人形列車 人形使い6
「とりあえずアトラクション行こっか?」
「そうですね。どこも楽しそうですが―――――」
「ピャーオゥ!」
「…………あれ? 今何か聞こえたような」
どこに行こうか相談していると、どこからか突然「ピャーオゥ」とハイテンションな鳴き声が聞こえてきました。
「ピャーオゥ!」
また同じ鳴き声が。
「な、なんなの今の鳴き声!?」
「そう言えばどこかで聞いた事があるような…………」
私は記憶を探ると、あるストリーマーが配信していたゲームタイトルを思い出したのでした。
「も、もしかして。あれは伝説の!?」
「あっ!? ちょ、ちょっと桜。待ちなさいよ!」
私はいちもくさんに鳴き声がする方へと駆け出しました。
私が向かった先には小さめの休憩所があり、遊ぶのに疲れた人が何人か椅子に座って休憩しているようでした。
ちなみにVRエリアは目が疲れやすいので、休憩所は他のエリアよりも多めに作られています。
休憩所に到着した私は、早速バイザーを外してバーチャルリアリティ要素を解除すると。
「ピャーオゥ!」
空を飛び交うドラゴン達の咆哮が聞こえなくなり、謎のハイテンションの鳴き声だけが近くから聞こえてきました。
「こぉおおおお、らあああああ!!!!」
そして忍さんの咆哮も近くから聞こえてきました。
「なんでいきなり休憩所に直行なのよ!」
「忍さん。グリグリちゃんねるを知ってますか?」
「…………ストリーマーのグリグリがやってるチャンネルだっけ?」
「そうです。そのグリグリさんが少し前に配信で言ってた、懐かしゲームをこの場所で発見しました。その名も―――――」
「ピャーオゥ!」
と、ハイテンションボイスをバックにタイトルを宣言します。
「アザラシちゃん。ピャーオゥ!!」
…………おや?
なんだが反応があんまり良くないような。
「…………あの。アザラシちゃん。ピャーオゥなんですけど」
「VRエリアでVR関係ないゲームやってどうすんのよ!」
「忍さん逆です。VRエリアでVRを楽しまないといけないなんて、決まりはありません!」
「な、なんだってーーーー。って、そんなわけあるかーーーーー!じゃあなんでここに来たのよ!!!!」
「うぐっ。勢いで押し切れると思ったのに」
「ほら。あの子も待ってるから、すぐ戻るわよ」
私の手を引いて連れて行こうとする忍さんに、私は必死で抵抗しました。
「い、1回だけ。1回だけやらせてくださいっ!」
引きずっていくよりはゲームをプレイさせた方が楽だと思ったのか、忍さんは私を掴んでいる手を離し。
「仕方ないわね。けど、1回だけなんだからね?」
とワンコインだけ遊ぶ事を許してくれました。
「それじゃあ、すぐにやってきます!」
ゲーム筐体の前まで走った私は、ポシェットからガマ口財布を取り出して、その中に入れてあるコインを1枚取り出しました。
昔のゲームは電子決済に対応していないので、硬貨を持ち歩くのはゲーマーの基本ですね。
この筐体には電子決済が出来る外付けの装置が付いていましたが、それでも硬貨を入れてゲームを遊ぶのが過去のクラシックゲームに対する礼儀だと思っているので、硬貨導入口が付いているなら私は迷わず硬貨を使います!!!!
「スロットイン!」
硬貨を入れるとデモ画面からタイトル画面に切り替わり、「アザラシちゃん。ピャーオゥ」とタイトルコールが流れました。
ちなみに最初のアザラシちゃんが子供の声で、ピャーオゥが動物の声で再生されてます。
この筐体には画面の他にはボタンが1つしかついていません。
つまり決定しか存在しないこのゲームでボタンを押したら、もう後戻りは出来ないと言う事。
私は大きく息を吐いて覚悟を決めてからボタンを押すと、アザラシちゃんの前にお皿に乗ったおやつが高速で左から右にスライドしていってる画面が表示されました。
―――――なんだか回転寿司みたいな感じです。
ハズレやそこそこの点数がもらえるお菓子も見えますが、ここは高得点狙いでお城みたいなケーキの1点狙い!
まわっているおやつのタイミングを測り――――。
「今っ!!!!」
私は完璧なタイミングでボタンを押すとお皿の回転がゆっくりになっていき、アザラシちゃんの前には。
「が、頑張ってくださいっ!」
巨大なケーキが止まり。
「来ました!!!!」
――――――そうになったと思ったら、不自然に1マス横にスライドして小さめのアップルパイのお皿が止まりました。
「…………ぴゃ、ぴゃーお」
アザラシちゃんは心なしか不満そうです。
「こうなったら、もう1回やって次こそは――――――」
新しい硬貨を取り出そうとしましたが、手にはお財布が握られていませんでした。
「1回だけって、言ったでしょ!!!!」
私が連コインするのを見越してか、忍さんに取られちゃってます!?
「あと1回。あと1回だけ、なんとか」
「これ以上待てるかーーーー。シャンティ、預かっといて」
「まかされた!」
シャンティの背中の部分がパカッと開き小物収納スペースが出てきて、忍さんはそこに私のガマ口財布を投げ入れた瞬間、ロックがかかっちゃいました。
「ああっ!? 私のお財布」
「待たせてるって言ったでしょ! ほら、さっさと来る」
まあ1回はプレイする事が出来たので、今回はこれで満足した方がいいかもしれませんね。
「――――――また来ます」
私はアザラシちゃんにしばしの別れを告げ、リニスの待っている場所へと向かう事にしました。