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BLUE WIND  作者: kataru
46/60

46.行動あるのみ

 次の朝早く、ジェイク・アシュレイは日本を発って行った。

 それを見送った後、最近休みを取りすぎて上から睨まれている警視庁勤務の深町和洋も慌ただしく出勤準備を整えている。

 かたり、と、背を向けていた台所の入り口付近から物音が聞こえ、和洋の手が止まる。ばっと振り向いた彼の目に、気まずそうに立つ弟の姿が映った。

「兄貴……。なんか、ここ最近、心配かけててごめん。もう吹っ切れたからさ。ちゃんと一緒に食事するし、家事もきちんとやるよ」

「和海……」

 ほっと安堵の息を吐く兄を見て、これからの自分の行動を考えると、すまない気持ちでいっぱいになる和海だった。


 兄の和洋が自分のいつもの登校時間より一足早く家を出るのを見送った後、和海は学校に欠席の連絡を入れた。今日は学校をサボって、ある人に会わなければならない。

 昨日の兄とアシュレイとの会話を、和海はリビングに続く廊下で、扉越しに聞いていた。もともとは立ち聞きするつもりなどなかったが、二人の深刻そうな声に思わず立ち止まり、その内容を耳にしたとき、和海は棒を飲んだように立ち尽くしていた。

 それは、今まで普通の高校生のクラスメイトとして接してきた親友に、そんな過去があったなどと想像もつかなかった和海にとって、衝撃的な内容だった。 

 まだまだ知りたいことは山ほどある。だが、それは、もう一度如月に会って、彼の口から聞きたい。そのためにも、今は自分から動くとき、行動あるのみ、だ。和海は固い決心とともに私服に着替えて家を出た。


 向かった先は、モダンな高層ビルが林立するオフィス街。その中で一際洗練されたメタリックな外観を持つ、日本人であれば知らない人はいないほど有名な企業のビルに、和海は足を踏み入れた。

 自動ドアが閉まった入り口の上の壁に、シルバーの文字で『TAKATOカンパニー本社』と書かれていた。

 

 ***


 高遠朗は、その日、いつもより遅くに出社した。受付からの連絡を受け、社長室前で部屋の主がやってくるのを待っていた秘書の水城は、形のよい眉をわずかに寄せる。

 今日に限らず、ここ最近の彼の出社時間は普段よりもわずかに遅い。しかも、本社勤務の幹部連でもほとんどの者は気づいていないだろうが、優秀な秘書、水城さやかにかかれば、社長の表情に疲労の色が日に日に濃くなっていくのは一目瞭然であった。


 高遠は、一週間前、突然如月が姿を消してから、毎晩夜遅くまで彼の行方を必死に探していた。姿を消す前の彼からの連絡は携帯へのメール一本だけ。

『探していた絵が見つかった。親父の足取りを追うために日本を離れる。社長さんは刑事たちに目をつけられてるからもうこれ以上動かない方がいい。今までありがとう。如月』

 しかもどういった機能を使ったのか、受信を確認して一時間後にはそのメールは履歴から完全に削除されていた。

(馬鹿にするなよ、如月。俺がこんなメールで誤魔化されると思うのか)

 高遠は内心憤っていた。如月が自分に会わず突然姿を消したのは、彼がこれからやろうとしていることに危険が伴うからではないのか。高遠自身にも利益が入る今までの二人の仕事とは違い、全くの個人的な件で高遠を危険にさらすまいとしているのだろう。そういうところは、如月は徹底していた。


 先日自社であったぼや騒ぎのとき、社員には原因をあいまいに濁しておいたが、スプリンクラーと煙探知機が作動したのは一般には立ち入り禁止のはずの如月の画廊だった。秘書の水城によれば、そのとき二人の男が画廊にいたという。身分証明書の写しを見せてもらったが、それは警視庁の深町刑事と、例のオークションで会ったICPO捜査官だった。

 彼らがこの画廊の存在を突き止めたということは、高遠自身が、如月との関係を疑われているのだということだと見て間違いない。そのこともあって如月は高遠に接触することなく姿を消したのだろう。

 だが、それにしても、彼が犯罪の証拠をやすやすと掴ませたとは思えない。ほかにも、彼が身を隠すように日本を発たねばならなかった事情があったのだろう。

 しかし、二年間彼にここまで関わってきた身としてはとても納得ができるものではない。高遠は、どうにかして、自分の顔と幅広い情報網で如月の行方を掴むつもりだった。

 

 社員用のエレベーターで最上階の社長室に向かう途中、ガラス張りの壁越しに、一般客用の案内カウンターで、受付の女性やガードマンと何やらもめている若い男の姿が見えた。

(あれは、ひょっとして)

 以前如月から聞いて興味を持った高遠が、美咲に頼み込み、持ってきてもらったクラス写真で顔を確認していた。それに、何度かここを訪れているあの刑事とそっくりの顔。確か、彼らは兄弟だということだった。

(では……、彼が、深町和海なのか)

 如月が行方不明というこのような状況で、彼はいったい何をしに来たというのか。

 最上階で開いた扉をボタンの連打で閉じ、慌ててエレベーターで一階ロビーまで引き返した高遠であった。


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