格闘ゲーム編 完
「おつかれ、桜。激戦だったわね」
「……あと少しだったのに残念です」
「まあ相手もかなり強かったし仕方ないんじゃない?」
「そうですね。いつかリベンジしたいです」
「ところでさ。リベンジはいいんだけど、優勝の景品はどうするの?」
「………………あ」
た、た、た、大変です。試合内容に満足してしまい忘れてましたが、景品の事をすっかり忘れていました。
「しかたないのでカズキさんには事情を説明して少し待ってもらう事にします」
「へ~。決勝に残ってたのカズキ君っていうんだ?」
「いえ。カズキさんは―――――」
女の子ですと訂正する言葉を私は飲み込みました。
カタカナのエントリーネームだけなので解りづらかったのかもしれません。
なんとなく忍さんには秘密にしておいたほうが面白くなる気がしたので黙っておく事にしましょう。
「ん? 何か言った?」
「いえ、何も。それではちょっと説明してきます」
「りょ~かい。じゃあ私はこの辺の片付けしてるから」
忍さんに後の事をお願いして私はシャンティと一緒にカズキさんを探すことにしました。
一通り見渡して見当たらなかったので外に飲み物でも買いに行ったのかと思った私はお店の外に出ると、入り口を出た所で誰かと電話をしているカズキさんの姿を見つけました。
電話中に話しかけるのは失礼なので通話が終わってカズキさんが画面を消してから私は話しかける事にしました。
「あの………」
「どうかしたのか?」
私に気がついたカズキさんは相変わらずのそっけない返事で返してきました。
「実は優勝商品なのですが…………」
「優勝商品? そうだ。それよりお前に頼みがあるんだけど、いいか?」
「頼みですか? はい。私に出来る事だったらいいですよ」
「すまないが、ちょっと急用が出来てすぐにでも行く事になった。私の商品はお前にやるから好きにすればいい」
「えっ!? 大丈夫なのですか?」
「別にお金や物の為にゲームをやってる訳じゃないからな。それにもう少しでお前の勝ちだったじゃないか」
確かに後1秒タイムが残っていれば私の勝ちでしたが、eスポーツは画面の結果が全てです。
「そうかもしれませんが、勝ったのはカズキさんです」
「どのみち私は表彰式を辞退するからお前が優勝だ。気に入らないなら優勝商品は預かっておく事にすればいい」
「預かる……ですか?」
「お前の本分はブレマジだろ? まだお前とはブレマジで決着はついてないからな。今回のとあわせて次で決着をつければいい」
「そういう事なら、預かっておきます」
カズキさんは急いでいるようで、すぐに建物の出口へと向かって歩きはじめました。
けれど少しだけ歩いた所で立ち止まり私の方を振り向いて。
「そうだ。IDの交換をしておかないか?」
「いいんですか?」
「次に対戦する時に便利だからな。…………ハヤテ頼む」
「ふむ。そっちの赤饅頭に送ればよいのだな?」
カズキさんは自分のサポートAIハヤテに頼みIDの送信を行いました。
「シャンティ。IDを交換してください」
「ブーブー。ボクは赤饅頭じゃないんですけど~」
「あの。そういうのはいいので早くしてください」
「解ってるって…………はいっ、送受信完了っと」
一瞬でIDの交換は終わり、私のアドレスリストにカズキさんの名前が表示されました。
これでいつでも連絡を取ることが出来ます。
「じゃあな」
「はいっ。ではまた」
私はカズキさんの辞退を店長達に知らせると少しホッとしたような残念そうな表情をしていました。
そして、すぐに表彰式が始まります。
私の順位は2位でいつの間にか3位決定戦に勝利していた忍さんが反対側にある3位の文字の上に登っていました。
「こっ、これはもしかして、あの有名なあれっ1位がいないぞってシーンでは!?」
「はいはい。馬鹿な事やってないで上がる上がる」
「むぅ。もうちょっと遊びたかったのですが…………」
私は忍さんに促されるまま2位の場所からひょいっと1位の場所に繰り上がり、忍さんは3位から2位の場所に移動して、4位の人が舞台裏から出てきて3位の場所に登りました。
表彰式が終わった直後に宅配便の人が到着し、荷物が遅れてすみませんと謝罪されたので私は無事に届いたので大丈夫ですよと言いました。
残念な事に1位では無かったのでゲームセンターガイドブックは次の機会にと店長にいわれてしまい貰うことが出来なかったのがちょっぴり残念ではあります。
…………これはまたガイドブックを使って何かお願いされるかもしれません。
けど今の私はとても満足しています。
何故なら今日のイベントで新しい友だちが増えたのですから。
騒がしい表彰式が終わり、いつかカズキさんとブレマジで遊ぶ事を思い描きながら忍さんと一緒に家に帰る事になりました。
――――そして数日後、カズキさんへのリベンジの機会が思いがけない場所で突然やって来たのです。




