バトロワ編3
私が1階に降りるとすぐに奥の部屋から誰かがやってきました。
「もうっ、今日は遅刻だぞ~」
「すみません。ちょっとゲームに夢中になってしまっていて――――」
「って、ウソウソ。ちゃんと時間通りだから安心していいわよ」
「…………まったく。脅かさないでください」
「ごめんごめん。急に桜の困った顔が見たくなっちゃったから。もうっ本当に桜はかわいいなぁ~」
「…………なんですかそれは」
この眩しいくらいの笑顔でエプロンを身に着けた人物は私のお母さんです。
私の家は「拳剣軒」という中華料理屋をやっていて、お母さんは店長兼接客でお父さんが料理長をしています。
お店はそこそこ繁盛していて、店内はいつも常連さん達でてんやわんやになっています。
なので夜になったら更にお客さんが増えて仕事が大変になるので、その間は私もお店のお手伝いをする事になっています。
「じゃあエプロン付けてからホールお願いね」
「わかりました」
私はロッカーを開けて中にかけてあるエプロンを取り出して服の上から装着します。
私のお店のエプロンは赤色を基調にしていて、中央にお店の名前と拳剣軒のマスコットキャラであるケンケンくんの刺繍がしてあってとても気に入っています。
エプロンを付けた私がホールに到着すると、今日も常連さん達が沢山、沢山、たっくさ~ん来ていて、今日もとっても忙しそうです。
「桜、これを3番まで運んでいくがいい」
厨房の方から私を呼ぶ声がしたので振り向くと、お父さんがチャーハンとラーメンと餃子がセットになった神竜セット3人分をオボンに乗せて、厨房の横に置いてあるローラーのついたワゴンへと置いているところでした。
「わかりました」
私はそれをコロコロと押してお客さんの待つテーブルへと運んでいくと、そこには見知った顔がありました。
「おまたせしました」
「やっほ~、桜。今日は家族できたよ~」
このテーブルに座りながらピースをしている元気な女の子は百地忍さん。
私の学校のクラスメイトで、普段一緒にゲームで遊んでいる友達です。
そして、家もご近所さんなので、ちょくちょくお店に来てくれる常連さんの1人でもあります。
――――私は料理をテーブルに配膳していると、忍さんがそういえばと何かを思い出したかのように話しかけてきました。
「そういやさっきデュオに誘おうとしたらプレイ中だったんだけどソロやってたの?」
「はい。ログインした時にフレンドが誰もプレイしていなかったので1人でやっていました」
「そっか、じゃあ後で一緒にデュオしない?」
「いいですよ。ではお店のピークが終わったら連絡するので、いつもの場所で落ち合いましょう」
「りょーかーい。――――っと、それじゃあラーメンが冷める前にいただいちゃおうかな~」
「ごゆっくりどうぞ」
私は一礼してからワゴンを押して厨房の方へと戻っていきます。
そして厨房に到着すると、ちょうど他のお客さんの料理を作り終えたお父さんが私に声をかけてきました。
「桜。次はこれを5番テーブルまで運んで行くがいい」
「わたりました、すぐに持っていきます」
――――私はその後もわせわせと料理を運ぶお手伝いを続け、9時を回った当たりでお客さんの数も落ち着いてきたみたいです。




