同僚と着替え
姉の天才設定が正直いらない子に感じてきた
普段着1枚にエプロンという軽装の下で朝食の準備をしているとインターホンが鳴る。「はいはーい」と姉が応対して件の同僚を家に上げる。
「どうも初めましてーアイの同僚の銅島 遼子です。貴女がアイの言ってた弟君ね」
「こちらこそ初めまして。弟のユウです。姉さんがお世話になってます。今回はわざわざすいません。お茶を出すので少し待ってて下さい」
「お茶はいいわよ服を渡したらお暇させて頂くから。それにしてもまさかあの薬でこんな美人さんが生まれるとは思わなかった。うん写真よりずっと綺麗ね」
「お世辞……として受け取っていいのでしょうかねこの場合」
「世辞じゃなくて本音よ。だから写真見た時にどんな服装にするか迷ったわ」
持って来た服が入ったバッグを掲げて見せる。お手数お掛けしますと感謝と謝罪を込めた一言を述べる。銅島は姉に視線を移す。
「それで着替えなんだけど2人だけの方がいいのかしら?弟君が他者に肌を見せたくないって言うなら私は参加しないけど」
「あー……うーん。私的には居てくれた方が楽だけど……ユウはどう?遼子に肌見せても平気そう?」
「平気だよ姉さん。銅島さんも今日はよろしくお願いします」
「任されたわ」
今後を考えると慣れていた方が良いと判断した為OKを出す。そうして姉がカーテンを閉めて銅島がバッグから服を取り出してまずはとある物をユウに渡す。
「はい。一先ずこれを穿いてね。あ、新品だから遠慮しなくていいわよ」
「は……はい」
女性用下着である。渡された白色のそれを眺めて只々溜息。その反応に銅島は興味を示す。
「あら?恥ずかしがると思ったのにもしかして女性経験豊富?」
「姉のを毎日洗濯してると見慣れた物ですので恥ずかしさなんて無い……んですけど自分が穿く事になるとは思わなかったです」
でしょうねと苦笑い。このまま下着無しで過ごしても何か人間としてダメな気がしてくる。そして眺めていても埒が明かないと意を決して下着を穿く。
ピッチリと下半身を直に包む感触と布面積の差からくる心許なさ、自身が女性物を身に着けているという自覚をしてる故に顔が羞恥に染まる。
「えーと恥ずかしさで死にそうな顔をしているけど大丈夫かしら」
「覚悟していたので何とか……次は何を」
「そうね。その何故か濡れている服を脱いでブラかしら。着ける時のコツとかも同時に教えたいから長くなるけど我慢してね」
「……わかりました」
服を脱ぐ……正確に言えば着ていたTシャツをずらして落とす。露わになる自身の上半身を10秒程腕で隠していたが邪魔になると思い降ろす。
興味深そうに見る銅島と姉。何事かと黙っていると頷き一言。
「綺麗なちく「ストップ」……体ね。胸が想定していたサイズより大きいわ」
段々と言葉に遠慮が無くなって来た銅島が持って来たブラ合うかしらと言葉を漏らす。邪魔だろうと髪をポニーテールに結い試しにとユウにパンツと同じ白のブラを渡して前屈みにして正規の順番で着けさせホックを留めようとする。
「ちょっとキツイです。息が苦しいというか」
「あちゃー……やっぱりダメだったわね。手持ちの新品で一番大きいの選んだんだけど……」
ブラを強く締め付けるもホックが届かなくて着けられない。次は銅島が溜息。着けられない物は仕方がないと切り替えてブラを外す。
「胸が崩れるし肩も凝るけど仕方ないわ。これ最終手段なんだけどね。申し訳ないけど後の着け方はアイと買いに行った時に店員さんに教えて貰って。口頭だと分かりにくいし自分でやりながらやった方が覚えるし」
銅島は最終手段を使い動いても擦れない様にする。変に工夫しても後で買う時に大変だろうという配慮である。そうして必要最低限の範囲を守り後はと服を渡す。
「はいこれ。私のお古だけど柄も生地も良いわよ。何の考えも無しにスカートにしちゃったけど良かったかしら」
「いえ。文句を言える立場でも無いので使わせて貰います」
「ん。素直でよろしい。服だけどまあ流石に着方は分かるわよね。スカートも腰の辺りで留めてジッパー上げるだけだから」
それは流石にと渡された服を上から順に着ていく。上は水色のYシャツに白のカーディガン、下は丈が長い鼠色のスカートであった。予想に反して落ち着いた雰囲気で纏められている服装に安堵する。
「やっぱり私の見立て通りね。変に着飾るよりもシンプルにまとめた方が弟君の場合映えるもの」
「遼子グッジョブ!」
「ありがとうございます銅島さん。これ自分の服を買ったら返した方が」
「それはあげるわよ。男性に戻った時に邪魔だったら処分しても構わないわ下着もね……さてブラが心残りだけど私は行くわ。一応今から出社だしね。今度はお茶しに来るわ。じゃあね」
靴も玄関に置いてあるからと言い残し家を出る銅島を見送り、姉が後でメールしておくからと朝食を済ませて店が開く時間帯まで待ち必需品の購入の為にデパートにまで姉と共に足を運ぶのであった。
なお出かける際に日課の仏壇への挨拶では。
「母さん。俺女性になったけど何とかやっていくよ。あと俺も母さんの子なんだなって今更ながら実感が出来たよ。姉さんが言うなら間違いは無いだろうしさ……うん。じゃあ行ってきます」