狩人狩りの狩人 序
失踪するとでも思ったか!!
どうも魔王ドラグーンです
新作だよやったね!
『勇者とラスボスの協奏曲』?二周年?知らんなそんなもん!
外伝?知らんなそんなもん!
まあ、何て言うか……今作は上手く出来た自信はありますのでヨシとして下さい。
いや、ちゃんと『勇者と(ry』の続きも書いてるからね!
こっちに本腰入れてただけで書いてない訳じゃないからね!!
そんなわけなんで、コレでも読んで気長に待っておいて下さい。
それでは本編にどうぞ。
序章 狩人狩りの狩人 序
―― 2150年 東京 ――
1世紀半前、1000万都市としてその名と栄華を世界に知らしめていたその大都市。
地下から遙か高空まで余さず人の手で開発され、その文明の光は宇宙からも見えたという。
その都市に、今――。
人の姿はなかった。
◇
全てが死んだように静かな、冬の街。
人などとうの昔に消えた、瓦礫の街。
冷たく暗い、鉄血と機銃の狭間より。
硬質な足音が一つ、その後を追って地響きとコンクリートの外壁を弾丸と鋼鉄が食い破る破砕音が無数、冬の寒空に響く。
脇道から大口径の弾丸が横殴りの雨のように飛び出し、誰もいない古びたビルの外壁とその前の道路を穿ち、その弾丸を追うように、追い立てられるように男が一人、白煙があちこちから細く立ち昇る道路に転がり出る。
今まさに駆け抜けているのが死線の真上であるにも関わらず、その顔はどこか楽しげで、さながらいつもの散歩道を鼻歌交じりに散策するかのよう。
男が北風のように駆け抜けたその後を、さっきを遙に超える量の弾丸の豪雨が道路を砕き、アスファルトの粉塵を巻き上げる。
その分厚い装甲に路地の両壁と斃れた小さな同胞達の残骸を削り、引きちぎりながら現れたのは、四脚の金属の昆虫と戦車の合いの子じみた巨体。
装甲の間に埋もれるようにして装備した長大な120㎜口径の主砲とそれを乗せる砲塔、その両脇に控える一対の30mmバルカン同軸副砲、装甲の随所の隙間からは静かに狙う9㎜機関銃の姿もある。
が、9ミリ機関銃に関しては、その大半が煙を上げるだけで動きそうもない、もっとも、銃身が半ばから溶断されているのだから仕方のない事だが。
主砲が咆吼、横っ飛びに避けた男の真横を風の唸りと共に吹き抜ける。
間髪入れずに副砲の二門十二本の砲身が金属のこすれる音と共に激しく回転、一秒弱の空転の後その砲口から毎分一万発の発射炎が轟音と共に吐き出される。
その一撃一撃が強化コンクリートの外壁すら貫く、無論人間など幾人居ようと簡単にただの肉に変える弾幕の中を、男は振り向きすらせずに超人じみた足運びでそのことごとくを足下の道路の破片に変える。
さながら剃刀の上を舞い踊るかのような機動だが、しかしなぜかその動きに危うさは感じない。
そうこうしているうちに毎分一万発という猛砲撃の加熱を防ぐために数十秒ごとに訪れる弾幕の密度の低下により、わずかに、ほんのわずかに弾丸の密度が減る。
普通ならこんな状況の中気づきもしない、そのささやかな隙、それが男に、絶えぬ砲撃で封じられ続けていたもう一つの選択肢を選ぶことを許す、それを差し出した殺戮機械自身も気付かぬうちに。
けして、この砲の性能が問題なのではない、毎分六千発が本来の限界だったはずのこの砲に一万発という砲身自体が溶け爆ぜる限界ギリギリの砲撃を強いる、ひいてはそうせねばこの男を殺せないとこの殺戮機械に思わせたこの男が異常なのだ。
その隙に、男が動く。
走る姿勢をさらに前傾させ、さながら地面を這うようなその背中から、まるで鳥の骨だけになったそれのような一対の薄い鋼鉄の羽根が伸びる。
排熱を終え、また爆発的な弾丸の驟雨が迫る、が、その一刹那前に、その男の羽根の下辺に設けられた隙間から蒼色の炎がさながらバーナーのように吹き出す。
後ろから迫る機械の兵の見上げるばかりの巨体を尻目に、地面効果で男が地面スレスレを一気に駆け抜け、引き離し、敵全砲身のロックオンを完全に振り切って道の先にふわりと降り立つ。
そして、敵主砲が再度自分を捉える数秒の内に立ったままその手の対物ライフルを構え、続く半秒で流れるように屈射姿勢を取る、無論、初弾は既に薬室内だ。
間髪入れずに発砲、爆ぜた衝撃が男の体を再度振り向けられた敵主砲の照準から一瞬のうちに弾き飛ばす。
銃声が響く寸前、男のスコープのその中央に十文字に切られたレティクルが、無機質な機械の赤い目をその中央にひたりと捉えた。
超音速で放たれた十四・五㎜弾が衝撃波も火炎も殺戮機械の反応速度さえも置き去りに駆け抜け、鈍く輝くその切っ先が過たず唯一の弱点たる光学センサーのレンズを捉え、粉砕、その奥にひしめく無数の機械基板と配線と戦闘機械の冷たい意思を弾丸の回転に巻き込んで無残に食い荒らす。
衝撃に吹き飛びながら地面を蹴って一回転、着地し黒いアスファルトの地面を踏み砕いた男の、無造作に振ったその手の対物ライフルから排莢された巨大な空薬莢が地面を叩き。
全身に走った衝撃に巨大な砲身を真上にかち上げ、もう何物も映さない光学レンズの残骸が天を仰いだのを最後に、重々しく崩れ落ちた機械の忠兵を静かに見つめる黒い双眸は、先程までの死闘を演じてなお水鏡の如く揺らがない。
否。
先程までのそれなど、彼にとっては死闘はおろか、戦闘にすら含まれていない、ただそれだけだ。
先程の例えに合わせるならば、散歩道の脇の自動販売機でコーヒーを買って飲み干すかのような、そんな、ただのいつものこと。
男が手を一振り、広がった無数のホロウィンドウの内、一つを見て、男がふと獰猛に一笑する。
悲しいかな、機械の忠兵は目の前に敵がいる限り平等に襲いかかる、例え眼前のそれが絶望そのものであったとて、彼らがそれを学習することはあっても理解する事は決してない。
それを理解することが、彼らの兵としての死と同義であるが故に。
戦闘音を検知した機械の狩人が哀れにもまた、男の真横のビルの壁面を多脚で無数、踏み砕いて現れる。
それを迎え撃つは、やはり狩人。
狩人狩りの狩人が、屈託なく笑いながら反対の手のエネルギーのブレードを無造作に振り向ける。
無邪気な機械の光学センサーが瞬時に敵を認証、即応、レーザーサイトと銃口の虚ろが男を捕らえる。
二つの狩人にして獲物の間合いは、銃のそれよりなお内側。
男の手元から伸びる黄色に輝く残酷な優しさが、実体無きために凶暴に揺らぐその切っ先が指し示すのは、死という名の冷たく静かに揺らがない、そしてどこまでも慈悲深い、終わり。
彼に出会ったあまねく機械の兵の命運にして、やがて訪れるだろう己の命運を無造作に携え。
刹那に空いた睨み合いの間を置き去りに、一歩、蹴り出した。
ここは地球、人呼ぶ所の命の星。
廃墟と鉄錆、硝煙と悲鳴を飲み込んで、碧く暗く、鮮烈に輝く残酷な星。
ある者は過ぎ去った栄光を取り戻そうと。
はたまたある物はもはや亡き主の遺命を成し遂げんと。
どちらも、奪ったのは自分自身だと気付く事も出来ずに。
ありもしない戦う意味を手に切り結ぶ、戦場。
鉄血と機銃の合間より、その間に生きる全てのモノへ。
かくもその手の得物とは偉大なものか?
第一章 それが火花であっても
「はぁ、はぁ、はぁ、は、えぇ?」
腕時計を眺めて素っ頓狂な声を上げる、ヤバイ遅刻する!!
誰もいない廊下を一人全力で走る、まーにーあーえー!!
腕を振ってホロウィンドウのマップを出し、目の前に目当てのドアを見つけ、一目散に飛び込む。
金属製の対爆対弾ドアがらしくない高速で開き、外の光と司令官の怒号が飛んでくる、どうやら間に合わなかったらしい。
「キリエエェ!!遅刻だ!!何してた!!」
「はいィ!すいませェん!!」
事前に決められた位置に走りながら、司令官に叫び返す、わざとじゃないって!
自分以外が一斉に笑うのが聞こえる、初日から最悪だ。
「はぁ……はぁ……ふぅぅぅ……。」
「あはは、キリエさんって言うんだね、大丈夫?」
膝に手を突いて荒く息をしていたら、隣の部隊員が私に話しかけてきた、名前は……知らん。
「初日からこれとか、最悪だよもう……」
「キリエエェェ!!遅れて来たのはお前だけだって事分かってんのか!!さっさと準備しろ!!」
愚痴を返すと同時に司令官の怒号が飛んできて思わず首をすくめる、遅刻なのは分かってるってーの。
まさか私だけが遅刻とは思ってなかったけど。
「は、はぁーい」
やる気のない返事を返し、小銃を腰に吊るし、マガジンが収められたガンベルトを肩から掛ける、最後にヘルメットを被って準備は終わりだ。
……実際なら、ここまで事前に済ませた上でここに来なければいけなかったのだが、急いでいたのでさっぱり忘れてた。
「あーあ、完全に目を付けられちゃったね、ここだけの話、ここの部隊の司令官、メッチャ怖いらしいよ。」
「少しは慰めてよ……。」
隣の奴が、未来がかなり心配になる言葉を投げかけてくる、そういうのは本人には言っちゃいけないお約束でしょうが……。
はー、とため息をつく、まさかこんなことになるなんて、数日前までのワクワクしていた私に言ったらどうなるんだろう。
「ハァ、全く、これだから新参のヤツらは……まあいい、今回はこっちに来て初めての実戦訓練だ、心してかかれ、それでは今回の作戦地域に移動する、装甲車に乗れ。」
司令官が恐らく誰にでも言うのだろうセリフを……最初のは確実に本音が漏れているが……部隊員全員に向けて言い放つ。
「キリエェ!!聞いてるか!?」
歩き出す前に振り向き様にブラックユーモアを炸裂させるのも忘れない、本っ当に有能な指揮官ですよ。
隣の奴がそれにあはは、と笑い、それをジト目で睨む私に、ゴメンゴメン、と言って手をヒラヒラと振る。
ハァ、先が思いやられるなぁ……。
どうしてこうなった……。
兵員運搬用の装甲車の後ろの座席に座って一人頭を抱える
ちなみに隣の奴は車に乗っても隣だった、なんかむかつく
つい先日コロニーからここ東京に配属が通達され、降りてくる前に慌てて切りそろえてきたばかりの髪をかこうとして、そこにヘルメットがあったことに気付いてしぶしぶ手を下ろす。
「これは初日から大変そうだね、あ、そうだ、今回の戦闘訓練の話は聞いた?」
隣の奴が無粋にも無責任な感想を口にして、そしてついでに不穏な単語を口にする。
「え?何か言われてたの?」
ちょっと嫌な予感を感じながら聞き返すと、隣の奴は案の定と言わんばかりに首を縦に振った。
「ああ、なんか初めての大規模な実戦だからって色々やるらしいーって事をあの連隊長が君が来る前に言ってた。」
あんの野郎ぉ、何で私が来るまで待ってくれないのさ……。
まあ遅刻した私が悪いって言われちゃったらそれまでだけどさ……。
「具体的にはどんな?」
「小隊単位での行動の廃止、機械兵の探知システムを試運転したり、んでコレは連隊長が言ってたんじゃなくてただの噂だけど、新しい兵器を別の所で試すとか何とか、ああ、あとバディ制。」
どうやら嫌な予感は当たっていたらしい、不穏な単語がまた増えた。
「バディ制?」
「やっぱりそれも聞いてなかったか、今回の僕たち第四期組から一気に人数が増えるからって、本格的に制圧するためっていう理由で二人一組のバディを組むことになったんだって。」
「へ?」
「それ何の顔?」
唖然とした顔をしていたらすかさずキレのいいツッコミを食らった、多分それは鳩が豆鉄砲食らった時の顔だよ。
「えぇ、そんなの知らないって……。」
「ああ、みんな最初聞いた時はそんな反応だったよ、んで隊長が作戦書にも書いてあるのに知らんのは怠慢だーとか何とか言って怒り出して、そこに君が来たって感じ。」
「ああ、だから来る前から怒号が聞こえてたのね。」
疑問が一つ晴れた、しかし実にどうでもよかった。
「まあ、そんなことを言ってたから多分作戦書にも一応書いてはあったんだろうね、自分はバディ制の所以外はいらないと思って覚えてなかったから知らないけど。」
そういや作戦書読んでないな……。
「さては作戦書を読んでないなとか何とか考えてる顔だねそれは。」
……お前さてはエスパーだな?
「……いかにもその通りでございます。」
「うむ、正直でよろしい。」
ところでこれは何の茶番かな?
「所でバディの組ってのはもう決まってる物なのかな?」
「ああ、それも作戦書の一番後ろに書いてあったっけ、ってホントに読んでないんだね……。」
ち、違うし、読もう読もうと思いながらベッドをごろごろしてたら次の瞬間朝になってただけだし。
大体作戦書って言ってあんな電子辞書の中身みたいなの渡されたら誰だって読む気失せるって
隣の奴は読んだらしいけど。
「読み物のはどうにも苦手で……。」
「敵の型式とか兵装とか必要なことが山ほど書いてあるから読まないとむしろ作戦できないレベルなんだけど……。」
い、一応一通りは士官学校で習ったからセーフ……?
「で、その作戦書が何だっけ?」
「バディの話ね。」
ああ、そうだった、作戦書の一番最後の所に書かれてるんだっけ?
「もしかして作戦書を見せてくれたりしないでしょうか……?」
「まあ、読んでないんだったらバディの相方なんて知ってるはずがないか……。」
話が早くて助かります。
んで、名前は知らんが隣の奴がホロウィンドウの自分のデータベースを漁りながらしれっと10トン級の核爆弾発言を投下していった。
「でもそれには及ばないよ、君のバディの相方は僕だから。」
「うぇ?」
うぇ?
「不満?ああ、僕レイ・アキナね、レイでいいよ、よろしく。」
そう言って図々しくも握手するつもりか手を差し出してくる隣の奴改めレイ氏
それに私は一瞬硬直した後、大勢乗っている輸送車の中で混乱のあまり盛大に叫ぶという失態を演じたのであった。
◇
今から遡ること一世紀前、その頃の人類たちは様々な偉業を成し遂げた。
核融合発電による大電力供給の安定化、そして電力をワイヤレスで供給するシステムの確立、通信手段の大規模、高速化、豊富に生産可能なより優秀な新しい合金の開発、完全な人工知能の完成、空間ホログラフィーシステムの確立、食料及び有機物工場の完全自動化。
そして、それらはついに重力の頸木から解き放たれるという人類の悲願を成就させる形をもって、満を持して大輪の花を咲かせた。
それから半世紀かけ、人類の居住地は、月、別の惑星、小惑星にまで広がり、地球の周りには人工衛星型の居住空間『コロニー』が無数建設されていった。
その頃にはもう既に、地球の命運は決まっていたのかもしれない。
西暦2092年、地球と宇宙の間に戦争が勃発。
人の世の常か、はたまた、増えすぎた人類に対する神からの制裁か、いずれにせよ、地球と宇宙の人類の間で戦争が起こるのは、半ば必然の事だった。
一度始まった戦争は、人類が今まで培ってきた英知の力を餌に規模を際限なく広げ、ついにそれはどちらかの人類を滅ぼさんまでに達した。
この戦争は先に兵員が尽きた方が殺し尽くされる、その、どちらが言ったでもない、しかし全人類を殺戮の衝動へと押し流す共通認識の元に、戦争は泥沼化していった。
しかし、この戦争は元より平等な物ではなかった。
人類の居住できる空間を資源と労力さえあれば無限に増やせる宇宙に対して、地球のそれはどこまでもちっぽけだった。
地球の人類は次第に不利になる戦局と、その後ろからじわじわと迫り来る絶望をなんとしてでも止めようと英知を絞った。
そして追い詰められた人間という物は、どうしようもなく優秀な物だ。
それらは、半世紀前の栄華の裏返しの、滅びの花を高らかに咲かせる。
機械兵、それは兵員不足の地球の人類が、最後の希望として戦線に投入した完全自立型戦闘ユニット。
人を模した、しかし人とは間違っても言えない、機械仕掛けの兵士達。
戦えば戦うほどに相手を学び、解析し、理解してより強くなり、そしてそれを武器にまた戦い続ける、終わりが来るまで、永遠に。
その終わりとは一体何なのか、そもそも己の敵とはそもそも何なのか、何のために自分達は戦っているのか、機械の彼らは考えすらせずに。
死を恐れず、敵に怯えず、間違いを犯さず、どこまでも戦闘と殺戮に特化した、戦闘人形。
それに施された命令は、ただ一つ、我らの敵を狩り付くせ。
確かに、大量生産され、一気に戦線を津波のように覆い尽くした機械兵は、忠実に命令を果たし、既に奪われていた大陸を奪い返し、さらには宇宙側の人類側に深刻な損害を与え、彼らの敵を蒼空の向こう側に追いやった。
機械兵に大打撃を受けた後、宇宙の人類はその戦力を恐れ、戦線はしばらく膠着した
戦火の明かりが消えた地球は静かなものだ、夜が訪れればその途端にさながら溶け込むように宇宙の闇に消える。
しかし宇宙の彼らは気が付かなかった、地上の人類の文明の光が消えていること、それが何を意味するのか。
最初はみな、灯火管制のため明かりを消したのだとばかり思っていた、実際、膠着し始めた最初の頃はそうだった。
しかし、彼らは大きな思い違いをしていた。
それは、灯火管制は宇宙の人類に対したものではなく、また地上の人類が戦っているのもまた宇宙の人類ではとうになくなっていた、という事。
灯火管制の隙間をぬってわずかに漏れ出る光すら完全に消え去って地球が完全な暗闇に落ち、それから数年の歳月が過ぎ、彼らは遅まきながら気が付いた。
遅すぎた。
何かがおかしい、と地上のあちらこちらの大都市に送られた兵士達、彼らが見た地上に人類はたったの一人としておらず。
代わりに、崩れかけた廃墟の中にひしめいていたのは、異形の機械の兵達。
今から数えること二十二年前、銀世界の北京での出来事だった。
宇宙の人類のそこからの動きは迅速だった、各都市に向かった兵士達とその援護に向かわせた増援を第一期と名付けて各都市の奪還に当たらせ、それまでの軍人学校を流用して兵士を育てた。
地上では各都市の廃墟を利用して基地を建設、対空砲の剣山に守られたマスドライバーで天地を繋ぎ、新型兵器を惜しみなく投入し、せめて基地上空の制空権だけでも確保する。
人類はすぐさま数年の内に徹底抗戦の構えを整えた
そして十年後、第二期が各都市へ。
そして、今。
これまでに屠った機械兵達の数は数知れず、斃れた兵士達の数もまた同じ。
にもかかわらず。
いまだ地球に文明の光は戻らず。
いまだ人類に夜明けは訪れない。
◇
うつらうつらと船を漕いでいた私が用意していたアサルトライフルに頭を叩かれた衝撃に飛び起きる。
「どしたのさ。」
うっわ、見られた、しかもこいつに、最悪。
「出会って十数分の僕でもこいつなら遅刻するなって思えるのってある意味才能だと思うよ。」
あいつが何を言ってるのかよく分からないけど、ものすごく失礼な事を言われたってことは分かった。
「で、どうしたの?」
私が目を擦りながら聞くと、車が一際大きく揺れたかと思うと、それっきり揺れが全くなくなる。
「着いたって事ね。」
「良かったね、アサルトライフルに叩き起こしてもらえて、また寝坊せずにすんだよ。」
車から飛び降り様に皮肉を投げて寄越すレイ氏。
……それはそうとどうしてこいつは私が寝坊したことを知っているのだろうか。
気になるけど聞いたら聞いたで変な顔されそうだからやめとこう。
車からライフル片手に飛び降りて、先行するレイに追いつく。
横に並んでからふと思ったことを問いかける。
「あれ、着いてばっかだけどもう作戦開始?」
「ホントに何も聞いてないんだね、ああ、そうか、君は寝てたのか。」
呆れ顔でレイが答え、ふと納得したように諸手を打つ。
どゆこと?
「君が寝た後連隊長から、到着したらすぐに各バディごとにエリア十五からエリア二十八以内に散開、機械兵は見つけ次第破壊、三時間経ったら元の車まで帰還して基地に帰投、って言われたんだよ。」
……あの人私が聞いてない時に何かと話したがるな……。
まあ、寝てる私が悪いって言われたら(以下略)。
「つまりもう制圧済みって事?」
「多分ね、これだけの人数に対してエリアが狭すぎるし、このエリアに機械兵はほぼいないって言ってたし、そういう解釈でいいんじゃないかな。」
ふむふむ難易度は低めか。
まあ、初めての実戦だし、いきなり死地に放り込まれても困るけどさ。
「じゃ、三時間ここを観光して、時間が来たら帰るだけの簡単なお仕事ってわけね」
「帰りに遅刻しなければ、の話だけどね。」
もう遅刻ネタはやめて……反省はしてるから……。
「てかバディなんだし遅刻する時は一蓮托生じゃ?」
「おっとそうだ、いざというときは置いていく覚悟もしとかなきゃ。」
この薄情者めが!
憎らしげに見つめる私に、肩をすくめるレイ。
というか帰投に遅れたら今度は死んだって判定されて置いて行かれるし、遅れないよ!?
と、私が緊張感のないやりとりをしている内に、周りのバディはそれぞれ別々の場所へ散っていき、いつの間にやら通りを歩いているのは私達のみ。
「あらら皆、この道の敵の掃討は僕たちの担当って事かい?」
「広い道で戦闘になった時は数が少ない方が不利になるからね、戦いたくないのはわかんないでもないけど。」
「あははー、大役を任されたもんだねー、じゃ、二人でがんばろーか。」
何が面白いのか緊張感のない笑い方をしながらレイがアサルトライフルを構え直す。
バディの相方がこいつっていうのだけは気に喰わんけども、まあ、頑張るしかないのは確かね。
深呼吸一回、それで気抜けた心を切り替えて、崩れかけたビル群とそれを脇に携える、もはや車など無人のそれと、それらを屠るための武装した物々しいそれ以外ほとんど通りもしない、ひび割れと瓦礫だらけの広い道を見据える。
そうして意気込んだはいいものの
「…………なーんも起きないね。」
私は瓦礫に腰掛けて天を仰いでぼやいていた。
時間は帰還まで残り30分を切ったところ。
初冬の、少しでも触れたら即座に砕け散りそうな薄氷の、張り詰めた氷色
いや、こんなことある?
時間はたっぷりかけて路地裏まで虱潰しに漁ったのに機械兵はおろかその残骸すらないって……
いや……こんなことある?
「隊長が敵兵はほぼいないって言ってたけど、まさかここまで徹底的とはね……。」
瓦礫に背を預けて水筒をあおりながらレイがぼやく。
いや敵兵がいないのはむしろ喜ぶべきなんだろうけどさ……。
先輩兵達が有能すぎる……。
「コレってある程度敵兵を狩っておいた方がいいのかな……。」
「まあ、倒すに越したことはないんだろうけどね……。」
「いないけどね、敵さん。」
あのレイですらややげんなりしたような様子なのが、どれだけヒマだったかを物語っている。
そんなレイが、一体何を考えたのか……どうせロクな事ではないだろうが……唐突ににやっと笑う。
「……ねぇ、ビルの中に入ってみない?。」
案の定ロクな事じゃなかった。
「……それ禁止されてなかったっけ」
「まあまあ、ちょっとぐらいならどうって事はないだろうし、さ。」
どうって事あるから禁止されてるんだと思うんだが。
「敵がいたらどーすんの。」
「いないからヒマしてたんだし、ちょうどいいんじゃない?」
一体何がちょうどいいと思えるのかワケが分からん。
ジト目で見つめる私を尻目に、立てかけておいたアサルトライフルを手に取るレイ。
「え?本気?」
「当たり前じゃん、いつまでもヒマなまんまってのもやだしさ。」
ためらいのたの字も無いその口ぶりに私が呆れていると、それを見てレイが吹き出す。
よほど嫌そうな顔をしてしまっていたらしい。
「はは、そんなに嫌なら来なくて良いよ。」
いや、良くはないと思うんだけども。
「ちょっと様子を見たらすぐ帰って来るからさ、ここで待ってくれてたらいいよ」
そう言って一人でアサルトライフルを担いで行こうとするレイ、その後ろ姿を見て私はため息をつく。
アサルトライフルを握り、座っていた瓦礫の上から立ち上がりながら飛び降り、そのままレイの隣に並ぶ。
「私も行くよ、いつまでもヒマなまんまってのもやだしさ。」
私が下っ手くそな声真似でついさっき聞いたばっかりの言葉を繰り返し、それを聞いたレイが笑って。
「あはは、そう言ってくれると思ってた。」
どうやらこれも読まれてたらしい、小憎たらしい。
アサルトライフルの黒色、空の氷色、廃墟の灰色、鋼鉄の鋼色、錆びた鉄筋の茶色。
昼過ぎの少し傾いた太陽が、目に差し込んでちょっとまぶしい。
ビルの隙間から差す逆光が振り向いたレイの輪郭をぼやけさせ、お得意ののひょうきんな口調でレイが言う。
「じゃあ、行こうか。」
彼の声は、むかつくのに何とかなりそうだと思えるのが不思議な所だ。
間章 笛を落とした管弦楽団
彼女は揺るがない。
コツコツという音を硬質の床と靴の踵に鳴らしつつ、彼女は少し薄暗い廊下を歩く。
「隊長、まだ見つかんないの?」
目当ての自動ドアが動きを感知、無音で開き、その中に入ると、その奥に居たやせ気味でどこか飄々とした男が声をかけてきた。
「死体の話か?」
答える声はいつもと変わらず、冷たく鋭い、氷刃の響き。
「冷たいなぁ、もう少し待ってあげてもいいじゃんか。」
笑うように返った声は、しかしどこか少し、不満げで。
しかしだからといって彼女の心中には何一つ湧かない。
「帰って来た所で何になる。」
その内心を表したように、返事は突き放したように冷ややか。
「脱走兵は銃殺、か、つれないねぇ、ところで。」
残酷だが、いつまで経っても変わらない戦場のルールを男がはばかりなく言う。
脱走兵。
この戦争が始まって以来とんと聞かなくなった軍事用語。
まあ、当たり前の事だ。
この地球の主導権を握っているのはあくまで機械兵、逃げようにも逃げられる場所などありはしない。
が、それでももし、逃げ場があるとするならば。
それが、あの世とやら、なのだろうか。
それでもなければ、それは…………。
と、男が人差し指を立てて問い返す。
「僕、隊長が帰ってくるなんて一言も言ってないんだけど?」
不意を突いた一言に、彼女の細く鋭い眉がぴくりと動く。
してやったりと笑む男に、しかし彼女はやはり無言。
無言のまま数秒の時が過ぎ、男が口を開く。
「まあでも、帰って来た所で何になるってのは、確かにそうかもねぇ。」
長い前髪の奥の笑う気配が、ふっと消え。
「第二期組第七遊撃師団の隊長なんて、そんな居場所はもう、ないもんね。」
懐かしくもどこか痛みを伴う、その思い出の名を口にした。
彼女の名はシオン・バートリ。
五年前、不慮の事故によって死亡した先代霞ヶ関支部長の後に支部長になった、氷の女王。
冷たく、鋭く、淡々と機械兵を食い破る、この戦場にあるもう一つの殺戮のための機構。
食い破るためだけの、凍てついた太刀。
だから彼女は揺るがない。
揺らぐはずがない、揺らいではならない。
もう、そんなことは許されない。
彼女が自ら破り捨てた物を、今さら求める権利など彼女自身にあるはずがない。
だから、彼女は揺るがない。
本編はいかがでしたか?
……重いな、最初っから。
『勇者と(ry』のライトっぷりはどこへやら、今作は序盤からずいぶんと重いです。
ちなみに、次章と比べたら今章はまだライトな方だったりして……。
こ、今作は短めだからあちこちの闇が凝縮してこんな事になってるだけだから……。
あ、そうそう、今作から謎に消えてた”。”がようやく登場しました。
ホントなんで書き忘れてたんだろう……。
そして気付いても何で書き直さなかったんだろう……。
”。”を今まで打ってなかったせいで良く忘れる上に本当に違和感がすごいです。
本当はない方が違和感になってないといけないんだけどな!!
では、話が脱線しそうなのでとっとと次回予告!!
好奇心からビルの中に踏み込んだ二人。
いかにも、な暗い廃ビルの中、レイがふととある噂を口にする。
が、彼らは気づいていなかった。
ああそういえば、昔から言われていることわざにこういう物がありましたね。
『好奇心はネコをも殺す』……と。
ああ、別にこれといった意味はないですよ、ただ思い出しただけで、ね。
こうご期待!
さて、いつもの挨拶の下では少し武器やら何やらの設定(ただの自己満)を語りますので、それを面倒だと思う方はすっ飛ばして頂いて構いません。
いないとは思いますが、後書き先に読む派の方はご注意を、がっつり本編ネタバレしますんで。
こんな小説他にないと思ったら、評価、コメント等もよろしくお願いします。
では、またの機会に。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・最初の対物ライフル。
作中一番最初に出てきて機械兵をぶち抜いた対物ライフルがありますが、アレは〈アルテミスM13改〉という名前の、口径14・5ミリ、セミオートのライフルです。
名前の由来はそのまんま月の神アルテミス。
あの神様は獰猛な神話が多かったり、狩人の神であったり弓の名手だったりもしてぴったりだと思ったのが理由です。
そういえばかの名銃〈ウルティマラティオ ヘカート2〉のヘカートも月の神の名が由来でしたっけ。
14・5ミリとかいうバカみたいな超大口径は、シモノフPTRS1941という対物ライフルが元になっております。
んで、これはあくまで、〈アルテミスM13〉のこと。
なぜ、”改”なのかは……いずれお話しいたします。
・霞ヶ関支部
最後の最後に出てきたアレ。
何でわざわざここ?と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、今後のストーリーの進行上ここにするしかなかったんですよぉ……。
一応、現。日本の行政機関の大部分が置いてあったりと、悪くはないとは思ってます。
あっ別にここが嫌いとか日本政府に喧嘩売ってるとかそんなのではないのであしからず。
そもそも行ったこともないし。
というかまあ、設定上東京はどこも平等に廃墟だから喧嘩を売るもクソもない気がせんでもないけども。
・かませ機械兵
最初で吹っ飛ばされてた機械兵はLI・S:002自走砲型『リノセロス』というタイプの機械兵……という設定。
全体的なステータスは、体高4メートル、砲身込みの全長8メートル弱、全幅3メートル強、重量は30トン弱といった所。
主兵装は本文に書いてあるとおりです、蹴りとか体当たりとかを含めなければ。
120ミリ砲って確か戦車の主砲クラスのはずなんだが……自走砲のくせして。
ちなみに前脚は縦長で細い盾のような装甲が搭載されており、回転部と脚の付け根の駆動機関などを守るために素早く動ける防御仕様。
そこだけなら対物ライフルの零距離射撃も弾くらしい、すげぇ。
それに比べて後脚の方が倍ぐらい太くて、砲撃のリコイルショックをやや軽い図体に代わって受け止めるために出力が高くなってる設定があります。
この出力を利用して飛んだり跳ねたりしてるんですよ、自走砲のくせに。
自走砲云々以前にあんなバカでかいヤツがそもそも動く訳ないとかそんなこと言わない。
い、一応機動力を確保するため装甲はやや薄めって設定はあるんですよ……一応。
名前のリノセロスっていうのはサイって意味です、あ、動物のサイね、角があるヤツ。
機械兵はこいつ以外にも結構な種類がいるんで、追い追いここで紹介していこうと思います。