デパートと下着屋
姉の運転で着いたのは少し離れた大型デパート。流石に平日の朝だけあり人はまばらであった。中にある店の前でユウは姉と共に立ち止まっていた。
「ホントに行くのか……」
「覚悟は出来た?」
「出来てたけど挫けそう」
目前に広がる色とりどりの女性用下着の山。ランジェリーショップを目の当たりにして心が死んでいた。だがここで立ち止まっていても展望が良くなる訳でもないので他の客が居ない今の内にと店に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませー。かわいいですね!姉妹ですか?」
「あーはい。そうです。サイズが合わなくなったので買いに来ました」
「そちらのお姉さんの方ですか?」
「あ、はい。確かにこの娘なんですけどこっちが妹です」
姉の応対に店員さんが信じられない目で見て来るが直ぐに対応を改める。
「失礼しました。そちらの妹さんですね。それで現在のサイズの測定はお済ですか?」
「やってませんのでこちらで測定をお願いしたいです。あ、スリーサイズ全て測ってください」
「わかりましたー。ではカーディガンを脱いで下さい」
「ん?全部脱ぐわけじゃないのか……」
「最近はね」
そう言われてカーディガンを脱ぎ両腕を上げる。失礼と店員さんが常備しているメジャーでBWHを順々に測っていく。胸を測った時に怪訝な顔をしていたと後で姉に聞いた。ちなみに測った結果はと言うと。
B75-95(E) W67 H89であった。姉の総評では「胸デケェ!」との事。
「ブラはE75のを選んで頂ければ丁度良いと思いますので何かありましたら声をお掛け下さい」
邪魔にならない様にとレジへと戻る店員さん。そうして姉と2人で下着の物色を始めるのであった。
「Eの75……割と奥や後ろの方に入ってるんだな」
「平均がBとかCだからね。っとコレとコレを一先ず持って行って店員さんと一緒に試着してみて」
渡されたのは白色とピンクの2種類のブラ。どちらも表記はE75であるが形が全然違う。
「自分に合ったの買わないとキツいからね。胸の締め付けが強かったり逆に緩かったりしたら即交換でいいからね。男性のと違って絶対に妥協しちゃダメだよ」
「……肝に銘じておきます」
「よろしい。すいませーん妹に下着の着け方を教えてあげてくださーい」
念を押されてやって来た店員さんと共に試着室に入る。そうして店員さんのレクチャーの下で女性下着の着け方を教わり自分でも出来る様に数回着け外しを行い体が覚えたら本格的なサイズ合わせを行っていく。そしてわずか数十分で女性に対して肌を晒す事への抵抗も羞恥心も消え失せる。
「どうですか?」
「ちょっと締め付けが強いです」
「これは?」
「今度は割とブカブカだ」
「じゃあ……」
「下が少しはみ出すな」
「じゃあ駄目ですね。次は……」
何十回もこのような着け外しを行ってしまえば段々と面倒さが勝っていってしまう。だが姉が言った様に妥協はしなかった……というより出来なかった。1着ピッタリの物を身に着けると胸の楽さが段違いになった事を実感してしまった為により慎重に選ぶ事になった。
…………
………………
「お姉ちゃんが払っておくから待っててね」
「え?でも自分の物だし……」
「そもそもこれ買うのハメになったのお姉ちゃんのせいだからね。流石にこれと服代位は出さないと罪悪感に負けちゃう」
だからいいの!と最低1週間分ある下着の上10着と下5着をレジに持って行く。ちなみに支払いはクレジットであった。その後は買った下着の内の1つのタブを切って貰いそのまま着る事になった。計2時間にも渡る下着選びも終わりどっと疲れが出て来る。
「ふぅ……一旦車に積んでくるか」
「そうだね。あトイレ大丈夫?」
「まだ大丈夫」
朝起きた時にも催したが生理現象に勝てる訳も無く訳の分からないまま済ましたのはここだけの話であった。
「トイレかー……デパートだと多目的トイレがあるから大丈夫だけど学校には無いからな」
「……本当にごめんね」
ユウの苦労に責任と後悔を感じて気後れする姉であった。悩んでも仕方なしと思考を放り投げて車に買った物を積み込み昼飯を食べるのに丁度良い時間になった。
「ランチ何にする?もちろん私がおごるよ」
「うーん……カフェでサンドウィッチとかかな。前ほどガッツリ食えないってのは朝食で分かったから軽い物の方が良いかな」
休みたいためあっさり決めてしまう。姉はそれを了承してデパート内にあるカフェで各々食べたい物を注文して先に届いたコーヒーを啜りながら次に買う物を決める。
「次は服屋さんでその後は日常品買ってって順でいいかな」
「姉さんに任せるよ」
「……ねぇやっぱり学校には行くんだよね」
「そりゃまあ」
ユウは姉程頭が良いという訳もない。最低1週間も休んでしまえば授業に着いて行くのが辛くなってしまう程である。受験に関しても基本姉に頼り切りであった。
「それにクラスメイトも心配するだろうしな。特に高橋さんは」
「……うん……そうだよね」
昨日まで普通に接していたクラスメイト達を思い出して苦笑い。恐らく今頃学校では何故休んだのかという議論が巻き起こり何かパンデミックでも起こるのではと煽り立てられているだろう……まさか女になってるとは思うまい。
「明日から普通に学校には行くけど制服どうしよ」
「帰りに学校に寄って事情話して制服買うしかないね。朝買うのも少しアレだろうし」
「お待たせしましたーサンドウィッチとカルボナーラです」
「あっちがサンドウィッチで私がカルボナーラです。はい。ありがとうございます」
「ごゆっくり」
「……今考えても仕方ないしとりあえず食べよう」
「そうだね」
楽しいランチタイムに湿っぽい話は合わないと目の前の食事に舌鼓を打ち束の間の休憩となった。
…………
………………
「服だけどユウ的にはそこまで量はいらないでしょ?」
「そうだな。ズボン2着と……上3着あれば十分回せるかな。基本制服だろうし」
ランチ後やって来たのは個人の店ではなく量販店である。そこで必要な枚数だけ決めて選ぶのは姉に丸投げというスタンスであった。女性としてオシャレをする気など欠片も無いユウを考慮してスカートを買わずにズボンオンリー、上も女性らしさをなるべく省いた物をと選んでいく。
…………
「ありがとうございましたー」
選ぶ時間20分と女性とは思えない速度で決めていきズボンの裾上げを頼み店を一旦後にする。
「選択肢少ないとあっさり決まるね」
「もっと時間かかると思ってた」
「下着で大分精神削られてるだろうなと思ってね。パッパと済ませようと決めてたんだ」
次は日常品だと買った服を持ったまま次の売り場へ向かい戻った後も姉も共用で使える様な品を選び買い物かごに詰め込んでいく。そして裾上げの終わったズボンを受け取りデパートを後にするのであった。