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放課後と幼馴染宅

 授業内容が入って来ずに過ぎた5時限目。休み時間に説教が終わった3人組が申し訳なさそうに謝罪して来たが「トイレでだけは止めろ」とだけ言って許す。


「いいのかユウ?あんな簡単に許して」

「変な奴らに絡まれる事は覚悟してたし、あの目で見られ続けると俺自身が忘れられん」

「どんだけ忘れ去りたいんだよ」

「今すぐにでも頭打って良いレベルだが?思い出した瞬間に死にそうになるぞ?」

「すまん。すまんかったから目のハイライトを戻してくれ」


 ふふふと暗い笑みを浮かべるユウを宥める阿久根。会話を交わして一瞬思い出し再度机に突っ伏して唸り始めてしまったユウに戻ってこいとしか言えない阿久根であった。


……

…………


 死んだ目のまま6時限目も過ぎて帰りのホームルームも終わり放課後に谷先生に呼ばれる。


「それで那谷さん。今日は大丈夫……ではありませんでしたけど学校はやって行けそうですか?」

「昼の事がなければ大丈夫と言えた……かもしれません。周りの視線も多いですけど減っていくかなと思いますし」


 嫌そうな顔をするユウに事情を知っている谷先生は苦笑いしながらも「頑張ってください」と応援する。そして例の荷物は保健室にあるから取りに行ってと教えられて職員室を出る。


「終わったか?」

「荷物あるからそれ取りに行く」


 部活がある高橋は既におらず何の気なしに待っていた阿久根と共に保健室を訪れて荷物を受け取り一緒に帰る事にする。


「その荷物って」

「見るか?」

「いや遠慮しとく」


 顔を見て触れてはいけない事なのだろうと察したのか話題を変える。


「今日ウチに来るか?こんな時こそ何もかも忘れてパーッと遊ぶのも良いと思うぜ」

「うーん……確かに。久々に阿久根ん家で遊ぶのもいいかもな。春休み以来行ってなかった気がするし」

「決まりだな。一旦家に帰るか?」

「そうさせて貰う。少し家の準備とかするから時間かかるがいいか?」

「おう何時来てもいいぞ」


 普通女子を家に誘うのは躊躇うだろうが特に気負わず誘う辺り、ユウを変わらずに扱ってくれる幼馴染の態度と気遣いに感謝しながら帰路に着く。


「じゃ後で」

「ああ」


 分かれ道で別れそのまま帰宅する。姉が帰ってきてない事を確認して普段着に着替えて家の事を最低限こなして手土産を持ち阿久根宅に向かう事にする。


「久々だな」


 一軒家の阿久根の家の前でインターホンを押して待機する。そして中からはいはーいと声がして家の扉が開けられる。


「どちら様ですかー?」

「あっ……とおばさんこんにちは」

「んー?どこかで会った事あるかしら?」

「あー。ユウです那谷ユウ。諸事情でこんな体になっちゃってますけど」

「おっ来たなユウ」

「えっ?ユウってあのユウくん?」

「はい。そのユウです」


 阿久根も後ろから来た事により阿久根母がユウである事を認識して驚くもすぐに気を取り直し歓迎する。


「まあまあいらっしゃい!見ないうちに凄い美人さんになっちゃったわねー!アイちゃんは元気かしら?」

「姉さんなら元気ですよ。これお土産です」

「わざわざありがとうね~。さ!上がって上がって」

「おじゃましまーす」


 促され家に入り世間話をと居間に誘われるも遠慮して部屋に向かう。途中で阿久根は呼び止められるも先に部屋に行く。


「変わんねーな」


 ゲームが少し増えているも特に代り映えしない部屋に落ち着きを感じながらユウの指定席であるベットへ腰かける。部屋を眺めていると20秒ほど遅れて部屋主も来る。


「おばさん変わんないな」

「まあユウが来るなんて今更だしな。でも大分ビックリしてたぞ」

「そりゃそうだ。それで呼び止められてたけど何かあったか?」

「あーお菓子は後で持って来るそうだ。飲み物も麦茶で良かったよな。それとだ」

「それと?」

「女性に恥をかかせるなーとか言ってた」

「なんのこっちゃ」

「俺にもわからん」


 お互い苦笑い。阿久根母の言葉に思い当たる事も無く気にせずにゲームの準備をする。


「格ゲーでいいよな?」

「いいぞ。でも手加減しろよ?あんまゲームしないんだからな」

「わーってるよ」


 2Pのコントローラーを手渡されていざ開始!となる前にユウが待ったをかける。


「すまんちょっと髪邪魔だから縛るわ」

「あいよ」


 鞄から髪ゴムを取り出し前髪を後ろに流し後頭部で他の髪と一緒に纏める。いいぞとコントローラーを手に取りプレイを再開する。ユウの仕草を見ていた阿久根はゲームをしながら尋ねる。


「髪すんげー邪魔そうだな」

「実際凄い邪魔だぞ。でも姉さんが気に入ってるからあんまり無碍にも出来なんだよな」

「苦労してんなお前も」

「まあな」


 会話をしながらもユウの攻撃が余り当たらないまま残り体力半分の状態で阿久根が笑いながらも決めにかかる。


「あっ!てめぇ!手加減しろって言っただろ」

「はっはっはっいやー一度は決めないとな」


 初戦でいきなり体力の半分を削るコンボをかましてユウを煽る。ユウは声は怒っているが顔は楽しそうにしている。


「オンでは滅多に決まらないんけどユウ煽るために練習しといて良かったわ」

「煽るためだけにいらん技覚えんなよ」


 呆れながらも滅多に決まらないと言われて次のプレイでもう喰らわないと少しムキになるが見事に同じコンボを決められる。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」

「はっはっは!まあ対策分からんとそうなるよな」


 これはなとコンボに対する対抗策を教えて次の対戦でコンボは決まらなかったが普通に負けるのであった。

 3戦終わって丁度に扉がノックされて阿久根母がお菓子を持って来る。


「楽しそうだわね。はいお菓子よ」

「ありがとうございます」

「いえいえーじゃあごゆっくりー。あっまだ家族は増やしちゃダメよ?」


 余計な一言と共に部屋を去る阿久根母。言われた側の反応は困った顔であった。


「おばさんなんか勘違いしてないか」

「ユウもそう思うか?俺たちに限ってそんな事ねーよ」


 などと言っているがお互い目を合わせない。意識から外すようにゲーム画面に集中して再開する。が1戦後に阿久根が学校での事を聞く。

 

「そういやさ」

「うん?」

「なんで朝、声掛けた時逃げたんだ?」

「あー……あれな」


 ユウが困った顔で頬を掻く。阿久根は言葉を待つ。


「まさかお前から声を掛けられるとは思ってなくてさ。登校の時に見掛けて先に行ってたし」

「ふんふん」

「あと単純に女子制服の姿見られんのがスゲー恥ずかしかった。しかも俺だと分かった状態で」

「そりゃあ悪か「でも」ん?」

「俺だって気付いてくれてスゲー嬉しかった」


 照れくさそうに笑う。


「あの時声掛けてくれなかったら教室に入るの……もっと怖くなってたと思うから。だからありがとう」

「どういたしまして?」

「ふふっ……そこは自信持ってくれていいぞ。本当に……な」


 靴箱の時と同じ返し。それだけで笑ってしまう。

 そして駄弁りながらもゲームと休憩とお菓子を楽しみながら2時間経過する。


「ちょっと来てー」

「ん?呼んでるぞ?」

「はいはーい!なんだろうな。ちょっと待っててくれ」


 阿久根母に呼ばれて阿久根は席を立つ。1人になった部屋でユウはベッドに寝っ転がる。


「毎度思うがベッドもいいなー」


 床に敷布団もいいがベッド特有の高さにも憧れている。そしてゴロゴロしていると、ふといつもの幼馴染の匂いを嗅いでしまう。


「……ホント変わんないな。少し安心する」


 今のユウでは自身の体臭すらも変わってしまっている為変わらない物に安心を寄せてしまう。心が落ち着いてきたのか意識が低下し始め、そして。


「…………」


 眠ってしまうのであった。



……


「すまん待たせた……って」


 用事を済ませて戻ると自分のベッドで寝ている女性になった幼馴染。嘆息するも起こす事は無い。


「今日一番の安心した顔してやんの」


 学校で見かけてから一度も見た事の無い顔。完全に安心している寝顔を無防備に晒していた。毛布を被せて1枚写メを取りゲームの点いてるテレビと部屋の灯りを消して静かに出る。


「自分ちでも落ち着かないって大変だな」


 こっそりと寝顔を幼馴染の姉に送るのであった。

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