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事情説明・姉と母

「姉さん言いたい事はあるか?」

「いやー。可愛くなって素敵だよっ」


 あれからサイズの関係上着れる服も無く上の普段着(Tシャツ)1枚という状況のままユウは体を動かしてキチンと動作に問題が無い事を確認して最低限の家事をこなしてから今日は休みの姉を叩き起こして、お互いに向かい合って座り今の状況である。


「まったく……これも研究で分かってた事なんだよな」

「わかってたけど、今までの被験者よりもずっと女性的で驚いているというか何というか」

「どんな人で試してたんだ……それで?その人達は何時頃に戻ったんだ?てか戻るのか?」

「もちろん戻るけど人によってバラバラだったというか……最短1時間、最長1週間だけど……ユウ程女性的になった例は無いから……そのー」

「つまり何時戻るか分からないと」

「まあ端的に言えば」


 姉曰く男性に使っても適応者が生物学的に女性になるだけ(それだけでも凄いのだが)で見た目に大きく変化が起きる事は無かったらしい。ちなみに1週間の変化が起きた被験者は髪が伸びて胸が少し膨らんだ程度だと言う。


「まさか髪や胸に飽き足らず体格にまで変化が及ぶとは……この姉の目を持ってしても見抜けなかったよ」


 改めて女性になったユウの容姿を眺める。身長はかなり縮み目算160前半(一応姉よりも大きい)。サラッサラな腰まで伸びた黒い髪、胸も今時の女子にしてはかなり大きくスタイルも悪くない。顔も男の時よりも少し目付きが厳しくなっているが整っていると言える、今は若干ハイライトが消えているが綺麗な黒い瞳も印象的である。

 総じて可愛いというよりは綺麗目な美人と言える容姿をしている。


「うん完璧に女性だね。というよりも下手な女子よりも女性っぽい。肌も綺麗だしお姉ちゃん的にはかなりジェラシーを感じる」

「ジェラシーを感じる前に後悔を感じてくれ」


 呆れた顔で溜息と共にそう呟く。そう言うと姉はごめんねと言い顔を伏せる。そしてポツリと一言。


「それに…………お母さんに似てる。声も……ね」

「…………そうか」


 それを言われて何も言えなくなってしまう。ユウは知らない母の事。だが姉には今でも(きおく)に焼き付いている。「お母さん」の一言と共に色々な思い出が沸き上がって来て、気持ちが沈んで行く。


「ねぇユウ……こんな状態だけどさ……ワガママ言っていい?」

「………いいよ」


 肯定する。座っていた姉が近寄り恐る恐る抱き着き胸に顔を埋める。ユウは何もせずにその成り行きを見守る。


「お母さん……お母さん」

「………………」


 掠れた声でそう囁く。弟であるユウが一度も見た事がない姉の姿。声を出した事で一気に溜めていた想いが込みあがって来て、それが言葉になる。


「お母さん……わたしねがんばったんだよ」

「………………………」

「ユウやおとうさんに心配かけないようにがんばったんだよ」

「……………………………」

「みんなすごいって言ってくれるけどほんとうかな」

「……………………………うん」

「ユウのみほんになれるようなおねえちゃんに」

「………………………うん」

「なれてるかな?だいじょうぶかな?」

「…………………うん」


 声を出す度に胸元が濡れていき掴んでいる服の背中の皺も多くなっていく。


「おかあさんがしんでからすごくふあんだった」

「…………うん」

「でもおねえちゃんだからガマンしてた」

「………うん」

「でもいまだけは」

「……うん」

「ガマンしなくて」

「…うん」

「いいよね」

「うん」

「…………っっ!!」


 先程とは比べ物にならない量の涙があふれる。ユウは……()はそんな()を笑顔で抱きしめ返して頭を撫でる。声を押し殺して泣いてる()を少しでも安心させる様に。




…………

……………………



「姉さん落ち着いた?」

「うん……ありがとう。それとごめんね」

「いいや。こっちこそありがとう。そしてごめん。そこまで思い詰めてたなんて気付かないで」

「あはは……中学生になった頃には踏ん切りついてたんだけどね。いやー心配かけちゃったね」


 1時間程経ち落ち着いた時には目を腫らしながらもスッキリした顔であった。顔を曇らせたユウ()にデコピンを噛まし今まで通り姉らしく振る舞う。


「服濡らしちゃったね」

「こんなの洗濯すれば大丈夫だよ」

「そもそも根本的にユウの服どうしようか」


 男のユウとは30センチ近い身長差の上に体格的にも小柄になっている現状どうあがいても今まで着ていた服は着れない。服を買いに出かけようにもその出かける為の服すら無い。


「私の服も入らないだろうしね」


 さらに言えば姉とは10センチ差。こちらはこちらで体格的にユウには着れない。


「はぁ……ちょっと学校に電話してくる。今日は行けそうに無いって。あと阿久根と高橋さんにもメール入れとくか」

「ごめんね……あ、私もちょっとメールしてみる。ユウ写真撮っていい?」

「唐突だな。まあいいけど」

「ちょっと正面向いて……はい、おっけー。同僚に理由話して服持って来て貰う様にお願いするから」

「あーそういう事か」


 その後は部屋の片づけを行いながら学校等に連絡を入れてその同僚を待つ事になった。

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