57.別れと再会
初めて訪れた海外で、短い間にいろいろなことを経験した和海は、アシュレイに連れられて両親の住むロンドンのアパートにたどり着いた途端、高熱を出した。
何かの伝染病では、とびびる両親の心配をよそに、三日間眠り続け、たまった精神的肉体的疲労を回復した後はいたって健康体に戻った和海だった。
だが、眠っている間に帰国の日が迫り、結局如月とはその後一度も会えないままに和海は日本の土を踏むこととなった。
空港に降り立つとすぐ、高遠社長となぜか養護教諭の美咲先生が出迎えに来てくれていた。
「あの女の子、無事手術を終えたよ。今順調に回復中だそうだ」
高遠社長はそう和海に耳打ちすると、惚れ惚れするような大人の笑顔を向けて去っていった。美咲はただ、始業式の日にまた学校でね、と言って軽く手を振っただけだった。
連れ立って去っていく二人の後姿を見送りながら、あの二人の関係っていったい……としばし頭を悩ませた和海だったが、前から大声で自分の名前を呼びながら駆け寄ってくる兄の姿を確認して、一気に顔を引きつらせた。
(兄貴。それはちょっと恥ずかしいかも)
生き別れになった兄弟の対面じゃあるまいし、大げさなことこの上ない。けれど、今回友人のことで落ち込んだり、学校を始めてさぼったり、いきなり海外に行くと言い出したりして散々心配をかけた身としてはどんなに恥ずかしくても甘んじて浮け入れるしかない、と腹をくくる和海だった。
***
新学期が始まっても、転校していった如月凌が学校に姿を見せることはなかった。
今、彼はどうしているのか。日常生活を送りながらも時々、非日常を生きる彼のことを思い出し、その度に和海は不安に陥った。
まだ今も犯罪に手を染めているのだろうか、それともマフィアの一員になっていたりして……。いや、それどころか、もしかすると、捕まっているという可能性だって考えられるではないか。
そんな、悶々とした日々を送る和海のもとに一通のエアメイルが届いた。差出人の名前はなかったが、和海には誰からだかわかった。
あわてて部屋に駆け込み、封を切ると、中には一枚のポストカードが入っていた。遠い外国の空と町の写真がついた片面を裏返すと、そこには小さな字で如月の言葉が書き綴られていた。
無事に宝を見つけてボスの元に送ったこと。
その際、自分で出向かなかったのは、息子だと認定されて悪名高いマフィア一家の跡継ぎにでもされたら困るからだということ。
エイプリルは順調に回復し、あと一月もすれば目覚めるだろうということ。
そして、父親探しや、エイプリルが成人するまでの送金は続けるが、もう多額の金は必要なさそうなので、必要な分は合法的に稼いでいくことにしたこと。
そして、最後に、『ありがとう』と書いてあった。
あまり期待してはいなかったが、そのカードには彼の現住所も書かれており、和海は慌てて封筒と便箋を取りに走った。
このまま一方的な付き合いで終わらせたくない。こちらからも彼には言いたいことが山ほどあるのだ。
(そうだ! 学校で吉村たちと写真を撮って送ってやろう)
カメラを探しにまたばたばたと駆け出す和海は、手紙の一番最後に書かれた追伸文に気づいていなかった。
――P.S 近いうちにそっちに遊びにいきまーす。
そして、ピンポーンと、玄関からチャイムの音が響いたのだった。
本編 了
これで、本編はひとまず終わりです。
感想等、頂けるとと嬉しく思います。どうぞよろしくお願いします。
この後、続けてちょっとした続編をUPしようと思っています。