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BLUE WIND  作者: kataru
47/60

47.希望の光

 危うく自社の優秀なガードマンにつまみ出されるところだった深町和海を間一髪で拾った高遠は、彼を人気のない資料閲覧室へ案内した。

 部屋に入る前に『使用中につき入室はご遠慮ください』の札を扉にかけた高遠は、和海を待たせておいて秘書に連絡を入れ、午前のスケジュールを空けた。


「……で、君がここに来た目的から聞いてもいいかい」

 漸く目の前に座った高遠が、和海の視線を捉え、口を開いた。

 初めて訪れた大企業の雰囲気に飲まれ、また、目の前の人物がよく経済ニュースなどで取り上げられる雲の上のような存在であることに、この上なく緊張していた和海だったが、自分がここに来た目的を思い出し、無理やり平常心を引き戻した。

 和海は、落ち着け、と自分に言い聞かせながらまず突然の訪問の非礼を詫び、自分の名前を名乗った。そして、高遠の顔をまっすぐ見て、訪問の目的を告げた。

「実は、如月凌のことで来たんです。高遠さん、彼のことご存知ですよね」

 高遠はどう答えるべきか一瞬迷った。

 如月との関わりを認める発言は、今まで慎重に避けてきていた。だが、相手は、用心深い如月が常の警戒心をすっ飛ばすほど信頼している人物である。今の、彼に関する情報が全くない状況を打破するためにも、ここはぜひ話を聞いてみたい。少々のリスクを負ったとしても仕方がない、と、腹をくくって高遠は頷いた。

 和海はぱっと顔を綻ばせた。だが、その後一瞬にして顔を引き締めた。

「俺、凌が今まで何をしてきたのか知っています」


 なぜ俺にそんなことを、と問い詰めようとする高遠の先回りをして、別に、高遠さんのことを詮索するつもりはありません、と和海は告げる。彼にとって、高遠が如月の犯罪の片棒を担いでいたかどうかなどどうでもいいことだった。

「俺が知りたいのは、凌の行方です。あいつにもう一度会いたいんです。そのために力を貸して欲しくて来ました」

 そして、和海は、今までに自分が知った情報をつっかえながらも真剣に高遠に話し始めた。



「そうか、なるほどな。だから如月はあんなに急に姿を消したんだな」

 長い話を聞き終わり、高遠は重いため息を吐いた。

 深町和海と普通の友人づきあいをするために、如月がどんな苦労をしてきたのか、また、それほど彼に入れ込んでいたのだということを知っている高遠には、自分の犯罪歴が彼にばれたときの如月のショックが想像できた。考えるだけでも胃が痛くなる。いや、この場合、痛むのは胸だろうか。

 そして、父親の絵を集める以外の金の使い道も初めて知った。

 絵の代金だけにしては盗む金が多すぎたし、自分と離れて彼が単独で犯行を重ねていたことにも気づいてはいたが、その莫大な金を何につぎ込んでいたのか、高遠は漸く知ることができた。

 如月は、日本であればまだ中学生くらいの年齢の頃から少女のための送金を続けており、そしてこれからも一生続けていくつもりなのだろう。子どもが他人の一生を背負うなんて並大抵のことではない、と高遠は思う。だが、思うだけで自分にはどうしてやることもできないことを知っていた。


「とにかく、話してくれてありがとう。深町君」

 高遠の言葉を聞いて、ふっと一息ついた和海の耳に、今まで全く気にならなかった空調の音がやけに大きく聞こえてきた。

 目の前の、巨大企業の頂点に立つ若い男は、下手な芸能人よりずっと秀麗な顔つきをしている。しかし、よく見ると、彼は額にじっとりと汗を浮かべていた。

「だが、せっかく来てくれたのにすまないが、私の方には全く情報がないんだ。如月の足取りをこちらも必死で追おうとしてはいるのだが、彼は全く自分の行方に繋がるものを残していない。ただ、探していた絵が見つかって、父親の行方を追うから日本を離れるとだけ連絡があった。いったいどこでその情報を掴んだのか……」

 フランスから帰国してからだということは間違いない。最近のことであるはずだ。だが、留守をしていた間にたまった仕事に忙殺されていた高遠は帰国後の如月の動向を掴めてはいなかった。


「とにかく、動きましょう」

 高遠の話を聞いていなかったのか、深町和海はそう言った。

 だから、手がかりもないのにいったいどうしようというのか。いらいらと足を組む高遠に、和海は指を一本立てて見せた。

「まず一つ目。例の児童施設に行ってみましょう。少なくとも、凌が定期的に連絡をしてくるのはそこしかない」

 そしてもう一つ、と言って和海は立ち上がった。

「言い忘れていましたが、最近、凌と訪れた場所があるんです。彼の父親の絵が飾ってあった教会です」

 そのときあいつの様子がおかしかったから、きっとその絵に何か手がかりがありますよ、と言う和海に釣られて高遠も立ち上がった。

 今朝まで全く手がかりがなく停滞していた捜索状況が、深町和海の登場で一変した。この少年が、希望の光のように高遠には感じられたのだった。


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