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キラキラヒカル 4

作者: 大野竹輪

「キラキラヒカル4」


〇もくじ


第0話 ~ 第8話

登場人物の履歴一覧 & MAP



原作: 大野竹輪

第0話 プロローグ


ここは花園学園大附属高校の職員室。


小袋先生がやたら積み重ねられた文集を手塚先生の机の上に見つけてそばにやってきて、


小袋「手塚先生、何を作られてるんですか?」

手塚「これですか?これは来年の新入生に渡す『過去みらいからのメッセージ集』です。」

小袋「みらいからのメッセージ?」

手塚「はい。生徒1人1人に卒業の時の自分がどうなっているか想像させて、その自分に熱いエールをメッセージで贈ろうと考えているんです。」


小袋「ほほう・・・メッセージ?」

手塚「そうです。」

小袋「手塚先生、それはすごく面白いじゃないですか。うちのクラスでもやろうかな。」

手塚「ええ、是非。表紙は私が作ります。」

小袋「あはは。だって表紙は手塚先生の似顔絵になってる。」

手塚「はい。」

小袋「まさか、もしかして我々の似顔絵も・・・」

手塚「はい、作っちゃいました。」


小袋は似顔絵の自分を見て笑いながら、


小袋「これはもう学年全体でやりましょう。」


こうして新入生担任クラスの先生は最初のホームルームでそれぞれのクラスの生徒に説明に行くことになったのである。 


そして翌年。




第1話


ここは東京近郊のとある高級住宅地の一つにほぼ近いところである。そしてここは風光明媚なことでとりわけ人気の高い駿河台地区。


北には小高い自然の山々が一望でき、またその周辺には新緑に満ち溢れた大小さまざな木々があちこちに見え隠れ、東から西へと目を動かすに従ってなだらかなスロープのある道路の白いガードレールがわずかに見ることもできる、そんなとても自然環境の良い、その上景観もみごとな場所である。


そして地区のほぼ中央に位置するのがヨーロッパから取り入れ近代風に設計された駿河台公園があります。


そしてそこから約2キロメートルほど離れたところにある南高針地区。


中央には南高針小学校と南高針公園があり、そのすぐ西に一際目立つ花園学園大附属中学と高校がある。

ここは常に一貫教育を目指し、早くから幼稚園と小学校も併設されていた。



今日は晴天に恵まれた清々しいそんな日和の入学式の当日、高校の門を次々とくぐる親子や教職員を気にもせずに1台のダークブルーのベンツが割り込むようにして入ってきた。


やがてベンツは1階入り口の駐車場にゆっくりと止まり、そこから光の両親が召使2人に続いて車から降りてきた。母親はかなりの有名女優でこの近所でも知らない人はまずいないだろう。


周りの人たちは一斉に彼女に注目する。

勿論彼女の衣装はこの日だけの特注、年齢には似ても似つかぬピンクのワンピースにフリルが付いていてさらにサマンサタバサのラメの入った少し大きめのバッグ、グッチのブレスには何なのかわからないがとにかく宝石がちりばめられている。

説明しだしたらきりが無いがその他いろいろなブランドに全身が包まれていた。



そして母親は気取りながら会場となる講堂に向かってゆっくりとまるでお姫様のように歩いていた。

その後を蝶ネクタイにグレーのブレザー、少し短めのスラックスを身にまとった父親が周りを気にしながら、自らは全身やや固まりながらついて行く。

さらに付き人が2人、左右にぴたりとくっ付いて歩いていたのである。



翌日の授業初日。

A2クラスには、今野豊、柏木由紀子、長島雄介、原憲次、川上哲郎、ローラがいた。


担任の教師が時間丁度に教室に入ってきた。


教師「はい、みなさんそれぞれ席に着いてください。」


ゆっくりとした低音で太い声を出す言い回しが彼の特徴だった。


やがて生徒が席に着いた。


教師「私はこのA2クラスを担任する手塚です。よろしく。」


手塚治教師は中肉中背よりやや太目で無地のスーツが似合うもっと若ければけっこうコマーシャル顔の紳士だった。

生徒たちは一斉に手塚の顔に注目していた。


手塚「な、なんだか集中照射を受けてるみたいな・・・まあまあ。」


生徒たちは皆笑い始めた。

手塚はクラスを見渡して、


手塚「しかし、このクラスは男子の方がやや多いな。」


確かにそうだった。男子の数は女子より数人多かった。

手塚は数枚の印刷されたわら半紙を生徒たちに配った。


手塚「今日は皆さんの顔見せくらいで、他には特に何もありません。次のホームルームまでまだ40分以上ありますから、自分の席で静かにしていてくださいね。」


そのとき1人の生徒が、


豊「先生トイレに行ってもいいですか?」


手塚は軽くうなずいて、


手塚「はいどうぞ。」


それを聞いた男子生徒が6、7人ぞろぞろとトイレに行った。


手塚は教室の扉側の壁にB4サイズの大きなクラスの集合写真を壁になじむようにしっかりと丁寧に貼り付けた。

そしてゆっくりと教壇に戻った。


すると多くの生徒たちが、自分の顔を見るためにその写真の傍にドヤドヤと集まった。


手塚「そんなに集まると皆が見れませんよ・・・まあずっと貼っておきますから順番に見てください。」


生徒たちは写真を見ながら口々に喋っていた。

その間手塚は教壇横の椅子に座っていた。


長島「先生。趣味は何ですか?」


急に長島が手塚に尋ねた。


手塚「あ、私の趣味はイラストとか漫画とかを描くことです。」


手塚はそう言いながら、さっき配ったわら半紙を右手に持ち、


手塚「たいした絵ではありませんが、これは自作です。」


左手で頭を軽くなでながら言った。


原「いっぱい描いてあるじゃん。」

川上「けっこう上手いなあ。」


わら半紙には手塚のプロフィールやら、職歴やら、この高校でのこれまでの出来事など、かなり詳しく書いてあった。

そしてそれらの文章の横にはたくさんのイラストやら漫画が描かれていた。



やがて1限目が終わり、休憩時間になった。

手塚はひとまず職員室に戻って行った。


するとすぐに別の階のクラスからこの話の主人公である光が、教室の扉をさーっと開けてみんなに向かって一言、


光「よ!」


本人はポーズも決まったと思ったようだ。が、一瞬A2クラスの生徒は彼を見たのだが、すぐに元の状態に戻り誰も彼の方を見ようとしなかった。


A2クラスの生徒はまったく光を知らなかった。

光はしかたなく教室の中に入ろうとはせずに、戻って行った。



やがて2限目になった。

手塚が片手に束になったプリントを持って教室に戻ってきた。

彼はまた数枚のプリントを順番に配った。


手塚「まずプリントの1枚目ですが、これはクラブ紹介です。ここにあるクラブのどれかに1つ入ってください。入部に期限はありません。」

川上「この理科クラブのキャラかわいいですね。」


数人の生徒がうなずいていた。

プリントには理科クラブとパソコン部が一緒になったと書かれていた。


手塚「あ、どうもありがとう。」


手塚は右手で自分の頭の髪を撫でていた。


手塚「まあ、夏休みまでにはどこかに決めてください。」


生徒たちは『クラブ紹介』プリントを見ていた。


少し間が空いて、


手塚「では次に皆さん1人1人順番に、自己紹介をしてもらいます。」


こうして自己紹介が始まった。


・・・・・・


手塚「では次にクラス委員長を決めたいと思います。さっき配ったプリントの中に小さい紙があったと思います。これですね。」


手塚はそう言って、右手に小さな投票用紙を持ってクラスの皆に見せた。


手塚「この紙に1人名前を書いて、この投票箱に入れてください。今から5分ほどでお願いします。」


こうして5分間、少しはざわついたがようやく投票が終わった。手塚は箱から1枚ずつ出して、黒板に名前を書いて行った。

さらに複数票は正の字で書き加えて行った。

手塚が書くたびにクラスに軽いどよめきが起こったのであった。


やがて、


手塚「はいでは投票の結果、クラス委員長には川上哲郎くんになってもらいます。」


クラス全員が拍手をした。


手塚「もうひとつお話があります。」

全員「えー!」


生徒たちは早く終わることを願っていた。


手塚「すぐに終わります。」


手塚は生徒に優しく語りかけながら、


手塚「君たちは自分の約3年後を想像してみよう。そしてその自分に熱いメッセージを贈ろう。卒業アルバムとは別に『過去みらいからのメッセージ集』を作ります。」


そう言いながら、見本を手に持って、


手塚「今から見本を回すので、見てください。」


生徒たちはガヤガヤ騒ぎながら、


原「なんかおもしろそうだな。」

川上「表紙は先生の似顔絵じゃん。」

由紀子「それチョーうける。」

手塚「自分は卒業の時にはいったいどうなっているんでしょうか?それを想像して、その自分に熱く強い印象に残るようなメッセージを考えましょう。来週の金曜日に集めます。」



やがてチャイムが鳴り、生徒たちは教室扉の横に積まれた教科書の束を1人ずつ順番に持って帰って行ったのである。




第2話


翌日(授業2日目)のA2クラスの朝礼でクラスの副委員長にジャンケンで負けた柏木由紀子が決まった。

>>またまた余計かもしれないが、この高校では副委員長はいつもジャンケンで決めるそうです。


4限目のホームルームでは、これといってすることがなかったのか自習になった。




翌日(授業3日目)のA2クラス。

授業が始まる前、3人の男子生徒が教室の窓際で話していた。


長島「オレパソコン部に入るよ。」


原が腕を組みながら、


原「いいねえ。オレもそうしようかな。」

川上「ん・・・どうしようかな・・・」


川上は頭をかきながら迷っていた。


長島「パソコン部の担当の先生は、うちの手塚先生だぜ。」

川上「そうなのか、それならオレもパソコン部に入るよ。」


こうして3人がパソコン部に入部したのである。

ついでだが由紀子は姉のめぐと同じバレー部に入った。


女子バレー部部室にて。

キャプテンの3年C3クラスのめぐと2年夏美の他12~3人の先輩たちと、新入生の7名が集まっていた。


夏美「めぐさん、新入生を紹介します。」

めぐ「はいどうぞ。」


・・・・・・・


新入生の中にはめぐの妹由紀子もいた。


由紀子「柏木由紀子です、よろしく。」


由紀子はしっかり愛想を振りまいて可愛子ぶりっ子していた。



この日の放課後、女子バレー部は新人歓迎会を兼ねてファミレス「リトル・キッチン」に集まった。


めぐ「はい、みんな集まったかな?」

夏美「はい、大丈夫です。」

めぐ「では最初に乾杯!!」


乾杯といってもお酒は駄目なので、バレー部では恒例のオレンジジュースによる乾杯だった。

こうして20人近い生徒の交流が深まったのであった。



次の日の放課後、バレー部は新入部員の1年生だけが男女で一緒に基礎練をしていた。

バレー部に入った豊はジャニーズ風の可愛い小柄な好青年だった。


由紀子「豊さん、彼女はいるんですか?」

豊「いないよ。」

由紀子「えー、いるかと思った。」


由紀子は白々しく返事したのだが、かなり驚いた様子だった。

実は豊が気になっていたのである。



次の日の部活の帰り道。

由紀子「豊さん。」

豊「ああ、由紀ちゃん。」


豊は胸の名札をよく見なかったので、由紀子が言い返した。


由紀子「由紀子です。」

豊「由紀ちゃんの方が呼びやすいからさ。」

由紀子「じゃそれでいいです。帰り道はこっちですか?」

豊「そうだよ。」

由紀子「私と一緒ですね。」

豊「そうなの・・・」


案外軽い返事の豊。


由紀子「ええ、私もこっちから帰るんですよ。」


本当は由紀子の帰り道は違っていたのだが、豊と一緒に帰りたいという強い女心からウソをついたのである。


しばらく2人はおとなしく黙々と歩いていた。

やがて豊の方から話し始めた。


豊「由紀ちゃんはカラオケに行ったりする?」

由紀子「あー、行ったことないです。」

豊「へえー、めずらしいね。」


由紀子は急に豊の方を見て立ち止まり、


由紀子「でも行ってみたいなぁ。」

豊「じゃ行こうか。」

由紀子「え!本当ですか?・・・いつですか?」

豊「今から。」

>>やっぱ、今でしょ!


由紀子はびっくりしたが、憧れの豊からの誘い、嬉しくて仕方がなかった。


由紀子「はい、行きます。」


目茶目茶元気のいい返事だった。


こうして2人はカラオケの店に入ったのであった。


由紀子「豊さんは何を歌うんですか?」

豊「さあー何でしょう・・・」


豊は少しじらしていた。


由紀子「ん・・・、ミスチル。」

豊「残念賞!」

由紀子「じゃ・・・、スキマスイッチ。」

豊「惜しい!」

由紀子「え、そ、それじゃ・・・」


しばらく2人のやり取りが続いた。

そしてやり取りが続くごとに2人の距離が少しずつ縮まっていった。

やがて気が付いた時には豊が由紀子にキスをしていた。


その後はもう2人は寄り添ってデュエットしていた。


由紀子「あっ、もうこんな時間だ。帰らないと・・・」

豊「じゃ、帰ろうか。」


2人はカラオケの店を出た。


由紀子「今日は有難うございました。」


由紀子は丁寧にお辞儀をした。


豊「またね。」

由紀子「はい!」


由紀子の返事は最高に元気がよかった。彼女のテンションは時間と共に上がっていったのであった。

この後の帰り道もルンルン気分だった。


由紀子「あらあ、可愛いね。」


由紀子は道端をゆっくりと通り過ぎる野良猫を見て話しかけていた。

彼女の心はかつて無い程、とんでもなく温かくなっていた。


夕陽がいつもになく美しかった。

少なくとも由紀子にはそう思えたのであった。


しかし、残念なことにこの2人は、二度と2人だけでカラオケに行くことはなかったのである。



ある日の放課後のバレー部練習日。

この日は男子と女子が全員合同で今年初めて基礎練をしていた。

夏美は1年男子の中に豊の姿を見つけた。


夏美「豊じゃない!」


かなりの驚きをする夏美。


豊「やあ。」


豊は爽やかな表情で答えた。


夏美「同じ高校になるとは知らなかったわ。」

豊「以後よろしく。」


夏美はじっと豊の顔を見つめながら、


夏美「中学の時と全然変わってないね。」

豊「夏美はけっこう変わったみたいだ。」


豊が直球で話しかけてきた。

夏美も負けていない。


夏美「うん、心も体も・・・」

豊「そうか・・・」


実はこの2人、中学生時代に付き合っていて1度は別れたのだが、夏美は豊が気になって、5月から再び付き合い始めることになるのであった。



4月の授業最後の日。

1限目は藤森先生の英語だった。


藤森「えーと。今日は単語を覚えてもらいます。まずは inspire。」

藤森は黒板に I inspire you. と書いて、

藤森「inspire は、~に刺激を与えるという意味がありますから、これは・・・私は貴方に刺激を与える・・・ですね。」


さらに彼は黒板に You inspire me. と書いて、

藤森「どちらかと言うとこちらを使う事が多いですね。私は刺激されたとか、刺激を受けたという意味です。」


さらに You always inspire me. と書いて、

藤森「いつも刺激をもらってるよ。という意味なので感謝の気持ちを含んでいます。」


さらに inspire the next と書いて、

原「どっかで見たぞ。」

川上「TVでよく見るよ。」

藤森「はい、これは某会社のキャッチフレーズですね。the next は次の世代と考えられますので、ここでは次世代に息吹を与えよう!でどうでしょうか。」


さらに藤森は黒板にいろいろ書き始めて、

藤森「さらに inspire <-> expire -- respire が、それぞれ(口で息を吹き込むー>奮い立たせる)(息を吹き出すー>亡くなる、期限切れになる)(もう一度息を吹き込むー>呼吸する)。そして inspiration は名詞形で、霊感の意味ですね。」


藤森は生徒を見回して、


藤森「まあ意味といえども、その状況で変わったり、相手が同性か異性かでも変わるのが英語ですから、直訳は本来直訳とはいえないとも言えます。 You inspire me. の意味でも10通りは考えられるということです。」


やがて話はどんどん他に変わっていった。


藤森「今日はここまで。」



放課後。この日はバレー部の部活がなかった。

由紀子は下駄箱の近くで豊がやって来るのを待っていた。


すると、


豊「今日は?」

夏美「大丈夫。」

豊「わかった。」


豊と夏美が2人一緒に下駄箱にやって来た。

由紀子は急いで下駄箱から離れた。


そして2人は校門を出ると別々の方角に帰って行った。

由紀子はちょっと気になったのか、豊の跡をつけて行った。

するといつもと違う路地に入って行き、やがてスナック街に来た。


由紀子はかなり不思議に思った。


そして次の瞬間。

由紀子はその場に呆然と突っ立ったまま身動きがとれなくなってしまった。


とあるスナックの中に豊が入っていき、その後続いて夏美が入っていったからであった。


そんな信じられない光景を目にした由紀子は、2人が中に入ったのを確認すると、そのスナックの扉の前に来た。


由紀子「スナック・・・NOBU・・・」


信じられないのは当たり前の事だった。

あの2人は別々の方角に帰って行ったはずなのに、ここで出会っているのだ。

由紀子は豊の事が気になって仕方がなかった。


もう一度店構えをじっと眺めた後、目の前の扉を僅かだが開けて中を覗いてみた。

微かに、豊と夏美がデュエットしているのが聞こえた。


由紀子は悲しくなった。


由紀子「し、し・・・信じられない・・・」


由紀子はしばらく動けなかった。


由紀子「豊さん・・・」


だが、大変なのはこの後である。

その扉の向こうから聞こえてきた声は、もう由紀子が聞きたくない夏美の怪しい声だった。


由紀子「もうう・・・」


由紀子にはとんでもなくしっかりと聞こえた。

ただならぬ怪しげな・・・・・・・声。


その瞬間、由紀子は急に走り出した。


由紀子「も、もう駄目、駄目、私駄目だ・・・」


由紀子は駆け足で自宅に帰って行った。



ここは柏木家。その夕食の時間。


母「どうしたの由紀子、食べないの?」

由紀子「うん、ちょっと気分が悪いの・・・」

めぐ「学校では普通だったけど。」


由紀子は夕食を食べずに自分の部屋に閉じこもった。


由紀子「し、信じられない・・・」


今日の悪夢が頭から離れなかった。

翌日からしばらく由紀子は学校を休んだのであった。




第3話


5月になった。

男子バスケ部の練習試合が本校で行われた日。


こちらは、スナック「NOBU」にて。


スナック街の中でも取り分けくっきりと目立つ、建物全体が白くて入り口のドアが洋風のアーチを取り入れたこのスナックは豊の母親が経営しているが、平日の夜からしか店を開けない。

そのことを知っている豊は、この店で放課後夏美とデートを繰り返していた。


2人はカウンターの中央に並んで座っていた。


夏美「あの頃と全然変わってないわね。」

豊「そうだね。」


普段と変わらない軽い返事だった。

夏美はすぐ前にあったストローを手に持って、中身を出し、外の紙袋を折り曲げたりして、


夏美「最近ね、私考えが変わった。」

豊「どんな風に?」

夏美「中学の時はスナックってすごく悪いイメージがあってさ。豊のことはすごく好きだったけど、家庭環境がいやだったの。」


夏美はストローの紙を丸めて灰皿に捨てた。


豊「オレもスナックは好きじゃないよ。」


豊は斜め上にあるマリリンモンローのイラスト画を眺めながら話した。


夏美「あれ?当時はそうは言ってなかったけど・・・」


豊は傍にあったライターを触りながら、


豊「あの頃は親の仕事がよくわからなくってさ。」

夏美「そうだったの・・・」


夏美はどこか心の奥にあった小さな棘が抜けた気がした。

豊は有線のスイッチを入れて、ボリュームとチャンネルをセットした。

そしてカウンターの隅からグラスを2つ出してきた。


豊「乾杯!」


小さな空間に優しそうなバラードが響いていた。


夏美「相変わらず洋楽が好きなんだね。」


夏美がストローでかき混ぜながら話した。


豊「ああ。」


夏美は左手で自分の髪を撫でながら、


夏美「この曲聴いたことがあるなあ。」

豊「アバの曲。」

夏美「ああ、アバね。なんとなく覚えてる。」

>>実は覚えていないのだ。


2人は久しぶりの再会に、いろいろな思い出話をしていた。

そしてこの日2人の距離はだんだんと接近していったのだった。


夏美「私ね、豊が初体験だよ。」

豊「オレもだ。」

夏美「嘘!嘘よ!噂を聞いたわよ。」

豊「噂?」

夏美「そうよ、中2のときの転校生と・・・」

豊「あ、あれはデマだよ。」

夏美「ほんとかな?」

豊「ほんと。」

夏美「とか言って口がうまいんだから・・・」

>>そうそうみんなそうです。


豊「夏美だけには嘘をついてないよ。」

夏美「じゃ他のみんなに嘘八百・・・」


急に豊が夏美の口を押さえて、その後キスをした。



この日以後2人が会うのはたいていこのスナックなので他の友達には2人の関係が知れ渡ることはなかったのであった。



ある日の放課後。

ここはパソコン部の部室。


長島「今日オレ3ちゃんねるにトピをたてたんだ。」

原「へえー、どれどれ。」


原はパソコンで長島のたてたトピを探していた。


原「あった!これだね。」

長島「おう、それそれ。でも実名は止めておけよ。けっこうヤバイからさ。」

原「よし。それならこれにしよう。」

長島「なんだよそれ。おかしいやつ・・・」

原「いいじゃないか。気に入ってるんだから。」

長島「ああ、まあ何でもいいんだけどさ。」


そこに川上がやって来る。


原「やあ、川上。」


原が手を軽く上げて言った。


川上「何やってるんだ?」

長島「パソコンで検索してるんだよ。」

原「趣味っていろいろあるんだなあ。」


川上が原の前にあるパソコンを覗いた。


川上「ああ、それ知ってる。昨日オレ自宅で見つけたんだよ。」

長島「へえー。早いじゃないか。」

川上「たまたまだけどね。」


ではここで長島のトピを紹介しよう。

あと、掲示板の書き込みを1週間分書きます。


~~~~~  10代の小遣い稼ぎ  <りんご白書> ~~~~~


我等10代は少ない小遣いしか与えられない。これをなんとか100%儲かる方法を皆で考えようぜ!


<青りんご>


5月8日 銀行に預けると利息は付くが、とんでもなく少ない。年利0.3% -> 10万円でも 300円

<みどり虫>

5月8日 リスクが伴うから、高いと儲けも大きいが、やはり危険だな。   <鳶に油揚げ>

5月9日 ヤミ商売も多いんじゃないかな。 例えば「競馬」や「株」かな。    <みどり虫>

5月9日 100%を考えるんで、リスクは0でお願いします。<青りんご>

5月10日 競馬だと、前金もらって、相手の馬券買わないでおいたら・・・・・、たいていは外れるからね。 

<みどり虫>

5月10日 当たったらどうするのかな? <鳶に油揚げ>

5月10日 トータルでは必ず負けるからね。まあ元金は別に必要かも。     <みどり虫>

5月11日 元手さえあれば 馬 もいいかもね。     <青りんご>

5月11日 受け取る時、常に当たった時の返金分の元手で回せればいい。

<みどり虫>

5月12日 それで儲けているブラック企業があるらしいよ     <鳶に油揚げ>

5月12日 あるある。やばい集団(^^;;)<青りんご>

5月13日 なんてったて -> 億単位 らしい・・・<みどり虫>

5月13日 ひえーー>>> それって 凄くない!<鳶に油揚げ>

5月14日 おいらの小遣いじゃ無理だな (。。;)<青りんご>

5月14日 みんなで金を集めるってのは どう ??     <鳶に油揚げ>

5月14日 駄目でしょ! 犯罪!!     <青りんご>


長島「なかなかいい感じになってきたね。」

原「ほんとだ。いいねえ。」


さらに掲示板を続けます。


5月15日 駄目でしょ! 反対!!<青りんご>

5月15日 変換ミス --<<<< !!<みどり虫>

5月16日 もっといい方法ないかな??<青りんご>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

月が変わる。

6月3日 それがいいかも -->> GOOD!!<みどり虫>

6月4日 まずいんじゃないかな<もぐもぐら>

6月4日 わからなきゃ いいんじゃないの・・・<みどり虫>

6月5日 全部犯罪だよ<もぐもぐら>

6月5日 そんなことわかって書き込んでるんだけど・・・<みどり虫>

6月6日 このトピだって訴えられるかも<もぐもぐら>

6月6日 そんなことを思って立てたわけじゃないけど<青りんご>

6月7日 最近はけっこうネット犯罪が多いから<もぐもぐら>

6月7日 だから わかってるんだよ その辺は<みどり虫>

6月7日 そうかな けっこう金集めしようとしてるじゃない<もぐもぐら>

6月8日 あんたにそんなことを 言われたくないね<青りんご>

6月8日 このままだと訴えられるよ<もぐもぐら>

6月8日 もう いいよ 書き込みいらん !!<みどり虫>

6月9日 なんでしきってるのかわからんね トピ主をいじめたいだけ? 

<鳶に油揚げ>

6月10日 間違ってる事だから 書き込んだだけさ<もぐもぐら>

6月10日 なにその 上から目線 !!<鳶に油揚げ>


ここからが大変なことになってきた。


川上「どうなってるんだ。」

原「まったく、何だよあいつ。壊したいのか。」

長島「よし、あちこちパソコンで検索して、あいつの情報を集めようぜ。」


3人は手分けして<もぐもぐら>の情報を集め始めた。


長島「おい、高校生だぜ。場所が東京都○○区」

川上「あ、高校がわかった!」

原「何!すごいね。」

・・・・・・・・・・・・・

長島「ははあ、ここの高校か。」

原「クラブもわかった。同じコンピュータ部だ。」

川上「よし、あとはクラブ部員の絞込みだけだな。」


・・・・・・・・・・・・・


原「先日秋葉原で打ち上げやったってさ。」

長島「ほんとだ。打ち上げの時の写真まで載せてやがるぜ。」

川上「じゃ、この写真のどれかだな。」

原「まあ女子は省いてと・・・」

長島「他の情報を集めよう。」


・・・・・・・・・・・・


川上「あったぜ。半年前にクラブで旅行に行ったらしい。」

原「ああ、初詣かあ。」

川上「みたいだ。」

原「じゃあ、その時の出席メンバーで少し絞れるな。」

長島「あー、あと5人だ。」

原「これだ、これ。誕生日までわかったぜ。」

長島「よし、これで行こう!」


こうして3人は<もぐもぐら>の高校に向かった。



ここはその〇〇高校。

この高校では何故か休みの日曜日に半日だけ部員が集まっているらしい。

その休みを利用したのだ。


長島「よおし、ここだな。」

原「とりあえず、待ち伏せしようぜ。」

川上「そうだな。」


やがて校門に2、3人の男子がでてきた。

3人ともトレードマークのB5カバンを持っていた。


大きな木の影に隠れていた長島たちは、


長島「ほうら、あのカバン。コンピュータ部のトレードマークになってるやつだ。」


長島たちは3人の跡を付けた。


途中で3人がバラバラに別れた。


原「よし、今だ。」


長島は残って、他の男子の跡をつけた。


川上「ちょっと君。」

男子1「はい。」


男子は振り返って、川上たちを不思議そうにみた。


原「悪い、今アンケート調査をやってるんだけど、誕生日教えて欲しいんだけど・・・あ、月だけでもいいからね。」

男子1「オレ9月。」

川上「そう、ありがとう。」


すぐに原と川上はその場から消えた。


男子1「なんだ、あいつら・・・」


こちらは長島。

携帯でメールしてすぐに川上たちも追いついた。


川上「ちょっと君。」

男子2「はい。」


男子は振り返って、川上たちを不思議そうにみた。


原「悪い、今アンケート調査をやってるんだけど、誕生日教えて欲しいんだけど・・・あ、月だけでもいいからね。」

男子2「オレ7月。」

川上「そう、ありがとう。」


すぐに原と川上はその場から消えた。


こうして最後の1人になった。


原「これが外れるとショックだよな。」

川上「まあな。確率の問題だからなあ。」


長島たちの勘はは良かった。


川上「ちょっと君。」

男子3「はい。」


男子は振り返って、川上たちを不思議そうにみた。


原「悪い、今アンケート調査をやってるんだけど、誕生日教えて欲しいんだけど・・・あ、月だけでもいいからね。」

男子3「オレ11月5日。」

川上「そう、ありがとう。」

長島「君だね。もぐもぐら・・・」

男子3「え!」


男子は急に聞かれて驚いた。


男子3「な、なんなんですか?」


この後3人が寄ってたかってこの男子を追及した。


男子3「や、止めてくださいよ。なんでこんなことになるんですか?」

長島「別に金を取ろうとしてるわけじゃない。」

原「名前教えてよ。」


しばらく口論が続いたが、結局男子は自分の名前と住所を打ち明けた。


その後掲示板には、川上たちがやたら<もぐもぐら>を実名で書き込み始め、とうとう<もぐもぐら>は長島のトピに書き込むのを止めたのであった。




第4話


5月中旬。

しばらく学校を休んでいた由紀子が久しぶりに学校に行った。


ここはA2クラス。

由紀子がゆっくりと教室の扉を開けた。


ローラ「あれ?由紀子、久しぶり。」


教室の他の生徒は特に気にせず勝手気ままにそれぞれの相手と喋っていた。


由紀子「おはようローラ。」

ローラ「どうしたのか心配してたよ。」

由紀子「ありがとう。」


ローラは由紀子の体型を見て、ちょっと太ったことには気づいていたが、あえて言わなかった。

由紀子は豊の方を気にしながら見たのだが、豊は由紀子の事などまったく気にせず友だちと話していた。


由紀子は久しぶりの学校だったので、まずは慣れるところから始めた。

体調も今ひとつパッとしないので、クラブはしばらく休むことにした。



やがて6月になり、由紀子はクラブにも参加するようになった。


ところが悪夢の再来か、下校して歩いて帰ると、いつの間にか違う道を歩いてしまい、そしてあのスナックの前に立っているのであった。


由紀子「ああ、どうしよう・・・私やっぱり病気なのかな・・・」


うな垂れる由紀子だった。



そしてその後、数日経った帰り道。

やはりここはあのスナックの前。


その日は豊が1人で入って行った。

しばらく由紀子は少し離れた場所からスナックを見ていたのだが、我慢が出来なくなったのかスナックの扉を開けてしまった。


中は少し薄暗く、人影しかわからなかった。

どうやら豊は由紀子が入ってきたことに気づいていないようだった。


奥に進むとカウンターが左に、右にテーブル席がいくつかあった。

人影はカウンターの真ん中に1人ぼんやりと見えたのである。


気づかれないように由紀子はそのカウンターに近づいた。

それでもその人影は由紀子に気づいていない様子だった。


由紀子は思い切って、その人影の隣に座った。

確かに横に座ると、隣が男の人だという事がわかった。


由紀子「・・・・・・」


急に男が由紀子に抱きついてきた。

が、由紀子は無抵抗だった。

抱かれた時、すぐに豊だとわかったからだ。


そして運が良かったのか悪かったのか、このとき由紀子はリバウンドのためかかなり太っていた。

それが夏美の体型と似ていたのであった。


豊「待ってたんだよ。最近来ないからさ。」


豊は由紀子の体を撫で回した。



1時間くらい経っただろうか、スナックから由紀子が出てきた。

そして急いで自宅に帰って行った。


悲しいかな豊は店の電気を付けずに楽しんでいたためか、まさか由紀子とは知らずにいたのであった。



この先大変なことなのだが、由紀子はほぼ毎日スナックの前に立ってしまうのであった。

そして時々店に来る豊を見て、その日には店の中に入って行ったのであった。



しかしいつまでもバレない訳はなかった。

ある日由紀子の後ろから抱きしめていた豊は、ハッとした。そしてすぐに後ずさりしながら、


豊「え・・・そ、そんな・・・」


豊は急いで電気を付けようとした。

それに気づいた由紀子は素早く店を出て行った。


豊はあせっていてズボンがすぐに穿けなかったのか、電気が付いた時は、店には誰もいなかったのであった。



その日から数日経った、夏休みが近づいていたある日。

ここはあのスナックの前。

由紀子はようやく2人を目撃する。


由紀子「やっぱり・・・」


夏美の姿を見てしまった由紀子は、うつむきながらゆっくりと自宅に帰るのであった。


ギャー!!!!!

由紀子は気づかずに野良猫のシッポを踏んでしまった。



ここは柏木家の2階。夕食後のことであった。


めぐ「どうしたのよ急に、話って。」

由紀子「私ね、バレー部やめようかと思ってる。」

めぐ「何でだよ。せっかく練習も調子に乗ってきた所だし・・・それに体調も戻ってきてたじゃない。」

由紀子「よくわからないわ。でももういいの・・・止める事にした。」

めぐ「ん・・・どうやら本気みたいね。」


めぐはかなり落ち込んだ。

そして窓のところにいって、窓を開いて、


めぐ「今日は星が綺麗だわ。」


そう言いながらしばらく星空をじっと眺めるめぐであった。


めぐは心がフワフワしている由紀子を毎日少しずつ説得しながら、なんとかバレー部を続けさせることに成功した。


一方で由紀子は豊のことを早く忘れるべく、写真部にも入ることにした。


この学校では文化部と運動部の掛け持ちは認められていたのである。

写真部には1つ上のクラスの西堀がいた。



やがて日毎に由紀子は西堀に興味を抱き始める。


そして彼とのデートはいつも公園だった。



ある日。ここは南高針公園。

学校から一番近い公園である。


西堀「由紀ちゃん、どう?だいぶ慣れたかなあ?」

由紀子「うん、まあ・・・なんとか。」


曖昧な返事の由紀子だった。


西堀「先日の自由のテーマで撮った犬の写真はけっこううまく撮れてたよ。」

由紀子「ありがとうございます。」


・・・・・・・・・・・・・


他愛も無い会話が延々と続く。


西堀「じゃ、ぼちぼち帰ろうか?」

由紀子「はい。」


いつもデートは同じ公園、そして同じような会話が続いた。


そして西堀は手も握らない誠実な男だった。

豊とはまったく異なる男性像に由紀子はだんだんと心が傾いていくのであった。


しかしいくらデートを繰り返しても、絶対に手すら握ろうとしなかった西堀。


雨の日になるとカフェに入ることもあった。


ただ由紀子がせっかく忘れようとしていたはずが、残念ながら学校では由紀子の前を平気で通り過ぎる豊だった。

そのためか再びそれがストレスとなりまたしても太っていく由紀子なのであった。



ここは柏木家。夕食の時。


めぐ「何、由紀子。またやけ食い?」

由紀子「ほっといてよ。」

めぐ「体重計が壊れなければいいけどね。」


笑いながらめぐは言った。


由紀子「失礼ね。それが姉の言う台詞。」


にらみつける由紀子。


めぐ「心配して言ってるんじゃない。」


めぐの軽い言葉に、


由紀子「そうとは思えないけど・・・」


由紀子はさらにムッとした表情に変わっていた。

めぐはさっさと食べて自分の部屋に入ってしまった。


母「なあに、またダイエットすればいいことだから。」


母はゆっくりと漬物を箸でつまみながら話した。


由紀子「そうだよね。ほんと・・・」


由紀子はさらにご飯をお替りしていた。



やはり予想は的中したのである。

3ヵ月後、由紀子のダイエットが始まるのであった。



一方こちらは西堀家。

夕食後美紀と母親がリビングでTVを観ながら話していた。


美紀「母さん明日の天気は?」

キャスター「晴れです。」

母「晴れだって。」


美紀「そうかァ・・・じゃ体育だ。」

母「いやなの?」

美紀「うん。だって嫌いなバスケットボールなんだもん。」

母「ふう~ん。中学の時はそんなにいやがってなかったでしょ。」

美紀「急に嫌いになることもあるの。」

母「よくわかんないわねぇ・・・」


美紀「で、明日の夕食は?」

母「デミグラソースのオムライスとシーフードサラダです。」

美紀「よし、早くお風呂入って寝ようっと。」

母「急に元気が出るのね。」




第5話


7月中旬の夏休みに入る直前に高校バレーボール地区大会が花園学園大学の体育館を利用して行われた。

ところがこの大会の2日前にバレー部男子の中心人物が練習中にころんで腕を骨折し、大事な試合に出れなくなってしまった。


仕方なくバスケ部の西城がピンチヒッターで出ることになった。

通常は許されないのだが、今回高校体育連盟の役員の数人が花園学園大学の教授だった事から、裏でいろいろ調整があったようだ。詳しくはわからないが、今回に限りピンチヒッターが認められた。


地区大会の当日はさらに活気付いた。

西城が出ることが急に決まって、女子高生たちがまたここに集結することになったからだ。


生徒1「やっぱいいわよね。」

生徒2「ほんとほんと。オールマイティだもん。」

生徒1「あー付き合ってくれないかなぁ・・・」

生徒2「ここにいる女子はみんなそう思っているよ。」

生徒1「そうよね、敵多し。」

生徒2「ほんとほんと。」


ところがほんとに急だったので準備不足だったのか、それとも体調が悪かったのか、西城のクイックが要所要所でなかなか決まらず、決勝戦までいきながら、それもかなりの接戦までにはなったのだがついに負けてしまったのだ。


めぐ「どうしちゃったんだろう?」

夏美「ほんとだね。おかしいよね。」

めぐ「きっと何かあったんじゃないの。」

夏美「そんな雰囲気だよ。」


この日は夏美にとっては西城はどうでも良かった。

それより豊の方が気になっていた。


豊は補欠だったので、先輩たちのタオルや用意したレモン水を試合途中のタイムの時に選手に渡していた。


揺れる女心からか、夏美はこの頃頭の中で西城と豊がシーソーのように胸が高鳴り、また振り子のように瞑想が行ったり来たりしていたのだった。



この日西城は校門を出る時も友達に何も言わず1人で帰宅した。

このせいかこの日のバレー部の打ち上げは無かった。



そして数日後西城はバスケ部キャプテンを辞退することにした。


ところでバレー部女子の試合の方は、しっかり準決勝まで入る事ができたので全国大会に出場が決まったのであった。



ここはA2クラス。

昼休みにB3クラスの加藤がやってきた。

加藤はそのままローラのところに行って、


加藤「今年の演劇で洋画の『卒業』をやろうと思うんだけどさ、ヒロインがいないんだよ。やってもらえないかなあ?」

ローラ「ん・・・いいよ。でも台詞多いと駄目だからね。」

加藤「まあ、しかたない・・・」


こうして演劇部のヒロインが決まった。



夏には毎年恒例の花火大会が東中野商店街近くにある中野北公園で今年も行われた。

公園だけでは場所が狭いので、近くの中野神社の境内や広場も縁日や櫓に利用されていた。

また公園がさほど広くなかったために、花火の打ち上げ場所は公園から北に2キロほど山よりにいったところで今年も準備された。


何やらやかましい一団が歩いていた。

>>やっぱり来たか。


光「いえーい!いえーい!いえーい!おー!おー!おーーー!!」


叫んでいるのは光だけだったが、あまりの大声だったので一緒に来ていた吉永にとっては迷惑千万だったようだ。


吉永「お前と来るんじゃなかったよ、まったくもう2年目だぜ・・・。」


そんな吉永の言葉さえ気にしない光は、通り過ぎる女子中学生や高校生を見つけるたびに話しかけていた。


光「ねえねえ、ちょっとそこの丸いおねえさーん、可愛いねぇ。どこから来たのかな?」


由紀子は急に鳥肌が立ったようで身震いしながら、


由紀子「きゃー!きもい・・・」

光「何それ、オレお化けじゃないよお・・・ほらあ。」

>>お化けの方がましかも・・・


由紀子のすぐ後ろの方から、


めぐ「ちょっとちょっとぉ、何カモってんのよ、まったく。いい加減にしなさいよ、私の妹よ。早く覚えろっちゅうねん!」

光「ひやー!これはこれは・・・」


そこにいたのは同じ高校のバレー部の3年生柏木めぐだった。


めぐ「相手間違えてるんじゃないの?何なら私が相手しようかぁー!」

光「失礼しました!」


柏木姉妹は関わりたくなかったのでさっさと消えて行った。


呆れているのは一緒に来た吉永だった。

大好きな1リットル入りコーラをまた一気に飲み干していた。



9月。今日は今月の最初の授業。

1限目は山中先生の国語だった。地味なダークグレーの背広に紺色の斜めのストライプが入ったネクタイさらには黒の皮ベルトのいつものスタイルだった。


山中「はい、では今日は古典文学をやります。」

全員「アーア・・・」

山中「今日は枕草子の初段ですね。」


ほとんどの生徒はいやいやながら教科書を開いた。


原「意味わかんないよ。」

山中「ではまず私が読みますので、聞いていてください。読めない漢字にはふりがなを入れましょう。」


こうして山中は『枕草子』初段を朗読し始めた。


山中「春はあけぼの・・・」


生徒は周りをまったく気にせず、それぞれの私事作業をしていた。


山中「で、この初段は丸暗記してもらいます。」

全員「えー!!」


山中「来週何人か当てますので、頑張って下さい。」

川上「先生、こんな古典なんか覚えても役に立つのかなぁ?」

山中「そんな事言ってたら、ほとんどの教科に疑問を抱くのでは・・・」

原「そうだ、そうだ。」

長島「ポケモンの進化形なら覚えられる。」

原「おい、それって小学生じゃん。今は妖怪ウォッチだぜ。」

川上「しかもそれも小学生。」

長島「じゃ、俺たち何を覚えるんだよ?」

原「RPGの攻略法でも覚えろよ。」

川上「それゲームじゃん。つまらねぇ・・・」


山中「はい、静かに。ではこの初段の意味を説明しておきます。」


山中は生徒の反論にまったく対応せず、マイペースで授業を進めていったのである。



ある日の朝の柏木家。由紀子が起きてきて母がいる応接間に座った。


母「どうしたの顔色がよくないじゃないの。」

由紀子「うん、ちょっと・・・」

母「病院に行ったら。」

由紀子「う・・・ん・・・」

母「無理しちゃダメだよ。」

由紀子「でも学校があるし・・・」

母「何言ってんのよ。体の方が大事よ。ほらすぐに病院に行こう。私も行くから。」


こうして由紀子は母と一緒に高脇病院へ行ったのである。


由紀子「何でこの病院なの?」

母「家から一番近いからさ。」

由紀子「ふうん・・・そう・・・」


由紀子は友達から高脇病院のうわさを少しだけ耳にしていて、あまり良くないと知らされていたのだった。そして母はその事を知らなかったようだ。


診察が終わって薬を病院のすぐ隣にある薬局で受け取った。


母「今は違うんだねぇ。私の若い頃は病院の中で薬を受け取っていたよ。でも高脇先生も息子さんの世代に代わったのねぇ。私のときはあの先生のお父さんが担当だったから。」

由紀子「あの先生ってほんとにお医者さんなのかな?」

母「ちょっと由紀子、何言ってるの。医者になるのは大変なのよ。大学出なきゃいけないし、勉強もむつかしいんだから・・・」


由紀子「だって今はお金さえあれば大学行けるし、お金さえあれば卒業できる。」

母「もう・・・変な子。」

由紀子「母さんの考えが古いんだよ。今は医学部に行くのに家庭教師をつけてしっかり特訓して、入学さえすればあとは卒業の時にまた特訓して、そして医者になるのよ。実力じゃないし・・・」


母「ふうん・・・。よくわかんない・・・」

由紀子「かもね・・・」


由紀子は呆れてそれ以上は話さなかった。


やがて家に戻った親子は今日の夕食の話をしていたのであった。



夕食後由紀子は薬を飲んだのだが、胸が貼り付けられそうな症状になり、しばらく自分の部屋でベッドに横になっていた。

そして友達のローラにメールを送った。


ローラ「それやばいんじゃないの? 薬が怪しいよ、きっと。」

由紀子「私もそう思う。だからもう薬飲むの止めるわ。」

ローラ「それがいいって。それと別の病院に行った方がいいんじゃない?」

由紀子「うん。明日体調が悪かったらそうするわ。」


こうしてローラとのメールのやり取りがあって、由紀子は翌日母には元気になったから学校へ行くとウソをついて、ローラに教えてもらった総合病院に行くことにしたのであった。


この病院では担当のドクターが丁寧に説明して、帰りに別の薬をもらうことになった。


由紀子はこの夜新しい薬を飲んで、2日後体調は元に戻ったのであった。


>>由紀子の教訓 ・・・ 『医者もピンきり』


由紀子は古い方の薬を袋に入れてゴミ箱に捨てた。しかし母はしっかり高脇病院のおかげだと信じているのであった。



秋の芸術祭は例年通り週末に行われた。

今年のテーマは『協調』だった。

今年も昨年と同じく校門前に大きなコラージュアートが見学者を出迎えていた。


さらに講堂では迷惑なくらいやかましい高校生バンドの生演奏が今年も昨年と同じくらいに校内中にズシンズシンと響いていた。


校舎の2階では、パソコン部の似顔絵コーナーが人気だった。

カメラで写真を撮り、それをイラストに変換するというもので、多くの生徒は自分の顔を撮ってもらっていたのだ。


長島「はい、順序良く並んでください。」


大きな長島の声に生徒たちが一列に並び出した。一方窓側では、


川上「はい、こちらが出来上がりです。」


川上は出来上がった似顔絵を生徒に渡していた。


となりの写真部では、数枚の写真をパネルにして展示していた。

しかし教室には部員は誰もいなかった。


一方こちらの音楽室では演劇部の「卒業」が熱演されていた。観客の中に由紀子がいた。


由紀子「あ!ローラだ!でもまあたいした事はないなあ。でもあの主人公は誰かな?」


由紀子は主人公役の加藤のことが気になっていた。



芸術祭が終わった後、多くの生徒が文化祭の打ち上げを近くのファミレスでやっていた。


ここはパソコン部のメンバー。

テーブル中央にはポテトの山。あと、ピザの残骸があった。


川上「なかなか盛況だったよね。」

長島「ほんとだ、けっこう良いソフトを作ったよなあ。」

原「来年が楽しみだよ。」

川上「ほんとだ。」


ところでバレー部の打ち上げは、やはりカラオケ店でやっていた。


めぐ「ファミレスはうるさすぎるからね。あんなところでよくやるよ、まったく・・・」

夏美「ほんとですよね、今年もほとんど1人がはしゃいでるみたいで。」


バレー部は一度リトル・キッチンには行ったのだが、やっぱりうるさすぎるバスケ部の騒がしい声に我慢が出来ず、今年も場所を変えてカラオケ店にしたのであった。


めぐ「はい、じゃ最初に乾ぱ~い!!」

全員「乾杯!!」

めぐ「じゃ、私から歌うわよ。」

夏美がマイクをめぐに渡した。


由紀子は自分の携帯の待ち受け画面の西堀とのツーショットをずっと眺めていたのだった。


・・・・・・・・


やがて女子バレー部の打ち上げが終わっていった。


ところで男子バレー部の方はと言えば、メンバーの意見の食い違いで場所が決まらず、止める事にしたのである。



数日後。ここは校長室。


教頭「呼ばれましたか?」

校長「ああ・・・」


校長は座ったまま右手で机の真ん中を軽く叩いていた。そのリズムが何となく2拍子から急に4拍子に変わった。


校長「この間の芸術祭で、講堂でやっていたバンドの演奏なんだが・・・」

教頭「ああ、女性ボーカルで最近流行のハードロックをやっていた連中ですね。」

校長「それはいいが、近所の住民から苦情が来てね。」

教頭「え?何と・・・」


校長「やかまし過ぎる。言ってる事が無茶苦茶だと。何やら『音楽は爆発だ』とか言って叫んでいたとか。」

教頭「『音楽は爆発』・・・そのまま演奏で爆発してしまったか・・・」

校長「冗談言ってる場合ではないよ。来年は中止してくれたまえ。」

教頭「はっ、承知しました。」


教頭は部屋から急いで出て行った。

校長室の扉を閉めながら、


教頭「『芸術は爆発』だよな・・・まあ音楽も爆発していいか・・・」


教頭は訳の分からない悩みを抱えながら職員室へ戻って行った。



この日の放課後。ここは下駄箱。

由紀子が誰かを待っているような様子だった。


演劇部の加藤と近藤が一緒に帰ろうとしていた。


近藤「あれ加藤?あそこに誰かいるんじゃないか?」

加藤「どこ?」


声がしたのか、由紀子はとっさに隠れた。


加藤「いないよ。さ、行こ。」


2人はいつもの帰り道を歩いて行った。


由紀子「加藤君って言うのかぁ・・・」


由紀子は芸術祭のとき、顔は覚えたが名前は知らなかったのだった。



数日後、加藤の下駄箱に小さな手紙が入っていた。


加藤「何だ?」

近藤「どうした?」

加藤「いや、なんでもない。」


加藤は近藤に気づかれないように手紙を自分のカバンに素早く入れた。


やがて帰宅した加藤は自分の部屋で手紙を読んでいた。


加藤「ふうん。なんだよ、劇が良かったからって、別にどうでもいいじゃん。」


由紀子の手紙はデートの誘いだったが、加藤は全然興味がなかったのでその手紙をすぐにゴミ箱に捨ててしまった。



11月の下旬。

下校のとき、近藤と加藤、由紀子がたまたま一緒になった。


加藤ら2人はいつものようにギャグを飛ばしながら会話が弾んでいた。

由紀子はしばらく2人の会話を聞いていた。


そしてその会話の中で、2人のうちどちらが加藤先輩なのかがわかるようになった。


少しして由紀子は急に2人の前に出た。


加藤「わ!なんだよ・・・」


びっくりした加藤は立ち止まった。

由紀子は加藤の顔をじっと見てそのままスキップして先に帰って行った。


由紀子「なんだ、たいした事ないじゃん。」


由紀子は加藤の顔が気に入らなかったようだ。



12月に入った。

ここはスーパー「ゲキヤス」にあるいつものカラオケの店。

店では数人の男子がたむろしていた。

その中に豊もいた。


さおり「ん?あの子は確かバレー部の・・・」

幸代「ああ、今野君よ。」

さおり「そうだよね。でもここでよく見るから。」

幸代「でも他の男の人たち、ちょっと目つきが変ね。2人はタバコ吸ってるし・・・」

さおり「どう見ても学生には見えないね。さ、行こうか。」



クリスマスが近づいてきたある日のこと。

夏美は豊にメールを送ったのだが、まったく返事が返って来なかった。

学校も休みに入ったので会うこともなかったし、クリスマスを1人で過ごすのがいやだったのだ。

しかし何度と無く送ったメールだがまったく音信不通になってしまった。


ベッドから降りた夏美は、実物大の犬のぬいぐるみを思いっきり壁にぶつけた。


夏美「しかたないなあ。」


自分の部屋の窓の外を1日中眺めている夏美であった。


しばらくすると外では小さな白い粒が空から落ちてきた。



いよいよクリスマスの当日。


夏美「私って結局ひとりぼっちなのかな・・・」


そんなモヤモヤした気持ちを静めるために、夏美は1人街に出歩くことにした。

これまででもけっこう一人歩きは多かった。


今回は賑やかな表通りを通らずに人通りの少ない裏の路地を歩いていった。


そしてどういうわけか静かな東中野商店街のFFバーガーの前で豊に偶然出会ったのであった。


豊はハンバーガーを立ち食いしていた。


豊「やあ。」


夏美は少し驚いた様子で、


夏美「こ、こんなところで・・・」

豊「時々ここに来るんですよ。」


豊は冷静沈着な趣で話した。


夏美「そうなの?でも今日はやけに丁寧なのね。」

豊「何、何か?」


首を傾げる豊。


夏美「言葉が・・・」

豊「いつもこんな感じじゃなかった?」

夏美「全然。全然違うよ。」

豊「そうかなあ。」


なかなか2人の会話が噛み合わなかった。


少し経って、


豊「ここは昔よく母さんが連れてきてくれた場所なんだよ。」

夏美「へえ・・・そうだったんだ。」


周りを見渡しても、さほどムードのある場所でもなかった。

あると言えば近くに神社前の広場があって、ベンチが2つばかあるだけである。


豊「ん、何か変ですか?」

夏美「い、いやそんなことはないけど・・・」


夏美はさっきから豊の話し方が気になって仕方が無かったのだ。

しかし豊はそれにまったく気づくこともなかった。


豊「もし1人なら一緒にデートしませんか?」

夏美「見ての通り。ついてくわ。」


こうして夏美は大切なクリスマスをなんとか1人で過ごすことから開放された。


2人は大通りの方に歩いて行った。

クリスマスとあって街中が鮮やかな装飾で彩られていた。


夏美「き、綺麗だわ・・・」


夏美もこの街の灯りのように、ずっと輝いていたいと思った。


豊「夏、本当にオレだけが好きなのか?」


豊が少しうつむき加減で話した。


夏美「何急に・・・びっくりするじゃん。」


2人の会話が普段に戻っていたのだ。


夏美「わ、わからないわ。プロポーズされた訳でもないし。」

豊「じゃ結婚を考えてくれる可能性はあるのか?」

夏美「今はまだ無理よ。学生だし、世の中のことが全然よくわかんない。私ずっと迷ってるのよ。」

豊「迷ってる?」

夏美「そう。男と女って、くっついたり離れたりして、私たちだってそうじゃない。又いつ別れるかもわかんないし。」

豊「だからプロポーズってことか・・・」

夏美「ん・・・よくわかんないけど、そうなのかもしれない。女って守ってくれないと、きっと又どこかへ行っちゃうのよ。たぶん、そう。そう思う・・・」

豊「ん・・・???まだ理解できない。」

夏美「いいんじゃない、まだ10代なんだし。私たちはそれなりには付き合っているじゃん。」

豊「それなり・・・このままってことか?」


豊はやや上向きに顔を上げて話した。


夏美「ん・・・どう進展するのかも今のところわからないわ。まずは男は包容力じゃないかしら。私今日まで一度も包まれたことないわ。そんな実感をしたことがないの・・・」

豊「ん・・・よくわからないなあ。別に男が働けば生活はしていけると思うんだけどなあ。」



2人は手をつないだ。

今年もまたこの街には山下達郎の「クリスマスイヴ」が流れていた。


そして2人は明るく眩しいネオンの輝くホテル街の方に歩いて行ったのだった。

>>しばらく音信不通だった訳を聞くの忘れてない?



クリスマスに少し離れた南高針地区を流れる高針川の河川敷で昨年からイルミネーションが見られることを知ったローラは由紀子と見に行くことにした。


由紀子「綺麗だね。」

ローラ「ほんとだ。」


2人はほとんど身動きもせずじっとイルミを眺めていた。


やがて、


ローラ「そうそう、来年なんだけど、バレンタインのクッキーを一緒に作らない?」

由紀子「うん、いいよ。」

ローラ「私が誘ったからうちでもいいかな?」

由紀子「えーいいの?」

ローラ「うん、お母さんに話してあるんだ。」

由紀子「じゃあ今日って・・・」

ローラ「そうなんだ。お願いしようかなって・・・」

由紀子「いつでもよかったのに。」

ローラ「でも、由紀子はけっこう忙しそうだから。」

由紀子「ありがとう。でも最近はそうでもないんだよ。」

ローラ「どうかな。」


ローラは由紀子の性格をよく知っていた。


こうしてそれぞれの2人はイルミネーションを思い思いに楽しんでいた。

さらに川面にも色取り取りのイルミネーションが美しくしとやかに、そしてときに鮮やかに時間と共に写って、まるで大きなキャンバスに描かれた動画のようだった。




第6話


翌年2月。ここはローラの家。


由紀子はローラに誘われてバレンタインのクッキー作りを一緒にすることにしたのだ。

キッチンにはやたら材料やら、器具やら、レシピの紙が散乱していた。


ローラ「うーん、この通りやってるんだけどね。」


ローラはレシピの紙を眺めながら言った。


由紀子「うまくいかないね。」


由紀子はしばらく悩んでいたが、


由紀子「仕方ないわ、もう1回やり直そうよ。」


こうして2人は試行錯誤しながら3時間かけてようやくそれなりの手作りクッキーを完成させたのであった。


ローラ「由紀子はやっぱり西君だよね。」

由紀子「そういうローラは誰なのかな?」


ローラは笑いながら誤魔化していた。


2人の楽しい笑いと話し声はけっこう長く続いた。

そして片付けも終わると、ローラの家の玄関で2人が立ち話を始めた。


ローラ「来年も作ろうよ。」

由紀子「そうだね。今度はバッチリだからね。」


怪しいながらもレシピをしっかりマスターした2人は、すでに来年のモードに入っていたのであった。


由紀子はローラの家を後に自宅に向かった。


途中の公園で小さな猫を見つけた。


由紀子「あっ可愛い・・・クッキー食べる?」


由紀子は失敗した分のクッキーの袋から小さな破片を1つ取り出して猫にあげた。

猫は1度はその破片に近づいて匂いをかいだが、急にどこかへ行ってしまった。


由紀子「えー、猫も食べてくんないの・・・(^^;;)」


ちょっとショックな由紀子であった。



翌日学校の西堀の下駄箱には小さなキャラクタ入の箱がリボンで結んで入れてあった。



春休みのことだった。

体の異変に気づいた由紀子は西堀に相談する事にした。


ここはいつもの公園。


西堀「どうしたんだい、急に呼び出したりして。」


西堀は心配そうに由紀子を見つめた。

由紀子「なんだか体の調子がおかしいの。」

西堀「じゃあ、病院に行った方がいいんじゃない。」

由紀子「一緒に行ってくれる?」

西堀「いいけど。」


西堀はとても優しかった。

由紀子に知り合いの病院を紹介して、すぐに2人はそこに行ってみた。


診察後。


医者「君。まだ高校生だよね。」

由紀子「はい、そうです。」

医者「お腹が大きい事は知っていたのか?」

由紀子「なんとなく。」

医者「で、どうするの?」

由紀子「産みます。」


由紀子は豊の子供を産む事に決めたのであった。


医者「お母さんには?」

由紀子「いえ、内緒でお願いします。」


医者はてっきり西堀の子供だと勘違いして、両方の親には内緒で出産させることにしたのであった。

さらに、


由紀子「西堀君にもまだ言わないでください。」

医者「どうして?」

由紀子「私から言います。」

医者「わかった。」


こうして由紀子の出産を知るのはこの病院の医者だけであった。

ただ、この赤ちゃんをどうやって育てるのか、その問題が残された。


親切な医者は東京都郊外にある有名な赤ちゃんの預かり所を紹介してくれた。

由紀子は1人で赤ちゃんを抱いてそこに行った。



ここは預かり所。


所長「はい、聞いてますよ。さあどうぞ。」


詳しい話はすでに医者が所長に電話で伝えてあったので、由紀子は悩まずに預ける事が出来たのである。


所長「いろいろ人には事情があるんですよ。でもシングルマザーもなかなか大変ですよ。頑張ってくださいよ。」

由紀子「はい、わかりました。」


このとき由紀子は好きな人のためなら何でも出来る事を知ったのであった。



翌年、学年が1つ上がって。


6月。ここは西堀家。


父と源太が夕食後TVを見ていた。


父「また今年もか・・・」

源太「どういう事なのかよくわからないよ。」

父「国会議員は〇〇費という経費を給与とは別で無条件に月100万もらってるんだよ。」

源太「ゲ!月100万も・・・」

父「ああ、つまり年間1200万ってことだな。給与を合わせると2000万にもなる。」

源太「そんなにもらってんの?」

父「そうだよ。それも我々の税金だからなあ・・・」


源太「その経費って何に使うの?」

父「名目は地元の応援者との交流とか理屈を言ってるけど、事実はまったくわからない。誰も調べないからなあ。」

源太「そうっかあ、だから外車を買う新人議員がいたんだ。」

父「そうそう、選挙中は自転車で遊説していたくせにね。」

源太「これが現実なのかァ・・・」


父「残念だけどな。真面目な人ほど損をするようになってるのさ。」

源太「じゃあ皆悪い人ばかりになっていくね。」

父「そういう事だな。」


源太はかなりショックを受けてしまった。そして好きなレモンソーダを飲んだ。

父「源太、しかしうちだけでも真面目に頑張ろうじゃないか。」

源太「うん、そうだね。」


父「世の中1000人いたら、そのうち2人くらいはまともな人がいるって・・・」

TVのニュースではまた新しい独立法人ができたとキャスターが台本の棒読みをしていた。

この日、父はいつもより多く酒を飲んだのであった。


一方こちらは母と美紀。こちらも母がTVを観ていた。


美紀「母さん明日の天気は?」

キャスター「たぶん晴れです。」

母「晴れだって。た、たぶん・・・?」

美紀「そうかァ・・・じゃやっぱ体育だ。」

母「いやなの?」

美紀「うん。だって嫌いなバスケットボールなんだもん。」


母「ふぅ~ん。中学の時はそんなに嫌がってなかったでしょ。」

美紀「急に嫌いになる事もあるの。お母さん昨年も同じこと言ってるよ。」

母「そうだったかしら、よく覚えてないわ・・・」


美紀「で明日の夕食は?」

母「あなたの好きなオムライスとポテトサラダのフルーツあえです。」

美紀「よし、早くお風呂入って寝ようっと。」

母「やっぱり急に元気になるのね。」



ある日のここは校長室。


教頭「呼ばれましたか?」

校長「ああ・・・」


頭を抱えた校長が、椅子に座ったまま机に両肘を突き、両手を組みその上に顎を乗せながら、


校長「もうすぐ合同キャンプだよな。」

教頭「そうですね。」

校長「君も知っているだろう。」

教頭「ええ、毎回何人か問題になっています。」

校長「頼むよ今回は。」

教頭「は、はい。頑張って問題が起きないように、心得ております。」


校長は椅子を半回転させて、


校長「よろしく。」


教頭は困った顔つきで、


教頭「他にご用件は?」

校長「それだけだ。」

教頭「では失礼します。」


教頭は部屋から出て行った。

校長室の扉を閉めながら、


教頭「ああ、またいやな時期がやって来たわ。」


そうつぶやいていた。



夏休みの最初、3年に1回の学校の行事で部活の合同キャンプがあった。

これは運動部の部活同士の横のつながりを深めることが目的だった。


学年も1年から3年まで多くの運動部が参加した。

このとき2年のグループには豊、松本、桜井、相葉、由紀子が、3年のグループには西城、光、夏美、麗子らが参加した。


担当の山中先生が小さなハンディ拡声器を持って話しかけた。


山中「午前中はオリエンテーリングで、森の中をぐるっと歩いてもらいます。」


山中は生徒代表の1人に地図をまとめて渡した。

その代表は生徒に1枚ずつ地図を配った。


山中「地図にあるポイント地点にはそれぞれスタンプが置いてあるので、この地図の所定の所にそのスタンプを押してください。」


光「おもしろそうだな・・・」

>>実はよくわかっていない。


夏美「あー朝から何で・・・ややこしいことをするんだろう。」

西城「ポイントが20もある。多くないか?」


飛んでいた髪の毛を触りながら西城が話した。

西城の横に麗子がいた。


麗子「ほんと、朝から疲れそうだわ。」


ため息の麗子。


こちらは3人組。

相葉「あーまだ眠いよ。もっとゆっくりしたいよ。」


相葉は両手を大きく広げて伸びをした。


桜井「この際誰かの後ついて行くってのはどう?」


桜井は目を擦りながら話した。


松本「いや、卑怯なやり方はしたくない。」

>>言うねえ。


山中「昼までに全部押して戻って来て下さい。では、スタート!」


生徒たちは塵々バラバラになって歩き出した。



あるポイント地点で麗子がスタンプの場所がわからずにあちこち探していた。


麗子「うーん、どこだろう???」


ちょうどそこへ豊がやって来て、


豊「ここですよ。」


豊は親切に麗子に場所を教えた。


麗子「あ、ありがとう。」


麗子はバレーの練習でみかけた男子としか覚えてなかったが、この時から気になってしまいキャンプの終わりまでには友達を通じて、彼が1年後輩の『のぼる』であることを知った。



やがて昼過ぎには多くの生徒がゴール地点に戻って来た。



キャンプ2日目はフィールドアスレチックだった。

爽やかな快晴の空の下、鮮やかな森の緑が当たり一面を覆っていた。


山中「今日のコースは男子がBコース、女子がAコースです。さあどんどん進んでください。」


女子のコースでは男子と違い、2つの難関である途中のロック・クライミングと最後のウンテイが省かれていた。


光「なんだなんだこれは?」

桜井「これは松本得意でしょ!」

>>自分はどうなのかな?

相葉「オレは苦手だなぁ。」


みんなが話している間に西城はすぐにロープに捕まってすべって行ってしまった。


松本「西城先輩、早!」


数人の男女が西城に見とれていた。


男子のコースでは最後の8メートルもある、長くややアーチ型になった大きなウンテイが難関だった。

何せその前までで疲れがピークになってしまっていて、何度も落ちてやり直す生徒が続出したのだ。


なお、ウンテイのそばではすでにゴールした女子生徒が集まっていた。


そこへ豊がウンテイに挑戦し始めた。

さすがに疲れているのか、何度も落ち、女子の中には、


由紀子「もういいんじゃない。」

幸代「かわいそうだわ。」


と言う生徒がでてきた。

そして麗子がウンテイに近づいて、


麗子「頑張れ!豊!」


麗子は豊を必死で応援していた。

少し無理をしたが、それでもその声に励まされて豊は何とかゴールした。



こうして2日間のキャンプは無事終了した。


この後麗子と豊はクラブ活動の時間に時々鉢合わせすることも多くなった。

そして、そのたびに2人は仲良くなっていったのである。

当然その光景を意識した夏美は、光とその場の勢いのような付き合い方をしていったのである。



ある日の日曜日、スーパー「ゲキヤス」にあるいつものカラオケ店にて。夏美が光をカラオケに誘ったのだった。


光「よ!」


光が相も変らぬポーズで言った。


夏美「待った?」

光「全然。」


まったく気にしない素振りの光だった。

その性格も夏美はよく熟知していた。


夏美「じゃ、入ろうか。」


光は夏美の積極的な性格が好きだった。

このとき、偶然にも別の用事でスーパーにたまたま立ち寄った麗子はこの2人を見つけてしまった。


麗子「あ・い・つ・ら・あ・・」


麗子は夏美に光を取られたのがかなり悔しかった。

ちょうどそこに豊とメンバー数人がやって来た。


麗子「豊!」


麗子は豊を見た瞬間に声が出てしまった。


豊「あ、ああ、やあ・・・」


豊はちょっと照れくさそうにして、他のメンバーに何か一言二言話してから、すぐに麗子のそばに来た。


豊「やあ。」

麗子「なあにあの人たち?」


少し不思議そうにする麗子だった。


豊「いや、中学時代の同級生だよ。」

麗子「ふうん・・・何か学生っぽくないけど。」

豊「みんなもう働いているからさ。」

麗子「そうなんだ。で、今日ひま?」

豊「ああ、いいよ。」

麗子「一緒にカラオケ行かない?」

豊「行くよ。」

麗子「ちょっと用事が済んだらすぐ行くから、先に部屋に入ってて。」


豊は軽くうなずいた。


やがて麗子は用事を済ませるや否や、急いでカラオケの店に入って行った。


こうして光と夏美のデートを目撃してしまった麗子はしかたなく光を諦め1年後輩の豊と付き合い始めた。


が、この豊は元々夏美と付き合っていたことさえ麗子が知るよしもなかったのだった。



今年の夏の花火大会は連日連夜の雨で中止となった。



秋祭りが中野神社で行われた。

神社前の広場ではいくつかの縁日が催されていて、「金魚すくい」、「輪投げ」、「ヨーヨ釣り」などの店に幼稚園児と小学校の1、2年の子供たちがたくさん集まっていたのだった。


ここはまたしても「金魚すくい」の店。


子供「おじさんどいてよ。」

光「何で、オレが先じゃん!」

子供「早く取ってよ。次待ってるんだから。」

光「しょうがないだろ、このアミすぐ破れるんだから。」


子供は光をじっと見て、


子供「あー、このおじさん。昨年もいた・・・!!」

光「いたら悪いかよ。」

子供「もしかして9枚でも取れないの?」

光「うーん、12枚目だな。」

>>へぼへぼへぼ!


泳いでいる金魚たちが大爆笑していた。

また、「ジューシーカラアゲ」、「りんご&いちごアメ」、「フルーツ綿菓子」、「ジャンボフランクフルト」、「ジャンボたこ焼き」、「広島焼き」、「焼きそば、モダン焼き」などの店には、中高生から20代までの若者たちが例年通り多く集まっていた。



神社の奥の方では火の見櫓が置かれ、その周りで盆踊りをするように準備がされていた。

ここで麗子と豊がデートしていた。

2人は神社の境内からゆっくりと右に進んで、奥の方へ向かって歩いていた。


ちょうど大きな杉の木が見え出したとき、


豊「麗子さん、これ以上先は何もないですよ。」


豊は立ち止まり、いつもよりかは早口で軽く話しかけた。


麗子「そう・・・」


何か不思議そうに思った麗子だった。


豊「戻りません?」

麗子「わかった。」


麗子は豊の言うとおりに歩く向きを変えた。

と同時に豊に抱きついてキスをした。

驚いた豊はしばらく思いっきり麗子を抱きしめていた。

麗子は持っていた内輪とヨーヨーを下に落としてしまった。



ある日夏美と豊がひさしぶりに中野南公園でデートをしていた。


夏美「豊、カラオケに行かない?」

豊「いいよ。」


こうして2人は近くのカラオケ店に入った。

しばらく2人はお互い熱狂して歌っていたのだが、豊がトイレに行ったとき、夏美がテーブル横のソファに豊の携帯を見つけた。

そして、ついつい豊の携帯を覗いてしまうのだった。


夏美「な、何これ!」


夏美の表情は真っ逆さまに落ちるバンジーのように変化した。

夏美が見たのは、待ち受け画面にはっきりと麗子と豊のツーショットが写っていたのだ。


その後豊に気づかれないように携帯を元の位置に戻して置いた。

ここから先の2人のカラオケについては読者の想像に任せるものとする。




第7話


秋の芸術祭の季節がついにやって来た。

今年のテーマは『信頼』だった。

今年も昨年と同じく校門前には大きなコラージュアートのはりぼてが見学者を出迎えていた。


さらに講堂では例年には無く一転して美しいコーラスのハーモニーが聞こえていた。


女「では、次はホワイト・マスカットの曲で『インスピレーション・メッセージ』を歌います。」


  窓辺にもたれて 夕べの面影を

  そっと胸に 写し出してみると

  君の仕草が いつもより大人しく見えて

  ・・・・・・・・・・・・・・


女2「最後はスウィート・レモンズさんの『Coco a co』です。」


  昔の夢は消えてしまった 時代をいつも見失ってた

  旅の出会いに涙を流し 輝く星に明日を誓った

  ・・・・・・・・・・・・・・


女3「アンコールの拍手がありませんが、アンコールの曲を歌います。」

会場がどっと笑い転げた。


女「曲はスランプで『消えた恋』です。」


  君の心の奥深くにある一切合切を

  僕はいつでも探りまた手探り 白熱のダイアリー

  ・・・・・・・・・・・・・・


校舎の2階では今年もパソコン部が頑張っていた。

今年のパソコン部は3Dアートがテーマで、生徒が持ってきた写真、イラストなどを、3Dに変換するという物凄いものだった。

スキャナーで原画を読み取らせ、パソコンで処理をして、プリンターで3D印刷するというものだ。


原「はい、押さないで。順番ですからね。」


今年も人気だったのか、教室の半分くらいを女子やカップルの生徒たちが埋め尽くしていた。


長島「昨年より多いや。」

川上「ほんとだね。」


川上はハンカチで汗を拭いていた。


そしてとなりの写真部の展示はまったく人気がなく、テーマについてもやはり昨年と変わりばえがしなかった。


一方こちらの音楽室では演劇部の「忠臣蔵」が熱演されていた。

観客の中に由紀子がいた。


由紀子「やっぱたいした事はないなあ。だいたい女子いないし・・・」


由紀子は最後まで観ないでさっさと出て行った。



さてこちらはグラウンドにある運動部のバザーのブースの一角です。


夏美「はいはいはい、よかったらクレープどうですか!」


そこに光が駆け足でやって来て、


光「やっほー!」

夏美「光、また邪魔しに来たの?」

光「まさか、食べに来たんだよ。」

夏美「ちょっと自分のブースは・・・ほっといていいの?」

光「大丈夫大丈夫V!!」

>>相変わらずのひょうきんなやつ


そこに2人組のお客さんが来た。


由紀子「いらっしゃいませ。いかがですか?」

客1「私やっぱりバナナにしようかな?」


光「あ、それめっちゃおいしいですよ~♪」

夏美「光!邪魔!邪魔!」


夏美は思いっきり光の背中を押して、さらに右足で2度蹴りを入れた。


光「ひぇ~恐いよ。」


光はまたしても追い出された。


客2「私チョコで。」



芸術祭が終わった後、多くの生徒が打ち上げを今年もスーパー「ゲキヤス」の向かいにある「リトル・キッチン」に集まっていた。

そして彼らは窓際の一角を再び占拠していた。


光「おーい!皆乗ってるか?」

松本「何なんだいったい?」

桜井「あの元気はいらないよね。」

相葉「また、聞こえるよ。」


突然光が立ち上がり、


光「おーら、そこ!何か言ったか!」

松本・桜井・相葉「何も言ってません~♪」

西城「ハモってやんの。」


店員さんが席に来た。


西城「ハンバーグで、チーズ150、エッグ150、ガーリック200、和風200お願いします。」

店員「あれ?1つ足りないですけど。」

西城「あ、それだけでいいです。」


店員が不思議そうに戻って行った。


しばらくして、店員がハンバーグを持ってやって来た。


光「あれ?オレのは?」

西城「自分で頼めよ。」

光「ちょっと店員さん。ステーキ300とハンバーグ150。」

相葉「そ、そんなに食べる・・・」

松本「胃袋が牛かなあ。」

桜井「まあいいじゃん。今回限りなんだし。」

>>それってどう言う意味かな?


西城「さあさ、先に食べて帰ろう。」


西城は光のことをまったく気にかけずに話した。


相葉「はい。」


光を除く部員は、皆無性に食べていた。

光は料理が来るまで右ひじをついて顎を乗せながら、左手は水の入ったグラスを持ったり、動かしたりして時間をつぶしていた。


隣のテーブルでは、パソコン部がいた。

テーブルにはポテトの山。さらにはホットケーキとピザまであった。


川上「やったぜ!」

原「凄かったなぁ。最後はインクが切れそうになったよ。」

長島「これからは3Dの時代やね。」

川上「そうだよ、その通り!」


喉が渇ききったのか、川上はコーラを2杯注文していた。


さらに隣のテーブルでは、いつものカラオケ店とは違ってバレー部が集まっていた。


夏美「由紀ちゃんお疲れ。」

由紀子「先輩もお疲れ様です。」

夏美「今日は男子と一緒ね。」


数人の男子も混じっていた。


皆「乾杯~♪」

豊「いいのかよ。」


疑問を抱く豊だった。


夏美「いいよ。」


やたら夏美は豊と話そうとしていた。

が、豊はあまりいい顔をしていなかった。


この日麗子からメールでカラオケでの待ち合わせをしていたからだ。


さて由紀子の方なのだが、彼女はもうすっかり西堀に夢中になっていったのであった。



翌日の振り替え休日、ここは中野神社。

数人の族っぽい集まりが1人を囲んでいた。

田所光一、今野武が族の中心だった。中にいたのは藤森佳佑で英語教師藤森泰三の子供だった。


佳佑「もう勘弁してくれよ。」

光一「だめだ許せない。仲間をいじめたんだからな。」

佳佑「誤ったじゃないか。」

光一「それで済むと思ってるのか!」

武「まだまだ金足りないぜ。」

豊「ほらほら、早く金を出さないと・・・」


豊は佳佑の胸をぐっと掴むようにして、


豊「取り返しのつかないことになるぞ。」


光一が短刀を出した。

佳佑がそれを見てひざまずいて震え出した。


そして豊が短い棍棒を持ち、佳佑を叩こうと構えたその時だった。


さおり「ちょっとあんたたち。」


すぐに豊は自分の高校の先輩と気が付いた。


豊「まずい。解散!」


族は一目散に去っていった。


さおり「大丈夫?」

佳佑「は、はい・・・」

さおり「気を付けて帰んなよ。」


さおりはそう言って消えて行った。


こちらはスーパー「ゲキヤス」にあるカラオケ店。

さきほどの族たちがたむろしていた。


光一「いったい何なんだ。あいつ・・・」

豊「うちの先輩だ。」

武「なんかどっかで見たような気がしてしょうがないなあ・・・」

豊「だろうな、あの先輩さおりって言うんだ。」

武「さおり・・・」

光一「え!もしやあの族のリーダー・・・」

豊「そうだよ、2年前までリーダーやってたんだ。」

武「まいったなあ。」

光一「これからどうする?」

武「どうするってやるしかない。」

豊「別の方法を考えよう・・・」




翌週の週末、中野神社で族同士のいさかいがあった。

豊、武、光一たちのメンバーと、さおり、荒川透、松尾美咲たちのメンバーが言い争っていた。

が結局殴りあいになってしまった。


さすがにさおりたちの方が強かった。

豊たちはかなり怪我をしながらそれぞれ帰って行った。



次の月曜日、豊の下駄箱の中に1枚の白いメモが2つ折にして入っていた。

中を見ると、それはさおりからだった。

メモにはいつものカラオケ店に来るように書いてあった。

豊はそのままカラオケの店に向かった。



ここはスーパー「ゲキヤス」にあるカラオケ店。

すでにさおりが店にいた。


豊「な、何か用かな?」

さおり「用があるから呼んだんだ。」


さおりはそう言って、部屋に入って行った。

豊は後を付いて行った。


2人は向かい合わせに座った。


さおり「豊、よく聞いておけよ。今から言うことは本当の事だから。」

豊「・・・」


豊は不思議そうに、そして何が起こるのか怖そうにもしていた。


さおり「お前の兄弟に武がいるだろ、あいつとお前は父親違いなんだよ。」

豊「え!・・・ほ、ほんとですか???」

さおり「だからさっき本当の事だって言ったろ。」

豊「・・・」


豊は少しうつむいてしまった。


さおり「お前の親父は明星商事の役員だ。たぶん今社長だと思うけどな。」

豊「そ、そしたらあの光と・・・」

さおり「そう兄弟だ。まあ母親が違うけどな。」

豊「そうだったのか・・・」

さおり「だからお前は附属高校に入れたんだよ。ほんとなら入れないからな。武は公立だろ。」

豊「・・・」

さおり「まあ、それはいい。とにかくいじめは止めろ!」

豊「な、何でだよ。」

さおり「まだわかってないのか。お前母親の実家に行ったことあんのか。」

豊「い、いや知らない。」

さおり「だろうな、実家って藤森だよ。」

豊「ふじもり・・・」

さおり「だから、あいつとお前は兄弟なんだって!」

豊「えええ・・・」


豊は声も出なかった。

そしてしばらくその場で固まってしまった。

しばらく沈黙が続き、やがて彼の表情が暗くなっていった。


彼は今まで母親をずっと信じきっていたから余計に悲しくなってしまった。


さおり「再婚して今野家に嫁いだんだ。」

豊「も、もういいよ。わかった・・・」


豊はまったく元気を失くしてしまっていた。


さおり「じゃ、帰る。」



豊にとってはこの日ほど悲しい日はなかった。

彼は今までずっと親兄弟のことを両親から知らされてはいなかったからだ。

とにかく豊は自分の気持ちの整理がつくまで族は解散させることにした。


これはうわさだが、豊はしばらくの間、1人カラオケに通っていたらしい。



クリスマスに少し離れた南高針地区を流れる高針川の河川敷で今年もイルミネーションが見られることを知った由紀子は姉のめぐと見に行くことにした。


由紀子「綺麗だね。」

めぐ「ほんとだ。」


2人はほとんど身動きもせずじっとイルミを眺めていた。


やがて、


めぐ「そうそう、来年なんだけど、初詣に一緒に行かない?」

由紀子「うん、いいよ。」

めぐ「私が誘ったから何かごちしようかな。」

由紀子「えーいいの?」

めぐ「うん、お母さんには内緒だよ。」

由紀子「へえーなんでだろーうなんでだろう。」

めぐ「何よその変なメロディは・・・」

由紀子「わかんないわ。」

めぐ「でも、由紀子はけっこう忙しそうだから。」

由紀子「最近はそうでもないよ。」

めぐ「どうかな。」


めぐは由紀子の性格をよく知っていた。


こうしてそれぞれの2人はイルミネーションを思い思いに楽しんでいた。

さらに川面にも色取り取りのイルミネーションが美しくしとやかに、そしてときに鮮やかに時間と共に写って、まるで大きなキャンバスに描かれた動画のようだった。




第8話


大晦日の中野神社ではかなりの冷え込みがあったが、まずまずの初詣客が来ていた。

その中に藤森親子がいた。


藤森「佳佑、来年うちは引っ越すから。」

佳佑「・・・ど、どこに?」

藤森「名古屋に。」

佳佑「そう・・・聞いてなかったよ。」

藤森「ああ、今日お前に話すのが初めてだからさ。・・・それと・・・もう教師を辞める。」

佳佑「え!母さん知ってるの?」

藤森「いや、・・・まだだ。」


佳佑「そう・・・」

藤森「大型の免許を取ってダンプを運転してみたいんだ。なるだけ長距離がいいなあ。」

佳佑「父さん、旅行が好きだからなあ。」

藤森「ああ、いろんなところに行って、いろんな自然に触れて、そしていろんな人との出会いがあって・・・。まあ、まだまだお前にはそんな気持ちは理解できないだろうなあ。」

佳佑「うん、まったくわからないよ。」


この親子から少し離れて、


西城「来年はみんな頑張ってくれ。」


西城は後輩メンバーに元気付けるかのように力を込めて言った。


桜井「はい、頑張ります。」


一番元気だったのが桜井だった。


相葉「今日はいつもと違うなあ・・・」

松本「そりゃあ、いないからね。」


みんな笑っていた。


さらに少し離れて、


めぐ「あんた、バレー頑張んなさいよ。」

由紀子「うん。まだ自信がないけど。」

めぐ「練習足りないのよ。腕立て伏せが下手すぎる。」

由紀子「来年こそは頑張る!」

めぐ「それとさ、フラフラしてないでね。変な男に付いてかないでよ。」

由紀子「はい。大丈夫、付いて行かない。」

めぐ「そっちの方が心配だなあ・・・」


ただ由紀子の心と体はなんとか元の状態に戻ったようだ。



この日豊と武は外に出ずずっと両親と一緒に1日家にいた。


2人の部屋は別々にあったが、めずらしく豊が兄の武の部屋に入っていた。


豊「兄さん、オレのオヤジは兄さんのオヤジとは別人なのか?」


武はしばらく窓の外を眺めていたが、


武「母さんが言ったのか?」

豊「いや違うけど・・・」


武は軽くうなずいて、


武「そうだ。けど、オレたちは兄弟には違いないから。」

豊「兄さんのオヤジって今何処にいるんだ?」

武「さあな。離婚してだいぶ経つから。それと今更どうでもいいことだし・・・」

豊「会いたいと思ったことはないの?」

武「それもずっと昔のことだなあ・・・」


武は古くなったガラス窓をゆっくりと開けた。

開ける時に、ガタガタきしむ音が鳴った。


豊「寒くないのか?」

武「1人で考え事をする時はいつもこうやって窓を開けて外をしばらく眺めるんだ。」

豊「それって、母さんが時々することじゃないか。」

武「だよな。」


武はそう言って飲みかけていたチューハイの残りが少なくなったグラスを、窓の外で軽く振った。

僅かなチューハイは、水滴となって、その辺りに散らばった。


武「お前のオヤジはまだ近くでピンピンしてらあ。」

豊「明星商事・・・」

武「ああ・・・」


二人の会話がしばらく止んだ。


武「オヤジに会いたいか?」

豊「別にいい。」

武「そう・・か。オレと同じだな。」


お盆にお菓子と2つのコーヒーを入れたまま二人の会話をずっと部屋の外で立ったまま母親が聞いていた。


どこからかJUJUの曲、『やさしさであふれるように』が流れてきた。



やがて除夜の鐘が町中に鳴り響いた。




翌年。豊が高校3年になる。


ある日の学校の帰り道。


由紀子「豊さん。」


後ろからゆっくりと声をかけたのは由紀子だった。


豊「やあ。」


振り返った豊はニッコリして答えた。


由紀子「どうしたの?元気ないよ。」

豊「そうかあ。」

由紀子「はい。」


由紀子はポケットに入れていたハイチューを出して、豊に渡した。


豊「おお。」

由紀子「豊さん、好きだったでしょ。」

豊「よく覚えてるね、オレの好み。」

由紀子「えっへん。」


由紀子はかなりの自慢げになっていた。


豊「それもレモンは最高だからなあ。」

由紀子「もう一つあるよ。」

豊「え、まだあるのか。」


2人はゆっくりと歩きながら、しだいに公園の方に向かって行った。



1週間後の学校の帰り道。

再び豊は由紀子と一緒になった。


由紀子があまりにニコニコしていたので、


豊「どうしたんだ、けっこう嬉しそうみたいだけど。」

由紀子「これ、普通なんです。」

豊「あ、そう・・・」

由紀子「あ、これ。」


由紀子はそう言って、カバンからハイチューレモンを出した。


待ってたかのように豊はにっこりしながら、


豊「これ、あげるよ。」


そう言うと、カバンからザ・ドッグのキーホルダーを出して、由紀子に渡した。


由紀子「えー、くれるんですか?」

豊「ああ。」

由紀子「ありがとう。」


由紀子はそのキーホルダーを自分のカバンに付けたのだった。



夏休み。ここは附属高校の体育館。

バレー部が練習をしていた。

そこに豊がやってきた。


豊「やあ。」

大友「先輩。どうしたんですか?」

大友雄太は今年キャプテンになった2年生だ。


豊「ちょっと見に来ただけ。」

大友「今年は部員が少ないから試合に出れるかどうか心配です。」

豊「そうだね。全部で7人か・・・。ちょっと無理じゃないか。」

大友「最悪は諦めるしかないですけどね。」

豊「まあ頑張って。きっと良い事もあるだろうから。」

大友「はい。」


一方、遠くの方では、


由紀子「ほら、あそこに見えるのがパパだよ。」


由紀子はまだ1歳半ほどの赤ちゃんを連れて高校に来ていた。


そこに偶然同級生のローラがやって来た。


ローラ「由紀子。あれ?赤ちゃんなの?」

由紀子「うん。」


由紀子はニコニコしながらベビーカーの屋根カバーを開いてローラに見せていた。


ローラ「まあ、可愛い。」


由紀子は赤ちゃんをベビーカーから降ろして抱き、ローラにじっくりと見せていた。


由紀子「でしょでしょ。」


やがて由紀子は赤ちゃんをベビーカーに乗せた。

すると数分も経たないうちに赤ちゃんが眠ってしまった。


ローラ「よく眠ってるのね。」

由紀子「うん。」


そして2人に気づいた豊が近づいてきた。


豊「やあ。」

ローラ「豊君。後輩しごいてるの?」

豊「そんなことしないよ。で、この子?」


豊は由紀子の赤ちゃんが気になった。


由紀子「可愛いでしょ。お姉さんの子だよ。」

豊「めぐさんか。」


由紀子はしっかりウソを付いていた。


そしてその数週間後由紀子の子供のことが周り回ってめぐの耳に入ってしまった。

ここは柏木家。姉妹が窓の外を眺めていた。


めぐ「由紀子、あんた赤ちゃんいるんだって?」

由紀子「誰から聞いたの?」

めぐ「いくらでも情報は入ってくるわよ。」

由紀子「そう、じゃあしょうがない。」

めぐ「その子の父親って誰なの?」

由紀子「今言わないと駄目かな?」

めぐ「べ、別にいいけど・・・私の知ってる人?」

由紀子「今言う勇気ない。」


由紀子はうつむいたまま話した。


めぐ「そう・・・」


めぐは半分不思議そうに、そして半分心配そうにして、自分の椅子に座った。

そして机の上にある1枚の写真を眺めた。それを見た由紀子は、


由紀子「姉さんは、愛した人はいないの?」

めぐ「私は理想が高いから、なかなか相手にめぐり合わないのよ。」

由紀子「そう・・・」


今度は由紀子が半分不思議そうに、そして半分安心した様子だった。

それは自分の彼が間違って姉さんと付き合うような事があっては困ると考えたからである。


ある時から由紀子は豊の事を優柔不断な性格の持ち主と気づいたからなのだった。


由紀子はめぐの机の傍にゆっくりと近づいた。

そして1枚の色あせた写真を見て、


由紀子「姉さん。その写真って誰なの?」

めぐ「あっ、これ、これね・・・」


めぐはしばらく黙っていたが、


めぐ「私が高1の時に・・・」


そしてめぐは昔の思い出をゆっくり語り始めた。



では、その当時にタイムスリップしてみよう。


めぐがバレー部に入って、しばらくは先輩たちの練習を見ていた4月の頃。

その頃はまだめぐは新入部員の2、3人の中の1人だったので、ボール拾いが多かった。


そして夏まではほとんど基礎練とボール拾いで終わっていった。

バレー部の練習は体育館とグラウンドをバスケット部と交互に使っていた。


しかしときにはいろんな理由で体育館を共同で使う日もあった。


そんな6月の終わりのバスケ部と共同の練習になった体育館での出来事だった。


練習が終わり、バレー部のめぐがボールを拾いながら集めていた。


西城「はいよ。」


バスケ部の西城四郎がバレーボールを4、5個胸に抱えてめぐのすぐ傍にあったボールを入れるカゴにそれを全部入れた。


傍で見ていためぐが、


めぐ「ありがとうございます。」

西城「いつもボール拾ってばっかだね。少しくらいコートでやればいいのになあ。」

めぐ「キャプテンがけっこう・・・」

西城「ああ、あいつね。昨年地区大会で優勝したから調子に乗ってるんだよ。でも今年は主力が2人いないから、やばいかもよ。」

めぐ「そ、そうなんですか・・・」

西城「ああ。ま、頑張って。でも今日は1年生は1人なんだね。」

めぐ「は、はい。他の1年生部員は都合が悪いって、休んだんです。」

西城「ちょっとパス練習する?」

めぐ「え・・・いいんですか?」

西城「もうキャプテン帰っちゃってるし、他に誰もいないじゃん。」

めぐ「そ、そうみたいですね。」


気が付けば他の部員は皆さっさと帰ってしまい、西城とめぐの2人だけになっていた。


西城はカゴからボールを1つ取り、めぐにボールをパスした。

めぐは頑張ってパスで返すのであった。


最初はぎこちない姿勢だっためぐだが、少しずつ続けていくにつれパスが綺麗に放物線を描くようになった。


西城「いいよ。すごい・・・」


西城はやや感心した様子で、めぐを励ましていた。


やがて20分程経っただろうか、遠くから用務員のおじさんがやって来た。


用務員「おや、まだやってるんですか?」

西城「あっ、もう終わります。」


こうして西城とめぐは2人並んで下校した。



この日めぐはよく眠れなかった。

そして夏休みに入るまでには、しっかりと携帯で西城の写真を隠し撮りして、それをプリンターで高画質印刷し、めぐの机の上にはその時の写真がいつまでも大切に置いてあった。



現実に戻って・・・


由紀子「そうだったの。でもその西城さんって、昨年卒業した西城さんじゃないよね。」

めぐ「その兄さんよ。」

由紀子「へえー、兄さんなの。じゃ2人ともバスケ部だったんだ。」

めぐ「でもバレーも上手なのよ。」

由紀子「凄い!」

めぐ「でしょ。だから私は理想が高いのよ。」

由紀子「アタックすればよかったのに・・・」

めぐ「何言ってんだか・・・」


由紀子「どうしたの?」

めぐ「彼って、まったく女っ気ないのよ。彼を好きな女子は山ほどいるけど、彼と付き合ってた女子は1人もいなかったのよ。」

由紀子「へえー。でも変だよね。」

めぐ「別に変じゃないよ。成績いいし、大学進学考えてるみたいだったし。真面目なの。」


めぐは彼の写真を右手で持ちながら、


めぐ「もう大学入っちゃったから、もういいんだけどね。」

由紀子「どこ?」


めぐ「東京。」

由紀子「そうっかあ・・・じゃあ、もう会えないんだ。」

めぐ「そういう事ね。」


めぐは椅子にもたれかかりながら言った。


由紀子「姉さん、東京に行ってみたら・・・」

めぐ「何しに?・・・・・」


2人の会話の波長が合わなくなっていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


花園学園大附属高校の卒業式に今年も特別に大野竹輪がゲストとして招かれていた。

そして卒業生がリチャード・クレイダーマンの曲に合わせて入場した。


山中「只今より第41回花園学園大学附属高校の卒業式を行います。一同起立!」


校長が中央の教壇に進んだ。


山中「一同、礼!」


校長が礼をした。


山中「着席!」


校長があらかじめ用意しておいたメモ原稿をそそくさとポケットから出した。


校長「では簡単に祝辞を述べたいと思います。・・・」


校長の話は意外や長かった。


その後役員のこれまた長い話やどうでもいい行事での優秀者の表彰があって、続いてゲストの大野竹輪が壇上に立った。


大野「みなさんこんにちは。私が大野です。ご存知の方も多いと思いますが、昨年ミステリー賞という大きな賞を頂きまして、現在も『もう1人の自分』に続く作品を現在執筆中であります。・・・」


大野氏の話は短かった。



やがて卒業式が終わった。

講堂から親と一緒にそれぞれの卒業生が胸に何か新しいものを抱きながらぞろぞろと出てきた。


長島「あーやっと解放される!」

原「もうこれで試験はないよなあ。」

川上「就職すると皆バラバラになるよな。」

長島「そうだな。でもさオレたちまたいつか会おうぜ。」

原「そうさ、年1回くらいは会いたいよな。」

川上「何回でもいいよ。」


3人が笑いながら歩いていた。


その後ろでは、


由紀子「あーあーとうとう卒業だね。」

ローラ「思えばあっという間だったね。」

由紀子「ほんとだね。」


やや涙ぐむ由紀子。


ローラ「いっぱい思い出ができたわ。」

由紀子「うーん・・・私も・・・」


ローラがニッコリと笑っていた。


そしてこちらは仲良し3人組。


松本「よーし!」

桜井「何その気合は?」

相葉「そんなに元気がでないよ。」

松本「どうしてさ?」

相葉「試験ばっかりでつまらなかったしなぁ・・・」

桜井「なんだよ、そんな思い出ばっかなんだ・・・」

相葉「オレ追試ばっかり受けてたから・・・」

松本「だいたい授業聞いてないからさ。」


桜井「そう言えば教科書も出してなかったじゃん。」

相葉「うん。教科書まったくの新品。誰か入学してくるやつにあげようかな。」

松本「そんなに・・・」

桜井「ありえない・・・教科書の裏に名前も書いてないの?」

相葉「うん。だから再利用できるように・・・」

松本「なんだよそれ・・・」

桜井「チョー笑えるなぁ。」



ところで豊は急いで友だちに会いに行ったので姿が見えなかった。


美紀は母親が車で迎えに来て、すでに帰ってしまっていた。



校門前にダークブルーのベンツが入ってきた。

やがてベンツは1階入り口の駐車場に止まった。

そこには光の両親が待っていた。


出迎えた召使2人にドアを開けさせると2人は車に乗った。


周りの人たちは一斉に彼女に注目した。

そして母親は気取りながら髪を1、2回触った後で運転手に声をかけた。


ベンツはゆっくりと校門を出て、狭い道路をすり抜けるように走っていった。


― 完 ―


この小説は「キラキラヒカル」全集の第4巻です。


キラキラヒカルは新しいカテゴリ、「4次元小説」の1冊で、これまでにはない新しい読み手の世界を考えて描いてあります。


なお、「もくじ」は配布している冊誌の表紙裏を入れました。

このシリーズでは、「登場人物一覧」以降は「ハンドブック」に記載しています。そちらをご覧ください。


<公開履歴>

2018. 5.    「小説家になろう」にて公開


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