況で敵中孤立、ただでさえマズい。

 が、今重要なのは孤立することでなく、そもそも近くに敵がいるということ。

 もちろんこちらは敵を認識していない、にもかかわらず攻撃を受けた、つまりそれは敵に一方的に補足されているということ。

 つまりいつどこから攻撃を受けてもおかしくないということ。

 これは……かなりマズい。

「敵の攻撃に気を配りながら出なきゃ、なんて、そんな事できる?」

 思わず弱音を吐いてしまうぐらいには。

「……別行動しよう。」

 後ろからぼそりと声が聞こえる。

「正気!?」

「ここで敵に出会ったら逃げ場がない、同じ死ぬなら二手に分かれた方がどちらかが生き残れる可能性が増える。」

 思わず警戒を忘れて振り仰ぐ、それぐらいレイの言っていることは無謀だった。

 しかしその顔にはもう一抹たりともあの不遜さはない。

 本気なのだと、その横顔が語っていた。

 この顔を先に見ていれば、正気かどうかなどというバカげた質問はしていなかっただろう。

「生き残っていれば基地で会える、確認はそれからにしよう。」

「うん。」

 一つうなずく、レイがうなずき返す。

 ヒヤリと張り詰めたその横顔に、場違いにも少しかっこいいと思った

「キリエさんは来た方をよろしく、ぼくはこの先を行ってみるから。」

 レイはこの先、つまりあえて危険をのんで通ってない道を行くつもりのようだ。

 恐らく、私を少しでも安全なほうに行かせるために。

 その覚悟を裏切ることはできない。

 タン、と軍靴がコンクリートを蹴る音が二つ、駆けていく音はあっという間に小さく消えて。

 すぐ後ろの角を前に止まり、そっと確認した後デバイスを向けてスキャンビームを飛ばす、動体反応無し、間髪入れずに角の先に滑り込み、走り出す。

 ビル内はどこもかしこも似たようなコンクリート壁のため見分けがまるで付かない上、無数折れ曲がり、ところどころ階段も挟む三次元的な構造に方向感覚を奪われる、想像以上に複雑な構造。

 機械兵に出会わないよう慎重に進まざるを得ない中、時間だけがただ刻々と過ぎていく。

 こんなときこそ冷静にならなければならないことはよく分かっているはずなのに、焦りがじわじわと心を削っていく。

 もう何度目かも分からない曲がり角、その違和感に曲がった後にふと気がついた。

 妙に明るい。

 光源はすぐそこの角の向こう、思わず誘われるように覗きこむ。

 あったのはガラス製のスライドドア、ガラスはもう戦塵と砂埃に煤けて、その先は見えないけど。

 それには見覚えがあった。

 私達がここに入ろうとした時、開かなくて断念したガラスのスライドドアだ。

 焦りがぱっと吹き飛ぶのを感じる、ここまでたどり着けたならもう帰れたも同然。

 時間表示を見る、まだ余裕がある

 後はこれをレイに伝えて帰るだけ、いける。

 基地との通信は遮断されても、さすがにこの至近距離の通信くらいはできるだろう。

 アサルトライフルを肩付けに構え、三射、サイレンサーを装着しているため銃声はないが、代わりとばかりに銃口から紅炎が三度散る。

 三発目で金属の捻じ切れる悲鳴が響き、当然弾丸を受ける事など想定されていないドアの接続部が片方砕け、そのドアを無理矢理押し倒して外へ出る。

 即座にインカムを起動、初期設定で最初からバディとの通信になっていた、ジャミングのせいか通信が繋がるのに時間がかかる、見えるはずなどないのに勝手に顔が上を見上げ――。


 ――銃声が三発。


 まるで意趣返しのように。

 

 ヒヤリと背筋が冷える、今のは何だ?

 本来ありえない事だ、部隊員のアサルトライフルには位置の露呈を防ぐため必ずサイレンサーが取り付けられている、銃声など起こるはずがない。

 もし銃声が起こることがあるとしたなら、それは。

 自分たちとは違う武装を装備した部隊。

 つまり。

 敵だ。

 そして、発砲しているということは――。

 呆然としていたのは一瞬、何かを考える前に体が動いた。

 すぐ側に錆びついた鉄階段があったのは僥倖だった。

 全身を駆け抜ける何かに突き飛ばされて、らせん状の段をあちこち踏み抜きながらよろめきつつ駆け上がる。

 ああ、きっとこのビルは性格が悪いに違いない

 こんな時に限ってアルミ製の非常口が外れていて容易く中に飛び込めて、さっき散々迷わせるだけ迷わせたくせにこんな時に限ってそこそこ太いルートが一本だけ。

 しかもこんな時でもあちこち曲がりくねって通るヤツの視界を奪うことは忘れない。

 天井から吊り下げられた、もう明かりが付いていない非常口看板の暗い緑色が視界の端を抜けていった。

 終点、細道を抜けてドアをこじ開けて飛び出したそこは明るかった。

 どうやら右手側に続く廊下が丸ごと崩れ落ちてその先の中庭から日差しが差し込んでいるらしい。

 がた、と物音、左手側、通路の奥側。

 なぜか引き延ばされたように感じる数秒。

 はっ、という呼気の音があまりにもゆっくりすぎてまどろっこしくなる。

 レイがいた。

 曲がり角の向こう側から、腰元まで見せた姿勢で倒れ込んだ姿勢で、こちらに目を見開いている。

 まるで。

 何かに脚を撃たれて倒れ込んで、それでも必死でここまで這い進んできたような、そんな姿勢で。

 手元の陽炎立つアサルトライフルが、しかし地面に押しつけられて照準されていない。

 レイは何か言おうとしたようだ、口が声にならない何かに震え。

 ああ、その時、どうすべきか決め損ねて、一瞬でも立ち尽くした私は、本当にバカだ。

 結論から言うと、彼がなんと言ったのか。

 いや。

 なんと言おうとしたのかは、ついぞ分からなかった。

 そして、これからも分からない。

 永遠に。

 だって。

 

 そのレイの胴を唐突に降った三日月が真上から貫いたから。

 

 その黄色い陽炎のような光の剣が、何の抵抗もなく人だったモノを切り分ける。

 防弾チョッキが、肉が、骨が瞬時に分断され、空を掻いたその手からアサルトライフルがこぼれ落ちる。

 ガシャ、と音を立てて落ちたアサルトライフルを、どこかに向けて伸ばされた手が追う。

 最後に音もなく、その光の刃が消える。

 こちらをかがり火のように照らしていた黄色の光が唐突に消える、うぃん、とかすかな駆動音が先触れのように吹き抜ける。

 かしゃん、と床を鳴らす金属の脚。

 装甲板を貼り合わせて無骨なそのシルエットは機械の兵の名にふさわしい。

 持ち上げた左アームに今だ大出力の名残に赤熱した放熱部から陽炎を纏うブレードの生成機関を携え。

 角の奥から現れた右アームに私をここに引き寄せた物だろう機能美に洗練された機関銃を無造作に提げる。

 最後に妙に無機質な動きで左右のサイズが違う光学センサーがこちらを捕らえた。

 本来ならボーッと見るのではなくここで応戦するべきだったのだろうが、レイをまるで作業のようにひねり潰してのけた一部始終を見てしまった私にそんな気力は無かった。

「ひっ。」

 その右の銃口がこちらに向くのを見て、あろう事か敵に背を向けた。

 そして遅まきながら思いだした。

 私の後ろに道はない。

 足下で弾き飛ばされた石ころが転げ落ち、そのまま崩落した瓦礫の山に飲み込まれて消える

 足下の瓦礫の向こうには昔はその中に温室でも作っていたのか、ガラスが半分ほどしか残っていないガラスドームが蜘蛛の巣状のアルミ製の有機的な骨組みを陽光にさらしていた。

 鉄筋がちらほら覗くコンクリートの破断面からパラパラと砂礫がこぼれ落ちていく。

 勢い余ってその後を追いそうになって思わず見下ろし、たたらを踏んだ私を機械兵は見逃さない。

 私を追って踏み出しながらも銃口が別の生き物のように精密に狙いを定める。

 振り返った私と、目が合った。

 その時私に選択肢はなかった。

 恐怖心に突き飛ばされてそこから身を躍らせる。

 切ったばかりの髪を掠めて無数の弾丸が駆け抜けていったのが目の端に映った。

 アシストスーツの力を借りてさして多くなかったらしい瓦礫を何とか飛び越して、中庭のドームの骨組みに叩きつけられる。

 骨組みに打ち付けられた息が一瞬止まる。

 ドームから降りなければ、と急かす心に体が追いつかない、のろのろと立ち上がると同時に襲いかかった衝撃に再び両手を突かされる。

 ガン、と再び衝撃、敵の姿は見る限りないにもかかわらずドームが軋み、苦鳴を上げる。

 人など支えると想定されていなかった骨組みの溶接部が衝撃に耐えかねて破断したのだ。

 ガクンと右足が沈む、すかさず少しは丈夫だろう骨組みが十字になった部分に脚を置く。

 運が悪いのか、それともこのビルの性格の悪さにかドームの内側は丸々底が見えないほど崩落して、眼下には暗闇が口を開けるのみ。

 落ちればただではすまない。

 そんな悪戦苦闘をしている私に、無機質な殺気が向く、もう追ってきたか。

 私がさっき飛び降りた廊下から顔を覗かせる機械兵、銃火が瞬くと同時にまだ残っていた私の周りのガラスが吹き飛んだ。

 数発衝撃、背中に被弾、それでも防弾チョッキは貫通を防いでくれたようだが、衝撃は容赦なく私の背中を突き飛ばす。

 滑り落ちた両足が空を切る。

 金属の梁が外れて空を舞う。

「イャっ。」

 どうにか掴まれたのは片手だけ。

 パワーアシストがあるから私でも両手で掴まり直す事はできたが、アサルトライフルが転げ落ちて暗闇の奥に消えていった。

 そして、そんなことは機械兵にはまったく関係ない。

 砕けたガラスが碧い光を撒き散らして消えていく。

 人一人と武装分の重量がかかった梁が嫌な音を立てる。

 降り注ぐ機械兵の銃撃がそれにトドメを刺した。

 金属の悲鳴と共にあっけなく梁が弾け飛ぶ。

 重力が消える。

 手が空を掻く。

 レイのように。

 落ちる。

 だめ。

 死――――。

 ――――――。

 本編はいかがでしたか?

 だから非常口看板を無視するなとあれほど……。

 というかあのビル構造上に難抱えすぎでは……。

 十数年放置しただけで崩落する廊下てお前……。

 てか動かない標的にぐらい当てろよ機械兵……。

 今回の戦いツッコミどころ多すぎだろオイ……。

 それじゃ次回予告!!

 レイの戦死、機械兵の襲撃。

 そんな中一人敵中孤立を余儀なくされ、その上足場の崩落に巻き込まれてしまったキリエ。

 果たして彼女の生死やいかに。

 てか次回予告に書かれてる時点で彼女生きてる以外ない希ガス……。

 こうご期待!

 ついに次章のタイトルすら書かなくなったか……。

 ここ最近次回予告が次回予告してない気がします。

 え?今更って?

 ごもっとも。

  さて、今回もいつもの挨拶の下では少し武器やら何やらの設定(ただの自己満)を語りますので、それを面倒だと思う方はすっ飛ばして頂いて構いません。

 いないとは思いますが、後書き先に読む派の方はご注意を、がっつり本編ネタバレしますんで(手遅れ)。

 こんな小説他にないと思ったら、評価、コメント等もよろしくお願いします。

 では、またの機会に。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ……さて、何を書こうか(えぇ……)


 ・第〇〇期団

 レイが第二期団という言葉を口走っていましたが、アレは二世代前の先輩方という意味です。

 つまりかく言う本人達は第四期団、彼らからすれば大先輩ですね。

 時代的には大体十数年前って所です、ちょうど今の軍上層部がそれぐらいの世代なんじゃないでしょうか。

 が、前章ではどこか不穏な話が出ていたり……。

 まあ、覚えて頂けると幸いです。


 ・パワーアシスト

 作中終盤でアシストスーツなる物がちょこっと出てきましたね。

 アレは何なんだと聞かれたら……何なんでしょうね。

 女性を戦場に放り込む口実として配備した物なんですが……まあ、付けたらヒョロガキでも戦闘がこなせるスーツ程度に考えて頂ければです。

 細かい設定としては、アクチュエーター、ジェットパック、エネルギーシリンダー(バッテリー的なヤツ)、をフレームごと体に装着し、頭部に装着したインカム兼用のヘッドセットで脳からの指令を検知して、動きをアシストする、という物です。

 どっちかっつーとこのヘッドセットの方がおかしい機能してるような気がするんですが、それはまた別の機会に。

 現代でさえも筋電義手とかあるし、アシストスーツもいけるんじゃ?とか言って作った物ですが、性能がおかしい件については……まあ、150年後の話なんでね?

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