人形列車 鉄亜鈴城3
――――朝ごはんを食べ終わった私達は、早速出かける準備に取り掛かりる事にします。
「さてと、今日はどうしようかなっと」
「ねえ桜。またアイス屋さん行きましょうよ」
「アイスもいいですが、今日は他のお店にしませんか?」
「――――他って例えば?」
「ここの辺りには羊羹の美味しいお店があるみたいです」
「あ~。そういえば列車の中で「忍者ようかん」って書いてある看板見たかも」
「…………? リニスはずっと寝てたので、多分夢の中で見たんですね」
私はガイドブックのページをめくると、最初のページにさっきリニスが言った忍者羊羹のお店紹介がされているページがありました。
「あれ? 本当にあります」
現在列車は駅に止まっていて、外の景気は見れないはずのに。
まあ忍者ようかんとか良くありそうな名前ですし、偶然夢で見たお店と一致しただけだと思いますが。
「そういえば今日も望と3人で回るの?」
「そうですね。一緒に回ったほうが楽しいですし」
そういえば、和希さんがこの場所に来てるみたいなので、どこかで落ち合うのも面白いかも。
みたいな事を考えながらガイドブックのページを更にめくり、良さげな場所をピックアップ。
「わああああ!? 大変だよ!?」
のんびガイドブックを見ていると、突然、望さんが大声をあげました。
まあこういう時の望さんの大変はあんまり大変じゃない事が多いのですが。
「どうしました?」
「望の髪の毛がボンバーしてる!?」
望さんの髪の毛を見ると、確かに数カ所寝癖で飛び跳ねている箇所がありました。
けど、そんなに爆発っていうほど大変な事にはなってない気も…………。
「だったら洗面所にドライヤーがあるので、使ってきたらどうですか?」
「ドライヤーあるんだ。じゃあちょっと行ってくるっ!」
そういって望さんは洗面所へと走って向かい。
――――――数分後。
「おまた~」
「結構長かったですね……………って、ええっ!?」
「…………ん? どったの?」
「どうかしたも何も、最初より大変な事になっちゃってます!?」
なんと、望さんは髪の毛が逆立った状態で洗面所から出てきたのでした。
「ああこれ?なんか面白そうなのがあったから使ってみたんだよ!」
「…………望さん。たぶん使い方間違ってます」
「えっ!? そうなの?」
「電子シャワーは髪の毛をロックにする装置じゃないです」
「まあ髪の毛セット出来たし、問題なぁ~し」
「ええっ!?」
そのまま望さんは鼻歌を歌いながら出かける準備をする為に、部屋にある端末を操作し始めました。
この列車は衣類貸し出しのサービスもやっていて、自分の身体データを送った後にデザインを選択すると、選んだ服をレンタルする事が出来ます。
デザインの種類もかなりあるので、旅行の時に服を持ってこなくてもすむのはかなり助かりますね。
「んじゃ、ごんすけ。後はやっといて~」
「にゃわ~ん」
望さんは服のデザインを選んでから、自分の所有する猫型マテリアル・デバイス「ごんすけ」に自分の身体データとレンタル料金の支払いをお願いしました。
データの送受信が完了してから数秒後。
部屋にあるクローゼットに頼んだ服が到着したようで、早速望さんは着替え始めました。
それから服を着替え終わった望さんが私達の前にやってきたのですが―――――。
「おっ!? ピッタリだよ。望、1回こういう服着てみたかったんだぁ~」
「なんか、あんまり可愛くな~い」
「…………なんでそんな服があるんですか」
望さんは肩パッド付きの世紀末的な服装で消毒液を上に掲げて。
「汚れは消毒だよっ!」
とドヤ顔で謎ポーズをして今の気分を全力でアピールしました。
「…………あの。他になんか無かったんですか?」
「あったけど、望の直感が今の髪型に合うのはこの服しか無いって訴えてきたんだよ!」
「合ってると言うか、他にその髪型に合う服装が無い気が……」
「じゃあこれで、きっまり~」
「ええっ!?」
ま、まあ望さんが楽しそうなので、このままで行きましょう。
「あっ。そういえば顔を洗うの忘れてたよ。ちょっと待ってて」
そう言って望さんは再び洗面所に行き――――。
「ただいま~」
顔を真っ白にして帰ってきました。
「…………あの。顔を洗ってきたんじゃ」
「ふっふっふ~。なんか小麦粉が置いてあったから、それで顔を洗ってみたんだよ!」
「なんでそんなのが洗面所にあるんですか!?」
「ああ。それなら私がお砂糖と小麦粉間違えて買っちゃったから、とりあえず洗面所に置いといたんだけど」
「そもそもなんで洗面所に…………というか、どうやったらお砂糖と間違えるんですかーーーー」
一度に変な事が沢山起こりすぎて、処理しきれない状況に。
こうなったらもう超法規的措置を取るしか無いです!
「…………見なかった事にしましょう」
私はツッコミを放棄する事を選択しました。
あんまりここで遊んでたら観光する時間が無くなっちゃいますから!。
――――そういう訳で出かける準備をちゃちゃっと済ませて、私達は列車から降りて駅の改札へと向かう事にします。
「あの。そんな格好で歩いててロックミュージシャンと間違えられても知らないですよ?」
「そうなったら、望が頑張って歌うからダイジョーブだよっ!」
「ノリノリです!?」
そして、駅から出た瞬間。
ビシッとスーツを着こなした女性が私達の元へとやって来ました。
「ねえ、少しいいかしら? 貴方からロッカーのオーラが感じられるわ。ちょっとバンドのオーディション受けてみない?」
「すみません。私達は――――」
「ふっふっふ~。どうやら望のオーラがばれちゃったみたいだねぇ~。じゃあ桜ちゃん、望はちょっと用が出来たからこれで」
「えっ!? ……あの。ちょっと、望さん?」
「んじゃね~」
そう言って望さんはスカウトマンの女性と一緒に、どこかへと行ってしまいました。
「ねえ桜。望、行っちゃたけどいいの?」
「たぶん列車の出発までには戻ってくるので、大丈夫です…………たぶん」
一応、望さんにはサポートAI「ごんすけ」を搭載したデバイスが一緒について行ったので、何かあった場合は緊急通信が入ってくるはずので、そんなに心配する必要は無いと思います。




