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朝と起こし方

 目覚ましと共に朝が来る。夢でもなければ戻っている事も無い。ユウは残念に思いながらも目を覚ます。


「んー……」


 体を起き上げ伸びをする。目覚ましを止めて時間を確認する。いつもより20分早くセットしたため立ち上がりカーテンと窓を開けても空はまだ少し暗く空気が冷たい。


「さてと姉さんが起きるまでに準備を終わらせとくか」


 顔を洗い目を完全に覚まして寝癖の付いた髪を首辺りで一纏めにし、エプロンを付けて早朝から洗濯と炊事を開始する。昨日放り込まれた2人分の洗濯物を突っ込み洗濯機を回す。そうして止まるまでに弁当の準備を済ます。


「姉さん昨日のハンバーグ残しててくれたのか」


 弁当のおかずが1つ決まりながらも他を埋めていく。弁当を完成させて止まった洗濯機から洗濯物を取り出し干していく。


「背が低いし筋力も落ちてるからやっぱり干し辛いな……」


 干しながら昨日着ていた服を改めて見て自分が女性である事をより意識させられる。これがあと何日も続くのかと嘆息しながらも洗濯物を干し終える。


「制服……やっぱりコレ着なきゃいけないんだよな」


 一旦自室に戻り女子用の制服とにらめっこ。昨日の今日で男子だったユウが女子の制服を着るというのはやはり躊躇する。しかし時間は待ってはくれない。

 意を決して寝間着を脱ぎ夜用のブラを外して通常のブラをすんなりと着けていく。掛かっている制服に手を掛けて着ていく。


「胸のボタンがちょいキツい……」


 胸がつっかえるボタンに四苦八苦しながらも留め終えてタイを付け次はスカートを穿く。


「昨日のはロングだから気にしなかったけど制服のスカートちょい短くない?スースーするんだけど」


 膝までしか無いチェック柄の制服スカートを持ち上げてボヤいてしまう。仕方ないと下から体操服を穿く(男子の夢を壊す)。そして上からブレザーを着てソックスを履く。

 制服を全部着ている状態で改めてエプロンを付け直す。


「普通の女子がやれば様になるのにな」


 「家で制服を着た女の子がエプロンを付けて家事をする」男子にとっては夢のシチュエーションであろうがユウは鏡に映った自分の姿を見て苦笑い。生憎普通とは言い難い女子を見て残念に思いながら洗濯物を再度籠に放り込んで台所に戻る。


「朝は……トーストでいいか。あとは目玉焼きとベーコンと……」


 時間を見ながら弁当作りの際前もって確認した冷蔵庫の中身を思い出して朝食を作っていく。20分ほどで完成させて時間を再度確認して姉を起こしに行く。

 目覚ましが鳴り響きながらも未だに起きない姉を揺する。


「おーい姉さん。朝だぞー起きろー」

「うーん……あと5分…」


 一昨日にも同じセリフを言いながらも15分寝続けたのは分かっている。その時は男であったため強引な手段が使えたが今では同じ事は出来ない。昨日と違って叩き起こすのも可哀想である。ふむ……と考えてアプローチを変えてみる。


「アイー起きなさい。会社に遅刻するわよ」


 今までにない優しい口調で話しかける。それだけで姉は目をはっと覚ます。


「はっ!今起きるから!ごめんおかあ……さ……ん」


 すごい勢いで布団をのけて声のした方へ顔を向ける。


「……おはよう」


 似てはいるが本人では無い。女性にしてしまったユウと目が合い3秒ほどで状況を理解し顔を背けて布団を握り締める。


「……ユウ……それはズルいよ」


 ユウ自身は母が何と言って姉を起こしていたのかは知らない。だが姉にとっては()の声が聞こえるだけで起きてしまう。

 起きたばかりの薄い意識で()ユウ()だと理解してしまう。

 その顔は恥ずかしさとそれ以上の悲しさを物語っていた。それを見てしまったユウは後悔と共にこの手段は今後使わないと決める。姉を困らせ(悲しませ)るのは好きではないから。


「ごめん軽率だったよ。じゃあ改めておはよう姉さん」

「うんおはよう」

「ご飯出来てるから。早く準備しろよ」


 それだけ言って部屋を出る。音だけで姉が動き出したのを確認して先に朝食を食べ始める。


「お待たせー。朝からごめんね。制服似合ってるよ」

「似合ってていいのかねコレ。俺としてはかなり複雑なんだけど」

「今から学校に通うんだったら似合ってた方がいいよ。うんかわいい」

「はいはい」


 相変わらずテレビのニュースを垂れ流しながら朝食を食べ進める。そしてふと姉がユウの顔を正確に言えば髪を見ていた。


「どうしたんだ」

「髪……寝癖がついてるじゃん!」

「まあ整える時間なかったからな」

「しまった!お風呂の時に短時間で出来る髪のセットの仕方教えてない!」


 そう言うや否や姉が一気に食べていつもとは比べ物にならない時間で平らげた。ユウもラストスパートをかけて食べ切る。食器を片し姉がユウを洗面所に連行し櫛とヘアスプレーを持ち出して寝癖の簡単な直し方やゴムで縛る時のコツを教えていく。


「そもそもユウは何でこの髪型だったの?」

「動くのに邪魔だったから楽になる形にした」


 シンプルに答える。姉の苦笑いが鏡越しに見えた。


「学校に行く時の髪型って決めてるの?」

「ん?んー特に決めてなかったな」

「決めてなかったんだ……じゃあ一先ず下してストレートにしておくから、授業とかで邪魔になったらクラスメイトにでも縛って貰って」

「分かった」


 髪をセットした後に洗面所でそのまま歯を磨き出かける最終チェックを済ませて先に姉を見送り母の仏壇の前で挨拶を済ませる。



「母さん色々と不安だけど何とかなるよな……よし行ってきます」


 買ったばかりのローファーを履き足を学校へと進めるのであった。

 改めて母が死んでいるという設定の重さを思い知らされました。

 そして主人公はその重さを分からないまま過ごしているというのも同じ家族でも姉との大きな違いだなと。

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