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クラスメイトと扱い



 1人で登校して校門へあと300mという所で、昨日も見かけた見慣れた背中。

 その人物を早足に追いかけて背中をトンと叩く。


「おはよ。阿久根」

「おー、おはようユウ。って今日は髪括ってるのな」

「括らないとと首回りが暑くてな。はー……これから夏本番なのに」

「もっと暑くなるだろうな」

「梅雨も明けたしなー」


 今年は珍しく5月の中旬辺りに梅雨が始まり、中旬のついこの前に明けたとニュースで発表があったのだ。

 そう言って暑い暑いとユウは首のあたりを手で仰ぐ。


「昨日は暑くなかったのか?」

「昨日も暑かったけどさ……それ以前の問題だ」

「あー……まあそうだな」

「だろ?本当に急な事で大変なんだぞ。服全とっかえだし、学校から訝しがられるし、無駄に注目されるし……」


 話を聞く姿勢に入ってしまった阿久根。それに合わせてユウは昨日まで感じていた愚痴を溢しまくっていく。

 昨日までの不安そうな顔はどこへやらと、変わった友の愚痴を適当に相槌を打ちながら聞いていた。

 途中から髪の手入れの時間やら、肌の荒れが早いだの、阿久根には理解出来ない領域であった。最終的に下着の話にまで入りかけた所でストップをかける。


「悪い」


 周りの視線に気づき、また自分が何をぶっちゃけようとしてたのか思い出し、顔を赤くしながら気まずそうに謝罪する。


「いいよ別に。ま、そんだけ愚痴れれば大丈夫だろ」

「ん。少し気分が晴れた」


 ユウは基本優しいが聖人君子では決してない。愚痴る時は全力で愚痴るのだ。そんな幼馴染を気遣いながら校門を潜るのであった。

 この時傍から見たら仲の良い男女の登校に見えたという自覚は、双方共に無かった。


…………


「おはよー」

「おはよーっすって女子達は何やってんだ?」


 教室に入ると全員ではないが、女子達が集まって何やら話し合っていた。ユウ達の登校に気付くと女子達が向き直り、代表して倉須院が声を掛ける。


「あら、2人ともおはよう。丁度良かったわ。那谷さん少し来て」

「俺か?」


 なんのこっちゃと思いながらも、机に鞄を置き女子達に合流する。高橋含め数名から挨拶があり返していく。



「さて那谷さん。今日は体育の授業があるわね」

「那谷さんは止めて欲しいんだが……それで」

「貴女はどこで着替えるのかしら?そもそも体育に参加するの?」

「昨日も言ったけどトイレで着替える予定だ。体育は参加しないと単位がな……いつ戻るか分からないとずっと休む訳にもいかないだろ」

「そう。じゃあトイレで着替えた服はどこにやるつもりよ」

「んー……あー……」


 その辺りは考えて無かったユウは悩んでいた。教室に放置とも思ったが使用予定のトイレとの距離を考えると些か大変だというのは予想出来た。

 でも何も答えないよりかはマシかなと、素直に口にする。


「教室に放置……かな」


 そう答えた瞬間、女子達の口から盛大な溜息。高橋にも苦笑いされている。


「那谷さん。分かってはいたけど危機感ゼロね」

「ユウくん。それは流石に……ねぇ」

「え?……え?」


 ユウは何故にこんな残念な娘扱いされるのかさっぱり分からなかった。


「いやっ……だってさ他に置くところ無いじゃん?トイレに放置する訳にもいかないし、先生に預けるのも面倒だし?」

「だから教室と?」

「何か悪いのか?」

「はぁ……あのね。女子が教室に制服放置すると最悪盗まれるのよ」

「盗っ…いやいや無いだろ」


 ユウがあり得ないと首を振るが、それに対し倉須院が眉を顰める。


「まあ盗まれるは言い過ぎね。でも触られる事はあるかもね」

「それこそ分からん。なぜ俺の制服をわざわざ触るのか」

「あら?クラスで1、2を争う美人さんの制服よ?そりゃ男子なら触りたいでしょう?」

「男子として異議申し立てる!そう思った事は一度も無い!」


 その男子であるユウからすれば偏見もいい所だと抗議する。周りからもそうだそうだと声が上ったり上がらなかったりする。


「そして俺にそんな感情を抱く人間なんて存在しない!なあ!?」


 その質問に静まりかえる教室。唯一阿久根だけがナイナイと手首を振っていた。


「皆してなんで!?そこ否定して!?」

「いやぁだって……なぁ」

「まあ……なぁ」


 男子が口々に何か言いたそうにしていた。その視線はある一点に集中していた。


「那谷さん。この際だからハッキリ言うわ。いいわよね?」


 ユウが女子側に向き直り倉須院が周りに確認して皆一同に頷く。


「その胸で男子は無理よ」

「………………っっ!!」


 倉須院が指差す先。それは現状ユウにとって、ある種のコンプレックスになりかけている豊かな胸であった。

 一気に突き刺さる視線に、ユウは本能的に胸を腕で隠してしまう。そして隠すと同時に腕に潰され形を変える胸に、どこからか生唾を飲み込む音が聞こえる。

 

「なんで……?」

「貴女の顔と胸に聞きなさい。それが全てよ」

「ま、そういう訳だから。あ、私達は話し合いの結果、那谷さんを女子として扱うって決めたから。そこんとこよろしく」

「……?なんで皆そんなに割り切れんの?おかしくない?数週間で戻るんだよ?男だよ?」

「いやーだって……当事者じゃないし」

「実際かわいいし」

「胸が大きいし」

「妬ましい」

「あれで男子扱いは無理だわ」

「新しい転入生だと思って接するから」


 クラスの女子が口々に言葉を漏らす。本人の意思を確認せずの女子扱いにどんどん顔を曇らせる。


「大丈夫。どんな姿でもユウくんはユウくんだよ!」


 高橋がフォローするが、あまり意味は無い。


「これから数週間よろしくね。那谷ユウさん♪」


 クラスメイトの歓迎ムードにユウの頭が追いつかずに、ついにぐずって……


「男……なのに……うぅ」


 元々急激な変化で精神的に不安定な中で、この扱いは流石に堪えたのか、泣き出してしまうのであった。

 その後は高橋が全力で慰めてどうにか気を取り戻したが、何も言わなくなってしまい、再度昨日の状態より悪化してしまった。


「もうやだぁ……」


 と、自身の腕枕で完全に意気消沈していた。

 TS主人公はメンタル削ってナンボよね!

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