格闘ゲーム編7
しばらくすると、そこに私が良く利用する通販会社からいつも荷物を運んでくれている運送会社の人の姿が映し出されました。
「おるか~?」
「はい。います」
「よーしおるな。道がちょい混んでるから少し遅れるわ」
「そうですか、あまり急いで事故にあっては大変なので、安全運転でお願いしますね」
「よっしゃ。あと5時間くらいでつくから待ってな~」
「それでは―――――――」
ガチャリ。
運送会社の人は要件だけ伝えるとそのまま一方的に通話を終了しちゃいました。
「ねえ桜。何か嫌なことを聞いた気がするんだけど?」
「予定よりちょっと遅れるみたいです」
「……大会開始っていつからだっけ?」
「えっと、ちょうど1時間後から…………あっ!?」
こ、これはまずい事になってしまいました。
今から一時間後に大会が始まって競技時間は長く見積もっても1時間………このままだと優勝者に景品を渡すことが出来ない可能性が……というか絶対に渡せないです。
どどどどうしましょう。景品が届かずに大会を中止するわけにも行きませんし……こうなったら。
「ちょっと開始時間を遅らせるかい?」
「いえ、待たせすぎて帰ってしまう人が出てしまうかもしれません」
「じゃあどうするのよ?」
「予定通り行います!」
「ええっ!? でもそれだと優勝者に景品を渡せないじゃない」
「渡す必要はありません。私達の誰かが優勝すれば良いんですから!」
「ええっ~!?」
そう。景品は優勝者に渡される。
――――つまり、私か忍さんか店長が優勝すれば誰かに景品を渡す必要がありません。
自分で景品を用意して自分が貰う。
私達にはこの自演作戦で行くしか選択肢はありませんでした。
「店長。トーナメント表は出来てますか?」
「後は印刷するだけだけど?」
「ではちょっと場所を変更しましょう」
「ちょっと桜。ズルは駄目じゃない!」
「いえ忍さん、これはズルではありません。世界大会でも身内と同じプールにいたら、潰しあい回避の為にある程度は位置を変更して貰えるので、むしろこれは世界基準です!」
今回のトーナメント表は参加者名を全員入力してからトーナメントランダム作成ツールを使って作成しています。
私は今回使う予定のトーナメント表のランダム作成ボタンを私と忍さんと店長が同じプールになる組み合わせになるまで押しました。
「残念な事に、これだと決勝で対戦する約束をしてる私と忍さんが2回戦で当たってしまいます!」
「……そんな約束した記憶ないんだけど」
「と、いうわけで。私が運営にお願いして違うプールに移動する事にします」
「それ自演じゃない!」
トーナメントを円滑に進める為、事前に参加キャンセルした人の名前にはバッテンマークが付いています。
私はトーナメント表を確認してバッテンマークが1番多い場所へと自分を移動させました。
「これでほとんど戦わずにプール抜けが可能です」
「そこまで露骨だと逆に清々しいわね……それで? 私はどうするの?」
「流石に2人とも不戦勝が多いと色々とまずいので、忍さんはそこそこ人のいるプールにしますね。そして店長はそのままの場所っと――――ふぅ。なんとか不正無く2人とも有利な場所に移動出来ました」
「むしろ不正しか無い気がするんだけど……」
私は完成したトーナメント表を印刷してから時計を確認すると、どうやら丁度大会開始の時間のようでした。
「おっと、そろそろ大会の挨拶に行くから失礼するよ」
「了解です店長。では皆さん決勝トーナメントで会いましょう」
「仕方ない。あんまり自信ないけど、なるべく頑張ってみる」
私達はひとまず解散して自分たちのプールへと向かって行きました。
私が自分の対戦する机に到着した時にちょうど店長の開会の挨拶が始まり、大歓声の中大会がスタートしました。
――――さて、私の一回戦なのですが…………当然不戦勝。
「くふふ。余裕の勝利です」
一応相手が来る可能性もあるので開始から少しだけ椅子に座って待つ必要があるのですが、予定通り誰も来ずにプール抜けへのコマを1つ進めました。
そのまま2回戦も不戦勝でコマを進め、3回戦目でようやく私の初戦が始まります。
……しかし、ここで思わぬ誤算がありました。
初戦ということもあり気持ちがあまり温まってなかったからか、初歩的なミスを何度かしてしまい勝てる試合を落としてしまったのです。
――――けれど今回の大会はトリプルエリミネーションを採用しているのでまだ大丈夫。
トリプルエリミネーションとは途中で負けてしまっても負けた人用のトーナメントに移動して、そこで負けたら更に負けた人用のトーナメントに移動して累計2回負けたら大会敗退になる試合形式です。
ルーザーズプールへと移動した私はそのまま対戦台に座ったのですが、どうやら私が対戦する予定の人は棄権したらしくルーザーズの1回戦も不戦勝で進む事になりました。
その後もなんだかんだで私はいい感じにルーザーズプールを泳ぎきり、なんとかプール抜け目前にまで辿り着けたのでした。




