変わらぬ日常と変わる体
始まってしまいました。現代系TSコメディー。どうかお楽しみください。
とある街中にある公立高校。そこに在籍する「那谷 ユウ」は普通とは言い難い生徒であった。
8歳年上で研究所に勤めている姉とアパートで2人暮らしであった。母親はユウを生んでから数か月後に死んでしまい、父親は姉が中学生になるのを境に海外への出張が多くなり会えるのは半年に1回程の頻度である(生活費は多いと言える程に送られてくる)。
優しくて勇ましい人に育って欲しいと言う願いの込められた名前の通りにユウはすくすくと育っていき高校入学時には180を超えていて2年の頃には190という長身であった。
クラスメイトからは身長に似合わない優しい態度で割と人気を博していた。親に会う事は少ないが悲観するほど不幸とは言えない生活を送っている。そんな2年生の6月中旬。
「姉さん起きてくれ。今日も仕事だろ」
「うーん……あと5分ー」
女性とは思えないだらしない恰好で寝ている姉「那谷 アイ」を起こしていた。
「姉さんそれ3回聞いた。このままだと遅刻しちまうぞ」
「うーん……わかったわかった起きるから持ち上げのはやめてー」
なかなか起きない姉を強行手段で起こしにかかる。40センチ近い身長差からユウの肩まで持ち上げると宙ぶらりんになるため浮遊感から一気に目を覚まし足をばたつかせる。そっと降ろして姉と対面する。
「おはよう朝から過激だなっ」
「はいはい。おはようおはよう。顔洗って着替えて来いよ。朝食の準備はもう出来てるから早めにな」
最近は夜遅くまで仕事をしていた姉に声をかけながらも部屋を出る。扉を閉めるとバタバタと準備をする音が聞こえて二度寝の心配が無いことに安心しながらリビングへ戻る。
「お待たせって先に食べてるー」
「そりゃ待つ義理は無いからな」
「ちえー……まあいっか!いただきます!」
「召し上がれ」
いつも着ている夏用のスーツに着替えながら化粧して準備万端な姉と共に置いてあるテレビを見ながら朝食を共にする。
「あ、そうそう。今日は早めに帰れそうだからわざわざ冷蔵庫に入れとかなくてもいいよ」
「ん?わかった。その顔だと今日でひと段落ついたのか?」
「正確に言えば昨日の時点でだけどね。今日は最後に成果を見てって感じかな」
この姉は所謂『天才』という類の人物である。何の研究をしているのかはユウ自身よく分かっていないが女性がこの年で研究所の部長を務めている時点で頭がいいのは分かるし、事ある毎に何かしらの賞を獲得していってる。
そんな姉がここ半年忙しそうに仕事をしていたため何かの研究をしているのは間違いなかった。それが昨日終わったので凄いニコニコしていた。特に言及もせずに「良かったな」と返すと「うん!」と大きく返事する。
「帰ったら研究の成果を見せてあげよう!」
「いいのか?そんなホイホイと他人に見せちまって」
「むしろユウだからいいんだよ!」
「?まあ楽しみにしておくよ。あ、今晩は何か食べたいのあるか?」
「鍋!」
元気よく答える姉にわかったと答えて朝食の最後の一口を押し込む。
「ごちそうさま」
自分の皿を片して制服に着替えて準備を終えて戻ると姉が丁度食べ終わっていた。
「皿は自分がやっとくから姉さんは準備して行ってていいよ。弁当も忘れんなよ」
「あ、うん。ありがとうって!もうこんな時間!」
テレビで時間を確認してギリギリなのが分かり急いで準備をし出かける。
「じゃあ行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
姉を見送り姉の食べた後の皿を自分のと同じ様に片す。行くのに丁度良い時間になるので部屋の電気を消したのを確認して最後に母の仏壇の前に正座し手を合わせる。
「母さんおはよう。姉さんは今日も元気だ。父さんも問題ないそうだ……よし。行ってきます」
声も知らない母への挨拶も済ませて家を出る。
……
…………
「おっす!ユウ」
「おはよう阿久根。今日も元気なこって」
「おうよ!今日はゲームの新作が出るからな!今からワクワクが止まんねぇわ」
登校中に小学校時代からの腐れ縁で悪友である「阿久根 朋也」に挨拶を返しながら一緒に登校する。ユウにとっては初めての友人で身長が伸びた今でも特に変わらずに接してくれる。ゲームが趣味でどのジャンルのゲームも幅広くやるタイプで愛想も良く友達も多い。
「でもゲームつっても……えーとギャルゲーだろ?」
「正確に言えばカードゲームも出来るギャルゲーだぜ。今回は個人的推しのキャラがいるからな!」
「あーなんか言ってたな。黒髪の……」
阿久根の趣味に耳を傾けながら正門を潜る。下駄箱で会うクラスメイトに挨拶を交わしながら教室に入る。クラスで一番後ろの自分の席に鞄を置き隣の席の女子生徒にも挨拶をする。
「おはよう。長良さん」
「あら、おはよう那谷くん。今日は良い天気ね」
「そうだね。おかげで帰ったら洗濯物が乾きそうだ。最近雨ばっかりだったから嬉しいよ」
「梅雨だから仕方ないわよね。ってあら阿久根くんも居たのね。気付かなかったわ」
「一緒に入って来たっての。おはよう委員長さん」
隣の席の女子生徒「倉須院 長良」。こんな名前故かよくクラス委員長と思われるが実際は美化委員。知的な黒縁メガネが特徴的な学年の優等生である。あだ名は委員長。苗字とあだ名で呼ばれるのは余り好きではない。
「で?阿久津くんはしっかり英語の宿題をやって来たのかしら?今日提出な筈よ」
「ハッ!そこらへんは抜かりねぇよ。ゲームを楽しむ為に面倒事は速攻済ませたぜ。勿論今日のも帰って速攻終わらせるぜ!」
「あっそう。その意気込みをもう少し長く続けられれば成績も上がるでしょうに」
「うっせいぇやい!」
バツが悪そうにする阿久根に小言を続ける倉須院。いつもの光景を笑いながら眺めていると別の女子生徒がトコトコとやって来る。
「おはようユウくん。阿久根くん」
「お、高橋じゃん。おはよう」
「高橋さんおはよう」
「高橋 公美」。身長140センチと小柄な体格と朗らかな性格でクラスのマスコット的な人物である。その愛くるしい姿から「ハムスター高橋」というあだ名を得ている。
背の高さを気にしており小学校の頃から高い所に物を置かれる等のイタズラをされる事があり、その度に長身なユウに助けられては慕っている。
阿久根がボケて倉須院がツッコミそれを2人で笑う。朝はいつもこんな調子である。
……
…………
………………
「おっす那谷。今日は放課後時間あるか?バスケ部のスケットお願いしたいんだが」
「あーすまん。今日は用事があって早く帰る予定だ」
「そっかわかった。時間あるときにまた誘うわ。お前が居ると部が締まるからな」
「空いたらまた連絡するよ」
「あいよ」
午前の授業が終わり昼休み。朝の4人で昼飯を食べているとクラスメイトから部活のスケットのお願いをされる事が度々ある。いつもは受けるのだが今日は断った。珍しい顔をされるが瞬時に切り替え邪魔したなと切り上げる。
「今日は何か用事でもあるのかしら?」
「姉さんが帰り早いって言ってたから帰って飯の準備をね」
「アイさんですか?帰り遅いと聞いて心配してましたが良かったですね」
「お前んところの姉貴か。今回はどんなモンを開発したんだ?」
「さあ?でもまずは自分に試したいって言ってた」
「ふーん。あ、お弁当一口食わせなさい」
「聞いた傍から弁当突くな突くな。あ、高橋さんも食べる?」
「え!?あ、うん」
ユウのお弁当を勝手に突いてくる倉須院から守りながら物欲しそうに見ている高橋に欲しいかと尋ねると肯定したのでおかずの卵焼きを一口サイズに切り弁当箱を差し出す。
「そこはあーんじゃないのね……」
「相変わらず乙女心が分かってねーなー」
外野2人が好き勝手言ってるが無視をして自分の箸を伸ばす高橋を眺める。目をキラキラさせてパクッと一口。もくもくと咀嚼しながらも幸せそうな笑顔の姿を見て可愛いなぁと癒されるクラスメイト達であった。
「んっ!おいしいです。ありがとうユウくん」
「どういたしまして。って毎回やってるなこれ」
「そして高橋がお弁当を食べさせるまでがテンプレだな」
「お互い手作り同士だものね。いやーお熱いことで!」
「そ、そんなんじゃないよー」
「そこらへんで止めておけって。高橋さんが困ってるだろ」
このやり取りも幾度となくされた物だ。高橋を茶化していじるのが面白いのだそうだ。ちなみに無視を決め込むと「鈍感」の称号を受け取る。何故だ。
そんないつも通りの昼休み。
……
…………
放課後になりクラスメイト達にお先にと早々に学校を出て行きつけのスーパーに寄り鍋の材料を買い込み帰路に就く。
「ただいまー」
誰も居ない家であるが姉が帰って来るまでに出来る事は済ませてしまう。買った物を冷蔵庫に入れ制服から着替えてお風呂と部屋の掃除を行い乾いた洗濯物も取り込む。
お風呂を溜めて沸かしている間に飯の準備をする。
「今日は鍋がいいって言ってたからすき焼きだな」
最近は一緒に飯を食べる事がなかったため一緒に突ける団欒の時間という事で鍋が選択された。その中で姉が好きなすき焼きを選ぶ。
だが鍋故にそこまでの準備はいらないため、下準備を行い姉の帰りを待つのであった。
「ただいまーおなかすいたー」
「おかえり。もう準備出来てるから手を洗って着替えて来いよ」
「いつもありがとうユウ」
言うや否や手を洗って部屋に戻り部屋着に着替える。リビングでカセットコンロに待機してあるすき焼きに目を輝かせながらも席に着く。
「姉さんお疲れ様。いただきます」
「いただきます!」
音頭を取りお互い鍋を突きながらも今日あった事なんかを話し合う。時に怒った表情で上司の話をするもすき焼きを食べては笑顔に戻る。そんな姉を微笑ましそうに見るユウであった。
「それで?朝言ってた研究成果とやらは?」
「それはね!コレだよ!」
姉が風呂から上がり朝の事を尋ねると姉が鞄から取り出したのは一錠のカプセル薬であった。
「薬?万能薬か何かか?」
「ふっふっふ!聞いて驚け!これはね!」
一拍置き一息に告げる
「女子力を発露させる薬なのだ!」
「…………………………お、おう」
リアクションに困る。女子力を高めるとかじゃなくて発露するってと疑問符で頭を一杯にしていると姉から説明にならない説明が入る。
「最近になって発見された謎の酵素で「女性らしさ」を体に示す物なんだよ!これによって女子力と呼ばれる物をって聞いてる?」
「あーうん。つまり女性をより女性らしくさせる物って事でいいのか?」
「違うんだけど、まあいいや。それでね女性だけじゃなくて男性にも影響があるらしくて今日と昨日はその実験のまとめみたいな感じだったのだ」
「ほうほう。それで面白い結果が出たから俺にも試してみたいと」
「そんな感じ!ちなみにどんな風になるかは試してからのお楽しみ!」
「おいおい結果教えてくれないと怖いって」
「問答無用!」
それでいいのか研究職。そんな事を思いながら座って対面している姉の手により薬を口にねじ込まれる。ついごっくんと飲み込んでしまうが気付いた時にはすでに遅し。しっかりと喉を通ってしまい返却不可能な状態になってしまった。
「ふふふ………発露には一晩いるから明日の朝を楽しみにしておくのだ!」
「はいはい」
笑顔で……それでいて少し申し訳なさそうでいる姉に適当に返し明日の準備をしながら床に就く。ちなみに姉は薬を飲ませたらすぐに寝てしまった。
……
…………
………………
朝、少し遠くの方で目覚ましが鳴る音が聞こえる。音のする方に手を伸ばすも届かない。いつもなら届くはずなのにと疑問に思いながらも次は体ごと大きく伸ばして目覚ましを止める。
いつもより大きく感じる目覚まし時計に違和感を覚えながら布団を持ち上げて体を起こす。
寝ぼけているのか布団が……というより部屋が大きく感じる。
次に何やら肩が重い。胸のあたりに何か重りを付けている感覚だ。
そして頭が猫を乗っけているかの様に毛だらけである。触ってみると自分のとは思えない程にサラサラでボリュームのある髪の毛が伸びている。
最後に体が一部がスースーする。まるで何も穿いていない様だ。
事態を重く見たため恐る恐るクローゼットの扉を開けて内側についている鏡を覗き込む。
「………………な!?」
鏡に映るのは普段の自分とは似ても似つかない黒長髪の女子。夜着ていた男物の普段着は大きな胸でつっかえてる物の少しずらせばストンと落ちてしまい即全裸である。
「………………な!!」
何が起きているのかさっぱり分からない。そのため。今思っている事を思い切りいってしまう。
「なんだこれぇぇぇぇぇ!!!???」
那谷ユウ16歳。朝起きたら女の子になっていました。