飛翔せよ! アメリカンラーメン2
「では、アルティ。外部カメラの映像を映してください」
「はーい」
忍さんのマテリアルデバイスに搭載されているAIアルティにお願いして、外部カメラとリンクしてもらい、忍さんの自転車の前に外の様子が見えるバーチャルモニターを表示してもらいます。
ちなみに高度はペダル、方向転換はハンドルで決定するので、屋台の操作は全て忍さんにお任せする感じになってます。
「それで、どこに行けばいいの?」
「まずは町内を一回りしてもらえますか?」
「オッケー」
しばらくして河川敷から住宅街に到着したので、宣伝開始です。
「では早速。ポチっと」
私は壁にあるボタンを押すと、屋台の外に付いている巨大モニターから宣伝用の映像が流れ出し、同時に屋台の下部が開いて、そこからチラシが地上へとまかれ始めました。
「くふふ。これでお客さんが沢山きて大儲けです」
それからしばらくすると屋台に備え付けてある電話がリンリンリンと鳴り始めました。
どうやら早速注文が来たみたいです。
「もしもし。こちら、出張! 拳剣軒です」
「あの。チラシに書いてある、アメリカンラーメンの出前をお願いしたいんだけど……。本当に大丈夫なんすか?」
「もちろんです! すぐにお届けします!」
「じゃあ、こっちの住所は―――――」
お客さんが通話越しに言った住所はそのままアルティにインプットされ、忍さんの見ているモニターに目的地へのルートが表示されました。
「まいど~」
注文の電話が終わったのでそのまま受話器を置いて通話を終了させ、早速ラーメンの準備開始です!
まずはお鍋にたっぷりの水を入れてからコンロの上に置き、クッキングヒーターのボタンを押して点火!
その直後、ガコンとIHコンロとどこかが接続された音がしました。
「ちょ、ちょっと桜!? なんか急にペダルが重くなったんですけど?」
「…………さあ? 気の所為じゃないですか?」
ちなみに接続されたのは、忍さんが必死にこいでくれている自転車とだったりします。
これでこの屋台で使う電気は全て忍さんに自転車で作ってもらう事になったので、何と光熱費無料で使い放題!
後はお湯が沸くまでの時間に丼やラーメンスープの準備っと。
冷蔵庫から鶏ガラなどの材料を取り出して、鍋に入れてしばらく煮込むのですが――――。
ここでちょっと時間短縮。
「そして、こっちが煮込み終わって完成したスープです!」
鍋を隣に置いてあるあらかじめ用意しておいたスープの鍋と交換して、スープ作りは完了。
なので後はこのスープを温めるだけですね。
「では、もう1回。スイッチオンっと!」
スープをコンロに乗せてから点火ボタンを押すとまた大きな音がして、更に何かが接続されました。
「ふんぐ!? ちょっと! 絶対何かしてるでしょ!」
ふぅ。
これ以上は流石に隠せませんね……。
「忍さん」
「な、何よ?」
「頑張ってください!」
「いや、答えになってないでしょ!!」
「というか忍さんが頑張ってくれないと、落っこちちゃいます」
「それは解ってるけど、自動浮遊モードとか無いわけ?」
「えっと。本当はつけたかったんですけど、色々とやってたら予算が無くなっちゃって…………」
「え? 外にあるモニターとか、付ける余裕はあったんでしょ?」
「ですから、宣伝モニターをつけたから予算が無くなったんです」
「無駄なもんつけるなああああ!!!!」
――――しばらくしてお湯が沸騰したのを確認すると、すぐに麺を茹でてから熱々の秘伝スープに入れ、最後にメンマやチャーシューのトッピングをして特製ラーメン完成!
「ではシャンティ。お客さんの家まで配達をお願いしますね」
「は~い」
鉄製のボックスにラーメンを入れて蓋を閉めると、ボックスの中にあるアームががっちりと丼を掴んで溢れないように固定。
それからボックスの上にあるくぼみにシャンティをセットする事で、簡易宅配ドローンの完成です。
準備がすんでから出前用ハッチが開き、お客さんの元にラーメンを届ける為、シャンティが出動しました。
「ふぅ。順調な滑り出しです――――」
最初の注文が終わり安心した直後。
リンリンリンとまた屋台の電話が鳴りました。
「おっと、次の注文が来ました」
その後もひっきりなしに注文の電話は続き、「飛びます! 出張、拳剣軒」は大盛況で初日の営業を終えました。
「では忍さん。河川敷に戻りましょうか」
「ふ~。やっと休憩できる~」
河川敷に無事着陸した私達はそのまま近くに借りている倉庫に屋台を運ぶ事にします。
――――っと、その前に。
「忍さん。お疲れ様でした」
私は忍さんを労う為に、コップに私特製の烏龍茶を注いで渡しました。
「ん。ありがと」
おっと。
忘れないうちにアレも渡しておかないと。
「忍さん。これを」
私は袖の下から封筒を取り出して忍さんに差し出しました。
「ん? なにこれ?」
「今回のお給料です」
「いや、別にいいって」
「……でも」
「ん~。だったら代わりにラーメンでいいわよ」
「わかりました。だったら特盛で用意します!」
「じゃあそれでよろしく~」
私は具材山盛りの超特製ラーメンを忍さんに振る舞い、その日は解散しました。
そして、私はその後も忍さんの助けを借りながらしばらく営業を続け、売上は順調に上がっていきました。