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人形列車 月の色7

 私が駅の改札ゲートをくぐった瞬間、列車の出発を告げる汽笛の音が聞こえてきました。

 

「桜、もう出ちゃう!?」

「今は乗る事だけ考えましょう!」


 人の数がまばらな駅の中を必死に走り、なんとか列車に飛び乗った瞬間扉が閉まり、列車は次の駅に向かって走り出しました。


「な、なんとか間に合ったぁ~」

「滑り込みセーフです」


 乱れた呼吸を戻す為に、軽く深呼吸をして息を吐いていると緊張の糸が切れそうになったので、これはいけないと思い軽く息を止めると。


「けほっ、けほっ」


 みたいな感じで軽くむせちゃいました。


「さ、桜。大丈夫?」

「だ、大丈夫です。それよりここで立ったままだと疲れるので、とりあえず座席に座りましょう」


 入り口の丁度目の前にある座席が空いていたので、私とリニスはその場所に座る事にしました。

 ちなみにこの列車は自由席になってるので、好きな場所に座ってオッケーです。

 

 列車にはそれなりの人が乗っているみたいですが、みんな疲れているのか話し声とかは全く聞こえてきません。


 まあ静かな事は良いことなので、このままゆったりと窓から見える景色を見ながら駅に向かう事にしよう。

 ――――――みたいな事を考えながら隣の席を見たら、少し不満げな表情をしたリニスがいました。


「どうかしたんですか?」

「ねぇ、桜。ちょっとこの椅子、角度急すぎない?」


 私は別に問題ありませんが、言われてみたら確かにちょっとだけ急な気がしないでもありません。


「じゃあ、ちょっとだけ後ろに倒しましょうか」

「えっと。このレバーを引けばいいの?」

「ちょっと、待ってください。一応後ろの席に座ってる人に確認しないと」


 立ち上がるのが面倒なので座ったまま後ろに声を投げかける事にしました。


「すみませ~ん。ちょっと席を倒してもいいですか~?」

「…………」

 

 へんじがない。


「すみませ~ん!」


 もっかい聞いてみても後ろの席どころか、全ての座席からの反応がありません。

 仕方ないので、立ち上がて座席の座る所に膝を乗っけて後ろの席を覗き込むと、そこには――――――。


「にん…………ぎょう?」


 かわいいアンティークドールがまるでお客さんの様に座席に置かれていたのでした。

 人形はただ真っ直ぐに前だけを見つめていて、リニスと違って動く気配みたいなのは全くありません。


「どうかしら? マリアのお人形」

「!?」

 

 ビクンと反射的に声のした方を見ると、一番うしろの座席にマリアさんが座っていました。


「かわいいでしょう? ちゃんと挨拶だって出来るのよ」


 マリアさんは座ったまま指を少し動かすと、それに反応して私の後ろにいる人形が立ち上がって、軽くお辞儀をします。

 その時に何かが光に反射してキラリと光ったのでよく見てみると、どうやら人形とマリアさんの間に細い線が通っているみたいでした。


「…………糸?」

「けど、この子達はマリアがお願いしないと動いてくれないの」


 もう1度指を動かすと、お辞儀をした人形がパタリとその場所に座り、再び動かなくなりました。


「ふふ。その子みたいに自分の意思で動けるお人形って素敵よね」

「なんでリニスが欲しいんですか?」

「あらら。忘れちゃったの? それはマリアに勝ったら教えてあげるって言ったじゃない」


 マリアさんは立ち上がってから両手をクロスさせると、この車両の席に座っていた人形達も一斉に立ち上がりました。


「桜。もう逃げ場所は無いわよ?」

「リニス、前の車両に行きましょう!」

「うん。わかった!」


 私達は襲い掛かって来た人形を何とか避けて1つ前の車両に避難。


「ふぅ、ここなら他にも人が…………」

「桜。ここも全部」

「えっ!?」


 私達が入ってきたのを確認した瞬間。

 全ての座席から人形が立ち上がり、一斉に私達の方に視線を向けました。


「次に行きましょう!」


 私達は必死に更に前へと走りましたが。

 次の車両にも人形。

 そして、その次の車両も乗客は人形だけ。


 ――――――そう。

 まるでここはお客さんが全て人形の人形列車。


 そして、とうとう一番前の車両へと到着した私達は運転席を覗き込むと。


「じ、自動運転!?」


 そこには運転手の人の姿は無く、画面には次の目的地だけが映し出されていました。


「とりあえずドアを閉めましょう」


 運転席に入ってから扉を締めてロックもかけたのですが、マリアさんならこれくらいの扉なんて物ともしないで、こじ開けてきそうな怖さが私の不安を掻き立てます。


 マリアさんは子猫が捕まえた獲物で遊ぶかのように、ゆっくりと私達のいる場所まで歩きはじめました。


「なにか。なにかマリアさんを足止め出来そうな物は!?」


 ひと通り周りを見てみましたが、そんな都合のいい物がこんな場所に置いてあるはずありません。


「桜。マリアが2車両先まで来てる!」

「ええっ!? もうそんな場所まで!?」


 これは急いで対応を考えないと………………って、あれ?

 どう頑張ってもこの場所から2つ先の車両の状況を見る事なんて出来るはずが。

 

「あの。今更ですが、どこからその情報を手に入れてるんですか?」

「よくわかんないけど、さっきビュンって飛んできた」

「ビュンって…………」


 透視能力…………なら今でも向こうの様子が見れるはず。

 一瞬だけ情報が手に入るみたいな状況といえば…………。


 その時。

 一瞬だけ空の上で光る何かが飛んでいるのを見つけました。


「…………あれは?」


 肉眼では見れないくらい遠くに光っている何か。


「シャンティ。あそこで光ってる物をズームで表示してもらえますか?」

「あそこ? ああ、あれね。ちょっとまって」


 私の前にバーチャルモニターが表示され、映像が少しずつアップに切り替わっていきます。

 そして、それは数回のズームの後に姿を現しました。



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