表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンキラーはおよびでない  作者: 坪倉凛
1章 竜殺しは修行中
13/23

12 護衛官は可愛くて強い

短めに。

「おい、ふざけんな!」


 怒号に驚き、声のした方を向くと、スキンヘッドで強面な探索者が、受付嬢を恫喝していた。怒鳴られてる受付嬢は震えてる。新人さんだろうか?

 周りの奴らも、何事かと視線を向けていた。


「なんでこのオレ様が、ビッグホーン討伐依頼を受けられないんだ!」

「で、ですからその依頼はDランクでして、今日登録されたばかりの方には受けられない依頼なんです……!」

「ふざけんな! このオレ様に、みみっちい兎狩りをさせるってのか!」


 ……テンプレだなあー。

 怒鳴られてる話を聞いてると、どうやら彼は受けたい依頼を受けられないらしい。それで、キレた男を受付嬢がなだめてるって構図らしい。よくありそうな話だわ。まあ、素直にルールを守る人間ばかりじゃないよな、探索者って職種を選ぶやつは。

 ……と、俺が現状を理解したとほぼ同時、シェリアさんが立ち上がった。そして、揉めてる場所へと歩いて行った。

 すっ、と責められている受付嬢の隣に立つと、


「お客様、受付の者への恫喝はおやめ下さい」

「ああん? なんだてめえは?」

「探索者ギルド・ルーン支店護衛官のシェリア=イズと申します。ギルド職員への高圧的な態度、並びにギルドの規定へ抵触する行為を強要したこと。共に違反行為にあたります」

「ああ? お前、何言ってんだ? 舐めてんのかコラ!」


 標的を、シェリアさんに変えたみたいだ。思い切りメンチきってる。

 ……いや、観察している場合じゃねえわ。さすがにシェリアさんが怪我するのは見たくない。目立ちたくはないけど、あいつ大した事無さそうだし、止めた方が良いか――

 立ち上がろうとした俺の腕を、ゲイルが掴んだ。


「何をするんだ」


 ゲイルは目を瞑ってゆっくりと首を振り、


「問題ない」

「なに?」

「見れば分かる」

「どういう――」


 言い終わらないうちに、強烈な打音が聞こえた。

 そちらを向くと、


「……は?」


 手を前にかざすシェリアさん。その先の壁際でびしょ濡れになって伸びているチンピラ。

 周りの探索者たちは、吹き飛ばされた男がノビているのを確認すると、各々自分たちの仕事に戻って行った。まるでいつものこと、といった具合に興味なさげだった。


 ……シェリアさん、魔術士だったのか。しかも、こんなに強かったとは。全然気付かなかった。

 というか、ゲイル。気付いていたのなら教えろよ。

 軽くゲイルを睨むが、肩をすくめるだけだった。


「失礼しました」


 俺らの前に戻ってきたシェリアさんは、そう言って頭を下げた。

 先ほどの馬鹿は、ギルド職員に連れられていった。


「お疲れさまです。魔術士とは知りませんでした。強いんですね」

「いえ。少し水魔術が使えるだけです」


 嘘つけ。さっきのは少しってレベルじゃないぞ。


「あの男は、どうなるのですか?」

「違反事項に応じて、強制労働をして頂きます。大抵は、探索者ギルドが行っている開拓事業などですね。あの程度の違反でしたら、ひと月といったところでしょうか」

「そんなものですか」

「あのような輩は、週に一度はやってきますから」


 そしていつもやられるわけだ。


「けど、そんなに強いのに、どうして受付嬢を?」

「探索者ギルドは揉め事が多いので、受付には戦える人間が何人か置かれるのです。護衛官というのですが、この支部にも私を含めて四人ほどいますよ」


 なるほど。ギルド受付の用心棒みたいなものか。専門職みたいで格好良いな。


「シェリアさんみたいに、魔術士が置かれるのですか?」

「そういう決まりはありませんね。大抵は結婚やケガなどで探索者を引退された方ですね」

「シェリアさんもですか?」

「いえ、私はたまたま戦えたので、護衛官に選ばれました」


 本当はやるつもりなかったんですけどね、と苦笑するシェリアさん。


「ギルド運営とか、そちらの方に興味があったので」

「それだけ強ければ、探索者も向いていそうですね」


 すっ、とシェリアさんから表情が消える。

 すぐに笑顔に戻ったが、どことなく強張って見えた。

 ……地雷だったか。


「学校に通っているうちに、あんまり向いていないかな、と思ったので、探索者にはなりませんでした」


 学校ってのは、このギルドに併設されている、その名の通り勉学するところだ。

 正式名は別にあるらしいけど、誰も呼ばないので俺も知らない。知らなくても困らないしな。

 一般の人でも通えて、様々なことを教えるらしい。その中に、探索者になるための技能を教える講義があるのだとか。シェリアさんが通っていたのも、それだろう。


「それに、探索者以上にやりたいこともできたので。だから、探索者ギルドの職員になったんですよ」

「なるほど。目的持っているから、それだけ優秀なんですね」

「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」

「お世辞じゃないんですけどね。とりあえず、今日は色々とありがとうございました」

「またのお越しをお待ちしております」


 営業スマイルのシェリアさんにお礼を言って、今度こそ俺はギルドを後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ