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第五話 自信、なくしちゃったよ……

 葛原の提案は一応保留と言うことにして、小野田の着任を待ってこれからの支社運営について話し合いをすることになった。


 これまで地方都市をいくつも渡り歩いてきた葛原に対し、最初の配属先が本店市場調査部! という、なんといいますか…… 本店ではあるものの、定年退職前のオジサンたちだらけの部署からやってきた小野田。葛原が小野田に対抗心メラメラなのもわからなくはないけど、どっちもどっちよね、みたいな…… 。


 まぁそんなふたりだけど、これから支社の屋台骨を背負ってくれるわけだし、よ〜し、今日は、ふたりの意見を聞くぞぉ〜〜〜、と、気合だけは入れて、その実何の用意もせず、遥はミーティングに臨んだ。


 と、いきなり、


「あのぉ~、ちょっといいですか? ボク、昨夜ここの営業実績の構成を分析してみたんですけど」


 そういうと、小野田は円グラフやら棒グラフやら、果ては、くにゃっとした波形の未来予想図みたいなものまで持ち出して、なにやら説明し始めた。


 ほおほお感心感心。ニューフェイス、やる気じゃん。いいよお〜!


「…… この支社のエリアは新興住宅圏と旧市街のふたつから成り立ってるんですけど、支社の営業実績って極端に旧市街に偏ってるんです。なのに、営業目標はエリア全体の人口増加に合わせて増やされているので、かなり歪な感じになってます。このままだと、早晩、成績は頭打ちになる、と思われます」


…… そ、そうなのよ! そこなのよ! 理不尽な目標設定、そのまま本部長に言い返してやって! と相槌を打つ遥と葛原。


「昼間、誰もいない住宅街で鉄砲撃ちまくっても意味がないのに、販売チャネル別に状況をさらにブレイクすると、どうも旧来型の営業スタイルが残ってる気配が濃厚です」


 ふんふん頷きながら、ふたりは固唾を呑んで、この新たな切れ者の言葉を待った。よっしゃあ~~、ついにここにもエース級が投入されたっ!


「で、どうしたらいいの? 教えて! 小野田クン!」 


 遥の瞳はキラキラ輝き始めた! が…… ……


「いや、それはわかりません。ボクが市場調でやってきたのはマーケット分析なので……」


 あ、あいた口が…… あ、顎、外れるわ……


 そうなのだ。本店の賢い皆さんはここまではいつも完璧なのだ…… そして、他の支店ではこんな事例が、また別の支店ではこんなこともやってますよ、という、ナレッジだかなんだか知らないが、そういうのをただ並べるだけで、ハイおしまい、あとは自分たちでやってね……


 分析が始まった時には押され気味だった葛原が息を吹き返す。


「足立さん! この前のたたき台で担当割りは進めていいですよね!」


 …… うん、任せる……


 そして何事もなかったかのように葛原が新しい担当を振り分けて、一方の小野田は、分析以外のことにはまるで関心がないのか、黙ってそれを受け入れた。


 世の中、歌って踊れるアイドルはそうそういるもんじゃないよね。小野田のすらりと伸びた指先を惚れ惚れと眺めながらも、遥は今年度の年度末を思い、どよ〜ん、と項垂れるしかない……


 まっ、なんとかなるっしょ! 


 それだけ言い残し、遥はふたりを置き去りに、会議室からそそくさと逃げ出て行ったとさ。。。



✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤



 翌朝、やや寝不足で出社した遥を待っていたのは、社歴二十数余年の大ベテラン、小山社員の不服そうな顔だった。 悪い予感……。


「宇多さんのお休み、支社長は当然許可されたんですよね?」


 極めて落ち着いて、ただ、どこにも取り付く島のない言い方で彼女が詰め寄ってくる。


「そうだけど…… だってあの日は渋谷でしょ? 徹夜のまま来ても仕事になんないだろうし。記念日休暇もずらしていいか、って訊くから、いいわよって言ったけど…… マズかった?…… ん? …… その顔はマズかった? …… ですね。。。

スイマセン…… 」


 声も先細りに言い返せない遥…… トホホ。


 いいじゃんか! 若い連中がたま〜に盛り上がったってさあ! 有給休暇なんて消化しきれないほどあるんだし! ほっといてやればいいじゃん! 


 とは思うものの、このベテラン女子を敵に回す勇気などない。できれば味方でいてね、とスリスリしたいほど。それを見越してか、小山社員は嵩にかかって言い返してくる。


「いくらなんでも甘くないですか? あれだけ大騒ぎして!

 転勤するとはいえ同じ職場の男性社員ですよ、一緒だったのは! それを…… 三日も休暇を認めるってのは…… どーなんですかねっ!」


 一気にそれだけ捲し立てると、彼女は宇多社員の休暇届をバンと机に叩きつけてぷいと部屋を出て行ってしまった。


 …… あのね、私たちは社畜じゃないのよ。良く働き、そして良く遊びましょうよ、ねっ。。。 彼女の後ろ姿に心の中で叫ぶが、声は出ない。


 あ~~~ぁ、まったく毎日毎日、私はなにやってんだろ?

 どこが輝く女性の職場よ! 何が女性活躍社会よ! どっかの偉い人! あんたら、なんとかしなさいよ!


 と、新聞紙面の政治家に向かって言い放つ。それでもおさまらず、彼女の愚痴はまだまだ続く。


 人はそれぞれ、人生いろいろ…… そう! 人生はいろいろなのよ。彼女には彼女の、あなたにはあなたの、私には私の人生があるの! 部下といえども所詮他人のあなたたちに指図できるなんて…… そんなこと、ないんだからね……


 言いながらどんどん意気消沈してしまう遥。例によって髪の毛をくしゃくしゃと掻き毟るたび、嘱託の美濃さんと目が合う…… もぉ~~~、はやく集金行って! と目で訴えるが、美濃さん、知ら~ん顔。


 そうこうしているうちにメンバーが三々五々出勤してくる。葛原はなんとなく不機嫌そうに、新メンバーの小野田は無表情に。宇多はまだ現れないし小山はトイレから戻ってこない。嘱託の美濃さんは鼻毛を抜いていて、その横でパートの遠藤さんと和田さんは朝からジャニーズのワイドショーネタで盛り上がってる。


 あ~ぁ、これが私の四年間の成果だったのね。男どものやりっぱなしの営業スタイルを変える?…… とんでもございません。この現実こそ、無秩序で統制がなく、女性らしい感性も輝きも無縁だわ。きっとこの支社は、統廃合に向けて一直線ね。あ~あ、私は無能な支社長として、歴史に名を刻むんだわ…… 


 塞ぎ込む遥。もう顔も上げられそうにない。そんな矢先、


「支社長! おめでとうございま~~す!」


 何かと話題の宇多が大声でドアを開けて入ってきた。


 なんだ? なんだ? なんだなんだ???

お読みいただきありがとうございました。

次回、最終話はあさって七夕の夜に公開を予定しております。

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