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ドラゴンキラーはおよびでない  作者: 坪倉凛
1章 竜殺しは修行中
6/23

5 無職改め闘竜神の弟子

本日2回目の投稿

 最初、何が起こったか分からず、力が抜けて地面に倒れ込んだのに気付くまで、しばらく時間がかかった。

 思ったより疲れていたのか……いや、これは違う! 体が思うように動かない……痺れている……!?


 そう自覚した後、妙な音が聞こえてきた。

 木の枝を折ったときのような、バキバキと何かを砕くような音だ。

 何だろうかと痺れる体を無理矢理動かし、周りを見渡すと――サラマンダーが逃げた穴の近くに、先ほどまでは無かった大きな花が咲いていた。赤一色の花弁をもつつ巨大ラフレシアといった具合で、何十本も生えた緑色の触手を器用に使い移動をしていた。その触手で、死体を掴み、花弁の中央に出来た口のようなところに放り込んでいた。

 ゴキュ! ガキュ! ゴシュ!

 嫌な音を立てて、咀嚼をしていた。

 ……サラマンダーしかいないんじゃないのかよ!?

 どう見てもアレは魔物。少なくとも竜には見えない。だとすれば、俺の「竜殺し」は発動しない。

 この大星窟は、魔大陸に近い場所にあるため、あの魔物は強いはずだ。


 逃げなければ、喰われてしまう。動けない俺など、ただの餌だ。今はまだサラマンダーの死骸に気を取られているようだし。

 しかし痺れて動けない。あいつが気付いてしまう前にどうにかしないと……!

 ……と、魔物がこっちに口を向けた。

 ――標的にされた!


 奴は俺の方へ、触手を使ってゆっくりと移動し始めた。足が遅いのはありがたいが、そんなこと言ってられる状況じゃない。

 ……上手いこと時間を稼げば、サーラがこちらへ来てくれるかもしれない。

 薄い願望だったが、他に良い方策が思いつかない。

 俺は花の魔物を凝視し、狙いを定める。

 ……奴は花だ。俺のショボい火魔術でも、時間稼ぎくらいはできるはずだ。

 奴自体の動きは鈍いが、触手の動きは速い。ならば射出速度を上げた一撃でどうにかするしかない。

 射程ギリギリまで引き付けて、魔術を撃ち出す。これしかない。

 生きる為、魔術の構成を開始した。


 ……ヤバいなこれ。怖い。

 逃げることもできず、自分を食おうとする魔物を待ち構える。先ほどまでの虐殺とはまるで違う。これが戦い。


 …………………………どうしてだろう。夢破れた上、何より大事だと思っていた恋人を――彩夏を奪われて、生きる目的が無くなったはずなのに。死んだって何も問題ないはずなのに。

 まだ、死にたくないな。


 じりじりと近づいてきた魔物が、俺の射程に入った。

 ――いけ!

 俺が生み出した拳大の炎は真っすぐ魔物へ突き刺さり、爆発した。


「ギャーーーーーーー!!!」

 

 魔物が耳に響く甲高い悲鳴を上げる。火球の当たった花弁は弾け飛び、触手まで延焼していた。

 ……前より、かなり威力が上がってるな。

 いや、考えるより前に倒さなきゃ――相手が怯んでいる間に、更に火球を生み出し、撃つ。撃つ。撃つ!


「何事じゃ!」


 サーラがあわてて広場に入ってきたときには、何発も何発も火球を打ち込んで原形を留めていない魔物がいた。それを見たサーラが眉をひそめる。


「あ、ひゃーら」


 舌が回らねえ。

 俺に気付いたサーラは、近くまで来て、手をかざした。

 ……聖魔術か。

 サーラは得手不得手はあるが、全属性を扱える。術者が限定されるはずの聖魔陽月含めてだ。そんな彼女の聖魔術は、俺の体の痺れを消し去ってくれた。


「……申し訳ない。まさかデスプラントが紛れておるとは思わなんだ」

「それ、あいつの名前か?」


 頭を下げて謝罪するサーラに対し、起き上がった俺は、魔物の残骸を指差して確認する。

 サーラは頷いた。


「本来ならば土のセクションに生息しているはずなんじゃがな。餌を求めて彷徨っていたようじゃ。大星窟の中では弱い魔物とはいえ、本当にすまなかった」

「いや、もうそれはいいよ。何とかなったし。むしろ、何とかなった理由の方が気になるし」


 どうしてあんなに火魔術が強くなったのか。

 サラマンダーを倒したから?

 それにしては威力が上がり過ぎな気がする。

 ……もしかして。


「サーラ。この竜殺し、属性竜を倒したら、その属性に関する能力も向上するのか?」

「うーむ、証明しようは無いが、おそらくはそうじゃろな? 心当たりはあるか?」

「なんて言うか……竜を殺したとき、そのエネルギーみたいなのが体内に入ってきたんだけど、それが火のイメージだった」


 こんな抽象的な説明で伝わるかな、と思ったが、サーラは「なるほど」と首肯してくれた。


「まあ、良い。次からは、もっと注意して場所を選ぶことにしよう……では、このサラマンダーを片付けて帰ろうかの。もうカナタも実用レベルで火魔術が使えるようじゃし、鍛錬も兼ねて処理よろしく――ああ、サラマンダーの肉はいらんぞ。喰うにしても下処理が面倒じゃ」


 そういうと、サーラは広場の入り口の前で仁王立ちになった。その間、俺はサラマンダーの死骸を強くなった火魔術で消し炭にしていた。

 デスプラントの死体はもう消えていた。魔物の死体は、処理をすれば素材を手に入れられるが、放置すればすぐに消えてしまう。

 ただし、竜は魔物ではないので、普通の動物と同じように死体が残る。それは亜竜も同じだ。

 というわけで、穴の掘れない洞窟では、こうやって一つ一つ燃やして処理するのであった。

 ……途中でガス欠になってサーラに手伝って貰ったが。威力の調節もできるようにならないとなぁ。




 俺が生活している月のセクションの広場に戻り、小屋に入ると、サーラと体面で座った。


「さて、今後のことを話す前に、カナタよ。ちょっとステータスを確認してみてくれんか?」

「ああ、わかった」


******************************************



◯名前

やなぎ 彼方かなた

◯性別

◯年齢

24歳

◯職業

闘竜神の弟子

◯スキル

・竜殺し

・質量無視

・火属性適性(中)



******************************************


・竜殺し

エクストラスキル。

竜(亜竜を含む)との戦闘中に限り、基礎能力が大幅に向上される。

戦った竜の強さと数に比例して、基礎能力が向上される。

属性竜を倒した場合、対応した属性の適性が向上する。


・質量無視

レアスキル。

身に付けた物体の重さを可変できる。

ただし、物体本来の重さ以上に重くはできない。


・火属性適性(中)

火属性魔術への適性がある。


******************************************



「……あれ? これって」


 火属性適性が小から中へ変化している。

 サーラに確認しようと顔を向ける。


「サーラ、火属性適性が中になっているんだけど」


 サーラは笑みを浮かべて頷いた。


「カナタよ、ぬしのスキルは竜を倒すごとに変化して行くかもしれぬな」


 スキルというのは基本的に生まれてから死ぬまで変化しない。

 しかし、特殊な体験をして新たなスキルを手に入れたり、既存のスキルが変化することも、ごく稀にあるらしい。


「俺の場合、竜殺しのスキルによる成長により、火属性適性が向上したのか?」

「その可能性もある……じゃが、向上ではなく、復元の可能性もある」

「…………は?」

「これは儂の仮説じゃが――カナタが召喚されたときに儂が横やりを入れたせいで、本来ならば手に入れていた能力が弱体化したのやもしれぬ」


 マジかよ。


「……今まででも十分凄い能力だったと思うんだが、これ以上なんてあり得るのか?」

「この間、友人が遊びにきていたの、覚えているか?」


 あー、あの綺麗なお姉さんね。


「ああ、月竜神ルナだっけ?」

「そうじゃ。あやつが教えてくれたのじゃが、どうやら今回の勇者の中にユニークスキル持ちがいるそうじゃ」


 スキルは、ノーマル、レア、エクストラ、ユニークの順に希少性が高く、強力なものになる。

 特にユニークは固有スキルとも呼ばれ、そのほぼ全てがオリジナルスキルである。

 この世界にいる勇者は、俺を除いて六人。全員がユニークスキルないしはエクストラスキルを所有しているらしい。そして、おそらくは「竜の勇者(仮)」の俺なら、もっと強いスキルを持っていてもおかしくはないらしい。


「その人、なんでそんなこと知ってんだ?」

「あやつは月竜神だけあって、月魔術が得意だからの。どこからか盗み見したんじゃろう」


 と、サーラが肩をすくめた。

 ……が、すぐに真剣な顔に変わる。


「カナタよ。ぬしは、もっと強くなれる。ぬしの思っている以上に。じゃが、強くなる為には、今後も危険はつきまとう。今回のようなことがまた起こらないとも限らない」

「そりゃそうだろうな」

「……嫌なら、やめていいんじゃぞ?」

「えっ?」


 サーラからの予想外の申し出に、俺は驚いて二の句が継げなかった。


「元々、鍛えるというのは儂が言い出したことじゃし。もう並以上の探索者と張れる程度の強さはあろう。生きて行くだけなら問題ない。最後に、近くの町くらいまでなら、連れて行ってやるし」


 探索者というのは……冒険者みたいなものだ。未開の地を探索したり、魔物を狩って素材を手に入れたりする連中。

 それの並程度には強い、か。


「サーラ、俺のことを真剣に考えてくれてありがとう……でも、俺はまだここで頑張るよ」

「何故じゃ? 麻痺させられ、補食されかけたんじゃぞ? それでも?」


 思わず苦笑いになる。


「アレは俺の油断もあったからな。サラマンダー相手に無双してて、周りに目が行ってなかった。本当なら、もっと慎重にならないと行けないのにな」


 だから、アレを理由に修行を止めることにはならない。それに――


「……俺、前の世界ではさ、身の丈に合わないものに憧れてたんだ。夢を抱いていた、って感じかな。頑張って頑張って、端っこに引っ掛かれるくらいにはなれそうだったんだ。周りも俺をそれなりに評価してたしな。でも……なんていうか、才能は無かったんだ。自分が必要と思う才能が欠けていたんだ」


 努力は俺を裏切らない。努力した分だけ、俺の能力は伸びる。だが、努力したから夢を実現できるわけじゃないし、目標を達成出来る訳じゃない。

 努力すれば叶うものなんて、そう多くはない。何もかもを叶えてくれる程、万能じゃない。

 そしてその夢は、彩夏との将来を考える過程で、諦めた。これ以上、夢の為の努力を続けるよりも、彼女と結婚して家庭を築きたいと思ったのだ。

 ……結局、他の男に奪われたんだから無駄になったんだけど。


「だから、今度は俺、自分にしかない才能を伸ばしたい。やりたいことをやるんじゃなくて、自分にしかやれないことを極めたい」


 強力だと思っていたスキルが、実はもっと凄いものかもしれない?

 ならば、それを伸ばそう。前の世界での、自信をなくした自分は、もう要らない。


「サーラ、俺は頑張るよ」


 勇者になれなかった?

 全然構わない。

 だって俺は、ここからやり直せるんだから。


「努力は俺を裏切らない。俺ももう、自分の努力を裏切りたくはない」

「…………カナタの想い、十全に受け取れたとは思えぬ。ただ、強い意思と信念があることは、理解した」


 そして「元々根性据わっておるしな」などと嘯くサーラ。口元はにやけている。


「どうせなら、世界一を目指してやってみようかの」

「いいなそれ」


 俺も口角をあげる。

 俺たちはどちらともなく立ち上がり、握手を交わした。


「よろしく頼む、師匠」

「よろしく頼まれたよ、弟子」


 こうして、闘竜神の弟子は、更なる激しい修行に明け暮れることとなった。

 後に彼は「あの時期、死んだじーちゃんが川向こうから手招きしているのが見えたんだよな……何度も」と語っていたとか。

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