重課金オンライン 上
私は本日発売したばかりの新作ゲーム「EDOオンライン」を購入したので、早速友達の忍さんとプレイする事にしました。
このゲームの特徴は江戸時代をモチーフにした和風な世界観で、UIなども1990年代を彷彿とさせるなど細部までこだわって製作されている事です。
「では早速ゲーム開始っと」
VRゴーグルをつけてからゲームを起動すると、サービス開始前だからなのか待ち受けロビーのような場所へと転送されていきました。
ロビーにはすでに何人か待機している人がいて、このゲームの期待値の高さが伺えます。
「桜~。おっまたせ~」
私を呼ぶ声に振り向くと、そこには少し遅れてやって来た忍さんの姿がありました。
「こっちも、ちょうど来た所です」
それから2人でサービス開始までロビーで待つことにしたのですが、予定の時間を10分以上過ぎても全く開始される気配すらなく、不審に思った私は一旦ログアウトしようとしたのですが。
「――――あ、あれ? ログアウト出来ません」
その瞬間、高らかな笑い声と共に上空に殿様らしき人物の姿が映し出されました。
「こ、この雑などこかで見たような展開はまさか!?」
「ふぉふぉふぉ。諸君らの銀行口座とユーザーIDは連結させてもらった。解除して欲しければ課金の塔の2階に住む魔王を倒すか、プレイヤーに紛れ込んでいるゲームマスターを見つけるんじゃ」
…………2階って、かなり低いのでは?
「それとゲームオーバーになっても命までは取らないから安心するがよいぞ」
そんな訳で私達はゲームの中に閉じ込められてしまい、プレイヤー達は最初の街へと強制転送されていきました。
「あ~もう。こうなったら、すぐにクリアして帰るわよ!」
「そうですね。2階なら1日もあれば終わりそうですし」
とりあえず街の外に出ようとの入り口に向かっていると、突然「ぎゃああああ」と耳をつんざくような悲鳴が後ろの方から聞こえてきました。
「えっ!? このゲームって街の中でも襲われるの!?」
「確認しに行きましょう!」
悲鳴のした辺りに到着すると、なんとそこにはゲームオーバーになって倒れているプレイヤーの姿が。
「もしかして、もうゲームオーバーになっちゃってる!?」
「ちょっとこのプレイヤーを確認してみましょう」
倒れているプレイヤーのステータスを確認すると、体力ゲージはMAXでダメージを受けた形跡は全くありません。
なんで? と思い他のステータスを確認していくと――――。
「ああっ!?」
「えっ!? なんか見つけたの?」
「預金残高がマイナスになってます!?」
――――そう。
ステータス画面には体力、攻撃力、そして武器などを買うためのゲーム内マネーの他に、現実の物だと思われる預金残高が右上に表示されていたのでした。
「えっ!? ちょっ!? なにこれ?」
「どうやらこの人は預金が無くなったので、ゲームオーバーになってしまったみたいですね」
そういえば、殿様は最初に銀行口座とIDを連結させたとか言ってたような…………。
という事は無理やり高額課金アイテムを購入させられて、買えなかったからゲームオーバーになってしまった?
――――けど、このゲームを初日からやるようなプレイヤーがそんな単純なミスをするはずが。
「あれ? あそこにNPCがいるじゃん。やっぱこういう時は情報収集からじゃない?」
そう言って忍さんは近くにいたNPCの元へと駆け寄って行き。
「あっ!? むやみに話しかけたら駄目です!?」
私の静止は間に合わずに、忍さんとNPCの会話が始まってしまいました。
「ここは始まりの村だよ。ところでこの先は危険だからこの課金アイテムを500万円で買わないかい? Xいいえ ○はい」
「は? そんな高いの買うわけないじゃん」
忍さんが選択肢を決定する瞬間、ある違和感に気が付いた私は必死になって忍さんを止めました。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
私の声に反応した忍さんはギリギリで選択をとどまってくれたみたいで、まだ画面は課金アイテムの購入画面で止まっています。
「え? こんな高いの買えっていうの?」
「いえ、そういうわけじゃなくて――――」
状況を説明しようとしたら、急に画面に決定を催促するようなゲージが表示され、ぐんぐんと減っていきました。
このままだと強制的にハイが選ばれちゃいそうです。
「Xです! Xボタンを押してください!」
「えっ!? それだと買っちゃうじゃん?」
「それでいいんです! 説明してる時間はありません! 早くっ!!!!」
「あーもう、分かったわよ!」
ゲージが無くなり強制的に選択される寸前で忍さんはXボタンを押して、なんとか高額課金アイテムの購入を回避する事が出来ました。
「えっ!? 決定ボタン押したのに何で?」
「…………ふぅ。ちょっと見ててください」
今度は私がNPCに話しかけると、さっきと同じように高額課金を催促する画面が出てきました。
「ほら。このゲームは昔のゲームのUIを再現しているのでXボタンがキャンセルになってるんです」
「なにこれ!? 普通のゲームと逆じゃない!?」
「まあ逆と言うか昔の日本のゲームはこれが普通だったので、ある意味正しいとも言えますが」
私が購入キャンセルをして会話と辞めると、また違う場所からも悲鳴が聞こえてきました。
最初に全2階層の建物をクリアしろって言われた事で、ちゃちゃっと終わらせようとNPCの会話を適当に読んでしまっているのかも。
「どうやら間違えて購入してる人が結構いるみたいです」
「あれ? 普通に会話が終わった人もいるよ?」
「多分お金に余裕があって普通に課金アイテムを買えたか、私達みたいに決定ボタンに気が付いたんじゃないですか?」
「それもそっか。買えないアイテムだらけだとクリア出来そうもないし」
「まあクリアさせる気があるのかは怪しいですけどね」
今後は自分たちステータス画面をちょくちょく見て、預金残高を常に把握しとかないと。
ん? そういえば、他人のステータス画面が見れると言う事は…………。
「あの。ちょっといいですか?」
「――――ふぇ?」
私は忍さんのステータス画面を開き預金残高を確認しました。
「…………なるほど、結構持ってますね」
「ちょ、ちょっと勝手に見ないでよ!」
「勝手にと言うか、自由に見れるフリー情報なんですが」
「だったら、桜はどうなのよ!」
忍さんはお返しとばかりに私のステータス画面を覗いてきました。
「…………ちょっと無駄遣いしすぎじゃない?」
「こ、今月は欲しい本が沢山あったので仕方なかったんです!」
とりあえずお互いのステータス画面を閉じて軽く一息。
「てか何なのよ、このシステムは!」
「殿様はゲームオーバーになってもリアルで死なないって言ってましたが、預金が無くなるので社会的に死んじゃいますね」
預金かぁと呟いた忍さんが突然何かを閃いたみたいです。
「…………あれ? ちょっとまって。よく考えたら私達のお小遣いとかそんなに多くないんだし、わざとゲームオーバーになればいいんじゃない?」
「…………本当にそれでいいんですか?」
ぐいっとアップで忍さんに近づきます。
「な、なにがよ?」
少し後ずさった忍さんに、更にぐぐぐいっと近づきます!
「お小遣いが無くなったら今月のおやつが、揚げたパンの耳だけになっちゃいますけど、本当にいいんですか!!」
「うぐっ。それはちょっと嫌かも……」
「だったら頑張ってクリアしないと!」
「――――ふぅ、分かったわよ。けど、本当にクリア出来るの?」
「まあ、とりあえず行ける所まではやってみましょう」