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ドラゴンキラーはおよびでない  作者: 坪倉凛
1章 竜殺しは修行中
9/23

8 勇者様は奇数が決まり

「ここがルーンか」


 竜の谷を出て、一週間が経った頃。

 俺たちは、シンシア神国の首都ルーンにたどり着いていた。


 本来ならばひと月弱はかかる旅程だが、俺もゲイルも、そんじょそこらの鍛え方はしていない。

 魔物が出て足止めされることもあったが、大星窟の連中に比べりゃずっと弱い。俺の一撃か、ゲイルの槍で簡単に退治できた。


 ゲイルは人の形態の時、槍を使う。その槍さばきは見事で、何度か手合わせをしたが、その技巧には舌を巻いた。

 ……まあ、さすがに『竜殺し』があるし、ゲイルも竜の時ほどの力は出せないのか、そんなに負けはしないのだが。五分五分か、俺が少し勝ち越しているくらいか。

 手合わせの後は、お互い気付いたことを指摘し合っている。そのおかげか、前よりも強く、洗練されてきた気がする。

 同じようにゲイルも、思い切りの良さが出てきた気がする。


 自分よりも技術があるが、身体能力では勝っている相手。

 自分よりも身体能力が高いが、技術では勝っている相手。


 そんな二人が手合わせしているおかげで、両方の弱みが少しずつ埋められて行っているみたいだ。


 また、旅すがらゲイルの話も聞いた。

 ゲイルはコルトナ大陸に住まう風竜王ヴェントスの子供らしい。

 コルトナ大陸でも有数の実力者だったようだ。しかし周囲の竜は似た風竜ばかりで、多様性がない。次第に物足りなさを感じていたという。

 より強い相手、違う相手と戦いたい。

 その気持ちは抑えられず、世界中から様々な竜が集まる竜の谷に、武者修行に来たらしい。

 しかし、しばらくするとそこでも燻ぶっていたようだ。そこで、何かしらの変化を求め、自分を打ち負かした俺と旅をすることにしたという。


 そんなわけで、予定よりも早く付いた俺たちは、街に入るための行列に並ぶことにした。街門には、街に入る審査待ちの行列ができていた。


「ふむ、人というのは数が多いな」


 と、特に何の含みもなく、見たままの感想を言うゲイル。

 強者にありがちな、人を見下す態度をまるで見せないゲイルは、人という種族が数を力にしていると思っている節がある。そして中には、俺のような例外もいると知っている。

 そういうわけか、彼女は人間を割に高く評価していた。


「それにしても多いけどな……さっさと抜けたいんだけど」

「なんだ、兄ちゃんたち知らないのか?」


 俺の言葉を耳にしたらしい、前にいた中年のおじさんがこちらを振り返る。


「知らないってのは、どういうことですか?」

「シンシア神国に、勇者様が召喚されたのは知ってるか?」


 頷く。

 何せ、さっさと抜けたい理由がそれだからな。

 俺が巻き込まれ、そしてサーラのおかげで逃れた勇者召喚。

 その時の召喚で呼ばれた連中は、この街――というか、この街の城にいるらしい。

 城にいるなら関わることなんて無いとは思うが……できるだけ逃げたい。


「その勇者様のお披露目が、一週間後に行われるんだよ」

「……………………そうですかー」


 暦は地球と同じなので、7日後ってことか。

 ……タイミング悪すぎるわ!


「ほう勇者か」


 目を細めるゲイル。お前、手合わせしたいとか思っていないだろうな?

 俺と勇者の関係については、もう既に話している。できるだけ関わらない方が良いという話も。

 ゲイルを軽く睨んでると、俺の視線に気付いたのか、苦笑して首を振った。

 そんな俺の様子を、勇者と聞いて驚いたと解釈してくれたのか、おじさんはやたら興奮して俺に話しかけてくる。


「いやーホント楽しみだよ。どうも勇者様は二人って話だよ。噂だと、二人とも今までとはちょっと違うらしい」

「違うって、どういうことですか?」

「どうにも、今までの勇者とはスキルの質が違うらしいぞ。二人なんて初めてだけど、これなら期待が持てそうだよ」

「二人ってのが珍しいのですか?」

「ん? 兄ちゃん、そんなことも知らないのか?」

「なにぶん、東のほうの田舎者でして……」


 嘘はついていない。ミストラル大陸は魔族との戦争のせいで、あまり開拓が進んでいない。その上、東部には大断絶と大星窟があるせいで、それに輪をかけて発展していない。俺も東から来たのだから、田舎者で間違いは無い。

 やれやれ、と行った具合に肩をすくめたおじさん。


「勇者ってのは、基本一人か三人、ごく稀に五人って感じで召喚されるもんだ。ダーナ王国の勇者様は三人だし、コルトナ公国は一人だ。今までだってそうだったから、今回みたいに二人っていうのは、どの国でも前例がないことらしいんだわ」

「へえ……」

「ま、それだけ特別な勇者様ってことだろうな。きっと魔族の奴らを血祭りにして下さるはずだ。お披露目、楽しみだな!」


 とか何とか話しているうちに、おじさんの番が回ってきて「それじゃあな!」と言って門の奥へと消えて行った。

 ……まあ、本当なら三人だったんだろうな。俺を含めて。

 そして魔族たちと戦う羽目になっていた、と。


「……とりあえず、探索者登録をして身分証を得て、船賃を稼いだら、できるだけ早くこの街を離れる方針でいいよな?」

「何度も聞いているから、私は問題ない……カナタがどう考えているかは、知らないが」


 私は、か……。

 少しだけ後ろめたさがあることに、感づいているんだろうな。短い付き合いなのに、凄い洞察力だ。

 同じ日本人、そして同じ勇者になるはずだった人たちを見捨てるのは、ほんの少しだけ心が痛む。

 サーラのところで修行しているときは、全く実感が湧かなかったし、今だって係わり合いにならない方が良いと思っている。

 第一、俺が自分を勇者だと主張したところで、誰も信じない。そもそも俺のスキルは弱体化しているから、むしろ勇者たちの足を引っ張りかねない。

 そうなると、勇者達にとっても、神国の人間にとっても、そして何より俺にとって、余計な混乱を起こす前に立ち去る方が良いのだろう。

 ……なんて考えているうちに、俺たちの順番が回ってきた。


「ほらカナタ。行くぞ」


 考え込んでいた俺を急かすように、前に出たゲイルがこっち来いと手招きしてくる。

 まあ、考えてもしょーがないか。とりあえず目的を果たそう。

 苦笑しながら、俺も中へと入っていった。




 検問自体は、それほど時間はかからなかった。

 ゲイルも俺も、東の田舎の出だという証言と、探索者になるためにこの地に来たことを告げると、何ら疑われることは無かった。

 魔力探知によって魔族でないことを証明出来たので、結構すんなりと入ることができた。

 ……まあ、ゲイルの方は多少疑われたみたいだけどな。

 彼女の魔力が、人間の魔力とは異なるからだ。

 そりゃ竜なんだから当然だろうな。ただそれも「私は『風竜の加護』を持っているからだろう」と、真顔で大嘘吐いたおかげで免れた。

 ちなみに彼女のスキルは『風竜神の加護』と『電光石火』である。『風竜神の加護』は風竜ならば誰でも持っているスキルらしい。人間換算だとエクストラスキル並だが、風竜が持つのなら並のスキルと同程度、らしい。

 竜と人間じゃ、そりゃ違うよなーと無理矢理納得した。

 一方で『電光石火』は、高速移動を可能にするレアスキルだ。俺との戦闘でも使っていたし、手合わせでも要所要所に使ってくる。


 門をくぐると、遠くに白亜の城が見えた。

 シンシア神国の王城だ。

 神国を名乗っているこの国は、王が創竜教の頂点とし、それを補佐する大臣達と枢機卿という形になっている。

 ……まあ、実務は大臣、宗教関係は枢機卿、そして代表者が国王って感じか。


「なあ、カナタ。あそこの像は、もしや創竜神――アルカード様を象ったものか?」

「ん? ああ、多分そうだろうな」


 ゲイルが見つめる方を向くと、街門近くに大きく精巧な竜の石像があった。雄々しくも美しいその姿は神々しく、創竜教の神である創竜神だと疑いようが無い。

 ゲイルは、それをしばらく見つめた後、俺にしか聞こえないくらいの声で、ぼそっと


「似てないな」


 と言った。

 …………。


「いやまあ、実物みた人がつくったわけじゃないだろうし」

「……まあ、そうだろうが。むしろアレなら、サーラ様に似ていると思うのだが」

「確かに似てるな」


 もっとロリだけど。


「つーか、サーラと会ったことあるのか」

「何度か竜の谷にいらっしゃっていた。稽古つけてもらったが、凄まじい強さだったよ」

「ありゃ化け物だしな。底が見えねえ」

「正直、カナタがサーラ様の直弟子と聞いて、羨ましかったよ」

「……自覚はある。実感ないけどな」


 などとぼそぼそ二人だけに聞こえる声で喋りながら、近くの衛兵に街のことを確認する。


 正面にある城の他、右手側に見える大きな建物は、創竜教の誇る大聖堂。よそのちゃちな教会なんかとは比べ物にならないくらい荘厳で美しく神々しい――と、衛兵は熱を込めて教えてくれた。

 ……なんだこいつ、と思ったが、まあ聖地なんだしこのくらい信心深い人がいてもおかしくないか。

 大聖堂の外観は、ヨーロッパにあるような教会に似ている。大きな扉が付いた石造りの建物に、尖塔がいくつも付き、より大きく荘厳に見せている。大扉の上には、大きな円形のステンドグラス。最も高い尖塔の先には、金色に輝く光を象ったものを背負った、八芒星が輝いていた。

 ……八芒星に、金ねぇ。

 さしずめ、太陽に照らされ輝く竜を象ったってところかな。前の世界での十字架に近いイメージだろうけど。


 左手側、つまり教会の向かい側には、衛兵曰く、ミストラル大陸における探索者本部があるらしい。

 ミストラル大陸は魔族との戦争の最前線。そのせいか、探索者に回る仕事も増えてくる。そのため、他大陸との行き来も多いこの街に、大陸本部が置かれている。その規模は、アインヘルツ王国にある探索者ギルド総本部に引けを取らない……らしい。

 衛兵が先ほどまではないが自慢げだったところをみると、この人はルーンの街を誇りに思っているのかもしれない。それが普通かどうか分からないが、この活気を見るに、多分これがスタンダードなんだろう。

 その後も衛兵にこの街のことを聞いて、あらかた終えたところで衛兵に礼を言って歩き始めた。


「先に探索者ギルドだな」

「ああ。とりあえず登録だけしておこう」


 何せ、今は金が無い。

 とりあえず探索者ギルドに登録し、今まで採った素材を換金する。そして、その金を使って船に乗り、アインヘルツ大陸へ渡るつもりだ。

 というわけで、ちょっくら行くか。

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