飛行機墜落 高度1万メートル、フライトeスポーツ3
「…………ここは…………一体?」
手を軽く左右に広げてみると、コツンと何かボタンのような物に触れてどこからか案内音声が聞こえてきました。
「修復システムを実行する為、キャラメイクを行ってください」
「…………キャラメイク?」
前を見るといつの間にか私の前に小さなモニターが浮かび上がっていて、装備をいつくかのパターンから選択するみたいです。
ブレマジは通常プレイだと装備は全て現地調達なのですが、ある程度装備を選んで始める事が出来るデバックモードみたいな感じなのでしょうか?
「えっと、選べるクラスは――――――」
どんな場面でもそつなくこなせそうな戦士、まあ無難と言えば無難ですね。
そして、バブとデバフだけのサポート系で固めた魔法使い。
――――そう言えばパーカーさんと打ち合わせをしてなかったのでどんなクラスが得意なのか聞くのを忘れていました。
パーカーさんの得意なのがサポートだった場合、2人共サポートになるのはちょっとバランスが悪いので止めといた方が良さそうです。
…………なんとなくサポートは苦手なタイプのような気がしないでもないですが、人を言動だけで判断するのは良くないですからね。
後は遠距離特化の弓使いと速度重視のスピードスターですか――――。
弓使いは弓2人で砲台プレイしたり後方からのサポート役もこなせるので、戦士か弓が最終候補になりますね。
スピードスターは速度重視なキャラなのですが、スピードだけを重視しすぎてしまっているため、他の能力が全て最低レベルの数値になっているので上級者向け…………と言うよりまともに使える人を見た事が無い気がします。
まず攻撃力が最低クラスなので、接近戦になった場合相手より必ず多く攻撃を当てる必要が出てきます。
――――そして、何よりも厄介な事は守備力が最低になってしまう事です。
私も前に数回使った事があるのですが、接近戦で相手に先制攻撃をしかけたはずが相手の適当に振り回した剣がカスッただけでやられてしまった事があります。
他にも体力MAX状態から相手の矢がカスっただけで一気に0まで減ってしまったり、そんなに高くない段差からの落下ダメージでもゲームオーバーになってしまうなど。
――――と、まあそう言った感じで色々と難しい要素が沢山あって私には使いこなせないクラスでした。
「とりあえず私は無難に行きましょうか――――」
私はクラスを選んでからモニターをタッチしてみると、私を囲んでいた場所が天井からフワッと溶けるようにちょっとずつ消えていき足元の床だけが残り、そこからバァっと緑色の草の生えた地面が一斉に広がっていきました。
どうやら無事にメンテナンス用のマップにログイン出来たみたいです。
「――――遅かったな」
少し前の方からパーカーさんの声が聞こえてきました。どうやら私よりも早くクラスを決めて先に来ていたみたいです。
私も結構早く決めたと思ったのですが、それよりも早いと言う事は得意なクラスがあって即決したのでしょうか。
「すみません。待ちましたか?」
「少しな。それより急がないと飛行機が墜落するんじゃないか?」
「そうですね。それでは早速――――」
私はパーカーさんの場所に小走りで近づいて行きクラスを確認してみた瞬間。
「どうかしたのか?」
―――――飛行機の墜落を確信したのでした。
「あ、あの。もしかしてクラス選択を間違えてしまったのですか?」
「ん? 別に私は間違えてなんていないが、何かあるのか?」
「けど、そのクラスって――――」
「ああ。私はスピードの速いクラスが得意なんだ」
パーカーさんのアバターはリアルの時と同じようなフード付きのパーカーを顔を覆うように深く被っていました。
両手には小さめの小太刀が1本づつ握られていて、攻撃範囲の短さが見ただけで伝わってきます。
鎧や盾など重い物は装備せず、武器も最低限の軽くて扱いやすい近接武器だけで戦うそのクラスは――――。
「あの。どうしてスピードスターを選んでしまったのですか?」
「どうしてって。これなら相手の攻撃を全部避ける事が出来るからな。それに目的地に一番早く到着出来るクラスだろ?」
私のクラスはそんなに早く移動できないのですが、もしかして1人で走っていってしまう気なのでは?
「その。出来れば移動速度は私に合わせて欲しいのですが――――」
「安心しろ。デュオはあまりやった事は無いが、敵と戦う時以外はチーム行動が鉄則と言う事は知ってる」
つまり敵が出てきたら1人で勝手に突撃してしまう訳ですね…………。
「敵は私が全部倒してやるから、お前は後ろで見てるだけでいいぞ」
「スピードスターは攻撃力はそんなに高くないのですが、えっと、その、大丈夫なんでしょうか?」
「攻撃力が低くても当たればダメージは通るからな。それに100回も攻撃を当てれば倒せるだろ?」
「――――このゲームの最大体力は100ですが、最低保証ダメージは2なので50回当てれば倒せますよ」
「そうなのか? それくらい誤差の範囲じゃないか」
50回は誤差というレベルを超えていると思うのですが…………。それに守備力の高いタンク職相手に攻撃を一切受けずに50回も攻撃を当てるのはかなり厳しいのでは無いでしょうか。
「――――そう言えば、お前は弓を選んだのか」
「はい。一撃必中で行こうと思ってます」
私は手に持った弓を前に突き出すようにしてパーカーさんに見せました。
弓はロングボウなので少し遠く目の距離まで狙う事が出来ます。
「矢なら余裕があるはずだろ? 好きに乱射しても最後まで余るんじゃないか?」
普通のクラスならそれでも良かったのですが体力の少ないスピードスターに間違えて誤射で当ててしまったら致命傷になってしまいますし、当たり所が悪いと一撃必殺になってしまう可能性があるのですが…………。
「ロングボウでの連射は難しいので今回は止めときます」
「そうか。まあ自分のやりたいようなスタイルで戦うのが一番やりやすいから好きにやればいい」
「そうします。――――では、さっそく目的地を確認しましょう」
私はメニュー画面からマップを選択すると、私達の前にメンテナンス用の全体マップが表示されました。