格闘ゲーム編3 飛んでキックして、どうしましたぁ!
目当ての本を手に入れた私はルンルン気分で特大上機嫌です!
「ふぅ。危うく売り切れてしまう所でした」
「ねえ桜。その本ってそんなに人気なの?」
「大人気だと思いますよ。いつ買いに来ても1冊しか残ってないので、毎回ひやひやです」
「えっと、それって桜しか買ってないんじゃ……」
「そ、そんなはず無いです。確かに客層は偏ってるかもしれませんが、一部の本屋さんで大量に平積みされてるのをSNSで見ましたし!」
ちなみに高田や中野のゲームセンターの近くにある本屋さんです。
「ふ~ん、そうなんだ」
「むぅ。なんですか、その興味無さそうな反応は」
「別に興味ないからね~。そんな事より、これからどうするの?」
無理やり話を打ち切られたみたいな感じですが、ずっと立ち話してるのもなんですしこれからの予定を考える事にしました。
本屋さんを出る時にお店の中にあった時計を確認したら予定してた買い物の時間よりちょっぴりだけ早く終わったので、後一箇所くらいは周れそうですが…………さてどうしたものか。
――――そういえば、さっき買った本の表紙に新作ゲームがどうのこうの書いてありましたね。
一応確認しに行くのも悪くないかもしれません。
「では、ちょっとゲームセンターに寄っていきましょうか」
「いつもの所?」
「はい。ちょっと気になるゲームが出るみたいなので、入荷しているか確認したいです」
私達は人であふれる商店街の道をしばらく歩いて行くと、4階建ての少し寂れた雑居ビルが現れました。
大半の人は気にもとめずに通り過ぎていくのですが、普通の人とはちょっと違うオーラ出てる人達だけその雑居ビルへの入り口へと吸い込まれるように入ってます。
私もその人達と同じように自然とビルの中へと入っていきました。
入ってすぐ目の前にエスカレーターがあり、その少し隣にエレベーターがあるのですが、今の時間はエレベーター待ちの人が多く少し待たないと乗れなそうなのでスルーです。
何より私の中ではエレベーターでゲームセンターに向かうのは甘えなので、いつも階段でゲームセンターに向かうことにしています。
ちなみに目の前にあるエスカレーターは3階にしか行けないエスカレーターなので、目的地の4階まで向かうことが出来ず、うっかり乗ってしまったらまた1階まで戻って来なくてはならない罠になっています。
何で1階から2階に行くエスカレーターや3階から4階に行くエスカレーターが無いのかは謎ですが、そのカオス度がマニア心をくすぐるのも否定出来ません。
解っているのは1階からエスカレーターに乗って降りたら3階にいる。ただそれだけです。
私も素人の時は間違えてエスカレーターに乗ってしまい、迷宮みたいなこのビルの中にあるゲームセンターが見つけられずに何度帰った事か……………。
――――と、いうわけで。私達はまず様々なテナントが立ち並ぶ1階の道を少し進み、左右に別れた道を右に曲がると上下に向かう階段が見えてきました。
地下は食品や薬品を売っているフロアになっていて今は用が無いので、私達は階段を上に登っていきます。
2階や3階も1階と同じ様な感じでカオスな店舗が並んでいるのですが、私はそのまま階段を4階まで登りきりました。
4階に到着した瞬間。それまで感じていた人の気配がほとんど無くなり、代わりに背筋が凍る様な寒気が全身を覆います。
それもそのはず、何故なら今私達の目の前には開いてるお店が1つもなく、シャッターが閉められたスペースが延々と続いていたのですから――――。
あえて営業しているお店を上げるなら、目の前にある自動販売機くらいでしょうか。
逆に電源の入っている自動販売機の存在が、このフロアが無人でも成立する事を物語ってる様な感じがして怖いです。
ここにあるのはカラ、殻、空。すべてが空っぽな空虚な空洞。
そして、どこかの通気孔から聞こえるのひゅーひゅーといった音がまるでオバケの動く音みたいに聞こえてきて恐怖心が体の底から湧いてきました。
「うぅ。何度来てもちょっと怖いです……シャンティいつものお願いします」
「はいはい。いつも何もないけど、怖がりの桜の為にやってあげますか」
シャンティはそう言うと少し上昇した後に振動波を体から出し、振動波がこのフロア全体を包み込んでから沈黙し、シャンティからは何かを解析しているようなピピッという音だけが聞こえてきます。
「……あ、あの。まだですか? もうかなり時間が経ったような気がするのですが」
無音で誰もいないこの空間では、まだ数秒しか経っていないのに私には5分以上経過したように感じました。
ひやりと冷たい汗の一滴が床に滴り落ちで弾けたと同時に、シャンティが再び起動し声を発します。
「はいっ解析完了。今回も人体反応少数で霊体反応無しね」
「――――ふぅ。遅いですシャンティ」
「遅いって、1分も経ってなかったと思うんだけど?」
「10秒でしてください!!!」
「いや、流石にそれは無理だってば。そんなに待つのが嫌なら今度からサーチしないで行く?」
「うぐっ。それは…………ま、まあいいです。で、では行きましょうか」
私は改めて周辺を見渡しましたが何度確認しても何もありませんでした。
意を決して道を歩きだすと、無音の空間にコツコツと私の靴の音だけが反響して響き渡っています。
「ううっ。それにしても今日は台車の人はいないのでしょうか?」
台車の人とは私の今いる4階から荷物を台車に乗せて下の階へと運ぶ人の事です。
この階はテナントは少ないのですが倉庫として使っているお店が結構あって、たまに下の階の店員さんが荷物を取りに来るのです。
その時一緒にこの階を進んでもらう事があるのですが、残念な事に今回はこの階に用があるお店の人はいないようで……………。
「まあ、いない事の方が多いからね~」
「シャ、シャンティ。う、後ろを見ててください。そ、それで何か変なのを見かけたらすぐに報告してください」
「はい、はい」
シャンティには自動追尾モードの状態で後ろを向いてもらって、後ろからの驚異に備えてもらう事にしました。
これで少しは安心して進む事が出来る…………はずっ!!




