リベンジマッチ5
「こうなったら、他の魔法で――――――」
「ちょっと詠唱が遅くないか?」
「えっ!?」
私が魔法の詠唱を始めた瞬間、短剣を構えた和希さんが猛スピードで突撃してきました。
スキルを使って無くてもスピードSSSの突進には、私のクイックスペルでの発動がギリギリ間に合うかどうかといった状況。
それに和希さんくらいのプレイヤーになると、もし魔法が間に合ったとしても避けられるかも。
こっちは一度詠唱を初めてしまっているので、いったん止めて防御系の魔法の詠唱を始める時間はもうないっ。
――――だったら!!!!
「フレイムボム!」
私は和希さんでは無く自分の足元に魔法を投げつけ、爆風に乗ってその場から離脱する事にしました。
「ふう。これでなんとか―――――」
「なるのか?」
「はうっ!?」
和希さんはジャンプ中にジャンプ。
そして更にそのジャンプ中にジャンプして、まるで空を飛ぶように追いかけて来ました。
「特性の10段ジャンプ!?」
私が吹き飛ぶよりも早いスピードでぐんぐんと距離を詰めて来ます。
「だったらッ!」
迎撃用の魔法。
なるべく範囲が広くて避けづらいので!
「フレアボール!」
私は空中で詠唱をはじめ、運動会の大玉くらいの大きさの火炎の弾を投げつけました。
「そんな遅いのにはあたらないぞ?」
フレアボールはダメージが高く範囲も広いのですが、大きめの弾がゆっくりと進むだけなので真正面からだと簡単に避ける事が可能です。
なので、和希さんは難なく横に空中ステップをして火の玉を避けました。
―――――けど、これでいいっ!
「もういっかい!」
私は再度フレアボールを放ち和希さんは涼しい顔で避ける。
「まだですっ!」
同じことを繰り返す私に、シャンティから通信が入りました。
「桜、他の魔法の方がよくない? もう追いつかれちゃうよ!」
「大丈夫です。―――――これで、ラストっ!」
和希さんは最後に私が放ったフレアボールを避けると、そのまま追いかけるのを止め地上へと降りていきました。
「な、なんとか10回使わせました…………」
そう。ステップで避けるのもジャンプに数えるので、強制的にステップを使わせる事で和希さんの10段ジャンプを回数上限まで使わせたのでした。
―――――地面に着地した私はそのまま狙撃魔法の詠唱に入り、空中に狙いを定めたのですが。
「やっぱり、来ませんか」
私は詠唱を中止して、ふぅと息を吐きました。
和希さんが私の逃げた場所を確認する為に、ジャンプした所を狙撃で倒すつもりでしたが…………そう簡単にはいかないみたいです。
「シャンティ。和希さんがもう1度、超スピードのスキルを使えるまで後どれくらいですか?」
「えっと―――――だいたい2分後くらいかな」
「……2分ですか。それまでに何とかしないと厳しいですね」
和希さんは防御を捨てて攻撃とスピードに特化したクラスを選んでるのにも関わらず、安定した勝率を誇っています。
つまり、攻撃を弾いたり避けたりするのには絶対の自信を持ってて、そう簡単にはこっちの攻撃に当たってくれない。
だったら避けられない攻撃をするしか無いのですが、誘導性の高い魔法も1回ステップされるだけで簡単に誘導を切られてしまうので、かなり厳しい状況です。
チーム戦だったら味方と協力して避けられない攻撃をする事も出来ますが、あいにく今回は個人戦。
誘導に頼らず自分のエイムを信じて攻撃を当てないと!
「桜、来るよ!!」
「――――ええっ!? もうっ!?」
スキルのクールタイムが終わるまで待っててくれたら対策をじゅうぶんにする事が出来たかもしれないのに、流石にそんな時間を相手に与えるなんて事はしませんか…………。
一瞬建物の影に和希さんの姿が見えました。
「やあーーーーーーっ!」
私は狙いをつけて火炎の矢を打ち放ちましたが、和希さんのスピードを捉えることが出来ずに建物の壁に当たってしまいました。
「どうした? 壁でも狙っているのか?」
「――――くっ!? 当たらないなら、もういっかいっ!!!!」
私は再び今使える中で最速の矢を放ちましたが、和希さんにはかすりもしませんでした。
「そんなので止まると思ってるのか?」
「止まらせます! それより走りっぱなしで疲れてませんか?」
「こっちはお前と時の流れが違うからな、そう簡単には疲れんさ」
距離が縮まり遠距離から中距離になりました。
「この距離ならっ!」
私は空中に巨大な箱を召喚して、違う魔法の詠唱に入りました。
その直後、箱が開いて火の玉が扇状に広がりながら和希さんへと飛んでいきます。
これは攻略サイトなどでおみくじボックスと言われている物で、高い誘導性と制圧力で適当に撃っても攻撃に引っ掛かってくれる可能性が高い魔法です。
――――そして、攻撃に引っ掛かってる間に強力な魔法によるコンボで一気に倒すっ!




