飛行機墜落 高度1万メートル、フライトeスポーツ4
「えっと、私達の今いる場所がマーカーの付いているここで…………飛行機のローラー開閉スイッチがあるのが少し離れた場所にあるここです。目的地のマーキングは既にされているみたいですね」
私はマップの右上にある方位磁石で方角を確認してから軽く周りを見回してみると、白い四角のマークが遠くの方に見えてその下にはそこまでの距離が表示されていました。
「――――こっちの方に向かえばいいみたいです」
「ようするにこのまま真っ直ぐに進めばいいわけだな」
「そうですが一応NPCも何組かいるので、隠れて行けそうな場所があればそっちを優先に進んだほうがいいと思います」
キャビンアテンダントさんの説明だと、メンテナンスモードでは誰かが間違えてログインしてそのままスイッチを押されないようにセキュリティとしてCPUが何組か徘徊していると言ってました。
けど沢山のCPUに一度に襲われてしまったらメンテナンスを行う人が目的地まで辿り着く事が困難になるので、それぞれのCPUはある程度の距離を取るように設定されているみたいです。
なので一斉に襲いかかってくるような事はないので、確実に対処していけばそこまで苦戦はしないとの事です。
「まだ時間には余裕があるので、最初は慎重に進みま―――――って、あれ?」
私が全体マップを消してからパーカーさんの方を見ると、いつの間にかさっきまでその場所にいたはずのパーカーさんの姿は無くなっていました。
「こっちだ、早く来い」
どうやらパーカーさんは私の準備が終わるよりも早く、一足先に目的地の方向へと進み始めていたみたいです。
「すぐに行きます」
私は小走りで向かっていくと、突然足元に何かコツンと引っ掛かり転びそうになってしまいました。
「――――っと。あれ? 何か落ちているのでしょうか?」
私は足元を調べてみると、回復ポーションのビンが1つ地面に転がっていました。
これは私の物では無いので、おそらくパーカーさんが落とした物ですね。
「――――あの、ポーション落としてますよ?」
「ん? 私が必要な分はもう拾ったから、お前が使いたいなら貰っておけ」
「――――拾った?」
地面をよく見るとポーションの他にも素材や武器が落ちています。
どうしてスタート地点なのにアイテムがこんなに沢山あるんだろうと思っていると、茂みの隙間に鍵の空いた宝箱が2つ見えました。
「NPCが2人いたから倒しておいたぞ。こいつ等は特にこれといった物は持ってないみたいだな」
「倒すの早すぎです!!」
大会で上位を取れるような人だとは思っていたのですが、流石にここまで出来る人とは思いませんでした。
最初に言ってたように、これは本当に1人で何とかしてしまうかもしれません。
――――今回の私はサポート役に徹する事にした方がいいかもしれないです。
前線はパーカーさんに任せる事にして、防具は軽めて動きやすさを重視したデフォルトの服で行くことにしましょう。
だったら今は防具は拾わずに回復ポーションだけ貰っておけば良さそうですね。
そして矢の素材になりそうな物を一通りと。
乱射して間違ってフレンドリーファイアをしないようにダメージの大きめな矢をクラフト出来るようなのを中心に―――――ふぅ、こんな所でしょうか。
――――けど、アイテムの残り方が少し引っかかるような。ちょっと回復アイテムが余りすぎな気もします。
「――――――終わったか?」
「はい。ちょっとだけ道具を補充させてもらいました」
「ならすぐに行くぞ」
「あの。アイテムがかなり残っていたのですが、こんな序盤なのにNPCはアイテムを沢山持ちすぎじゃないでしょうか?」
「――――そういう事か。私はスピードポーションだけしか取ってないからな」
「ええっ!? 回復アイテムは1つくらい持って無いと危険なのでは?」
「このクラスに回復は必要無いだろ? それに早く動くために少しでも重量は軽くしておきたい」
確かにパーカーさんのスピードスターは回復アイテムが必要無い…………というか1、2回攻撃を受けただけでゲームオーバーなので回復が出来ないと言うのが正しいのですが。
それでも致命傷で助かった場合は回復アイテムを使って仕切り直しをする事が出来るので1つくらい持っているのがセオリーのはずなのに。
「回復ポーションの重量は誤差レベルだと思うのですか」
「誤差でも変わる事には違いないからな。その誤差の重量差でダメージを回避出来るかもしれないだろ?」
私はスピード系クラスをあまり使わないので良くわかりませんが、愛用者のこだわりみたいな物なのでしょうか。
私がマップをしまったあの一瞬でNPCを2人もやっつけたって事は重要なのだと思うのですが、とりあえず今はパーカーさんの戦い方を見てスピードクラスの使い方を学習させて貰ったほうがいいかもしれません。
「なら念のために私が少し多めに回復アイテムを持っておきますね」
「好きにしろ。必要ないと思うけどな」
私は弓のストックをちょっとだけ減らして回復アイテムを2人分持っていく事にしました。
たぶん後方支援がメインなら多分ギリギリ足りる本数だと思います。
回復出来ずにやられてしまうのだけは避けないといけませんし…………。
「おまたせしました。今度こそ大丈夫です」
「ならすぐに行くぞ。時間に余裕があると言ってもゆっくりしている暇も無いからな」
「あっ。ちょっと待ってください」
歩き始めようとしたパーカーさんを止めようと声をかけると、不満も焦りも感じさせない無表情な顔で私の方に振り向きました。
「どうした? 目的地にはマーカーが付いてるからこのまま真っ直ぐに行けば最短距離だぞ」
「確かに距離だけなら最短なのですが、この先は崖になっていて吊橋が1本かかっているだけなので渡っている最中に交戦してしまう可能性が…………」
「NPCは待ち伏せなんてしないから、渡ってる時に狙撃される事は気にしなくていいんじゃないか?」
「そうなのですが、NPCは私達の方に向かってくるので反対側から普通に橋を渡ってくる可能性も――――」
「その時は正面突破すればいいんじゃないか?」
「あっ。そんなに急がなくても――――」
パーカーさんはそのままズカズカと進んでいってしまいました。
まあ決断は早い方がいいですし、非常事態になったら戻って迂回する事にすればいいですしね。
それに結構歩くスピードが早いので、急いで追いかけないと置いてけぼりにされちゃいそうです。




