2 竜神の牙
トカゲ――もとい、サーラからこの世界のことと、この世界の現状を聞いた。
この世界には、人族の住む四つの大陸と、魔族の住む魔大陸があるらしい。
人族と魔族は長く抗争を続けており、特に魔王と称される魔族の王が大陸を統一してからは、人間側は押され気味らしい。
そこで、人間側が勇者召喚を行ったという訳だ。
……なんとまあ、ホントにテンプレ通りだ。
俺はサーラの横やりにより、勇者召喚からは外れ、この洞窟にやってきたというわけだ。
ところで、どうしてサーラが邪竜なんて呼ばれて魔王側についていると勘違いされたのか聞いたが、本人にも分からないらしい。
「創竜神を滅ぼそうとしたから、なんて言う話らしいが、儂には全く心当たりがないんじゃよ。まー創竜神のアルカードとは折り合い悪くて何度も殴り合いの喧嘩はしてたがのう。本気を出した余波で地形を変える度に、ガイアに怒られたわ」
はっはっはーと笑うサーラ。
……間違いなくそれだよ。仮にも神様扱いされている二人が地形変えるレベルで喧嘩したら、人間達にはもはや最終戦争にしか見えないだろ。しかも創竜神を相手にしているんだから、悪役はサーラになるに決まってる。
魔王側っていうのは「邪竜→邪悪な存在→敵側→魔王軍に与している」みたいな図式だろ。
しかしまあ、その勘違いのおかげで勇者になって魔王を討伐する、なんていう重荷を背負わずに済んだのだから、ありがたいことなんだが。
それから、この世界にはやはり魔物が普通にいるらしい。強さはまばららしいが、魔大陸に近い方が強い個体が多いとか。
「あー、つまりは多少は力を持っていないと、マトモに生きるのも大変になるか」
「一概にそうとは言いきれんが、せっかく戦闘に向くスキルも有しているんじゃし、自衛手段としても鍛えておいて損は無いと思うぞ? ちなみに、ぬしは前の世界で何かやっておったのかの?」
「空手――打撃を主とする格闘術を、少し。あとは弓も少しだけ齧った」
「……逆に良いかもな」
「何が?」
「武器を用いた近接戦闘を学んでおらんことじゃ」
意味が分からない。
俺のその様子を察してか、サーラが続けて説明してくれる。
「ぬしのスキル『質量無視』は、重量級の武器を扱うのに優れておる。そして中途半端に剣や槍などを学んでおらん方が、しっかりと教えられるからの」
「教えるって、サーラがか?」
「もちろん。忘れたか? 儂は闘竜神じゃぞ? こと戦いに関しては、他の竜神たちよりも優れておるわい」
そうだった。
この目の前の竜は、戦いの神だった。
「けど、サーラ。あんた竜なのに武器の使い方とか、分かるのか?」
「……ああ、そういえば竜の体のままだったな」
などと言うと――うおっ!?
いきなりサーラの体が白く輝き出した。
思わず目を閉じ、光が消えるのを待つ。
徐々に光が弱くなり、完全に消えたところで、眼を開いた。
赤髪のロリ少女がいた。
「これが人型の儂じゃ!」
腰に手を当て、無い胸を張っていた。
なんというか、えっと――
「あんた、女……というか、雌? だったのか?」
「あんなに可憐な姿だったのに、気付かんかったのか」
「トカゲの見分け方なんて知らんわ」
「トカゲって言うな。儂は心が広いから許してやるが、他の竜達だと殺されかねんからな?」
と、眉尻をあげて俺に注意してくれた。
……そりゃそうか。俺だって猿とか言われたらムカつくしな。
「申し訳ない。それから、忠告ありがとう」
「ふむ、素直で宜しい」
笑顔で頷くサーラ。そして、
「ではとりあえず、今日からぬしを鍛えようぞ」
というや否や、いきなりサーラの手に巨大な剣が現れた。彼女の身長の二倍近くありそうな、無骨な片刃の剣だった。
「ぬしに、これをやろう」
「これは……?」
差し出された剣を握る――って重っ!?
思わず手を離してしまい、剣が地面へずどんと落ちる。
……轟音とともに地面にめり込んだんだが。
「なにをやっとるんじゃ。スキルの『質量無視』を使わんか」
「いや、使えっつってもなぁ……」
「念じるだけで使えるはずじゃ。ほれ、やってみんか」
せっつかれた俺は、目の前に落ちた大剣の柄を掴む。
――軽過ぎるのもどうかだし、とりあえず500gくらいで。
そう念じて力を入れると、すんなりと持ち上がった。
……『質量無視』とは、なんて便利なスキルなんだ。
「儂の牙を使って作った剣じゃ。銘を『竜神の牙』という。まんまじゃが、れっきとした魔剣じゃ。使い方には気をつけるのじゃぞ」
「はあ……よくわからないが、了解だ」
にやり、とサーラが笑った。
「ぬしを最強の大剣使いにしてやろう――数百年ぶりの直弟子じゃからな、ちょっと気合い入り過ぎてしまうかもしれんが、死なない程度にしごいてやろう」