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BLUE WIND  作者: kataru
18/60

18.昼休みの密談

「クラスマッチ?」


 聞き返した和海の言葉に、河野はるかは大きく頷いた。


 ***


 昼休み。学食から戻ってきたはるかを呼び止め、人気のない渡り廊下まで連れ出した和海は、彼女にある相談を持ちかけていた。

ちなみに、この渡り廊下は以前はるかが凌のことで和海に相談したときに連れて来られた場所である。以前もそうだったが、ふきっさらしで寒いため、今の季節ほとんど人は通らない。

 和海に呼び出されたはるかは、なになに、ひょっとして告白? とふざけて見せた。

(凌のこと気になってるくせに、何言ってんだよ、河野さん)

 無邪気すぎる彼女にがっくり肩を落としつつも、何とか気を取り直した和海は、はるかに『如月凌・脱不良計画』を持ちかけた。

 もちろん二つ返事で協力を約束してくれたはるかだったが、和海のほうに具体的な案がないことを知って難しい顔をした。

「つまり、如月君が真面目になったってみんなに思わせればいいのよね」

「そう、そうなんだよ」

「今でも彼、かなり変わったと思うわよ。遅刻もしないし、授業中に出て行くこともなくなったし。まあ、授業中は相変わらず寝てるけど」

「それが問題なんだよなあ」


 実際、和海の一言で如月はかなり学校生活態度を改めた。朝は半分ぼーっとしながらも登校するようになった。と言っても、来てすぐに窓辺の日差しの中でうとうとし始めるのは変わらないが。しきりに授業中に鳴っていた携帯電話も、確認はするものの一切とらなくなった。どうしてもの時は休み時間にこっそり出て行って話しているようだ。

 如月凌は傍から見れば健気なほど、和海が言ったことを改める努力をしていた。――眠気と激しく戦いながら。


「居眠りがなあ。授業を聞かなくても支障ないのはわかるんだけど」

「でも、深町君。それをやめさせるのは難しいわよ。彼、本当に眠そうだもの。体壊しちゃうわよ」

「俺もそう思う。全く、いったい普段どれだけ睡眠不足なんだよ」

 如月がバイトをかなり遅くまで、しかもほぼ毎日していることは付き合っていくうちに和海にはわかってきた。夜に足りない睡眠を昼間にとっているのだということも。

 はるかの方も、如月のバイトのことは知らないものの、彼の生活には明らかに睡眠時間が足りていないのだろうということは感じていた。

 クラスメイトは、彼が夜遊びをしているせいだと決めてかかっているようだった。何しろ、繁華街の方面へ向かう如月の姿を、塾の帰りなどに見た者がたくさんいるのだ。生活指導の教師に補導されかけて逃げたことも何度かあるらしい。

「とにかく、昼間の居眠りをやめろって言うのはちょっと凌には無理だろうな」

「そうね」

「じゃあ、これ以上学校生活の改善は望めないとして、あとは、凌がクラスに馴染むには……」

 和海は考え込んだ。今現在クラスメイトから乱暴者の不良だと避けられている如月の本当の姿を知らせれば、きっとみんな彼のことを見直すだろう。明るく親切、行動力があって、何でもできる如月は、みんなの羨望の的になっても不思議はない。そのためにはどうすれば……


「ねえねえ、深町君。何か、ボランティアとかやってみるのはどうかしら? 困ってる人のお悩み相談なんかはどう?」


 がくっ 

 はるかの言葉にずっこけそうになりつつ和海は何とか踏みとどまった。


「それはなんか、わざとらしいだろ。あのクラスのやつ相手に凌がやるわけないし」

 それになりより、人の陰口を叩くようなクラスメイトに媚びるようなことを彼にしてほしくはなかった。それよりも、彼の得意ことをみんなに見せ付けて感心させてやりたかった。

 はるかが首をかしげて聞く。

「如月君って何が得意なの?」

「凌の得意なことか……」

 彼は何でもできた。少なくとも小学校のときはそんじょそこらの大人では太刀打ちできないくらいいろんなことに高い能力を発揮した。それだけに、改めて聞かれると何を答えていいものか迷う。

「勉強は、言うまでもないけど。いつもの授業態度でいい成績を取りまくったら逆にやっかまれるよな。あとは……運動神経も抜群だったな。きっと何でもできるはず」

 考え考え言う和海の返事を聞いてはるかが驚いた顔をした。

「如月君って、スポーツできるの? だって体育してるの見たことないわよ」


 はるかいわく、如月は体育の授業はいつもサボっているそうだ。着替えて見学ということもまずない。運動会ですら朝から仮病で欠席だったという。

「まじで? でもそれじゃ体育の単位が出ないだろ」

「そうなの。一年のときは何とかなったみたいだけど、来年は三年でしょ。いくら成績がよくても今度こそ留年だってだれかが言ってたわ」

 でも、如月が留年を気にしている様子はまったくなかった。

 はるかには、如月は高校を卒業する気がないのではないかとも思えるのだ。留年が決まったら後腐れなくすぱっと学校を辞めそうな気さえする。

「病気持ち……とかじゃないみたいだし」

 何しろ、入学早々生活態度の悪さから上級生に目を付けられた如月は、しばらくの間は教室に来るよりも派手にけんかをして暴れていたことのほうが多かったそうだ。持病などあるわけもない。

 まして、体育の授業ごときできないはずがない。ただのサボりであることは確実である。


 それなら、と、はるかが嬉しそうに提案した。

 そして冒頭の会話に戻る。


 ***


「クラスマッチ?」

「ええ。三学期のメインイベントとも言えるわね。これで活躍すればみんなからの評価も変わること間違い無しよ」


 はるかたちの高校ではスポーツを通した生徒間の交流のため、毎学期クラス対抗のスポーツ大会が行われている。一学期は卓球と水泳、二学期は運動会の中の競技の一環として綱引きとリレー、そして三学期はバスケと駅伝と決まっている。

 この三学期のクラスマッチは、学年の締めくくりとして全学年対抗で行われることも毎年の恒例だ。下級生が上級生のクラスに勝ったりすることも時にはあり、かなり盛り上がる。もしそれで活躍できれば普段どんなに目立たないやつであろうと一気にクラスのヒーロー間違い無しというわけだ。


「河野さん。それ、グッドアイデア!」

 和海は目を輝かせた。はるかも自分のアイデアに興奮している。


 冷たい北風の吹く渡り廊下にもかかわらず、見つめあう二人は興奮のあまり全く寒さを感じていない。漸く気がつき、二人そろってくしゃみをしたのは、昼休み終了のチャイムが鳴る直前だった。



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