夜とお風呂
「ユウお風呂先にする?ご飯先にする?」
「うーん……ご飯かな」
姉が寝ぼけているユウの顔をじっと見ながら尋ねる。もっと別の事を聞きたいが敢えて触れない様にしていた。
起こした時に目を赤くしている弟を姉として心配しない訳無いが何があったのか分かってしまい、そして原因が自分だと分かっている以上聞ける筈もなかった。
「顔洗って来た方がいいよ」
「ん……わかった」
目を擦りながら言われた通りに洗面所を目指す。そして鏡に映った顔を見てみると目が充血している女性の顔。
「あー……そういえばそうだった。誤魔化すのは……無理だよな」
心配させたかなとリビングに戻るが姉からは何も尋ねられなかった。そして特に会話も無いまま晩御飯となる。
「いただきます」
「召し上がれ」
久々に姉が作ってくれたご飯を目にして少し笑顔がこぼれる。サラダに味噌汁、ハンバーグに白米とメニューとしてはオーソドックスであるがそれでも美味しく感じるのは人が作ってくれたからだろう。
「どう?おいしい?」
「とっても」
「なら良かった」
一口食べる毎に少しずつ元気を取り戻していくユウの顔を見て姉は安心する。会話はこれだけで昨日と違って静かな晩御飯となった。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
食べ終わってやはり姉がユウの分の食器も片してユウは晩御飯の余韻を感じていた。そして余韻が引いた頃に時間を確認して21時がまわってるのを目にして一度伸びをし立ち上がる。
「風呂だなー」
「私もまだ入ってないよ」
「そうなのか?」
「うん。ユウと一緒に入って邪魔な髪の纏め方とか洗い方なんかを説明しなきゃだし」
「でも姉さん髪短いじゃん」
「ユウは覚えてないだろうけど髪が長かった時期もあったんだよ?」
姉の髪は今は肩口で切られている短さである。そんな姉は自信満々で任せなさいと言った感じである。
「ユウが思っている以上に女の子の髪の毛って繊細だし印象に大きく関わるんだよ?」
「そういうもんなの?」
「そういうもんなの。こればっかりはユウには悪いけど大変でも覚えないと」
髪は女の命とはよく言った物である。そうして脱衣所を兼任している洗面所で着替えと日常品として買ったお風呂用のヘアクリップを持ち込む。姉は先にお風呂に入っていて脱衣所で1人であった。
「…………」
トイレを済ました後銅島から貰ったまま着ていた服を脱いでいく。スカートのジッパーを降ろしホックを外して腰からストンと落とす。次は着ていたシャツのボタンを外し脱ぐ。
「…………」
下着姿になり視線を胸に向けてしまう。買った白のブラに包まれて支えられている大きな胸。溜息と共に前屈みになり背中に手を回しホックを外す。支えを失った胸は重力に従い前に垂れる。そうしてブラを前から腕で抑えて肩からストラップを外し、胸の部分で抑えてたブラを取り洗濯籠に放り込む。
「…………」
最後に下を躊躇いながらも脱いでいき洗濯籠に放る。そうして生まれたままの姿がふと目線を動かした先の鏡に映る。
「……我ながらひどい顔。恥じらいも何もあったもんじゃないな」
母に似ていると言われた顔は今は先程とはマシとは言え目が赤く疲れが滲んでいる。苦笑いしながらもヘアクリップを持ち姉も入っている風呂へと足を運ぶ。
「姉さんお待たせ」
「いらっしゃーい。ちょっと待ってね」
2人分は一応入る風呂場で先に体を洗っていた姉はさっと済ませて座っていた椅子をユウに譲る。
「じゃあまずは……」
こうして姉による髪のケアレクチャーが始まり前置き通りかなり気を使いながら洗っていった。新品のシャンプーリンスコンディショナーと済ませながら髪をお湯に浸けないようにヘアクリップで頭の上で纏めて固定する。
「と。こんな感じだね。覚えた?」
「なんとか」
明日から1人でこの作業をやるのかと思うと億劫になるが洗っている途中で言ってた「お母さんみたいな綺麗な髪」を聞いてしまった以上、手を抜くという選択肢は無くなってしまった。
「よしよし。いい子にしてたご褒美にお姉ちゃんが背中を流してあげよう」
「いや自分で洗える……」
「問答無用」
有無を言わせず肌用タオルにボディソープをつけて泡立てて体を擦っていく。
「やわらかーい」
「がっつり触るなよ姉さん。あ、でも下から持ち上げてる状態はすげー楽だ」
「それ他の特に胸を気にしてる女の子の前で言っちゃダメだよ。あと胸が邪魔とかも」
「流石にそれくらいはわかってるよ」
絶賛胸を擦りながらも指先で感触を姉が楽しんでいる。触られている方は揉まれる分には別に何も感じてはいなかった。言った通り大きさ確認がてら下から持ち上げられると楽程度である。
「でも実際邪魔だぞ」
「だろうねー私も1回胸が大きくならない事に悩んでたけどパッドとかで再現して後悔と一緒に安心したもん。ストレス半端なかった」
姉が苦笑いする。気持ちを分かってくれる事はありがたいが再現なんてしていた事には微妙な顔をしていたユウであった。
体が洗い終わりユウを下にして一緒に湯船に浸かる。
「こうして一緒に入るのも久しぶりだね」
「ん?そういや10年ぶりくらいか?」
「そうそう。突然恥ずかしいから一人で入るなんて言い出してさ。マセたヤツめ」
「いやっ!あの時はだな!……なんでもない」
「ふふっ照れてるーかわいい」
手を頭に伸ばし優しく撫でる。
「……ホント大きくなったね」
「……そうだな」
後はお互いに喋る事無くゆっくりと湯船に浸かっていた。
……
…………
体を拭き着替えた後に髪をドライヤーで乾かして姉に櫛で梳かして貰う。寝る準備をしながら昼から触っていなかった携帯を確認する。
「あ、メール来てた高橋さんと阿久根からか」
幼馴染兼親友2名から心配したというメールがあり、それを見て励まされながらも返信して床に就くのであった。
このまま姉弟(妹)愛を書き続ける物語でも良い気がしてきた。まあ学校行かせないと話進まないしあらすじ詐欺になってしまいますが。