バトロワ編9
外は部屋の中にあるアイテムと比べると強力なアイテムが手に入る事は少ないのですが、それなりの武器が手に入るだけでも序盤では心強いのです。
「えっと、多分このマップはこの辺りにアイテムがあると思うのですが―――――あっ、ありました」
私は道に落ちていたロングソードとウッドシールドを拾うと早速装備欄を開いて装備する事にします。
装備ランク的にはどこにでも落ちているような最低クラスなのですが、最初はこのクラスの武器を持っている人が多いと思うのでまあ普通と言った所でしょうか。
私が装備を終えた所で忍さんからボイスチャットが入って来ました。
私が通話ボタンを押すと忍さんの声が聴こえてきます。
「もしもし桜? こっちに火の石とロッドがあったんだけど何に使うんだっけ?」
「――火の石ですか? えっと、確か装備に火属性を付与する道具ですね。それを使った武器を装備すると炎の剣を使う赤騎士か火の魔法を使うフレイムウィザードにクラスを変更出来るようになります」
「ん~と、どうしよっか?」
このゲームでは装備にサポートアイテムを取り付ける事によってクラスが決定され、それによって攻撃力が上がったり、武器から火が出るようになる特殊な効果を追加したりする事ができるのです。
剣や弓に炎属性を付けて攻撃力を上げたり、杖で炎属性の魔法を使えるようにする感じですね。
「そうですね――――私は剣と盾を拾ったので最初は戦士で行きますから、忍さんは後ろから火の魔法でサポートをお願い出来ますか?」
「ん、りょーかい。じゃあ私が火の石を使うね~。それとこっちの探索はもう終わったから回復薬を分けるからこっちに来て」
「――――わかりました、すぐに向かいます」
私は忍さんの元へ向かいながらデュオプレイの役割を確認する事にしました。
えっと、確かデュオプレイの役割の組み合わせは基本的には3種類に分類されたはずです。
――――まずは2人とも近接武器を使う攻撃型。
ゲームになれていないと対戦相手に近付くのが大変な上級者向けの組み合わせなのですが、噛み合ったときの爆発力は最高クラス。
一瞬で相手を倒せる場合だってあるんです。
それに近接型だと盾や重い鎧が装備出来るので、防御力もあり不意打ちをされても生き残る事が出来る確率も高いですね。
――――次に近接武器と遠距離からサポートするキャラで組むバランス型。
今回の私達がこのタイプでどんな相手にも無難に立ち回れる初心者向けの組み合わせです。
1人が前衛で戦ってもう1人が後ろから攻撃魔法やサポート魔法でバフをかけて戦う戦法が一般的ですね。
魔法使いは魔法を使うたびにMPを消費するので、MPを回復するアイテムを使うのを前衛が守ったり詠唱に時間がかかる強力魔法を使う為の時間稼ぎを前衛が担う感じになってます。
魔法使いの他に弓使いやガンナーが後衛を担当する事もありますね。
――――最後に2人が遠距離の防御型。
これは2人で遠距離武器を使って相手を近付かせない戦い方をする組み合わせです。
遠くから一方的に攻撃出来るのでハマれば相手に近付かれる前にやっつける事もできるのですが、MPや銃弾などに気を付けて戦う必要があります。
それに防御力の高い盾や鎧が装備出来ないので近接キャラに一度近付かれてしまったらかなり不利になってしまいます。
なのでMP切れの時に回復アイテムを使っている時に距離を詰められるみたいな事が無いような立ち回りが求められているみたいです。
――――後は例外的にどれにも属さない特殊なクラスの組み合わせがあるみたいですが、その組み合わせをしている人は会った事が無いので私にはよく理解りません。
始めたばかりで対策がよく解らないのならお互い最後の1チームになって戦うしか選択肢が無い場合を除いて逃げるのがいいと思います。
私が忍さんと別れた場所に戻ると、そこには赤いローブに身を包み赤い杖を持った忍さんが待っていました。
赤いローブからは小さな火の粉がスカートからこぼれ落ちるように舞っていて、赤い杖の先端からは炎がメラメラと燃えています。
「あっ、桜~こっちこっちぃ。クラスチェンジってこれでいいんだっけ?」
「はい。属性付きのクラスになると服がその属性のカラーになるので解り易いですね」
「ふっふ~。大魔法使い忍ちゃん誕生って感じかなぁ~」
忍さんは杖を空に掲げてポーズを取りました。
これはかなり調子に乗っている様子なので注意をしておかないといけませんね……。
「――――あの、まだ初期クラスで強い魔法を使うことは出来ないので大魔法使いまではまだまだ先だと思うのですが」
「いーじゃん、いーじゃん。こういうのは雰囲気が大事だって」
先程はゲームの設定とかどうでもいいみたいな事を言っていたような気もするのですが、水を差すのもなんなのでここはスルーしておきましょう。
「ただ初期はマジックポイントが少ないですし回復するアイテムもそんなに無いので乱発だけは注意してくださいね?」
「解ってるって! 敵が出てきたら私の魔法でババーンとやっつけちゃうんだからっ!」
……これは微妙に解っていない気がします。
まあ初期はMPが少ないのですが、使える魔法もそこまでMP消費の激しいものは無いのでよほどの無駄打ちをするか連戦でもしない限りは自動回復だけでもなんとかなるとは思うのですが。
「――そういや炎魔法って普通の魔法とは何が違うの?」
「炎属性がついていると属性をつけない初期のロッドの魔法と比べて火力がちょっとだけ高いです。それに低確率で炎症の状態異常を相手に与えたり、クラスが上がっていくとマップにあるオブジェクトに魔法を使ってマップを変化されたりする事も出来るようになったりしますね」
「へ~なるほどね~」
「それと後は――――――いけない!? 忍さん隠れてください!」
「え、ちょ、ちょっと桜!?」
異変を察知した私は忍さんの手を取って近くにある瓦礫へと身を隠すと、次の瞬間忍さんの頭があった場所の後ろの壁にどこからか飛んできた矢が突き刺さりました。
「なっ!? 一体何があったの?」
「中距離からの狙撃ですね。矢を放った方向から考えると恐らく―――――――いました。忍さん10時の方角です」
「10時? えっと、10時って夜の10時?」
「……忍さん。それだと22時の方角です」
「ふぇ? 別にどっちでもよくない?」
「ダメです。夜だと寝ないといけない時間です」
「――それもそうね。オッケー、じゃあ朝の10時の方角ね」
「それでは相手の位置の確認を急いで下さい」
忍さんは瓦礫から少しだけ顔を出して横目で相手の位置を確認しました。




